動き出す者達
ガルディア帝国軍 弩級戦艦インペリアル・ブルーローズ
対オーレム協定に基づき艦隊を派遣したガルディア帝国軍。その数は過剰とも言える二個艦隊にも及ぶ。更に超級戦艦【ヘリオン】弩級戦艦【インペリアル・ブルーローズ】を投入している。
表向きとしてオーレム討伐の為に艦隊を派遣した事になっている。だが実際にはマザーシップに関する戦闘データとサンプル回収が主目的である。
「連邦には貧乏クジを引かせてしまったみたいだな。アレが我が領内で現れたら、どれ程の被害が出たことか」
そう呟いたのはガルディア帝国軍第八国防艦隊所属のガスタ・ビレンジ大将だ。彼は既に高齢であるが見た目はまだ歳の割には若く、鋭い眼光には衰えを感じさせない。
因みに国防艦隊とはガルディア帝国の本拠地である惑星ガルディアを守る為の艦隊である。また周辺惑星や国境を守るのが防衛艦隊になる。
「ガスタ閣下の言う通りです。私もアレが連邦領内で暴れてくれた事に感謝しています。恐らく軍上層部では連邦に向けて進攻作戦の準備をしているのでは無いでしょうか」
「アルベルト上級大尉。貴様は確か政治将校だったな」
「え?ええ。それが何か不服でも?」
「貴様は政治将校にも関わらず大局を見据える事が出来んのか。此度の一件は我々ガルディア帝国が撒いた種なのは明白だ」
「ですが現在本国では早期に隠蔽工作が進んでいます。連邦にバレるとは到底思えません」
「ならアルベルト上級大尉、貴様に聞こう。連邦の工作員並びに共和国の情報網を知り尽くしているのか?」
「それは……」
「目先の事ばかりに目を向けていれば多大な出血を強いられる。最悪、連邦と共和国を同時に相手する必要があるのだ。その際に一番矢面に立たされるのは貴様ら政治将校では無く勇敢で愛国心溢れる若者達なのだ」
「勿論……理解しております」
「それとも貴様が矢面に立つか?なら私の持てる権限を全て使い最前線に送ってやろう。それが嫌なら貴様の上司共に言っておけ。"何もするな"とな」
意気消沈するアルベルト上級大尉を尻目にガスタ大将は地球連邦統一軍が提案した作戦名について考えていた。ガスタ大将は別段アルベルト上級大尉を毛嫌いしてる訳では無い。唯、空気を読まない奴が大の苦手なだけなのだ。
「話は変わるがアルベルト上級大尉。今回の作戦名【ブレイク・ホーム】をどう思う?」
「作戦名ですか。私は少々過激だと感じました。しかし作戦概要を踏まえれば納得しましたが」
「そうか。私はな……恐ろしいのだよ」
「恐ろしい……ですか?」
アルベルト上級大尉はガスタ大将に疑問をぶつける。
「作戦概要では惑星ソラリスに関する配慮は一切入っていない。連邦軍には惑星ソラリスから撤退した艦隊や部隊が居るにも関わらずだ。本来なら多少は配慮すべき事だろう。だが今の連邦には余裕が無いのか。もしくは……」
ガスタ大将は一度言葉を区切る。そしてモニターに映るマザーシップを睨みながら口を開く。
「惑星ソラリスに残っている生存者を見捨てる程の何かを持っているのかも知れんな。マザーシップには」
その呟きは非常に重くガスタ大将の周りの空気は暗い雰囲気を漂わせる。そしてマザーシップに対する認識とその空気に巻き込まれているアルベルト上級大尉は顔面蒼白気味になる。
「か、閣下はマザーシップが脅威になるとお考えでしょうか?」
「そうだ。連邦が形振り構わずマザーシップを潰そうとしているのが良い証拠だ」
「しかし、所詮はオーレムです。確かに今迄確認されているオーレムの中では異質ではあります。しかし下等生物に過ぎません。考え過ぎなのでは?」
「その下等生物に惑星ソラリスが陥落されたのだ。私としてはマザーシップが下等生物と言える根拠が欲しい所だ。寧ろマザーシップが異質に見えるがね」
これまたアルベルト上級大尉の言葉をバッサリと切り捨てるガスタ大将。然もガスタ大将に悪気は無いので余計にダメージがアルベルト上級大尉に襲い掛かる。
「で、では……閣下はマザーシップについてどうお考えでしょうか?僭越ながら閣下の意見を聞きたいと思いますが」
「そうだな。アレは……」
ガスタ大将はマザーシップの映像を見ながら口を開く。
「厄災その物だ」
その一言が艦橋内の空気をより一層重くしたのだった。
とある一室。その部屋は薄暗いものの人一人が入れる程の大きさのカプセルが五個並んでいた。更に幾つものコードがカプセルに繋がっており、モニターにはバイタル表示が出されていた。
その内の一つが赤いランプから緑に変わる。そしてカプセルが開き中の様子が見える。
中には一人の女性が入っていた。パイロットスーツを着ているためバランスの良いスタイルが良く分かる。ボブカットのショートヘアーにまるで精巧に作られた様な美貌を持つ女性が現れる。
「調子はどうだ?レイナ」
一人の男性が彼女に話し掛ける。男性は少々痩せこけてる様に見えるが鍛え上げられた肉体は服の上からも見て取れる。
「悪く無い。前と同じで暫くは大丈夫」
「そうか。だが無理はするな」
「平気。タケルの心配性は相変わらずなんだから」
タケルとレイナの関係は決して悪くは無いのだろう。寧ろタケルは本人以上にレイナの事を心配している所を見ると仲の良い関係だけでは無いのが分かる。
「それで、機体の調整はどうなの?」
「問題は無い。後数時間で作戦が開始される。まさにデモンストレーションとしては完璧な状況だ」
「そう、私達は……此処まで来れたんだね」
「ああ。だが俺は何もしてはおらんよ」
「そんな事無い。タケルが居なかったら私は死んでた。多分……途中で耐えられなくて破棄されてた」
「……すまん」
「何で謝るの?」
タケルは気にするなと言わんばかりに手を横に振る。そうしてる間に他の研究者らしき人達はデータの解析を行い続けていた。
「じゃあ、行ってくるから。艦を宜しくね」
「ああ。気を付けてな」
「大丈夫。あの機体ならオーレムなんて相手にならない。それに……」
一度言葉を止めてから再び口を開く。
「これで、ようやくあの人に追い付ける気がするから」
レイナの表情はとても柔らかで笑顔をタケルに向けながら部屋から出て行く。
「レイナ、お前はまだアイツを追い掛けるのか。もう、再会する可能性は無いと言うのに……」
残されたタケルは静かに目を伏せながら拳を強く握り締める。
今の様な状況下であろうとも、自分ではなく殺したい男を想い続けている事に嫌悪感を抱きながら。
マザーシップへの再攻撃までに残り三十分を切った。既に配置や確認などを終えて後は出撃命令を待つばかりだ。
バレットネイターの改修も無事に終わり、エルフ達は既に自分達の艦隊に戻って行った。今はコクピットから最終調整を行ってる最中だ。
「結局ギリギリな状況になったからな。けど、お陰で更に性能向上したから文句は無いけど」
「バレットネイターのシミュレーションテストでは良好な性能を発揮しました。また脚部関係のエラーはありませんでした」
「流石ベテランエルフと言った所か。その辺りは素直に認めるよ」
「機体の最高速度に変更は有りません。しかし運動性に関しては想定通り5%の向上に成功しました」
「後はぶっつけ本番だな。全く、前回と似た様な状況になっちまったがな」
二番煎じは直ぐに飽きられるんだぞ?
「さて、調整もこんなものか。後は最終通達が来るのを待つばかり」
一度深呼吸をしながらバレットネイターのコクピット内を見渡す。通常のZC-04サラガンと同じ物だが中身は全くの別物だ。
だが起動シーケンスは専用の物に変えてある。そして何よりサラガンベースでハイカスタム仕様なのが気に入っている所だ。
『キサラギ准尉、聞こえますか?』
「此方キサラギ准尉。どうしたオペ子。寂しくなって俺の声を聞きたくなったか?」
『別に寂しくはありません。先程エルフェンフィールド軍から通達がありました。キサラギ准尉はクリスティーナ・ブラッドフィールド少佐と二機編成を組んで下さい。コールサインはファング1になります。それから私はナナイです』
「了解。アズサ、聞こえるか?」
『先輩?どうしました?』
「たった今地獄への招待状が来たんでな。お前は予定通り艦隊防衛を頼むぜ」
『了解ッス。だけど先輩……無理して死なないで下さいね』
アズサ軍曹の滅多に見ない真面目な表情。そして此方を見続けるナナイ軍曹。
だから俺は明るく言い放つ。
「当たり前だ。俺がオーレム如きに殺されるかよ。大体俺は報酬以上の事はしない主義だからな。それより艦隊は任せるぜ。二人は俺が帰る場所をしっかり守ってくれよな」
『勿論ッス!任せて下さいッス!』
『戦況報告は随時更新します。また異変が有れば直ぐに伝えます』
「頼むぜ。今回は何もかもが不明なマザーシップが相手だ。何が起こるか想定出来んしな。それから俺のコールサインはいつも通りヴィラン1で行くぞ」
『了解しました』
『所で先輩。ヴィランって言うコールサインには何か意味はあるんスか?私のは猫だから何スけど』
「意味?勿論あるさ。正に俺にピッタリのコールサインだと断言するよ。唯、由来は自分で調べな」
『ええー。普通に教えて下さいスよ』
『私も気になります』
「マスター、私もです」
「マジで?まぁ、教えても良いけど。そんなに良い意味じゃねえぞ」
以前はロボ物と言えば主人公機。そして転生者である俺にも主人公特性があると信じていた。だが、あの日に自分の浅はかな考えによって愛してる女性を目の前で失った。
その時に理解したんだ。俺は主人公では無い。唯の道化だったんだって。
その後は傭兵として各地を転々としていた。その道中で戦果をクレジットで売ったり、裏切り者を討伐したりしてヴィランと言うコールサインに決めたんだ。
(デビルとかサタンだと味気ないし。それにコールサインくらい響きの良いのにしたかったし)
「【悪役】ってやつを元にしたのさ。昔の語源ではヴィランって言うんだよ。まぁ、今の全宇宙共通語の元となってる筈だがな」
『悪役スか。先輩のバレットネイターと凄くマッチしてるッスね!』
『貴方らしいと言えば貴方らしいコールサインですね。言動も悪役に近いですし』
「マスターのセンスは素晴らしいと評価致します」
「思ってたより好評だな。まあ自分でも合ってるなと思ってるけどな」
それから暫く話をしていると遂に連邦軍より通信が入る。
『各艦に通達する。間も無く我々はマザーシップに対し攻撃を開始する』
地球連邦統一軍のダスティ・バルス大将の発言により全員が無駄口を叩かなくなる。
『この戦いは唯のオーレム戦では無い。最悪、全宇宙に住む者達の命運が掛かっていると私は断言する』
「全宇宙の命運と来たか。なら報酬を更に上乗せしろよ。対して変わってねえじゃん」
バルス大将の演説にイチャモンを付けながら機体の再チェックを行う。
『惑星ソラリスで無残にも殺された市民達。市民を守る為に散って行った同胞達に、我々は報いなければならない!その為にも諸君達の力が必要なのだ!』
この演説を聞いて気合が入っているのは連邦軍くらいなものだろう。帝国軍は自分達が撒いた種とは言え連邦の二の舞は御免だろうし、独立軍は三大国家との対オーレム協定だから来てるだけだ。
後はクレジットに惹かれてやって来た俺達みたいな連中か、正義感溢れる良い連中くらいなものか。
『マザーシップの詳細は不明な点が多いのは承知だ。だが今ここでマザーシップを仕留めなければ後の災いになるのは必定である!その時の被害者は君達の愛すべき者達かも知れないのだ!故に我々はマザーシップの完全破壊を行う事を今此処に宣言する‼︎』
バルス大将の宣言と同時に連邦軍からは歓声と雄叫びが上がる。それに釣られる様に他国の将兵も徐々に声を上げる。
そして殆どの連中が打倒マザーシップに対して同調しバルス大将を支持していた。
「アホくせぇ。もっと自分って奴をしっかりと保てよな。だが、この盛り上がり方はちょっと異常だな」
俺もこんな風に言ってはいるが内心では同じ様な気持ちになりつつある。そんな自分が不愉快になり通信を切って深呼吸する。
「ネロ、あのバルス大将っておっさんは何かギフトを持っているか?」
「不明です。ですが先程の状況とのデータを簡単にですが照合してみました。恐らく【同調】ギフトの保有者かと思われます」
「同調か。聞いた限りだと周りの連中を無理矢理引き込む感じだな」
「仮定になりますがバルス大将と同調ギフトの相性は非常に高いのでしょう。結果として大規模に作用していると思われます」
「成る程な。此処ぞとばかりに使うなら充分な効果があるな。だがそれと報酬は別だ!マザーシップ打倒宣言するなら尚更報酬を上乗せしやがれ!何がバルス大将だ!テメェが逆に滅んじまえよ!」
生意気にも某空飛ぶ城の最後の呪文と同じ名前の癖に。因みに俺は装甲列車と空飛ぶ戦艦が好きだったな。
「クソ、何だか最近引き運が悪い気がする。いつからと言われたら……あの日からだな」
今でも鮮明に覚えている。初めて敵として現れたデルタセイバー。此方の攻撃を物ともせず圧倒する姿。その姿はさながら主役機として悠然と存在していた。
だからだろうか。自分の機体とデルタセイバーを一度だけ比べて羨やんでしまったのだ。
ZC-04サラガンは悪くない。寧ろ様々な地形や環境に対応出来る名機の一つだ。後々サラガンが旧式化しようとも暫くは使用され続けられると予想出来る。
そしてサラガンをベースとした俺の専用機バレットネイター。この機体の機動性と運動性は他のAWより群を抜いている。
それでもデルタセイバーを目の前にしてしまうと霞んでしまうのは変えようの無い事実だ。
「ま、何でも良いか。一番重要なのは機体じゃなくて中身だよな。そうパイロットと言う重要な所が勝敗を決めるんだよ」
そう考えるとデルタセイバーに対する羨望も大分和らぐのを感じた。今の俺ならクリスティーナ少佐が操るデルタセイバーを倒せるかも知れん。
(つまり、此処で誰がスーパーエースなのかを示す必要があるな。良し、何かやる気出て来たぜ)
自己完結をして更に気合が入ったので俺は気分が非常に良くなったのだった。
どうして……目が覚めたら平日になってるんですか?(涙声)
どうして……平日と言う日は五日間もあるんですか?(鼻声)
どうして……休日はたった二日間しかないんですか?(泣声)
どうして……朝のオフトゥンは気持ち良いんですか?(歓喜)
どうして……どうしてなの?
 




