長い方に巻かれる
シルバーセレブラムとの共闘がほぼ決まり掛けていた時。社長の元へ新しい来客の知らせが来ていた。
確かに多少の顔見知りでもあるが、態々戦艦グラーフへ来るとは思わなかったからだ。精々通信越しでの軽い挨拶程度で済むと思っていたくらいだろう。
「これも何もかもキサラギが悪い。全く、何がラッキーボーイだ。疫病神め」
社長は愚痴を零しながらキサラギ准尉へと連絡を入れる。大体スマイルドッグで彼等との深い繋がりがあるのはキサラギ准尉以外居ないのも事実なのだから。
所変わって休憩所に移動して一服していた俺達。だが端末に社長から連絡が来たので出る事にした。
「社長どうかしました?まさか臨時ボーナスの報告ですか」
『違うわ馬鹿者。今から来る客の相手をしてくれ。恐らくお前目当てだろう』
「やれやれ、遂に俺にもモテ期が来ましたか。それで?相手は美女、美少女が確実に居るんでしょうね?」
『容姿に関しては期待以上なのは間違いない。何せお前に勲章を与えた連中なのだからな』
「……え?此処に来るの?何で?」
『儂が聞きたいわい。兎に角お前が一番の顔見知りだ。失礼のない様にな』
「社長、そいつは俺にAWを動かすなと言ってる様なもんですわ。けどまぁ、了解です」
『頼んだぞ。場所は第一格納庫だ。全く、何故AWに乗って来るんだか』
社長との連絡が終わり端末を仕舞う。するとジャン達が此方を見ている。
「何だよ。何か言いたそうだな」
「一応言っておくが俺達が先約だからな。それにお前さんの悩みを一つ解決した訳だ。だから言いたい事は分かるよな?」
「あんな高飛車の代名詞とも言えるエルフと組めばどうなるか。坊やなら想像は付くでしょう?」
「先輩先輩。サイン貰えました。然も奥さんとセットッス!これある意味プレミア物ッスよ!」
「おうサイン貰えて良かったな。後は向こうの提案次第だな。もしかしたらバレットネイターをまた強化出来るかもだし。何も無ければ其方優先するさ」
恩を仇で返す様な返事になったが、更なる機体の強化がされるならエルフに媚び売った方が賢いってなもんよ。一時プライドを捨てれば後は野となれ山となれだ。
「なら俺達の所で強化しても良いぜ。キサラギの戦闘スタイルはある程度把握している。それに時間も残されてる訳じゃねえ。直ぐに強化させるくらいならこっちに頼んだ方が速いぞ」
「今回はエルフェンフィールド軍にはお帰り願おうか。じゃあ追っ払って来るわ!」
「流石先輩。簡単に鞍替えする速さは尊敬するッス!自分一生ついて行くッス!」
「やめておきなさい。貴方男を見る目が無いわよ。ジャン、私この子が凄く心配になっちゃったわ」
「ハハハ!無駄にキサラギに目を掛けられてる奴だからな。そりゃあ、こうなるわな」
俺はジャン達と別れて再び第一格納庫へ向かう。今回はエルフェンフィールド軍にはサッサとお帰り願おうと思う。
別に何方と組もうが俺にとってはどうでも良い。一番重要なのは戦場で生き残れる可能性が高い方を優先する事だ。
「と言う訳でエルフちゃん達には早々に帰還して頂こうか。この後もまだまだやる事はあるんでな」
軽い気持ちで第一格納庫に居るだろうエルフ達をお出迎えしに行く。
格納庫はまだ空気が入って無いので覗き窓から見てみる。すると来ているのはデルタセイバーが一機、ファング隊カラーのスピアセイバーが二機、無駄に派手な装飾カラーのスピアセイバーが三機鎮座していた。更に小型輸送艇も着艦しているらしい。
「随分と大所帯で来てるな。こんな状況で追い返すとか俺ってマジ空気読めない奴じゃん」
それから暫く待つと空気の注入が完了のアナウンスが流れからドアロックが解除される。俺は早速エルフェンフィールド軍からのお客様達を御出迎えする為にスピアセイバーとデルタセイバーの前に行く。
そしてスピアセイバーのコクピットハッチが開き中から近衛の軍服を着た女性エルフが現れた。
確か勲章を貰った時に同席していた女性エルフの筈だ。
「ようこそエルフェンフィールド軍の皆様。傭兵企業スマイルドッグへ。何しに来たのか少々疑問ですがね」
「貴方は……確かシュウ・キサラギでしたね。ダムラカの一件以来でしょうか」
「そうですね。それ以外には何もありませんが」
「そんな事はありません。貴方は私達に認められた有力な人物の一人なのです。その為に勲章を授けたと言っても過言ではありませんよ?」
「お、おう?……思ってたんのと反応が全然違うんやけど」
もっと高圧的な態度で接して来るもんだと思ってたのだが思ってた以上に普通に接して来たのだ。寧ろ俺の態度の方が高圧的だろう。流石に相手に失礼なので普通に接する事を決める。
「そうですか?そう言えば自己紹介をしてませんでしたね。私は第一近衛師団の師団長、マリエル・マーグス大佐です。以後お見知りおき下さい」
「傭兵企業スマイルドッグ所属。シュウ・キサラギ准尉です。どうぞ宜しく」
自己紹介をしながら握手をする。その間に他のエルフも此方に寄って来た。
「久しぶりだなキサラギ准尉。ダムラカの一件以来か?」
「あー、ファング隊の。久し振りだな」
二人のエルフが寄って来た。こいつらは俺にポンコツサラガンを用意した使えないエルフ共だ。唯、こいつらのお陰でサラガンが魔改造されたのも事実と言えば事実だが。
「所でデルタセイバーが有るって事はクリスティーナ少佐も居るのか?何で出て来ないの?」
「乙女には色々とやる事があるから時間が掛かるのよ」
「いや、乙女って歳じゃねえだろ。百歳越えてるんだからさ」
「私達エルフにとって百歳代はまだ未熟と言っても過言では有りませんので」
「ふぅん。なら仕方無いな」
唯、世間的にそれが通じるかは微妙だけどな。百年間何してたんですか?とか嫌味言われそうだし。
しかし、やはりエルフは全員美形ばかりの美男美女揃いだ。お陰で周りの同僚達は少々興奮気味になっている。
そんな中、遂にデルタセイバーのコクピットハッチが開く。そして姿を現したクリスティーナ・ブラットフィールド少佐。その姿に周りの人達は自然と溜息を溢す。
元々クリスティーナ少佐はエルフの中でも頭一つ二つ飛び抜けている美貌を誇る。更に軍服姿でも分かるスタイルの良さ。
下世話な話だが外見だけは完璧なのだ。中身は察して欲しい所だがな!
「ケッ、相変わらずヒロインみたいな外見しやがってよ。何かムカつくよな」
「貴様、少佐に直接その言葉を言ったら地獄に逝かせてやる」
「絶対に言うなよ。絶対にだぞ」
「分かってる分かってる。ちゃんと振りだって理解してるから。任せとけ」
「振りでは無い!」
下らない事を言っているとクリスティーナ少佐が此方に寄って来た。
「お久しぶりですなクリスティーナ少佐殿。今回は害虫駆除に態々参加しに来たんですね」
「久しぶりねキサラギ准尉。貴方と会えて嬉しいわ」
「うん?うん……まぁ、此方としても心強い援軍が来てくれた事には感謝感激ですよ。尤も、一番感謝してるのは連邦でしょうけど」
「連邦はどうでも良いわ。それより貴方はどうなの?何か困ってる事はある?もし稼ぎの良い依頼が欲しいなら私に言いなさい。これ私の連絡先よ」
「……うん。暫く金には困らないから問題無いよ。だから連絡先も要らね」
「べ、別に遠慮なんてしなくて良いのよ!ほら!此処でお互い連絡先を交換しないと繋がりが無くなっちゃうじゃない!」
「さっきから話が地味に噛み合わねえ気がするんだが、気の所為か?」
取り敢えず此方に端末を向けているクリスティーナ少佐を尻目に自分の端末を取り出す。だって断ったら絶対悲しそうな表情をするだろうし。流石に美女を悲しませるのは男として如何な物だからな。
「ほら、ちゃっちゃと済ませろよ。この後社長室に案内するんだから」
「分かってるわ……やった!」
「はあ。最初の頃と印象変わり過ぎんだろ」
やっぱりポンコツエルフはポンコツエルフだと思った瞬間だ。
そしてエルフ達を先導しながら社長室へと向かう。道中はやはり多くの同僚達がエルフ達に視線を向けるが、慣れているのか特に反応を示す事は無かった。もしくは単に周りに興味が無いだけなのかも知れんが。
(ちょっとしたアイドルグループだな。これで笑顔を向けたり軽く手を振ったら完璧だったんだがな)
仕方ないので代わりに俺がやってみたが嫌な表情をされたり中指を立てられたりした。全く、失礼な連中だぜ!
「社長、お客様をお連れしました」
『入って貰え。勿論お前もな』
「へいへい、分かってますよ。では中へどうぞ」
社長に促されながら部屋に入ると何故かジャン、ジェーン、アズサが中に居た。こいつら何やってんの?
「そんなもん先に牽制するに決まってんだろ」
「あれ?声に出てたか?」
「顔にめっちゃ出ていたッス」
そりゃあ顔にも出るわな。と言うかそこまでして俺と組みたいのか?もう他の奴で妥協しても良い気がするんだが。
「良いかキサラギ。俺達は傭兵だ。だから簡単に折れたら舐められるんだよ。お前もそれは知っているだろ?」
「依頼とギャラ次第でも変わるのも傭兵だけどな」
「全く、坊やはああ言えばこう言うんだから」
「舐められたら終わりだからな」
そして始まるエルフェンフィールド軍との話し合い。果たして結果はどうなるか。
(どう転んでも俺はいつも通り戦場を駆け抜けるまでだ。仲良しこよしがしたいなら他所にお引き取り願うまでさ)
先に口を開いたのは社長からだった。
「ようこそエルフェンフィールド軍の皆さん。傭兵企業スマイルドッグへ。本日はどう言った御用件でしょうか?」
「私はエルフェンフィールド軍所属、第一近衛師団師団長、マリエル・マーグス大佐です」
いきなりの第一近衛師団師団長と言うデカい肩書が社長の胃袋に直撃する。
「いやはや、第一近衛師団ですか。これはまた素晴らしい戦力が来ましたな」
「ええ。今も対オーレム派遣部隊として一部が到着しています。そして我々の要求は難しい物ではありません。唯、共闘して頂ければ良いだけです」
もう既にシルバーセレブラムと共闘するのを口約束している状況。と言うかジャンの奴、社長をガン見してるんだけど。お陰で社長の額と禿頭に脂汗が浮かんでる始末。
「やべ。めっちゃウケる」
「……」
俺がつい一言呟いたら社長が思いっきり睨んで来た。そんなに怒ったらやーよ。
「ゴホン。申し訳ないのですが我々スマイルドッグは既にシルバーセレブラムと共闘する事を約束してまして」
「あらそうなの?ですが戦力、質は共に此方が上ですよ?なら何方と組むかは明白な筈」
「そいつは聞捨てならねぇな。俺達シルバーセレブラムの方が遥かに連携はし易い。何より同じ同業者だ。お上品なエルフェンフィールド軍とは考え方が違うんだよ」
「部外者は口を挟まないで欲しいものね。これだから人間は」
「あら?今貴方達が組もうとしてるのは人間よ?エルフさん」
「ダークエルフよりまだマシですよ」
「そんな態度だと好かれる者も好かれなくなるわよ?」
「今はその必要が無いから問題無いわね」
マリエル大佐とジャン達が火花を散らす中、クリスティーナ少佐は少しだけ動揺していた。正確に言うならジェーンが言った好かれる者も好かれなくの所だろうか。
「あ、あのマリエル大佐。私は妥協案を出すべきだと思います」
「クリスティーナ少佐?妥協案とは一体?」
「はい。私はこの中で一番信頼出来るキサラギ准尉と共闘が出来れば問題無いと判断します。彼の功績を鑑みれば妥当かと」
「ちょっと待とうか。クリスティーナ少佐とか言ったな。何なんだよそのピンポイントな妥協案はよ!テメェらも結局キサラギ目当てかよ!」
「私は彼と共闘した仲です。つまり私達が組めば確実な大戦果は出るのは必然よ。なら効率良く行くのが道理よ」
「ふざけんな。俺が最初にキサラギに目付けてたんだ。邪魔すんな潔癖種族!」
「そっちは欲深い種族じゃない。あ、キサラギ准尉は別だから」
「いや、俺も結構な下世話な人間だよ」
このままでは話が纏まる気配が無いのは明白だ。なら俺が決めた方が早そうだ。
「悪いが俺達は今回シルバーセレブラムと組む予定になってる。それにアンタらが俺の為に組んでくれた機体、バレットネイターの強化も約束している。これだけ言えばもう後は分かるよな?まあ、タイミングが悪かったな」
俺の言葉にジャンとジェーンは笑顔になりマリエル大佐は若干不機嫌になる。そしてクリスティーナ少佐はショックを受けた表情になる。其処までショックを受けるかね?
「もしエルフェンフィールド軍の皆さんがジャン達より早ければ間違い無く其方と組んでただろう。さぁて、エルフェンフィールド軍の皆さんのお帰りだ。丁重に御見送りといこうか」
「ですが。既に貴方の機体は私達の整備科の皆さんが改修してますが」
「え?マジで?」
「ええ。私達と同伴していましたので。無論、大規模の改修は出来ませんが貴方の為にアップグレード中の筈です」
「でも、お高いんでしょう?」
「ご安心下さい。全て此方が負担しますので」
マリエル大佐はさも当然ですと言わんばかりの態度で言い放つ。こっちとしては有難いけどジャンにしたら面子を潰された様な物だよな。
でも、これで決まったな。
「……ジャン、今回は無かった事で宜しく」
「馬鹿な事言ってんじゃねえよ」
俺の言葉をバッサリと切り捨てるジャン。しかし既にバレットネイターの改修が行われてる以上どうしようも無いのも事実。
だが俺だって義理や人情は持ってるつもりだ。
「頼むよ。次の依頼なら個人で付き合うからさ。勿論お詫びも込めて少し安くしてやるよ」
「……仕方ねぇな。その言葉忘れんなよ。俺が受ける依頼は大抵稼げるが難易度は高いんだからな」
「望む所だ」
「良い返事だ。なら俺達は引き上げよう。お騒がせしましたな。では、また次の機会に」
ジャンは社長に向けて会釈を向けながらジェーンを連れて去って行く。
「随分と物分かりが良かったですね。賢い選択だと思いますが」
「いや、俺が人柱になっただけだから」
「でもこれで私達は共闘出来るのよね。なら一緒に頑張りましょう」
「都合の悪い所を無視する所、嫌いじゃねえけどさ。まあ何にせよ俺のバレットネイターは任せるぜ。こっちとしては上手く仕上げてくれれば良いからな」
「あ、ちょっと何処行くのよ!」
俺はジャンに続く様に社長室を後にする。向かう場所は勿論第一格納庫だ。何せ俺の機体を再びパワーアップしてくれるのだ。行かない理由は無い。寧ろ俺が行かなければ話は進まないだろう。
「こんな時だけはエルフ様々だな。それ以外は微妙な所だけど」
「ちょっと、何で勝手に出て行くのよ」
「……何で付いて来てんの?」
「え?だ、ダメだった?」
俺の一言に不安そうな表情をするクリスティーナ少佐。彼女が俺にどう言った感情を持っているのかは知らない訳では無い。寧ろこんな風にアピールしてる時点で色々察せる訳だが。
「別に構いませんよ。唯、面白くも何ともありませんがね」
「そんな事無いわ。貴方の機体、バレットネイターよね?凄く良い名前じゃない」
「まぁな。性能自体も結構気に入ってるからな。こっちとしては色々感謝したい所だよ」
クリスティーナ少佐と話しながら今後に付いても少し考える。
実際の所、俺はまだオーレムに対する攻勢は始まらないと考えている。オーレムの習性の一つとして同胞以外の生命体は基本的に根絶やしにする。つまり今尚惑星ソラリスと周辺宙域で掃討を行なっている筈だ。
だが僅かながら不審感を感じるのも否定出来無い。理由はマザーシップ。奴の習性は今この時は誰にも解らない。つまり通常のオーレムと同じ行動を取るのかどうかだ。
「本当、厄介な置き土産だぜ」
「ね、ねぇ。その、確認の為に貴方の端末に掛けてみて良いかしら?」
「何で急に乙女チックな事を言い出すんですか。俺達の間には時空の流れが違うんですか?」
余りにも唐突な話の流れだったので、俺は久々にSF世界の不思議な状況を実感したのだった。




