防衛基準態勢5発令
二機のサラガンが激しく機動戦を繰り返す。互いの持つ45ミリサブマシンガンと45ミリアサルトライフルでの激しい応酬。艦船の残骸に残ってる燃料と機関部に45ミリの流れ弾が多数当たり大爆発が起こる。
そしてお互いの表情に笑みが浮かぶ。
「中々やるじゃないか!流石帝国から火消しの為に送られて来ただけは有るじゃねえか!」
【そちらもな。伊達にブルーアイ・ドラゴンを授与された訳では有るまいな】
「はっ!こんな勲章に其処までの価値はねぇな。上手い事交渉すれば良くて七百万クレジット程度にはなるがな!」
【名誉な勲章をクレジットに換算するか。やはり腕の良いパイロットは常に何かが捻くれてる。全く、厄介な存在だ!】
ロメロ1のサラガンからミサイルが多数放たれる。ミサイルをデブリや45ミリサブマシンガンで迎撃しながら艦船の残骸に隠れる。
「チッ。簡単に仕留めさせてはくれねぇか」
45ミリサブマシンガンをリロードしながら周辺を見る。幸いまだロメロ隊からの増援は無い。なら今の内に決着を付ける必要があるだろう。
「俺は暗礁宙域みたいなデブリが腐る程ある場所やアステロイドベルトみたいな場所で負けた事が無いのよね」
特定の戦場で俺のギフトは更に強さを発揮する。三秒先の未来が視える。つまり先にあるデブリなどの障害物が分かる訳だ。更に近距離での不意打ちなんかは最高だ。
何せギフトを使えば常に先手が取れる訳だからだ。
俺は240ミリキャノン砲を展開し獲物が来るのを待つ。
「ククク、常に先手が取れる状況下。殺気を感じる必要もねぇし、常に周りに警戒をして神経を擦り減らす必要もねえ。まして……」
そして三秒後に敵サラガンの姿を確認する。俺は狙いを絞りトリガーに力を入れる。
「この宙域で仲間なんて最初っから必要としてねぇんだよ」
そして敵サラガンをモニターで捕捉したのと同時に240ミリキャノン砲を発射。此方に気付き咄嗟に両腕で防ぎ撃墜を免れる。
「残念だったな!数秒生き残った所で意味ねぇんだよ!フラッグ機は頂きだ‼︎」
【クッ⁉︎読まれていたか!】
45ミリの弾丸を躊躇無くボーデン大尉に浴びせる。そして遂に爆散してゲームセットに……ならなかった。
「何?フラッグ機じゃ無いのか?隊長機の癖に。じゃあ本命は何処に?まさか……此方ガルム11。生きてる奴は返事しろ」
『……』
「チィ、全機やられたって言うのかよ。だとしたら残りは俺一人で片付けろってか?特殊部隊を相手に?ハッ!マジでテンション上がる展開じゃねえかよ!ええ!おい‼︎」
俺は機体を加速させて移動する。するとレーダーに敵サラガンの反応が出て来るではないか。
「良いぜ良いぜ!テメェらの様な小綺麗な軍人に傭兵の小汚い戦い方って奴を教えてやるぜ!」
速度を緩めずデブリの中を移動する。すると此方に気付き追跡を開始するロメロ隊。
「数は七機か。俺が三機墜としたから最低でも九機は居る訳か。それならそれで構わねえけどな」
此方を囲い込む様に移動するロメロ隊。そして数発のミサイルと240ミリが此方に向けて攻撃して来る。
(隊長とのテレパシー出来ません。恐らく墜とされたかと)
(まさかボーデン大尉が墜とされたなんて。各機、敵は残り一機だ。だが油断するな。勝てる戦いで勝つ。攻撃開始!)
ロメロ2からの命令により遠距離からの波状攻撃を開始。更に55ミリライフル持ちも狙いを定めて攻撃を始める。
(フラッグ機は依然回避機動を取りながら此方に接近して来ます)
(何を考えてる?この数を相手に接近戦を挑む気か?)
(此処は我々が一旦先陣を切りましょうか?)
(……いや、数で押し潰す。態々数を減らして奴を有利な状況にする必要は無い。このまま攻撃を続けながら接近する)
面白味は無いが確かな戦いを指示するロメロ2。それに対して俺はと言うとだ。
「こ、此奴ら!さっきからネチネチと嫌らしい攻撃しやがって!調子に乗んなや!」
此方も反撃で240ミリを適当に撃つが当たる訳もなく無駄弾になる。だが別に構わない。丁度弾切れにもなったのでパージする。
「追加装甲も要らねぇや。今は防御力より機動力だぜ」
更に追加装甲もパージし何かの残骸の塊が多く浮かんでる場所に隠れる。無論暫く攻撃は続くが静かに身を潜める。
(ロメロ6よりロメロ2、此方の240ミリの残弾はゼロです)
(ロメロ7も同じく。ついでにミサイルの残弾もゼロ。ちょっと撃ち過ぎたかな?)
(構いません。では全機突入!逃げられる前にこのまま数の暴力で押し潰します!)
そしてロメロ隊の七機が一気にデブリに向けて突入する。だがそれが最初の悪手だった。
「いらっしゃ〜い。そしてさよなら」
背中がガラ開きのロメロ6、7の二機のサラガンに向けて45ミリの弾幕をプレゼント。瞬く間に二機が爆散する。
そのまま隠れてた場所から一気に抜け出し次の場所へと移動してまた隠れる。
(追撃の手を緩めるな!一気に仕留める!)
だがロメロ隊に乱れは無い。残り五機のサラガンは隠れてる場所にを囲む様にして一気に突撃する。
「残念。この距離は近接戦だ‼︎」
【っ⁉︎やられ】
出会い頭に横薙ぎに振るうアックスをコクピットで受け止めるロメロ12。隣にいたロメロ11が咄嗟に45ミリアサルトライフルの銃口を向けるが、先読みされてるかの様にアックスで弾かれる。
「これで七機目」
何も言えずに叩き潰されるロメロ11。徐々に数の差が埋まり始めてしまう。
(ロメロ2……これは)
(ああ、まさかこんな場所にこんな奴が居るとは)
(残りは我々だけです。ですがまだ勝てます!)
(そうだな。ロメロ3、8は回り込んで背後から強襲しろ。私が正面から相手になる)
(それではフラッグ機のリスクがデカ過ぎます!)
(今の攻撃で分かった事がある。奴に小細工は悪手だ。正面から打つかった方が勝機はある!ロメロ3、8任せたぞ!)
味方の返事を待たずに攻撃を仕掛けるロメロ2。無論それに簡単に乗る筈もなく。
「おやおや〜?数で勝ってたのに、いつの間にか三機に成り下がりましたね〜。所詮はその程度の実力でしたのかな?」
【我々が何故三機だと分かる?まだ二機何処かに隠れてるかも知れないぞ?】
「だとしてもだ。優勢になってたにも関わらず態々隠す必要は無いですよ。まあ、隠れ様が何だろうが……全部潰しますけどね」
俺は再びデブリの陰に隠れる様な機動を取りながら視界を切らせる。一度でも視界から消えれば後は俺の天下だ。
「まぁ、先ずは煩い二機から潰すけどな」
再び出会い頭に45ミリサブマシンガンを撃ちまくる。やはり初見での不意打ちの対処は非常に難しい。その為二機のサラガンは反撃しながらも爆散して行く。
「さて、最後がフラッグ機同士とはね。中々面白い展開だ。そうは思いません?えっと……フル○ン中尉?」
【フルトンだ!き、貴様!何たる無礼な!】
「メンゴメンゴ、フル○ィンテュウイ」
【何だその言い方は!今直ぐ訂正しろ!】
「ギャッハッハッハッ!頼れる仲間も居ねえ。時間もまだ数分ある。その間俺がフルトン中尉にセクハラかましても怒られる事はねえ‼︎」
【怒られるわ‼︎】
この瞬間、シミュレーターの外で視戦しているメンバー達もフルトン中尉同様に突っ込む。其処には傭兵と軍人の壁は何処にも無かった。
「まあ今は誰かに怒られる話は横に置いといてだ」
【何なんだ此奴は。クッ、然も命令を違反して通信までしまうとは】
「ドンマイ中尉」
【フルトンだ!】
「いや、今のは慰めただけだから」
【貴様に慰められても嬉しくも何とも無い!】
最早関係修復は不可能の域にまで突入する。ある意味人を煽る事に関してはキサラギ准尉は天才なのではと、その通信を聞いていた人間は思っただろう。
「けどさぁ。この展開だともう俺の勝ち確なのは間違いないじゃん?それじゃあ、ちょっとつまらない訳よ」
【まだ負けた訳では無い!】
「はいはい。でだ、その腰に懸架してるサーベルと俺のアックスを使って近接戦で勝負を決めねぇか?」
【……何故貴様の提案に乗らねばならんのだ】
「だってー、このままだとつまん無いんだもーん。それにだ、特殊部隊が繰り出す近接戦闘とか味わってみたい訳よ。ほら、俺のテクが何処まで通用するかがさ気になる訳。分かる?」
【分からん。だが……良かろう。私達ガルディア帝国軍の伝統ある近接戦を貴様に叩き付けてやろう】
意外にも乗ってくれたフルチ……じゃない。フルトン中尉。
「中々話が分かるじゃないか。改めて名乗らせて貰うよ。傭兵企業スマイルドッグ所属、シュウ・キサラギ准尉だ」
45ミリサブマシンガンを放り投げてアックスを構える。
【ガルディア帝国軍、第208特殊戦闘部隊所属、ダリア・フルトン中尉】
フルトン中尉は律儀に45ミリアサルトライフルの弾倉も取り払いサーベルを構える。
そしてお互いが少しだけ睨み合った瞬間に一気に近付く。無論此方は相変わらず三秒先が視えてるので先手は取れる。
横薙ぎに払うサーベルをアックスで受け止めながらフルトン中尉のサラガンを蹴飛ばす。そのままアックスを振り上げて一気に仕留める。だがフルトン中尉は僅かに機体を横にズラし左肩だけに被害を抑える。その隙にサーベルを振り被る。
「こうすりゃあ防げるんだよ!」
【ならこうするまでだ!】
振り下げる右腕を左腕で抑える。すると股の間に脚が入り込み一気に上に蹴り飛ばされる。
「今のが生身だったら男として死んでたぜ」
【私は左肩から失っているがな】
「そいつはご愁傷様!」
再びアックスを構えて突っ込む。そしてサーベルで何度も此方の攻撃を防ぐフルトン中尉。いや、正確に言うなら受け流されてる感じか。
「上手く捌くじゃねえか」
【サーベルはアックスとは違い耐久力は高くない。だからサーベルでアックスの攻撃を捌くなら受け流す様にするのだ】
「成る程な。今までそんな事考えた事も無かったぜ」
【普通はそうだ。そもそもAWでの接近戦は閉鎖空間や今の様な視界の悪い場所に限る。無論状況によってはやらざるを得ない状況もある】
俺は少しだけ距離を取り話をする。
「良い勉強になるよ。先にやられた他の同僚達も見習って貰いたい物だね」
【大丈夫さ。多分、彼等は我々の戦いは見ている筈だ。なら其処から何かを得て貰えれば構わない】
「それもそうだな。まぁ、時間が無いからそろそろだが」
【良いだろう。受けて立つ!】
「上等!」
再び距離を詰めてアックスを構える。無論フルトン中尉もサーベルを構えて迎え打つ。
【サーベルの利点はアックスよりも斬れ味が良い事とリーチが長い事だ!】
そう言って加速しながらサーベルを突き出す。だが視えてた俺にはその利点は欠点に成り下がる。
俺は冷静に機体を右に避けながらアックスを振り下げる。そしてサーベルを持つ右腕が宙を舞う。
「良い勉強になったよフルトン中尉。では俺の勝ちだ」
そしてアックスをフラッグ機のコクピットに向けて振り下ろす……瞬間だった。モニターにある数字が出る。
「CODE-799?つまり、大規模なオーレムの集団が接近中……嘘だろ?」
その呟いた瞬間、艦内に警報が鳴り響く。俺は直ぐにシミュレーターから出て状況を把握する。
「オーレムの襲撃ってどう言う事だよ!まだアイリーン博士は動いてないんじゃないのか!」
「分からない。だがアイリーン博士がいつ動くかは本人次第だ。我々では予測は不可能だ」
「テメェの身内の不始末だろうが。あ?知りませんでしたで済む訳ねえだろ?」
俺はボーデン大尉に問い詰めるも根本的な答えは無かった。
《防衛基地ソラリスより防衛基準態勢5が発令。戦闘員は直ちに戦闘態勢にて待機せよ。繰り返す、防衛基準態勢5が発令。戦闘員は直ちに戦闘態勢にて待機せよ》
防衛基準態勢5の発令。これは軍からの周辺への味方艦隊への要請も含まれてる。それだけでは無く防衛基地ソラリスの周辺に居る軍だけでなく俺達傭兵やバウンティハンターにも招集が掛かった訳だ。
そして招集の理由はただ一つ。【全宇宙の生命体に於ける敵対的な存在】つまりオーレムが大規模な群れとなって接近しているのだ。オーレムが全生命体の敵だからこそ全ての戦闘員は何が何でも協力し対処せねばならないのだ。
そしてこの宙域は絶対に死守しなくてはならない理由もある。何故なら……
軍人、民間人を合わせ約六千万人が住う経済惑星ソラリスが在るのだから。




