高額報酬+全額前払い=危険フラグ
戦いは中盤に動き出した。ユニオン艦隊の旗艦である超級戦艦アルタイル。その艦首には超エネルギー収縮砲が搭載されていた。
ユニオン艦隊とAW部隊がアルタイルの射線を確保する為に場所を開ける。その動きに気付き傭兵艦隊はアルタイルに対し集中攻撃をするも分厚い防御シールドによって阻まれてしまう。
この時代の戦艦は大きければ大きい程、無駄にエネルギー容量が増え耐久力と攻撃力が増してしまうのだ。無論、被弾率は高くなるが防げれば問題ない。
他にも色々とデメリットはあるものの、超級戦艦を維持出来る環境なら力の象徴を手に入れたのも同然だ。
正に時代が進んだ結果と言えるだろう。
傭兵艦隊は攻撃が効かないと判断するや否や回避行動を取る。だが一つの艦隊だけが動かなかった。
それはエルフ艦隊だ。
「敵旗艦アルタイルより高エネルギー反応確認。エネルギー収縮砲の展開も確認されてます」
「そうか。では、こちらも決着をつけましょう。試作重力砲展開」
「試作重力砲展開用意」
エルフ艦隊の旗艦は戦艦グラーフより一回り大きい位だ。対して超級戦艦アルタイルは戦艦グラーフの約3〜4倍程の大きさだ。
エルフの戦艦の艦首部分が四つ又に開く。そして黒い稲妻が走ると同時に禍々しい漆黒の塊が出来始める。それは徐々に大きくなりユニオン艦隊と傭兵艦隊は危機感を持ち始める。
【敵戦艦より高エネルギー反応確認。これは…エネルギー密度が急上昇してます】
【収縮砲のチャージはどうなってる】
【チャージ率40%です】
【50%で前方の敵艦隊に対し攻撃】
【他の艦隊は宜しいのですか?】
【残りは物量で押し潰せば良い。アルタイルも前に出せば問題は無い】
アルタイルの艦長はエルフ艦隊が何かしようとしていると判断した。なら何かをする前に潰す。当たり前の判断だ。
しかし戦況モニターを見るとエルフ艦隊から距離を取る傭兵艦隊。更に異常なエネルギー反応に自身の警報が鳴り響く。
【もう良い。超エネルギー収縮砲を発射しろ】
【しかし、後二十秒で完了しますが】
【構わん。命令に変更は無い。超エネルギー収縮砲発射!】
【了解。超エネルギー収縮砲発射】
旗艦アルタイルから莫大なエネルギーと言う名の暴力がエルフ艦隊に向け放たれる。それと同時にエルフ側の戦艦から黒く禍々しくこれまた莫大なエネルギーの塊が放たれる。
お互いの攻撃がぶつかる。そして黒い塊は超エネルギー収縮砲の攻撃を呑み込むかのように徐々に大きくなりながらユニオン艦隊へと進んでいく。
「えぇ……ビームを取り込んじゃうんか?」
余りの予想外の展開に状況がイマイチ判断し切れない。そして、黒い塊が旗艦アルタイルにぶつかる直前に変化が起きた。
突然黒い塊の周りが放電したと思った瞬間、一気に巨大化。そのまま旗艦アルタイルの艦首を呑み込む。それだけではなくアルタイルの周辺に居る駆逐艦、巡洋艦。AW部隊をも吸い込んで行く。序でにこちらの計器からアラームが鳴る。
『全ユニットに通達。あの黒い塊から強力な重力波を検知。引き込まれない様に注意されたし。恐らく塊の近くにいるユニオン艦隊は殆どが助からないだろう』
「つまり、かなりえげつない攻撃をした訳か。然も、こっちにまで影響が来てるし。エルフの同胞に手を出した結果がこれか。いやはや、ユニオン企業さんはご愁傷様ですわ」
そして黒い塊がユニオン艦隊を吸い込み続けたが、突然巨大な爆発が起こる。爆発の衝撃波は凄まじく、ユニオン艦隊に対しデブリ片やら何やらが襲い掛かって来る。
然も強力な重力波により引き寄せられてた時にこの仕打ち。敵ながら色々と同情してしまう状況になっていた。
因みに傭兵艦隊にも破片がかなりのスピードで飛んで来たので慌てて迎撃していた。
結果、この攻撃が決定打となったのは言うまでも無かった。旗艦アルタイルは半壊以上のダメージを受けており最早指揮能力は無い。
更に仲間が黒い塊に吸い込まれるという悪夢の様なものを見せられたユニオン艦隊の将兵の戦意は完全に喪失。結果としてユニオン艦隊はエルフ艦隊、傭兵艦隊に対し降伏宣言を行ったのだった。
今回の戦いによりユニオン企業からそれなりの額を引き出す事が出来た。詳細は知らないし興味も無いが、ユニオン企業とエルフとの揉め事は引き続き継続しているとか。
「さっさと同胞とやらを引き渡せば良いのにな。事が事だけに下手な形で公にされたらユニオン企業は小企業に転落か。解体とかされるよかマシだろうがな」
自室で休息を取りながら今後のユニオンの雲行きを考えていたら端末から呼び出しが掛かる。誰かと思い見ると社長からだった。
俺は端末を暫く見てたが適当に放り投げベッドに身を投げ出す。
「ゴメンね社長。僕ちゃん寝ちゃってて気付かなかったの。だから許してね♡」
語尾にハートマーク付けたし大丈夫だろ。そう思いちょっと大人でエッチなアダルティな映画でも見ようかなと別の端末を操作してると艦内放送が流れる。
《シュウ・キサラギ軍曹、直ちに社長室へ出頭せよ。繰り返す、直ちに社長室へ出頭せよ。三分以内に来なかった場合ボーナスカットです》ブツ
「やだなぁ!俺、社長の事大好きだからさぁ!そんな意地悪な事しないでよ〜もう〜」
「だったら最初から来い。はぁ、貴様とのやり取りは疲れる」
「大丈夫?社長。頭痛薬要る?」
「自前のがあるから要らん」
艦内放送を聞いて直ぐに社長室へ向かった。全く、俺はなんて真面目な社員なんでしょうかね。
「貴様には次の任務に就いてもらう。依頼主はあのエルフ様方だ」
「辞退します。お疲れ様でした」
俺は回れ右をして社長室から出ようとする。ドアの前に行き開けようとした時だった。
「依頼を受けるなら全額前払いだそうだ。それから儂から臨時ボーナスを出してやる。勿論、前払いでな。依頼額はこの端末に置いてある。確認しに来い」
「……ちょっとだけよ」
俺はムーンウォークしながら社長の机にある端末を確認する。そして依頼金額を確認する。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……じゅうまん……ひゃくまん……一千万クレジット⁉︎これ本当に全額前払いなのか!」
「嘘では無い。但し今回の任務は長期化する可能性がある。よって各傭兵企業のエースを雇うとの事だ」
「エース……俺エースなん?」
「貴様はこの前単機で駆逐艦を墜としただろうが。それに幸運野郎の名は伊達では無いだろう」
「まあ、ラッキーボーイなのは認めますけど」
唯のラッキーボーイで済めば良い。寧ろラッキーボーイだと思っててくれた方が断然良い。もし、ギフトに関してバラされたら俺の傭兵家業としての生命線が切れるしな。
「他はどこの傭兵と共闘するんですか?」
「後は四つほど来るそうだ。どいつもこいつも、前払いの金に食らい付いた様だ」
「で、仲介料で会社にも幾らか入ると。かー!社長も俺もWIN-WINですな。唯、一つ気掛かりなのが」
「額の多さだな。尚且つ前払いと来ている。依頼内容は見ての通り要人救出になる」
端末から依頼内容を確認する。確かに要人救出としか書かれていない。だが誰とか何人とか最低限の個人情報すら出てない。
「エルフのお偉いさんがポカしたか嵌められたかですかね。個人的にポカした方が後々楽そうですけどね」
「外部に情報を与えたくは無い。つまり、それだけ危険も伴う訳だ。キサラギ、無茶な行動だけはするな」
珍しく社長の表情が固くなる。どうやら社長なりに気を使ってるのだろう。まぁ、俺は特に気にしないけどね。
「あらいやだ。社長が俺の心配をするなんて。明日はデブリ群がスマイルドッグの艦隊に直撃か。さらば社長、成仏してくれ」
「勝手に人を殺すんじゃない。馬鹿者が。それから奴さんの出発は明日だ」
「随分と急ですね。高額報酬前払いなだけでフラグ建ってるのに、更に厄介ごとが追加されてるのが分かっちゃうのが嫌ですな」
「フラグが何かは知らん。だが、確かに危険な状況になる可能性は高いだろう。それから、機体の方は自前で用意しろとの事だ。どうやら向こうは向こうで極力自分達の技術漏洩を防ぎたいのだろう」
「技術漏洩を防ぐ?ハハハ!エルフは人を笑かすのが上手いですな!アレだけの技術力を見せびらかした癖に今更でしょうに」
連中は連中で色々考えてるのだろう。けど、人前で晒した以上狙われるのは必須だ。それがゴロツキか企業か。はたまた政府が強制介入してくるかも知れんし。
「ま、なるようにしかならんか」
「そうだ。分かったら準備しろ」
「あ、最後にもう一つだけ腑に落ちないんですけど聞いても良いですか?」
「何だ?」
「何で今回の依頼を受けたんですか?どう考えても胡散臭さヤバイっしょ」
今回エルフ様方が持ち込んだ依頼。詳細こそ不明だが破格の金額を提示している。然も前払いでだ。
実に景気の良い話だが、それに伴い危険度も倍プッシュだろう。幾ら金にがめつい社長とて、その辺りは理解してる筈だ。
「……これは儂の独り言だがな。拒否したらユニオン企業と同じ道を辿ると言われたら拒否出来んわ」
「うわぁ、えげつねえッスね。取り敢えず了解しました。シュウ・キサラギ軍曹、これより次の任務の為の準備に入ります」
「……すまん」
社長の独り言を聞き流し退室する。
しかし社長も歳なのかも知れんな。独り言であんなに話をするなんて。
え?独り言じゃないって?いやいや、さっき社長自ら独り言だって言ってたじゃん。次会ったらもう少し優しく接してあげよう。
「あぁ、何て俺は優しい好青年なのでしょうか!」
エルフからの依頼。エルフと他傭兵との共闘。そして人身売買の闇への介入。
それだけエルフ共も余裕が無いのだろう。
使える戦力は無理矢理にでも徴収しようとしてるくらいだからな。
まぁ、大金の報酬が出る分だけマシだと考えておくかな。
「うん。一波乱どころじゃねぇな」
それでも行くしかないのだ。何故なら大金に目が眩んで依頼を受けたのだから。