世の中の定義とは?
世の中ってのは上手く回ってる物だ。誰かに幸運が降り注げば誰かに不幸が降り注ぐ。一人が賭けで大勝ちすれば沢山の人達が賭けで大損したって訳だ。もっと言うなら詐欺の首謀者達は集めた金を巻き上げ逃げ出し、被害者達は数百〜数千万クレジットを失う訳さ。
だからこそ敢えて問おう。
今惑星ソラリスの目の前に数万のオーレムが現れたのは不幸の分類にはいるだろう。その不幸に対し一体誰が幸運を手に入れたのか?
この質問の答えを、俺はまだ聞けていない。
オーレム襲撃の十二時間前。
スマイルドッグ艦隊の修理が終わり、ようやく修理ドックから出る事になる。
帝国から来たお客さんは律儀に挨拶や交流を行なって来た。恐らく任務が長期化すると判断したからだろう。戦艦とは言え此処は閉鎖空間だ。余計な軋みは作りたくは無い筈だ。
無論、俺達傭兵とは言え多少の仲間意識はある。以前の戦闘で何十人もの戦死者を出した事を忘れろと言うのは無理な話だ。
そんな訳で簡単なレクリエーションをやる事になったのだ。
ルールは簡単。俺達傭兵十二名のAWパイロットとガルディア帝国からの軍人十二名のAWパイロットでの模擬戦だ。
模擬戦内容は十二対十二のチーム戦で制限時間は三十分。その間にフラッグ機を撃破すれば即終了。もしくは最後まで生き残ってる数が多い方が勝ちとなる。
因みにシミュレーターでの模擬戦になるので少々物足りないのは仕方ないだろう。だが代わりに様々なマップ構成は作成可能なのだ。
「折角だから艦隊戦のど真ん中で戦う戦場にしようぜ。こっちの方が多少は盛り上がりそうだし」
「いやいや、折角なんスからオーレムの大群も混ぜた戦場にしましょうよ。丁度オーレム関係での任務やってますし」
「「「「お前らちょっと黙ってろ」」」」
俺とアズサ軍曹は周りからの圧力に屈しながらもブーイングを垂れ流しまくる。折角なんだからド派手な戦場に設定して貰いたいもんだぜ。
「二人は随分と派手な戦場が好みなのだな」
「おや?これはボーデン大尉。そりゃあ死ぬ事も無いシミュレーターですからね。どうせなら簡単には経験出来ない設定でやりたいでしょう?」
「自分は先輩に合わせただけッス!」
「お前はもう少し自主性を強く持てよ」
「え……でも先輩、私が味方しなかったら今頃ボッチになってるッスよ?」
「ぶっ飛ばすぞコノヤロー」
「にゃはは〜」
「君達は実に面白い。模擬戦が非常に楽しみだよ」
ボーデン大尉は笑顔で爽やかな風に言うが内心負ける気は無いのだろう。
確かに彼等は今は傭兵だが事が済めば軍に復帰するだろう。だが、その前に与えられた任務を完遂する必要はある。だからこそ俺達には積極的に働いて貰わねば困る訳だ。
まぁ、簡単に言うなら上下関係をハッキリとさせましょうって奴だな。
「此方もですよ。楽しめる戦いを願いますよ」
「なら期待に添える様にやらせて貰おう」
お互いに一言だけ言い放ちボーデン大尉は仲間の所へ戻って行く。そして暫くすると戦場宙域も決まる。
出されたマップは暗礁宙域。多数の艦船やAWの残骸や大小様々な岩石の塊。そんな選ばれたマップを見て一言文句を言う。
「お前ら、これ俺の得意マップじゃねぇか」
「その為のマップだよ。じゃあ頼んだぜフラッグ機」
「マジかよ。まぁ良いけど」
「責任重大ッスね。大丈夫ッスか?」
「余裕だよ。余裕」
マップも決まったので早速訓練シミュレーター用のコクピットに入り込む。
選べる機体はサラガン、マドック、ギガント、ヘルキャットの四種類。今回はある程度、機体性能を平等にする為専用機は禁止になっている。なので俺は迷わずサラガンを選択する。後は多少の機体設定も変えれるが所詮、微調整程度だ。
だがこの微調整が生死を決める事もあるのは否定しない。
「出力を限界まで上げてと。武装は45ミリサブマシンガン二挺で良いや。派手に弾幕張ってバラバラにしてやんよ」
右肩には240ミリキャノン砲、左肩には多目的レーダーを装備。後は近接用にアックスと小型シールドを装備する。
「後は宇宙装備と追加装甲を装着させれば。はい、安定のサラガンの出来上がりってね」
そして暫く待つと傭兵連中との通信でのブリーフィングが始まる訳だが。
此処で一つ問題が発生する。何せ今回の中隊メンバーは所詮は寄せ集め状態。ガリア、アイアン、サニー、キャット隊を集めた形だ。
つまり何が言いたいのかと言うとだ。
『此処はやはりガリアで統一すべきだ。寧ろそれが良い』
『いやいや、最後まで戦った俺達アイアン隊に敬意を払えよ。だからアイアンで決まりだ』
『馬鹿言うな。サニー隊だって負けてねえよ。まぁ、最初に逃げたガリアは候補から落ちるけどな』
と言った感じで実に下らない展開に発展していた。
「馬鹿だな。最初から話し合う必要は無いんだよな」
『そうなんスか?』
「当たり前だろ。この中で一番の撃墜スコアを叩き出してるスーパーでグレートなエースパイロットが此処にいるんだぜ!つまり俺に決定権があるんだよな!」
『ならキャットで決まりなんスね!』
「んな訳ないだろ」
『そ、そんな素で言わなくても……』
今度は周りの連中はブーイングを出すものの、俺は超絶ジャイアニズムを発揮。そして出したコードネームを発表する。
「ガルムで行こうか。俺は隊長役はキャラじゃねえし准尉だからガルム11な。でアズサ軍曹はガルム12な」
『えー。もう少し可愛いのが良いッスよ』
『ガルムか。まぁ悪くは無いな』
『思ったよりまともだな。性格が捻くれてるから捻くれたのが出て来るもんだと思ってたぜ』
『ガルムねぇ。良いんじゃねえの?』
「素直に認めろよ。面倒臭え連中だな」
こうしてネームを決めるだけで作戦会議は終了。そしてモニターに試合開始のカウントダウンが映し出され無慈悲にも始まる。最早最初から敗北必須な展開にある意味ウケるがな。
「まぁ、何時もと大して変わらねえか。ガルム12も何時も通りやれば良いんじゃね」
『そうッスね。今回は周りの仲間と上手く連携組みますよ』
「相手は連邦管轄下までアイリーン博士を追いかけて来てる特務部隊だ。生半可なやり方だと直ぐに墜とされるからな。気を付けろよ」
『了解ッス!ガルム11は何時も通りなんスよね?」
「ああ、勿論」
そしてカウントがゼロになったのと同時に視界が暗礁宙域に変わる。
「勝つさ」
そして機体を暗礁宙域に向けて一気に加速させる。
『おいガルム11。お前はフラッグ機だろうが!何で直ぐに前に出るんだ。戻れ!』
「断る。どうしても俺が心配なら敵を倒せ。そうすれば俺の安全は保証されるよ」
『待てよ!クソ、相変わらず自分勝手な奴だ。仕方ない。ガルム1より各機、周囲を警戒しながら前進する。奴等は正規軍だからな。下手な行動は避けるぞ』
『了解。でもアレだな。もし最初にガルム11が墜とされたら笑えるよな』
『違いない。もし最初に墜とされたら暫くはデカい顔は出来ねえだろうよ』
『いやいや、それよりもだ。彼奴のオカズを暫く貰えると考えると良いんじゃないか?一体何度俺達はオカズを分取られた事か」
『そうッスね。この際ですから全部貰っちゃいましょう!』
『そりゃあ良い考えだなガルム12!よし、俄然やる気が出て来たぜ。各機ガルム11より早く墜とされんなよ!』
何だかんだ言って自然と一丸となって戦闘に集中するスマイルドッグの傭兵達だった。
ボーデン大尉以下のメンバーはガルディア帝国軍が多数抱える特殊部隊の一つだ。特に仮想敵国領内での諜報活動する事を主眼に置いてる彼等は確かな腕と信用出来るメンバーだろう。
無論仮想敵国領内での諜報活動をするに当たっては幾つかのギフト保有者であるのは間違いない。
それは実戦に於いても非常に役に立つ物でもある。
(ロメロ1より各機、これより通信を制限する。ギフトでの【テレパシー】のみでの交信を許可する)
(((((了解)))))
この瞬間、ロメロ隊から通信が無くなる。だが彼等の動きに乱れは一切無い。
(しかし隊長、傭兵相手に態々テレパシーを使う必要はあるのですか?)
(ロメロ2。君は知らないかもしれんが傭兵の中に珍しい勲章持ちが居たのだよ。全く、我が帝国内でも限られた者しか持ってない勲章をだ)
(そうなのですか?帝国ではどの様な方が?)
(有名どころでは【孤高の牙】の名を持つシュナイド・R・リザーバーだ)
(ロメロ1本当ですか?私シュナイド様のファンなんです!その傭兵はイケメンでしたか?紳士でしたか?)
(落ち着けロメロ5。イケメンでも無ければ紳士でも無かった。唯妙に若いとだけは思ったが)
(なーんだ。ロメロ5残念。イケメンだったら会いたかったんだけどなぁ)
(残念だが何度か会ってる筈だ。つまり、そう言う事だ)
(尚更残念。でも無名の傭兵にシュナイド様みたいなテクニックは無いし。あら?レーダーに反応?)
(早速お出ましか。数は一機……まさかな。二手に別れるぞ。ロメロ2は半数を率いて右翼。残りは私に続け。行くぞ)
(((((了解)))))
ロメロ隊は二手に別れて敵を強襲する。
(強行偵察のつもりか。なら直ぐにその役割をおわらせてやろう。各機、敵がポイントを通過次第に攻撃開始。我々の位置を悟らされるな)
そして獲物がポイントを通過した瞬間だった。
『こんにちは。そしてさようなら』
オープン通信から若い男性の声が聞こえたのだった。
「ふぅん、反応が良いな。仕留めきれんかったか」
機体のスピードを緩める事無くロメロ隊への攻撃を開始。艦船の残骸から二機のサラガンが飛び出て来るのが視えたので240ミリキャノン砲で狙ったのだが、咄嗟に回避され左腕だけに留まった。
「上手く隠れていた様だが意味が無くて残念だったな」
【……】
「何だよ無視かよ。寂しいじゃねぇか。もっと俺と楽しもうぜ!」
俺の挑発にも反応しない辺り、やはり特務部隊の軍人なのだなと感じる。そう考えると最初の一撃で仕留め切れなかった辺り中々に厳しそうだと感じる。
「だからと言って引き退る理由にはなら無えけどな!行くぜ!」
数機の敵サラガンを引き連れながら暗礁宙域を駆け抜ける。
(ロメロ2は残りの傭兵を探し出し潰せ。此奴は唯の囮に過ぎん)
(了解しました)
(此方は三機で仕留める。ロメロ4、5は私に続け。残りはロメロ2の指揮下に入れ)
(((((了解)))))
通信も繋げる事無く的確な行動を取るロメロ隊。これが彼等の強さの秘訣の一つ。例え通信がジャミングされても彼等に乱れは無い。更に腕前も並のパイロットでは無いのだ。
(ロメロ5、奴が話してた相手だ。何なら今から話してみてはどうだ?)
(冗談!偶々私に一撃入れただけの奴に話す必要は無いです。それに私はイケメンが好みなので)
(そうか。ならサッサと終わらせるぞ。ロメロ5は私と共に奴を追撃。ロメロ4は先回りして進路を塞げ)
((了解))
ロメロ1、5はそのまま追撃を開始。キサラギ准尉の後を追うが追いつく事が出来ない。
(中々やるじゃない。デブリでの戦闘には慣れてる様ですね)
(その様だな。だが数と練度で抑えれる。行くぞ)
しかし追撃の途中で見失ってしまう。墜ち着いてデブリの影に隠れるロメロ1、5。
(ロメロ1よりロメロ4。奴を見失った。一度合流するぞ)
(了解です)
しかしロメロ4の正面のデブリに紛れて何かが光った。
「最初の一機目は君に決めた」
ロメロ4が見たのはサラガンの単眼が光るのと同時に240ミリキャノン砲の砲身が此方に向いてる事だった。
そして今度は240ミリから放たれた攻撃は敵サラガンのコクピットに直撃して爆散する。
(此方ロメロ4、やられました。敵はデブリに紛れてました)
(ロメロ4、死体が喋るな!最低限のルールは守れ!)
(す、すみません)
(罰として後で傭兵達全員に奢れ。勿論自費でな)
(りょ、了解です……やっちまった)
ロメロ4を叱り直ぐに思考を切り替える。
(此方の考えが読まれてた可能性がある。私が囮になる。ロメロ5は距離を取り狙撃に徹しろ)
(了解です)
ロメロ1のサラガンが派手な動きで此方を誘う。野郎の誘いはあんまり乗りたくは無いんだがな。
「だが、そんな誘いも受けてやるのも人情ってやつかな。安心しな。直ぐに楽にしてやるからよ」
再び姿を出して敵サラガンに接近。無論相手も反応するが直ぐに現れるとは思わなかっただろう。
「特務だが特殊だが知らねえが見せてみろよ!オメェらの実力って奴をな!あ、さっき墜とした奴はノーカンにしといてやんよ!感謝しな!」
45ミリサブマシンガンで狙いを付けて撃ちまくる。無論、反撃も来るが視えていたので回避し易い。
「どうせお前らも何かギフト持ってんだろ?唯腕が良いだけでこんな場所には来ねぇよな!」
【良く喋るなキサラギ准尉。それが君なりの戦い方か?】
「おうよ!こうやって相手をボロクソに言って俺はストレスフリーな人生を歩めるって訳よ!大概相手は居なくなるから後腐れも無いし。完璧じゃね?」
【成る程。確かに君の言う通りかも知れん。だがその言い方は死者に対する冒涜だが?】
「この世の連中にはバレねぇから問題無いんだよ。それに、あの世でも似た様な死に方してるのは腐る程居るだろうからな。今更、取り繕う必要はねえんだよ!」
ボーデン大尉に次々と45ミリの弾幕を浴びせまくる。だがデブリや岩石を使い射線が通らなくなる。
「おい!さっきから避けてんじゃねえよ!反撃くらいしろや!」
(ロメロ5、準備は良いか?)
(背後を取りました。いつでも)
(タイミングを合わせろ。3、2、1、今だ!)
タイミング合わせは完璧だった。確実に挟撃出来る配置であり不意を付けれた筈。だがボーデン大尉とロメロ5がモニターから見た光景は45ミリサブマシンガンの銃口だった。
「もう一機……ミィーツケタ」
【ちょっと、その声怖いんだけど。隊長!隊長ー!こっちに来てます!】
妙に野太い声でロメロ5を追い掛ける。そしてその野太い声に反応してしまうロメロ5。
そんなロメロ5の反応に口元に笑みを浮かべてる。
「ヒィーッヒッヒッヒッ。中身は女か。なら機体だけ破壊して玩具にしてやるぜ。君はどんな声で鳴いてくれるのかな?かな?」
【へ、変態!変態ですぅ!】
(ロメロ5!落ち着け!それは敵の罠だ!)
「ウッヒャヒャヒャ!今夜は女体盛りにしてやるぜえええ!」
【い、いやああああ⁉︎来ないでええええ‼︎】
通信から妙に粘着質のある声が聞こえる。一体此奴は何をやってるのかと小一時間程問い質したい。
だがロメロ5とて軍人だ。機体を反転させ55ミリライフルとミサイルを使い反撃する。
【これで!】
「終わりだな」
ミサイルが発射された直後に45ミリの弾丸が直撃。そのまま爆発に巻き込まれてロメロ5のシグナルは途絶する。
「さて、残りはアンタだけだぜ?なあ、隊長さんよ?」
【此処までとはな。名前はキサラギ准尉だったか】
「実戦部隊の隊長さんに覚えて貰えて光栄だよボーデン大尉」
【私も久々に熱くなって来たよ。今は君を倒す事だけに集中させて頂く!】
「来いよ!俺を満足させてくれよボーデン大尉!」
再び機動戦に入る二機のサラガン。
一人はガルディア帝国のお抱えの特務部隊の隊長、ディック・ボーデン大尉。
一人はスマイルドッグ社のエースパイロットのシュウ・キサラギ准尉。
何方も一歩も引く事無く打つかる。
ふう…(戦闘シーンが書けて賢者タイム中)




