勝利の栄光を共に!
司令部は大混乱に陥っていた。それもその筈、過去オーレムと戦い数百年。あの様な巨大なオーレムは発見された事は一度も無い。
確かに学会などではΔ型ではオーレムの運搬には小さ過ぎるとの指摘もあった。だが、これで運搬に関する疑問は解決した。今まで幾度となくオーレムを放ち続けていたのは此奴だと。
そして今まで発見されない程の高度なステルステクノロジーを持ってる事も推測出来る。
『此方戦艦ビクトリア。あのデカ物は何だ。至急情報を求む』
『こんなの相手にすんのか?俺達だけで』
「情報部は何をしていた!何故今まであのデカ物を見つけ出していなかったんだ!」
「外人部隊の一部が撤退許可を求めています」
「馬鹿な事を言うな!我々の後ろには六千万人もの民間人が居るんだぞ!」
『司令部!一体これから何が起こるって言うんですか!司令部!』
現場も司令部も同じ様に混乱していた。だが一番混乱していたのはアイリーン博士とOLEM保護団体達だった。
今の今まで要塞級クラスのオーレムなんて誰一人として見たことは無い。それはアイリーン博士とて同じだった。
「な、何よ……これ。こんなの見た事が無いわ」
「博士、これは一体?」
「装置を最大出力にしなさい。幾らデカくても所詮はオーレム。慌てる必要はないわ!」
「良いんですか?こんな相手に向けて使うのは」
「良いからやりなさい!私に逆らう気ですか!」
「分かりました。やります、やりますよ」
最早部下達はヤケクソ気味で装置を最大出力で展開する。すると周りのオーレムが巨大オーレムの為に道を開くでは無いか。そして巨大オーレムからも似た様なテレパシーを発する。
「これは共鳴?実に興味深いわ。このデータを全て解析出来ればオーレムとの意思疎通も夢ではない。船をあのオーレムに近付けなさい!急いで!」
そしてボギー1ことアイリーン博士の乗る艦艇はゆっくりとだが徐々に巨大オーレムに近付いていく。
「博士、巨大オーレムから高エネルギー反応が出ています」
「そうなの?なら間違いなく此方の呼び掛けに答えてくれている証拠よ!私は正しかった。全ての生命体はオーレムの元で平等になる事が出来る!」
アイリーン博士は確信した。これこそ自分が求めた存在。圧倒的な力を我が物にし宇宙を統治する。そこに忌々しい王族も資本主義の枯れ果ての存在は必要無い。
巨大オーレムの様々な場所から次々とエネルギー反応が出る。それは地球連邦統一軍も把握している。だがそんな状況でもアイリーン博士は狂信的な視線を巨大オーレムに向け続ける。
「さあオーレムよ!私を神になる為の道へと導くのです!」
両腕を掲げ巨大オーレムに向けて語り掛ける。
そして次の瞬間。
幾つもの大小様々なビームとプラズマの嵐がアイリーン博士の乗る高速大型輸送艇に次々と直撃する。
アイリーン博士は勿論の事、乗組員、機密データと装置は文字通り宇宙の塵と化してしまう。
神を自称し、宇宙に住む人々を導くと大層な事を言い続けたアイリーン・ドンキース。その呆気無い死に方に誰も同情はしなかった。
だがアイリーン博士の置き土産に慌てたのはOLEM保護団体の艦隊だ。アイリーン博士も帝国から奪った機密データと機材は全て消え去った。そして次に彼等を待ち受けていたのは一方的な虐殺だった。
【オーレムが高速で接近して来ます!】
【四方八方からα型が来てる!早く逃げなきゃ!】
【囲まれてる!誰か助けてッ⁉︎】
【うわあああ⁉︎もうお終いだあああ⁉︎】
【メーデー!メーデー!救助を救助をおおお⁉︎】
目の前に映る地球連邦統一軍に助けを求めるOLEM保護団体。だが彼等の返答は無くビーム一発の援護も無い。
「もう良い。通信を切れ。各BBL艦に通達。収縮砲のエネルギー充填を開始せよ。目標はあの巨大オーレム……仮称として母艦級とする」
「了解。通達します」
時間稼ぎにもならないOLEM保護団体を尻目に地球連邦統一艦隊は攻撃準備に入る。唯一救いなのはオーレムが此方に接触するまで多少の時間はある。ならその間に収縮砲による前面のオーレムを排除した後、要塞級クラスの最大出力による収縮砲で一気に仕留める。
幾らマザーシップが要塞級と同等以上の大きさだとしても要塞級の収縮砲を受ければ粉砕する事は可能だろう。
「収縮砲を発射と同時に防衛基地ソラリスからも収縮砲を放つ。その際に射線に入らぬ様に注意せよ」
「直ちに各艦に通達します」
「全く、この戦いが終わればOLEM保護団体なんぞ連邦管轄領内から根絶やしにしてくれる。あの様な凶悪なテロリストは必ず殲滅せねばならん」
「本国に先に伝えておきましょうか?」
「無論だ。この戦いが終わり次第、我々地球連邦統一軍はOLEM保護団体の一掃作戦を行う。OLEM保護団体との繋がりのある組織、企業は全て検挙だ」
「宜しいのですか?かなりの反発が予想されますが」
「それで連邦市民を守れるなら安い物だ。それに捕まるのが嫌なら帝国か共和国に行けば良い。無事に逃げ切れた者が居るなら見送りだけはしてやろうでは無いか」
ウィルソン中将は皮肉気に言うと各艦隊に指示を出す。例えアイリーン博士とOLEM保護団体が居なくなってもオーレム自体は此方に向かって進路を進めている。ならば此処で奴等を殲滅させねば惑星ソラリスに未来は無い。
(この収縮砲でマザーシップを仕留め切れなければ我々の敗北は必至。それに味方の更なる増援まで時間を稼ぐ必要もある。クリントン・ウィルソン、此処が貴族としての正念場だぞ。必ず市民を助けてみせよう)
ウィルソン中将は自身に流れる由緒正しい血筋を思い浮かべながら艦隊に指示を出すのだった。
地球連邦統一艦隊と寄せ集め艦隊の収縮砲搭載戦艦は現在エネルギーを充填中だった。と言ってもBBLは結構な値段がする。なので外人部隊のBBLはたったの三隻になっている。
外人部隊とは言え、やはり傭兵とバウンティハンター。艦船や戦闘機。果てには大型輸送艇も参戦してるので数だけはある。
因みに戦闘機やAWしか持ってない傭兵やバウンティハンターは普段惑星ソラリスに居座ってるのが殆どだ。偶に根無草みたいな連中は護衛という名目で艦隊に同伴する形をとっている。
オーレムはα、β型を前衛にしながら真っ直ぐに此方に向けて接近中。この迷いも小細工も無い動きがオーレムらしさなのだが同時に恐ろしさもある。そして死を恐れない攻撃はより彼等の恐ろしさをより増大させる訳だ。
「やれやれ、これで帝国との依頼も無くなった訳だ。依頼額は支払われない可能性は高いが、まあ新型の駆逐艦とAWの補充を無償で受けれただけで良しとしようか」
「しかし連邦が何かしら突っ掛かって来ると思うのですが」
「だから帝国からのお客さんには早々に退場して貰う必要はある」
「……彼等を始末するのですか?」
「馬鹿な事を言うな。そんな事をすれば我々が後で始末されるわい」
社長は艦長の言葉を否定しながらフンッと鼻息を荒くする。
「帝国の増援が来たのと同時に全員を直ぐに救命艇に押し込んで受け渡す。内容は……そうだな、負傷者の受け渡しの為だといってな。そして空いた駆逐艦には各艦からの人員を割り当てる」
「成る程。穏便に済ます事は良い事ですな」
「当たり前だ。我々がお互いに幸せになるにはお互いの存在を無かった事にする。それが一番なのだ」
社長はクレジットは大好きだが会社と自分自身の安全も考慮する。無論その中にはガルディア帝国の事は欠片も考慮はしていない。
自分達は大丈夫だと確信している社長を見ながら艦長は内心思う事はある。あの帝国が簡単に我々を見逃すのだろうかと。最悪向こうも同じ事を考えてるのではなかろうかと。
(上手く行くと良いのですが)
だが艦長は直ぐに思考を目の前のオーレムに向ける。収縮砲の充填にはまだ時間も掛かる。なのでオーレムとの一戦は避けられないだろう。
「AWは出撃用意。艦砲射撃が開始された後に出撃を開始する。味方艦隊の射線に入らぬ様に充分に注意せよ」
指示を出してる間もα、β型のオーレムは真っ直ぐに向かって来る。レーダーが徐々に赤く染まり始めるのを見ながら若干の恐怖を感じるのだった。
防衛基地ソラリスも攻撃準備を完了させていた。ビーム砲台やミサイル発射台は勿論の事、AW、MW、AS部隊の出撃準備も完了している。
間も無く先鋒艦隊がオーレムを射程に捉える頃だろう。ウィルソン中将はマイクを取りオープン通信で味方艦隊に呼び掛ける。
《諸君。目の前の作業に集中しながら聞いて欲しい。私は地球連邦統一軍、防衛基地ソラリス司令官のクリントン・ウィルソン中将である》
地球連邦統一艦隊全体へ向けて演説をする。誰もが一度は手を止めるが直ぐに目の前の作業に集中する。
《現在、オーレムの師団規模以上の戦力が此方に向かっているのは皆も知っているだろう。だが案ずる事は無い。本国も事態を重く見ており増援も送られる事が決定した》
この時ウィルソン中将は一つの嘘を吐いた。本国からの回答はまだ来ては無く増援の見込みは近郊宙域に居るパトロール艦隊か善良な自治軍の善意からの派遣艦隊くらいだ。
だが此処で嘘の一つで士気が上がるなら安い物だ。
《また惑星ソラリスでも順次一般市民の避難は行われている。君達の愛すべき家族、友人、恋人は安全な状況に入っている》
確かに惑星ソラリス全域に向けて避難警報は発令された。だが空港は既にパンク状態。また主要道路も完全に渋滞を引き起こしている。なので惑星からの避難が出来ないと判断した者達は早々に避難シェルターに身を寄せ合う形になっていた。
《だが忘れてはならない。我々は地球連邦統一軍人である事を。決してオーレムに対し背を向ける事は無いのだと!そして皆で惑星ソラリスを守り英雄として凱旋しようではないか!》
誰もがウィルソン中将の演説に耳を傾ける。此処には守るべき六千万人以上もの市民がいる。愛すべき地球連邦統一市民を守るのに何の躊躇いがあろうか!いや、躊躇などある筈が無いのだ!
「貰える勲章はこの勲章より価値があるのかな?」
「恐らく無いかと思われます。貰えるとしましても地球連邦統一軍からはエースパイロット向けの【地球連邦統一十字金勲章】かと」
「名前長えな。もう連邦十字勲章ゴールド仕様で良いじゃねえか」
「また地球連邦統一軍を贔屓にしているエースパイロットなら大半の方達は持っていますので、特に珍しい物ではありません」
「尚更要らなくなったわ」
ウィルソン中将の演説に難癖を付けるキサラギ准尉。そんな姿を見てるネロは文句の一つも言わずに付き従う。正にマスター一筋を貫くネロちゃんである。
《諸君、改めて言わせて欲しい。君達の力を貸してくれ。そして惑星ソラリスへ戻り共に肩を並べ酒を飲もうではないか!なに、その時は全員無礼講だ》
そして演説が終わるのと同時に先鋒艦隊がオーレムを射程に捉える。
『目標ビーム砲射程内。α、βは尚も此方に接近中。進路変更ありません』
『各砲座射撃用意。目標、前方オーレム群』
『各砲座射撃用意良し』
『艦載機発進準備良し』
ウィルソン中将は静かに息を吸い右腕を前に突き出しながら命令を下す。
《勝利の栄光を我々の手に!全艦攻撃始めえ‼︎》
そして緑色のビームが地球連邦統一艦隊より一斉に放たれるのだった。
収縮砲搭載戦艦BBL
用語の所に簡単に種類がありますので。参考程度にどうぞ。




