依頼の詳細
翌日。スマイルドッグ保有の高速輸送機の運転席に乗り込みエルフ艦隊に向かう。向かう場所は惑星ベネット近辺にある宇宙ステーションだ。
そこは惑星ベネットにとって中継的な役割をしている為簡単に手を出して来る連中は居ない。
因みに余談だが整備兵とかは必要無いと言う。全てエルフ共がやってくれるらしい。
「キサラギ軍曹、間も無くエルフ艦隊旗艦アルビレオです」
「ほうアレがね。間近で見ても普通の戦艦だよな」
とてもじゃないけどあの禍々しい攻撃をした艦とは思えない。
戦艦としても武装はオーソドックスだ。
三連装主砲が前部に上下二基ずつと左右に一基ずつ、後部に上下一基ずつ。他副砲、対空砲、ミサイルハッチなど戦艦として実に普通だ。
強いて言うなら艦首部分が金ピカ女神像みたいな奴が付いてるくらいだ。
「もっとこうインパクトが欲しいよな。ドクロマークとか付けて吶喊!とか言いたいよね」
「いや吶喊とかはちょっと分からないですが」
くだらない話をパイロットと話しながら戦艦アルビレオにアプローチをかける。
「此方傭兵企業スマイルドッグ所属。識別コードN-67834。確認されたし」
『確認した。着艦許可を出す。操縦を此方に譲渡せよ』
「軍曹どうします?」
「めんどくせえから指示に従っとけ。反抗した所で意味ねえし」
「そうですね。了解です」
それから、向こうの操作で輸送機は操作されアルビレオに近付く。
そして、アルビレオの一部ハッチが開く。輸送機はそのままハッチ内に入る直前に止まる。
『これより機体と装備の受け入れを開始する。怪しい物が無いかチェックさせて頂きます』
「軍曹良いんですか?」
「良いから指示に従っとけって。好きにやらしとけば良いんだよ」
「了解しました。ハッチ解放します」
輸送機のハッチを開ける。すると、ドローンが現れて輸送機内をチェックし始める。そして数分ほど待機してると再び通信が入る。
『先程危険物が無いことが確認出来た。これより機体及び装備一式、パイロットの受け入れを開始する』
「了解した。これより其方に移動する。なるべく早く依頼達成する事を願うよ」
『それは此方も同じだ。ようこそアルビレオへ。貴官を歓迎する』
そして、通信が切れたのと同時に深い溜息が出る。
「危険物が無いって言ってたけど、AWと装備一式は危険物に入らないんかね?」
「さ、さあ。どうでしょうかね。あのどうか頑張って下さい。御武運を」
「おう。じゃあ帰り道は気を付けてな」
俺はコクピットから出て機体と一緒にアルビレオへ入る。
しかし、普通に考えたらエルフの戦艦に乗る事なんてそうそう無いだろう。後でネットで自慢しようかな?
格納庫に到着するとエルフの量産機とは別の機体が四機鎮座していた。
二機はマドックで追加スコープ付きの狙撃仕様と各部に追加兵装を仕込んでるトリッキーな機体。一機が可変機、もう一機が少し珍しい軽量機だ。
軽量機は高い機動性を有しているが代わりに生存性が低い。更に継戦能力の低さも相まって中々扱い難い機体だ。だがエースとなる人物が扱えばかなり厄介な機体となるのだ。
「俺がビリッけつか。まぁ主役は遅れて現れるのが世界共通だしな。何も問題ねえな」
サラガンを指定された場所に固定する。そしてコクピットから降りると小銃を持つ兵士により艦内を案内される。と言うか連行に近いなこれ。
「なあ、一つ良いか?」
「無駄口を叩くな人間。大人しく付いて来い」
「そう言うなって。今回の依頼はさ、ユニオンから同胞救出が目的だろ?」
「だから何だ。黙って」
「もしかして、その同胞とやらは貴い血筋の方かな?」
「ッ⁉︎貴様!何処でそれを!」
無表情な兵士の表情が一気に怒りに顔を歪ませる。そんな怒りMAXな連中に笑顔で対応する。
「そんなに怒んなよ。ちょっと考えれば想像付くだろ?それとも想像付かないと思ってた?ハハハ!だとしたら随分と頭ん中がお花畑じゃねえか。エルフって奴は無駄に歳食ってるだけかよ。あ、でも年長者には敬意を示さねえとな」
「巫山戯た事を。姫様は何処だ!何処に居る!」
「知らねえな。てか、姫様って案件的にかなりヤバイじゃん。そんな案件を傭兵に預けるって事は……背中撃ちは勘弁だぜ」
やれやれと大袈裟な態度を取る。
するとどうだろうか。エルフ兵士Aは此方に殴り掛かってくる。
勿論当たったら痛いので右へ左へと避ける。するとエルフ兵士Bも参戦。そしてAの右ストレートがBのイケメンフェイスにダイレクトアタック。
Bは僅か三秒程の出番で退場である。
「よくもジョンを!」
「俺関係無いやろ。寧ろジョン君の出番をよくも奪っちゃって。もう可哀想に」
多分ジョン君の出番は此処で終わりだろう。台詞一つ無く、二度と俺の前に現れる事の無いジョン君。しかし、ジョン君はこれからも任務を遂行し続けるだろう。
これからの彼の人生に幸があらん事を。
「ハア、ハア、な、何故当たらん」
「そろそろ時間的にヤバイんじゃない?はよ案内してくれや」
遊ぶのはこの辺りでやめて大人しくエルフ兵士Aに着いて行く。エルフ兵士Aも結構お疲れな状態になっちゃったからね。
因みにBことジョン君は無情にもそのまま放置である。
そして、ようやく案内されたのはブリーフィングルームだ。部屋の中には四名の傭兵以外居ない。そのまま空いてる椅子に座る様に言われたので適当な場所に座る。
「随分と遅いご到着だな。スマイルドッグのエースと聞いてたが大した事無さそうだ」
この中の誰よりも巨漢な男が言う。非常に筋肉ムキムキで老け顔だが、カッチカチやぞ!と言っても違和感無いくらいだ。
勿論、俺はガキじゃないからこんな事で一々気にしない。それに第一印象は大事だ。此処で爽やかな笑顔と共に普通な事を言えば大抵の奴は無視するだろう。
「安心しなよ。俺が遅刻した所で宇宙は滅びねえからよ。ママに泣き付く必要がなくて良かったな」
(すみません。ちょっと色々ありまして。これから任務期間宜しくお願いします)
決まった。お陰で巨漢老け顔野郎はポカンとした間抜け面晒してる。うんうん、やはり大人な対応をするのが一番だな。
「へぇ、結構言うじゃない。流石ラッキーボーイなだけはあるわ。私はフリーの傭兵チュリー少尉よ。宜しくね」
「スマイルドッグ所属のシュウ・キサラギ軍曹だ。宜しく綺麗なお姉さん」
チュリー少尉は非常にラフな格好だ。
パイロットスーツを着ているが胸元は開いてるが、黒いタンクトップを着ている。髪の色は非常に綺麗で光によって彩りが変わる感じだ。
瞳の色は蒼色でツリ目気味。口元もつり上がってるので好戦的な表情をしている。そして大きめの狐耳が付いてる。大事な事だからもう一度言う。狐耳が付いてる!
「……ニシキリ重工所属。カワグチ・ミクニ少尉」
「宜しくMr.変た……じゃない。Mr.仮面」
マシンボイスで仮面を着けてる奴。不審者といっても良さそうだが、空気読んでやめた。それ以外よく分かんないから適当に名付けてやった。
因みに、重工所属と言ってるから傭兵ではないと思うだろう。だが、今や一般企業も私兵を持つのは当たり前の事。そんな一般企業が傭兵の真似事をする話はよくある事だ。
「てめぇ。俺様をコケにして放置とはいい度胸じゃねえか」
「コケになんてしてないよ。ちゃんと綺麗な挨拶したじゃないか。まぁ、内心思ってる事は別だがな」
「それだと口にした方が逆になってたんじゃない?」
「マジ?だとしたら許せジャンボよ」
「誰がジャンボだ!誰が!」
「ジャンボ?フフフ、確かにジャンボね。アンタ、この中で誰よりも大きいもの」
「まあ落ち着ついて下さい。僕の方からも自己紹介させて貰います」
するともう一人の傭兵が立ち上がる。
「僕もチュリー少尉同様でフリーの傭兵だ。名はウィリアム・バーグス中尉。宜しくスマイルドッグのエースさん」
其奴は非常にイケメンだった。流れる様な金髪の髪にサファイアブルーの瞳に柔らかな笑顔。
正に貴公子が其処に居た。
「スマイルドッグ所属のシュウ・キサラギ軍曹です。失礼ですが傭兵なのですか?」
「勿論だよ。これから共同任務が多くなるだろう。だから、喧嘩とかはなるべく控えて貰えると嬉しいかな」
「いやはや、貴方のような貴公子にそう言われてしまっては従うしか有りませんな。然も、階級も上ですし」
「おい。だとしたら俺は大尉だぞ」
「私も少尉よ?指示に従えー」
「自分も少尉……」
「あれ?声が、遅れて、聞こえるよ?」
「わ!何それすごーい!」
俺達が楽しく?会話をしてるとドアが開く。部屋に入って来るのはキッチリとした軍服を着こなした女性のエルフが二人と壮年の男性のエルフ。後は衛兵と思われるエルフが二人入室して来た。
「傭兵諸君、楽しそうで何よりだ。これより任務の詳細を伝える。尤も、既に把握してる者も居るみたいだがな」
蒼色の髪をアップにし軍帽を被ってる女性エルフが此方を睨む。やはり、エルフなだけあって中々の美人さんだが、鋭い眼つきが彼女に対して冷徹さを増していた。
そして、もう一人の女性エルフの容姿も似てたりする。
俺は目の前に立つ女性エルフにウィンクをかます。すると余計に鋭い視線を注がれた。
「私はエルフェンフィール軍所属セシリア・ブラットフィールド大佐だ。これより、先に任務の説明をした後に辞めると言うのは無理だ。仮に強行しようとする愚か者がいるなら我々を敵に回すと考えて貰う。尤も、此処に来た時点で杞憂だろうがな」
再び此方に視線を向ける女性エルフ。今度は投げキッスしてみる。すると子供が見たらガン泣き必須な表情になった。
何アレ怖ッ⁉︎
「では、状況を説明する。今回我々が行う任務は救出だ。救出人物は……」
僅かな間。それと同時にスクリーンに救出人物の画像が映し出される。
画像の雰囲気から高貴な人物だろうと推測する。年は十五、六くらいの美しい少女が華やかなドレスに身に纏っている。
翠色の髪に碧く澄んだ瞳。整った容姿と雰囲気が合わさり人工的に作られた人形の様な造形美を醸し出していた。
そして俺達が画像を確認したのを見てセシリア大佐は口を開く。
「王族に名を連ねる第三皇女リリアーナ・カルヴァータ様である」
その名を口にした瞬間、空気が一気に変わったのを肌で感じたのだ。