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ソラリス撤退戦2

 β型を纏めて撃破したのちγ型に向かおうとした時だった。オーレムの群れのど真ん中でも平然と対処していた機体。レーダーを見ればZX-07FEエレンティルトと出ている。

 そして思い出すのは通り名が付けられている翡翠瞳の姉妹ことエヴァット姉妹だ。


(ほう、シルエットだけを見れば悪役に即抜擢されるな。それはそれで悪く無いけど)


 一見するとアストライの魔改造機に見えなくも無い。だが実際は堅実でアラクネが無駄に主張しまくってる。現に二、三丁の銃口が此方に向けられてるし。


「おっと、邪魔するつもりはねぇよ。じゃあな反応の無いつまんない姉妹共。精々自分達の世界で百合百合してるんだな!ハッハッハッ!」


 翡翠瞳の姉妹は他者に対しては非常に淡白だと聞いている。つまり多少弄った所で連中は何も言い返してはこない。

 俺はエレンティルトを無視してγ型に向けて突撃を開始。途中でα型の群れが此方に襲い掛かって来たので四連装ショットガンで纏めて吹き飛ばそうと照準に入れる。

 すると横から圧倒的な弾幕がα型の群れを次々と消して行く。無論俺も黙っているつもりは無いので、そのままトリガーを引きα型を消し飛ばして行く。

 レーダーを見ればエレンティルトもγ型に向けて移動している。つまり此奴らは人の獲物を横取りしようとしてる訳だ。


「上等じゃねえか。バレットネイターの機動力を舐めんなよ!」


 俺は更にバレットネイターを加速させる。しかしオーレムもタダでは墜とされる訳では無い。此方に向けてα型の群れと多数のビームによる弾幕が襲い掛かる。

 俺はギフトと勘頼りでα型の群れにプラズマキャノン砲で吹き飛ばす。そして一瞬だけ開いた隙間に機体を滑り込ませる。そのまま正面に向けて四連装ショットガンを乱射しまくる。


「α型のトンネル開通!一丁上がり!そして俺がγ型を頂くぜ!」


 α型の群れを無理矢理突き抜けると丁度β型が爆散するのが見えた。よく見ればZX-07FEエレンティルトも同じ様にオーレムの攻撃を掻い潜っているではないか。


「流石通り名付きなだけあるな。だが譲るつもりは一ミクロン足りとも無いけどな!」


 そのままγ型の左側面に取り付く。再びプラズマキャノン砲を展開し射出口を探す。

 そして丁度射出口が開きα型が多数出撃するのが見えた。俺はミサイルを撃ちα型を蹴散らして射出口に狙いを付ける。


(俺の勝ちだ)


 トリガーを引くとプラズマキャノン砲からプラズマが放たれる。そしてγ型から一気に離脱する。すると丁度エレンティルトも離脱するではないか。

 俺達の攻撃をしっかりと受け止めたγ型は瞬く間に内部崩壊を起こし爆散する。

 だが直ぐ様他のオーレムが此方に襲い掛かる。


「これじゃあ切りがねぇ。一度後退するか?……ん?な、何て無謀な」


 俺は後退しようとするが翡翠瞳の姉妹は次のオーレムの群れに対し攻撃を開始。正直に言うと俺はこのオーレムの大群相手には勝てない。だからある程度戦った後に後退すれば良いと考えていた。

 だが翡翠瞳の姉妹は違った。今までも多数のオーレムを撃破し続けただろう。たが彼女達はまだ戦う事を止める事が無かった。それこそ一騎当千の働きと言っても差し支え無いだろう。

 そしてそんな彼女達の戦闘を見ていると、俺は何処か自分自身に傲りがあったのでは無いのかと感じた。彼女達の技量はオーレムだけで無く、他のAWパイロットより圧倒している。

 勿論今迄にもエースパイロットとは何度か出会った事はある。だが自分より上だと判断したのは多くは無い。そんな中、彼女達は持てる技量を全てを使いオーレムを撃破して行く。その姿は間違い無く皆に実力を認められた存在として相応しい活躍を俺に見せ付けていた。


「……上等だ。此処からは損得抜きだ。ネロ、リミッター解除」

「了解。リミッター解除します」


 リミッターを解除して再びバレットネイターをオーレムの大群へと移動させる。リミッター解除は機動力の向上の他に光化学兵器全般の出力が上がる。

 つまりバレットネイターに装備されているプラズマキャノン砲はより破壊力が増している。

 α型の大群の側面に回り込みながらプラズマキャノン砲を展開。そしてトリガーを引きながら機体を横にズラしながら撃つ。するとプラズマキャノン砲から放たれたプラズマはα型の大群に対し横薙ぎに消し飛ばして行く。

 そのまま別のオーレムに四連装ショットガンで近寄って来るα型を吹き飛ばして行く。

 正直に言うなら今直ぐにでも引き返すべきだ。自分自身がそれを良く理解している。相手は死を恐れる人間では無い。死と言う概念があるかも怪しいオーレム。一度止まればオーレムの大群に飲み込まれる戦場。

 だから今直ぐにレバーとペダルを操作して離脱するべきだ。何度も自分自身に言い聞かせている。勿論その意見には同意している。

 だと言うのに、頭では理解しているのに心が意固地になっているのだ。俺の視界の中には【ZX-07FEエレンティルト】が今尚オーレムを蹂躙し続けている。俺はエレンティルトから溢れ出ているエースとしてのオーラが見えるのだ。


「引き退がれる訳が無い。此処で引き退ったら……何の為にAWのパイロットになったって言うんだ‼︎」


 エレンティルトの背後に続く様にバレットネイターを動かす。そして近付くオーレムを片っ端から次々と撃破して行く。

 改めて間近で見ると的確な操作とトリッキーな操作の融合に細かなSIMによる機動。更に確実に当てて行く射撃能力。複座型だからと言っても互いに信頼していなければ土台無理な話。


(訂正するぜ。お前らは最高のエースパイロットだ!俺もその場所に必ず行ってみせる!だから今は俺の我儘に付き合ってくれ!)


 機動性と運動性では恐らくバレットネイターが上だろう。だがギリギリ追い付けるかどうかの瀬戸際な状況。更に周りはオーレムだらけ。限られたルートを最短で駆け抜けながらオーレムを撃破して行く。

 すると徐々にエレンティルトの軌道に操作が慣れ始めて行く。無駄にレバーを動かすのでは無く自然に動かす。機体に無理をさせるのでは無く流れに沿う様に。

 何かが掴めそうになった時だった。戦艦グラーフから通信が入る。すると集中力が途切れてしまい先程の感覚は徐々に無くなって行く。それと同時にエレンティルトとの距離も離れ始めてしまう。


「此方ガルム11、どうした?手短に頼む」

『連邦艦隊より撤退命令が出ました。至急戦艦グラーフまで帰艦して下さい』


 撤退命令。連邦艦隊を見れば既に超級戦艦シャルンホルンも多数被弾してしまい黒煙を上げながら戦艦と巡洋艦と共に後退を始めていた。


「……分かった。直ぐに戻る」

『お願いします。既に此方にも多数のオーレムにより被弾、損傷しています。くれぐれも寄り道などはしないで下さい』

「ああ、分かった」

『……何か有りましたか?』

「いや、別に……あ、やっぱり有ったな」

『何が有ったのですか?』


 俺は再びエレンティルトを見る。既に離脱を開始していたのだが此方と視線が合った気がした。


「有難いご教授を受けさせて貰ったよ。やっぱり本物って奴は凄ぇわ」


 俺は周りのオーレムを蹴散らしながら戦艦グラーフに向けて進路を取る。徐々に離れて行くエレンティルトを見ながらも思う事。


(あの機動は凄かったな。オーレムを的確に破壊して行きながら速度は全くと言って良い程に落ちなかったし。まぁ、通り名とか二つ名は興味無いけど)


 そんな事を考えながらも先程のエレンティルトと感覚を思い出しながら帰艦するのだった。





 エレンティルトのコクピット中ではほんの少しだけだが明るい雰囲気が出ていた。正確に言うなら妹のフーチェ少尉からだろう。


「ねぇフラン。さっきのサラガン凄かったね。最後の所だったけど、ちゃんと私達に追従出来てた」

「……そんな事無いわフーチェ。私達に簡単に付いて来れる筈が無いもの」

「フフ、フランは素直じゃないなぁ。本当はフランもびっくりしてたでしょう?」

「……」


 フーチェの言葉にフランは無言で応える。そんなフランの様子を見ながらフーチェは呟く。


「またさっきのサラガンに会えるかな?」

「あれはサラガンでは無いわ。確か……あった、バレットネイターらしいわ。サラガンがベースの改造機みたいね」

「そうなの?でも何でサラガンだったんだろう?」

「多分整備や補給の面で有利だからじゃない?私達のはアストライだから連邦管轄下が一番やり易いもの」

「ならあのサラガンは何処にでも行けるのかな?」

「どうかしら?仮に行けたとしてもサラガンだけでは無理ね」

「そっかー。あ、そうだ。フランは百合百合って何の意味か知ってる?」

「いいえ。知らないわ。後で誰かに聞いて上げる」

「ありがとうフラン」


 フラン中尉はエレンティルトを連邦艦隊に向けて移動させる。普段はフリーランスとして活動しているのだが、今回は偶々連邦艦隊と共に行動する事になった。

 そして連邦艦隊に戻り手近な連邦兵に百合百合とは?と聞いた瞬間、連邦兵が滅茶苦茶興奮しながら懇切丁寧に説明してくれたとか。

 因みに説明を聞いていたフラン中尉は赤面化。その連邦兵は周りの同僚達により拘束され逆さ吊りにされた。





 戦艦グラーフに戻る途中に何隻かの脱出艇から救助要請を受ける。無論スマイルドッグ艦隊と他の傭兵艦隊は既に惑星ソラリスからの脱出艇を回収中だった。


「まだソラリスの反対側にはオーレムは来てないのか。連邦艦隊様々だぜ。此方ガルム11、近辺からの救助要請を受けているんだが受け入れるスペースは有るのか?」

『はい。有ります。現在ガルム隊、ロメロ隊が回収活動をしています。また偵察隊、MW隊は周辺警戒を行なっています』

「分かった。こっちでも回収作業に入る。しかし、まだ脱出してくる船が有るのか」


 今ナナイ軍曹と話してる間も次々と惑星ソラリスから脱出艇が打ち上がって来る。中には自力でワープして行く艦艇もあるが、大半は無理な民間船ばかりだ。


「しかし連邦も意外と律儀だったな。てっきり外人部隊は速攻で矢面に立たされて終わるかと思ってたが」

『本来なら此処までの被害は想定外だった筈です。マザーシップと言う新種が現れただけで無く、惑星ソラリスを放棄する事になったのですから』

「そうだな。兎に角今は救助活動を第一優先にするよ」

『お願いします』


 俺は近くの脱出艇に目標ポイントの指示を出す。推進剤が残ってる船は勝手に向かうのだが、推進剤が無い船もある。その場合は近場の脱出艇に牽引して貰う訳だ。


「これで六隻か。これ収容仕切れるか?」


 地表ではまだ沢山の軍人と民間人が居る筈だ。例えシェルターに避難したとしてもオーレムの探知能力を誤魔化すのは困難だ。余程のクレジットを掛けて作ったシェルターで無ければ無理だろう。


『救助活動に従事している者達は作業を続行したまま聞いてくれ』


 オープン通信から連邦から通信が入る。


『現在一部のオーレムが惑星ソラリスへと降下を開始した。我々も既に満身創痍な状況であり、これ以上の戦闘は不可能と判断。これより惑星ハリガナへ撤退を開始する。尚、現在も一部の部隊がオーレムの足止めを行う最後の任務を遂行中だ』


 最後の任務。つまり片道切符を握ってオーレムと戦闘をしている訳か。


「馬鹿が。あれだけの数相手に足止めなんて出来るかよ」

『よって彼等が全滅をした瞬間に我々は惑星ハリガナへ向けて撤退を開始。他の艦隊も同様にハリガナに向けて撤退せよ』


 既に作戦と呼べる物では無いだろう。だが馬鹿な死に方をする連中の死を無駄にするつもりは無い。俺は次の脱出艇へと向かう。

 そしておよそ五分程経過しただろう。地球連邦統一艦隊より撤退命令が下される。

 俺は目の前の浮かぶ多数の脱出艇を見る。まだ何十隻も浮かんでいる。だが全ては救えない。だから一番小さい脱出艇を両手で掴みながら通信を繋げる。


「聞こえるか。今から速度を一気に上げる。悪く思うな。何、漏らしても恥ずかしいだけで済むさ」


 返事は聞かない。唯、一気にバレットネイターを加速させて戦艦グラーフへと向かう。通信越しからは本気(ガチ)の悲鳴が聞こえて来る。


「まあ珍しい経験が出来たと思えよ。ほら将来の夢にAWパイロットになるって候補も出来るだろうし」


 相変わらず通信からは悲鳴しか聞こえない。まぁ、気にしても仕方ないので通信を切る。

 後方を見ればまだ惑星ソラリスから打ち上がって来る脱出艇が確認出来る。だが、そろそろオーレム達の射程に入る筈だ。


「……すまん」


 誰に対しての謝罪か。惑星ソラリスで死んだ者達へ向けたのか。これからオーレムによって皆殺しにされる人々に対してなのか。それともこの事態を引き起こした自分達の無力に対してなのか。


 俺には判断出来なかった。





 戦艦グラーフの艦橋では最後の機体の収容が確認されていた。


「ガルム11の収容を確認。これで全ての部隊の収容を完了しました」

「うむ。では惑星ハリガナに向けて進路固定開始」

「了解。進路固定開始」


 戦艦グラーフを中心としたスマイルドッグ艦隊は陣形を組みながら、互いの位置を確認して進路を惑星ハリガナに向ける。


「各艦の進路固定良し」

「ワープ準備完了。ワープシステムは全て正常」

「機関出力良し。ワープホール展開開始」


 そしてスマイルドッグ艦隊に続く様に他の艦隊も順次ワープホールを展開。


「目標惑星ハリガナ。ワープ開始」


 艦長が命令を下すとスマイルドッグ艦隊は一斉に次元の狭間に入り込む。そして惑星ソラリスの軌道上から戦える者達が居無くなったのだった。

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― 新着の感想 ―
そういえば整備兵が逆さ吊りにされてたけど艦船の中って重力あるの?
[一言]  傭兵ランカーなんて意味なんてないと決め付け、どうせ八百長のオンパレードだとそう思っていた。 辺りにランカー設定が残ってました
[一言] 吊された連邦兵、凄い早口になっていそう
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