暴君アイリーン・ドンキース
なんやかんやで三十万文字書いたのな。
その分誤字も半端無く多いんだよね。にも関わらず誤字報告を逐一してくれる人達が居る。
そんな人達に一言言いたい。
本当にありがとうございます。貴方達が居なければ読み難い小説トップクラスになってました!
惑星ソラリスの宙域では今や滅多にお目にかかれない程の地球連邦統一艦隊が集まっていた。更に傭兵艦隊やバウンティハンターの持つ艦艇も合わせれば観艦式すら出来るかも知れない。
俺はネロを抱えながら待合室から雄大とも言える大艦隊を眺めていた。
「凄えな。これは中々の戦力が集まってるじゃないか。駆逐艦やフリゲート艦は勿論の事、戦艦や巡洋艦までも。然も超級戦艦二隻に空母二隻とはね。連邦は金持ってんな」
俺が見ている場所からは超級戦艦【デンホルム】【シャルンホルス】の二隻が丁度見えていた。
「素晴らしい艦艇数です。しかし、ガルディア帝国の艦艇は見当たりません」
「まぁ、政治的な問題があるんじゃねえの?知らんけど」
「実に非効率的です。ですが、指揮系統の統一化としては効率的です」
「俺達も臨時で連邦艦隊の一員だしな。まぁ、外人部隊扱いだけど」
「配置を確認しますと私達は左翼上方に配置されています。また他の傭兵艦隊、バウンティハンターの艦艇も纏めて配置されてます」
「妥当な判断だな。連邦軍は連邦軍。ならず者はならず者で固める」
「しかし、マスターはスーパーエースです」
「スーパーエースじゃあ戦局は変えられないよ。残念ながら」
俺はネロを撫でながら惑星ソラリスを守りオーレムを迎え撃つ態勢を取る艦隊を見る。
基本的な配置として前衛は駆逐艦、フリゲート艦、巡洋艦。中衛では巡洋艦、戦艦が配置。後衛には超級戦艦と空母が構えており前衛をしっかりとバックアップする形だ。そして最後尾には防衛基地ソラリスが最後の要として存在している。勿論前衛にも戦艦や巡洋艦は存在してるが大半は旗艦として火力と防空支援の役割だろう。
唯、防衛基地ソラリスにまでオーレムが接近したとなるといよいよ惑星ソラリスの命運も尽きる訳だが。
だが、楽観視しても通常のオーレム相手ならそんな事にはならないだろう。何故ならこの艦隊数だ。例え数万のオーレムが来たとしても艦砲射撃やミサイルで完膚無きまでに叩き潰される。そして残った残飯処理を俺達の様な小物がやる訳さ。
「今までだったら楽観視は出来たんだがな。アイリーン博士がどう出るか」
「不明です。ですが、ある程度の予測は可能です」
「俺も予測出来るよ。あのババァは無駄に目立ちたがり屋と見たね。自称神を自負してるくらいだ。間違いなくオーレムと一緒に来るぜ」
「流石ですマスター。私の推測と然程変わりはありません。恐らくアイリーン博士は地球連邦統一艦隊を使ったデモンストレーションを行うのでしょう」
「そして惑星ソラリスには手を出さないと?まぁ、確かに操る事は出来るなら可能か。つまり、自分に対する反抗勢力の殲滅を実践する訳か。あの唯の天才ならそんなクソみたいな考えを思い付きそうだな。軍人とならず者は人命にはカウントして無さそうだけど」
「その場合ですと我々の立場は非常に危険です」
「安心しろよ。俺は大抵危険な状況になっても生きて帰れるからな。だからお前は俺を全力でフォローしろ。そうすりゃあ問題ねぇよ」
「了解しましたマスター」
「期待してるぜ相棒」
正直言うと不安はある。アイリーン博士が更にオーレムを自由自在に操る事が出来るとしたらどうなるか?それこそ死を恐れない殺戮兵器の群れを相手にする訳だ。
因みに余談だが、無人兵器に関しては艦隊では殆ど運用されていない。理由はジャミング装置による波長障害やクラッキングによる影響が大きいからだ。
過去にはギフト持ちのハッカーが無人艦をハッキングしまくって一個艦隊程の戦力を私物化。その無人艦隊を使って宙賊やならず者を宇宙の塵にしたらしい。そして実行犯のハッカーは結局捕まえられる事は無く、証拠隠滅の為に無人艦隊は自爆された。
以上の教訓から無人兵器はドローンや対人兵器に集中する事になる。ハッキングされる可能性はあるが無人機の価値は今でも高いのだ。
「結局、最後は人の手に委ねられる訳か。技術が進んでも根本は変わらないんだな」
「世界が終末に向かう最後まで人の手は入ります」
「だから人ってのは足掻くんだよ。自分達が助かる為にな」
俺は立ち上がりながらも大艦隊を見続ける。この戦力でアイリーン博士を殺す必要がある。それは人の手が必要なのかも知れない。
防衛基地ソラリスの防衛艦隊が全て出撃し、後は配置とオーレムの迎撃準備を終わらせるだけだった。だが、司令部にいるウィルソン中将の耳にある情報が入る。
「何?オーレムの人為的操作だと?馬鹿な事を。その様な全知的生命体を裏切る真似をする奴等が何処にいると言うのかね?」
「確実とは言えません。ですが、帝国の一部部隊が活発に動いているのも確認出来ています」
「それはソラリスの周辺もかね?」
ウィルソン中将の言葉に静かに頷く情報士官。中将は紅茶を一口飲みながら暫く思考する。
「今は割ける人員は限られてる。可能であるなら出来る範囲で調べたまえ。多少は私の名前を使っても構わんよ」
「は!有難うございます」
「だが、妙に引っ掛かる点もある。何故帝国はこのアイリーン・ドンキースと言う女性に三億もの賞金を賭けたのか。これでは我々連邦軍にも見て下さいと言わんばかりではないか」
「恐らくアイリーン博士とオーレムには何かしらの関係があるのでは?」
「憶測で物事を言うのはそこ迄だ。先ずは確実な情報を集めたまえ。そうすれば自ずと答えは出る」
「失礼しました。それでは」
情報士官の敬礼に答礼をして返事をする。そして再び紅茶を口にしてから一口呟く。
「このオーレムが操作された物だとして、惑星ソラリスへ来る理由は何だ?戦略的価値は有るだろうが、最悪、我々地球連邦統一軍と全面戦争にも発展する可能性もあるのだ。いや、幾ら帝国とは言えその様な愚かな選択はせんか」
自分の考察を直ぐに否定するウィルソン中将。彼は自分が民主主義であり資本主義だと知っている。例え帝国が貴族主義だとしても資本主義に依存してる事も知っている。
だからこそ全面戦争など非生産的な事をすればお互いの経済に大ダメージを与えかねない。
「ふう。やはり紅茶は素晴らしい。君、オレンジティーを淹れてくれたまえ」
ウィルソン中将は空になったコップを軽く上げながら女性士官に紅茶を催促する。
ウィルソン中将が紅茶を催促してる間に数人の分析官達には僅かに違和感を感じていた。それはパトロール艦隊の戦闘データの分析中に気付いた。
その違和感とはオーレムの群れの後方辺りに未登録の艦艇識別が出ていたのだ。
「ねえ、この識別はなんだと思う?オーレムに襲われてる艦艇かな?」
「いや撃墜されたが動力が生きてる状態でオーレムに引っ掛かってるんだろ。前にも似た様な事があったよ。微弱な救難信号を出し続けるオーレムの群れをさ」
「そうだよね。でもパッと見た範囲では全然気付かなかったからさ」
「多分γ型に引っ掛かってるだろう。そして乗組員は全員死亡してるだろうけど」
「そうだよね。唯、今までのオーレムとは少し違うから何か関係があるかもって思ったけど」
「関係なんて無いよ。この戦いが終わったら供養してやろう。それが俺達に出来る唯一の事さ」
偶に見掛ける光景。だからこそ、その重要な手掛かりを見逃してしまう。
相手はオーレム。知性も無い下等な生き物。
その油断が徐々に自分達の首をゆっくりと締めている事に、まだ誰も気付いてはいない。
地球連邦統一艦隊によるオーレム迎撃態勢は充分整える事が出来た。基本的にオーレムとの戦闘は正面から撃ち合うが、足の速い艦艇は側面に回り込む必要もある。
そしてスマイルドッグ艦隊の旗艦グラーフは実に標準クラスの戦艦だ。だが収縮砲が搭載されてるBBLクラスなので一応主力戦力の一つとして数えられるだろう。
そんな状況の中、俺はアズサ軍曹と一緒に格納庫で機体を眺めていた。
「大分格納庫も慌ただしくなって来たな」
「そうッスね。後二時間ぐらいで出撃スからね」
「そうだな。あのさ、俺暇だったから最悪な事考えついたんだけど」
「何スか?最悪な考えって。社長に悪戯でもするんスか?」
「ちげえよ。今の俺達の状況についてだよ。一番最悪なのはアイリーン博士を殺し損ねた挙句、惑星ソラリスにオーレムが到達した場合の事だよ」
「やめて下さいよ。そんな考え聞きたく無いッスよ」
「まあ聞けって。これがさ中々エグい考えでさ。俺達スマイルドッグ艦隊は全員漏れ無く連邦軍によって取り押さえられるだろ?それから帝国との繋がりが出てくるだろ?すると間違いなく俺達全員重罪者扱いで刑務所行きな訳よ。まあ良くて四六時中監視対象になるかもだけど」
「いやいや、そんな訳無いッスよ。大体私達と帝国との繋がりを簡単に残してる訳無いッスよ」
「あのアイリーン博士だぜ?間違いなく何かやらかしてくれるよ。だからその前に必ず仕留める。今度は引き止めるんじゃなくて協力しろよ。三億より今の生活だ」
「了解ッス。でも先輩って色々考えてるんスね。ちょっと意外ス」
「いや流石にぶっちゃけ今回の依頼は帝国の尻拭いだぜ?あの時に仕留め切れていれば文句の一つ二つで済んだ訳だ。それが今や連邦すら巻き込んだ大事になってる。社長には早い所、帝国との縁切りも考えて貰わねえとな」
そもそもアイリーン博士の考えが読み切れないのも問題だ。唯、あの女の事だ。きっと自己主張してくる筈だ。その時に帝国との繋がりだけを言ってくれればギリギリ回避出来る筈だ。
(そうすりゃあ矛先は帝国に向かう。後は連邦が気が済むまで帝国と殺り合えば充分だな。精々情報をきちんと与えなかった報いを受けとけ)
俺にとって連邦と帝国の未来なんて気にしない。そもそも大国なのだからお互い簡単には落ちない訳だ。仮に全面戦争になれば俺達傭兵が繁盛して儲かる訳だからな。
「唯一つだけ気掛かりなのは惑星ソラリスが犠牲になるのだけは勘弁だな。流石に俺でも六千万人を巻き込むのはちょっと……」
「当たり前じゃないッスか。私達で守り切る必要が有るんスよ!」
「それは本職の軍人の仕事だ。俺達は自分達の為の任務をこなす。そこは履き違えるな」
「で、でも……」
アズサ軍曹は落ち込んだ表情をする。ついでに猫耳と尻尾もペタンとしてしまう。まぁ、好き好んで民間人を巻き込みたくない気持ちは分かるがな。
「終わった後は好きにすれば良いさ。例えばオーレムの殲滅とかな」
「ッ!それでこそ先輩ッス!やっぱり先輩は最高ッス!」
「お?まぁな!俺は最高にイケてる男だからな!」
俺達はいつも通りに会話をしながら格納庫を眺め続ける。そして遂に俺達にもコクピット内での待機命令が下る。
「さて、狭くて安心出来るコクピットに行くかね。今回もNo.1は俺が頂くかな」
バレットネイターのコクピット内に入り込み、ネロを所定の位置にセットしながらシステムを起動する。
「はぁ……この専用機仕様の最初の起動シーケンス。堪んねぇよな。コイツが俺専用機だってアピールしてくれる瞬間やもん」
「カスタム機であるなら専用の起動シーケンスは普通の事では?」
「これが拘りって奴だよネロちゃん。それに専用機独特のシステムの立ち上がり方を見られるのが最高に良いんだよ!正に専用機冥利に尽きるってね」
「そうですか。でしたら私も専用ボディを手に入れて起動シーケンスを堪能してみたいです」
「ネロ……お前も浪漫を理解する同志なのだな。なら、この戦いが終わったらボディに関して考えておこう」
「有難うございます」
「さぁ、先ずは生き残る事と任務に集中しようか。何が何でもアイリーン博士は殺す。そして帝国との関わりも止める。それで俺達は安泰だ。後はシステムチェックと」
「システムチェック完了しました。システムオールグリーンです」
「パーフェクトだ。後は先に武装だけ決めようか。オーレム相手なら45ミリヘビーマシンガン、小型シールド、プラズマキャノン砲、肩部用の35ミリガトリング砲、プラズマサーベル、御守り代わりのビームガンの懸架で良いか」
「肩部側面武装は宜しいのですか?」
「ん?んー、あんまり武装付けても重量過多で機動力落ちるし」
「しかしオーレムとの戦闘なら乱戦の危険性は非常に高いです。少なくとも肩部側面小型シールドの装着を推奨します」
「でも機動力がな。取り付けたら……うん、やっぱり重量過多になるわ」
「でしたら35ミリガトリング砲では無く二連装機関砲は如何でしょうか?比較的軽量で弾持ちも良く、α型に対しては非常に有効です」
「確かにな。ならネロ推奨の二連装機関砲を装着して行くわ。これなら小型シールドも大丈夫だな」
武装データを入力するとやる事は無くなる。アズサ軍曹は今自分の機体に装着する武装で四苦八苦悩んでるだろうし。
「何事も無ければ良いんだが……ん?なんだ、通信障害?」
「いえ違います。通信と放送ジャックの両方になります」
一体誰がと言おうとした瞬間、非常に聞き覚えのある声が聞こえた。
今やこの宙域では知らない人は居ないと言っても過言では無い有名人。通信モニターに映し出されたのは三億クレジットの指名手配犯。
アイリーン・ドンキース博士が不敵な笑みを浮かべながら映っていたのだった。
防衛基地ソラリスのレーダーに幾つかのワープ反応が現れた。最初は味方の増援と思われていたそれは味方では無かった。
IFFでは一般艦船だったのだが所属がOLEM保護団体だったのだ。然も一隻や二隻では無く、二十隻以上の艦船がワープして来たのだ。然もオーレムの近くにだ。
「何をやっているのだ奴等は!至急呼び戻せ!今下手にオーレムを刺激するなど言語道断!急げ!」
「それが通信が繋がりません。恐らく向こうの連中は通信を意図的に切ってるかと」
「ならば全艦隊、全部隊に通達!いつでも戦闘出来る態勢は取っておけと」
「ウィルソン中将!OLEM保護団体の艦船より波長妨害を確認!これは完全に我々に対する攻撃です!」
「馬鹿が。オーレムだけでなく我々も敵に回すか。なら望み通りにしてやろう。目の前の艦船全てのIFFを敵性に変更せよ」
「了解しました」
「死ぬまでに後悔するが良い」
しかし、いつまで経ってもOLEM保護団体の艦船はオーレムからの攻撃を受ける気配が無い。誰もが疑問を感じた時だった。通信機から女性の声が聞こえたと思えばモニターにアイリーン・ドンキース博士が映し出されるではないか。
【地球連邦統一軍の将兵、並びに惑星ソラリスに住む市民達へ。私は元ガルディア帝国軍所属のアイリーン・ドンキースです】
この瞬間一人の准尉が「良し!帝国って自分から言ってくれたぜ!ザマァ見やがれ帝国のノロマ共が!」とコクピットの中で喜んでいたとか。
まあ本人は自身の幸運と他人の不幸が大好きな自分勝手な性格なので仕方ないのだが。
【現在、ガルディア帝国だけでなく様々な組織がオーレムに対し非人道的な実験を繰り返しているのはご存知でしょう。人類の為、宇宙の為と謳い何の罪も無いオーレムを実験材料にしている。これは決して許されるべき事では有りません】
「一体この女は何を言っている?全く理解出来ん」
「同感です。まるで会話の出来ない宇宙人と相対した時みたいな気分です」
「君、紅茶を頼む。今はダージリンが良い」
こんな時でも……いや、こんな時だからこそ紅茶が必要なのだろう。ウィルソン中将は一度深呼吸をしながら紅茶が来るのを待つ。
【そして今尚オーレムに対し艦隊を差し向けて一方的な虐殺行為を行おうとしているのです!オーレムは一つの生命体であり知性もある生き物なのです!にも関わらずオーレムに対し直ぐに攻撃を仕掛けようとする今の実情に、私は深く深く抗議する所存であります!】
「ふう、少し落ち着けたよ。各収縮砲搭載艦に通達。収縮砲攻撃準備用意。いつでもエネルギーを充填出来る状態にせよ」
「了解しました」
「英断ですな。あの様な輩との対話など必要ありませんし」
「それは違う。必要ありませんでは無い。何を言っても対話が出来ないのだ」
「しかし先程から気になるのはオーレムが全く動いてない事です」
「……確かにな。観測班、僅かな動きも見逃すな。何かあれば直ぐに報告しろ」
ウィルソン中将は眉間に皺を寄せながら紅茶を一口飲む。少しだけ気分が紛れたが直ぐに忌々しい演説が始まる。
【よって、私は地球連邦統一軍に対し武装解除。及びオーレムに対する非人道的な扱いに対し公の場での謝罪を要求。更にオーレムによる全生命体の管理運用を此処に求めます】
誰もが自身の耳を疑い脳に異常が無いか不安になる。今聞いている演説の内容は正気なのかと。
「出撃命令はまだか?一番槍なら俺に任せろ。直ぐにあのババァをミンチにして宇宙に散らさせてやるぜ」
『先輩、言ってる事が物騒ッスよ』
「じゃあプラズマで灰も残さない様に綺麗にしようか」
『あ、まだそっちの方が綺麗ッス』
『『『『何処がだよ!』』』』
同僚達との楽しい会話をしながらアイリーン博士の演説を流し聞きする。どうせ連中の無茶を地球連邦統一軍が受け入れる訳が無い。寧ろどの惑星群も受け入れないだろう。
それはウィルソン中将も同じ考えだ。彼は再び紅茶を一口飲みながらオープン通信で応答する。
「此方、地球連邦統一軍、惑星ソラリス防衛司令官クリントン・ウィルソン中将である。我々、地球連邦統一軍は君達の要求を受け入れる事は出来ない。我々、地球連邦統一軍は君達の様なテロリストに一切の妥協も許す事は無い。直ちに投降しろ。今なら人道的な扱いで迎え入れよう」
【そうですか。非常に残念です。ですが……これならどうでしょう?】
「……何をする気だ?」
アイリーン博士はウィルソン中将の質問に不敵な笑みで答える。それから数秒後に悪夢が始まる。
「司令!オーレムの後方にワープ反応を確認!反応は赤です!」
「馬鹿な!まだオーレムの数は残ってるでは無いか!」
「こ、これは……司令、敵艦船の中に微弱な波長を確認」
「何の波長だ」
「データ登録での一致件数。八件です。データ出します」
司令部のモニターに映し出されるのは全てオーレムとの戦闘記録だった。だがその全てにある共通点がある。
「これは……全て惑星とステーションが被害が出た奴か?」
「はい。他のデータでは類似する物も有りますが、一致するのは全て大規模な被害が出た時の物です。そして波長の発信源は全てオーレムが出現する前に起きる直前です」
「なら奴等の目的はオーレムを呼び寄せる気か!本国に至急緊急連絡!惑星ソラリスでの稀に見ない大規模オーレムの出現だと!それから惑星ソラリスへ避難警報を発令!」
「宜しいのですか?相手と話が出来るならオーレムが攻めて来ると決まった訳では」
「馬鹿者!そんな悠長に考えてる暇は無い!仮に問題が無くとも責任は全て私が取る!やるんだ!」
「了解しました」
そして倍の数になったオーレムを背後にアイリーン博士は声を高らかにして叫ぶ。
【さあ!平伏しなさい!私が、私こそが全宇宙の支配者に相応しいのです!貴方達が如何に小さな存在か理解した筈。これが最後通告です。直ちに武装解除し私に従いなさい。それが出来なければ全て焼き払います】
此処に遂に暴君が誕生した。圧倒的な力を手に入れたアイリーン博士。それに対し徹底抗戦の姿勢を崩さない地球連邦統一軍。正に一触触発な状況。
だが神様って奴は人間が嫌いらしい。
「司令……再びワープ反応を確認!」
「まだ増援が来るのか。仕方ない。遺憾ながらガルディア帝国にも増援を「司令!これを!」今度は何事だ……何だと?」
モニターに映し出されるのは今まで観測された事も無い巨大な物質のワープ反応。近いとしたら弩級戦艦を超える要塞級のワープ反応だろうか。
だが今此処に要塞級が増援として来る予定は無い。なら一体何が?
「ワープ反応更に増大!……あぁ、そんな。こんな、こんな事って」
「報告しろ!何が来る!」
「……反応は赤。オーレムです!」
そしてオーレムの群れの最後尾に現れたのは要塞級と同等のサイズの超巨大オーレムと思われる物。まるで蜂の巣の様な段々作りで出来ており、それが何なのか容易に想像が付く。
「オーレムの巣?」
誰かが一言呟く。だがその巣自体がオーレムの反応を示しているのが気掛かりだった。




