オペ子の尻は安産型!
スマイルドッグ艦隊は満身創痍の状態だが退却に成功。代わりに駆逐艦シドニーとアトラス艦隊を失うと言う大打撃を受ける事になった。
俺は帰還するや否や再び社長室に呼ばれた訳だが一体何の用があるのやら。
「駆逐艦シドニー……墜とされちゃいましたね。然も共同任務相手のアトラス艦隊まで。それに、この依頼一応ギルド通してる奴ですから何て言い訳……もとい、報告します?」
傭兵企業とは言えば大抵は傭兵ギルドに籍を置いている身だ。故に帝国とは言え下手に内密な形で依頼すると変に勘繰りされてしまう。今回はアイリーン博士の捕縛と言う表向きの隠れ蓑があるから多少は誤魔化せるかもしれんないが。
「そこはガルディア帝国にやらせる。何、嫌とは言わんだろう。寧ろ近い内に我々には一言も喋るなと通達が来るだろうな」
「でしょうな。で、態々そんな話をする為に俺を呼んだ訳では無いでしょう?」
「キサラギ、α型の群れをアトラス艦隊へ向かう様に仕向けただろう」
「はて?何の事でしょうか。自分は戦闘に集中してたものでしてね。他人を気遣う余裕は有りませんでしたよ」
「つまり他人を陥れる余裕は有った訳か」
「考え過ぎですよ社長。証拠だって無いでしょう?」
「これが貴様の戦闘記録だ。全く、普通なら見逃す様なやり方をしおって」
端末には俺の戦闘記録の移動進路が映されていた。確かにα型と戦ってる様に見える。が、よく見るとα型の数は減ってはいない。そして暫くするとα型の群れは二手に分かれて行くのが映し出されていた。
「偶々ですよ。偶々。偶々α型との交戦が上手く行かなかっただけです。それにアトラス社が鈍足輸送艦を空母扱いしてたのも奴等の責任ですよ。まぁ……お陰様で良い囮にはなりましたがね」
「この記録は改竄しておく。話は合わしておけよ」
「何の事かさっぱりですが。了解しました」
お互い分かってる事なので直ぐに話は済む。
「それでこれからどうするんです?実際問題、此方の被害は結構デカいですよね」
「決まっておる。任務は続行するしか無い。でなければアイリーン博士より先にガルディア帝国に消されるのは此方になる」
「手掛かりがオーレムの多い場所だとしても、またあんな戦場は無理ですよ。オーレムの増援だけならまだしも、自由自在に操るなんて想定外過ぎます。不確定要素がデカ過ぎるんですよ。然もΔ型まで操れるとか。最早一国家の艦隊を相手にしてるのと大して変わりませんよ」
「その通りだ。その辺りもガルディア帝国には報告するつもりだ」
「そんな事しても同じですよ。最悪なのは次は俺達が切り捨てられる番になる事です」
俺が一番危惧しているのは当然そこだ。ガルディア帝国とて情報漏洩は防ぎたい。ならば情報を知る存在を消せば良いだけだ。
極論だが確実なのは間違いは無い。
「ならどうするつもりだ?まさかガルディア帝国に反抗すると言う訳ではあるまい」
「今回の件はガルディア帝国とてある程度知ってる筈です。それこそ公式の賞金首として三億クレジットを提供する程。だからこそ今回の内容は部外者には伝えたくは無い。多分ですけどガルディア帝国軍も民間に紛れ込んで捜索してる筈」
「つまり、そいつらにコンタクトを取る訳か」
「そうです。シーザー少尉の様に簡単に切り捨てられる人物では無く、有る程度の階級と実績を持ってる軍人と協力すべきかと」
「成る程。つまり切り捨てられない人物と共に行動する訳か」
「そうです。寧ろ逃げ場が無いなら積極的にガルディア帝国に協力姿勢を出すべきです。なんなら今回の任務の為に出張ってる特殊部隊とか引き入れればベストですがね」
逃げれないなら逃げれないで生き残る方法を探す。当たり前の事を放棄したら、それこそ本当に切り捨てられるだろう。
なら相手も俺達と同じ土俵に入れてしまえば良い。そうすれば簡単には切り捨てられる事は無い。寧ろ切り捨てられるタイミングが分かるかも知れん。
そうした方がいざと言う時に対処し易いだろうからな。
「まぁ、上手くやりましょうや。社長にとって命も銭勘定も大事でしょう?」
「当たり前だ。儂は生き残り損失した戦力も補充せねばならんからな。全く、ガルディア帝国め。余計な仕事と出費ばかり増やしおって」
「じゃあ自分はこれで失礼しますよ。後はシーザー少尉と仲良く話でも煮詰めて下さい」
俺は社長からの小言を聞き終えて部屋から出ようとする。だがその前に一つ気になる事があったので社長に聞く事にした。
「所で社長、一つ聞きたいんですが」
「何だ?」
「俺の戦闘記録なんですが……誰が社長に伝えました?まさか自分で見つけたとか言わないで下さいよ?社長は商売のプロですが戦闘では使えない事くらい知ってますから」
「貴様はもう少し言い方を考えてから口に出せ。それでは余計な敵を作るだけだ」
「その時はその時ですよ。俺みたいなクソ野郎とツルむ事自体が間違いですからね。で、誰なんです?」
暫しの沈黙の後に社長の口から溜息が溢れる。こうなると大抵社長が折れた形になる訳だ。
「貴様と仲の良いオペレーターだ。彼女には感謝しておけよ」
「勿論ですよ。では失礼します」
誰なのか直ぐに分かったのでサッサと部屋から退室する。しかし仲の良いオペレーター呼ばわりか。
「本人が聞いたら否定するのは間違いねえな」
俺は鼻歌を歌いながら自室に向かう。理由はシャワーを浴びて一休みしたいからだ。流石に今回の任務は色々と気を使い過ぎたからな。
「後はアイリーン博士がどう動くかだな。まあ、どちらにしてもデカい戦いにはなるだろうな」
しかしオーレム相手では対して利益にはならない。そもそもオーレムは死ぬと自壊するので基本的には何も残らないのだ。
つくづく人類にとって厄災でしかない存在だと理解出来る瞬間だ。
「こんな事なら反政府軍の鎮圧依頼の方が遥かに儲かるぜ。あ、そうだ。ネロの解析はどうなってるかな?でもネロって本当に戦闘補助AIなのかな?もう補助AIのカテゴリーを超えてるんだよな」
最近のネロの様子を思い出す。遠回しだがアンドロイドだかセクサロイドのボディが欲しいと言っている訳だが。
「でもボディてかなり高いんだよなぁ。それを考えると……う〜む、悩ましいぜ」
俺はネロの事やガルディア帝国の動向など色々考えながら自室に戻るのだった。
シーザー少尉は社長との話し合いを終えてから通信室を借りていた。そして今回の事件の指揮を取っている人に連絡を入れていた。
「お疲れ様デース。アルダートン中佐」
『御苦労だったなシーザー少尉。して、何か進展はあったのかな?』
通信相手はガルディア帝国軍情報部所属のイーニアス・アルダートン中佐。彼は若くして次期副局長になる有力候補の一人でもある。
そんな人物をモニター越しとは言え緊張気味になるシーザー少尉の態度は仕方がない事だった。
「はい。アイリーン博士を発見する事が出来マーシタ。しかし偶々、本当に偶々の偶然にもオーレムの襲撃に遭いまして取り逃しマーシタ」
『成る程。私はアイリーン博士の生死は問わんと言った筈だが?』
「そ、それなのデースガ……その、想定以上にオーレムが出現しマーシタ」
『ほう?具体的には』
「Δ級の出現デース」
Δ級の出現と聞いてアルダートン中佐の眉間に僅かに皺が寄る。
「それだけでは有りまセーン。アイリーン博士はオーレムをある程度操っていた様にも見受けられマース」
『続けろ』
「はい。私達がアイリーン博士が隠れているだろうと思われるポイントへ向かう途中でしたが、待ち伏せが多く配置されてマーシタ。更にγ型ですら配置されているのも確認出来マーシタ」
『この件について傭兵は何と?』
「ええと……かなり怪しんでマース。然も彼等はアイリーン博士がオーレムを呼んだだけでなく、共に移動した姿も見まシータ」
『はぁ、最悪だな。出来れば良き協力者でありたかったのだがな。だが研究報告書以上に事態は悪化してる様に見受けられるが?」
「アルダートン中佐、現在私達は非常に厳しい状況デース。アイリーン博士は間違いなく装置の改造を行いオーレムを自由に操作する事が出来る様にしてマース。しかし我々の知っている研究データだけならそこまでの成果は有りまセーン」
『意図的に隠蔽してた可能性もある。全く、これだから非愛国者は排除すべき存在なのだ』
アルダートン中佐の無表情が少々崩れたが、直ぐに元通りになる。どうやら頭の切り替えは速いらしい。
『シーザー少尉が生きてると言う事は多少の被害で収まったのか?』
「いいえ。アトラス社の艦隊が壊滅しまシータ。同時にスマイルドッグ社も艦載機の半数と駆逐艦一隻が喪失してマース」
『一つの傭兵企業が潰れたか。傭兵ギルドには此方から説明しておく』
「既に此方もそのつもりだと言ってマーシタ。それから任務を続行させるなら増援が欲しいと言ってマーシタ」
『増援だと?』
「はい。もし依頼が継続するなら続けると。唯、スマイルドッグ社の戦力が落ちたのは間違い有りまセーン。なので臨時での戦力が欲しいと……」
『……』
シーザー少尉の言葉を聞いたアルダートン中佐は深く考える。スマイルドッグ社が何を考えているか。そして一つの考えが浮かび険しい表情になる。
(まさか……データの独占?もしくは連邦か共和国に売り払う気か?)
だが直ぐにその考えを否定する。でなければ何の為に増援を求めるのか分からない。
「あの、アルダートン中佐。彼等は傭兵としてガルディア帝国を敵に回したく無いだけデース」
『つまり積極的な協力をすると?傭兵にその様な心構えは無い』
「はい。ですので速やかな機密データの引き渡しの後にガルディア帝国との太いパイプが欲しいかと……」
アルダートン中佐はシーザー少尉の話を聞いて納得した。恐らく今のがスマイルドッグ社からの要求だろう。それに機密データの件に関してもなるべく部外者は少ない方が良い。更に増援を送るにしても傭兵企業スマイルドッグ社と言う受け皿が有れば態々怪しいペーパーカンパニーを作る必要性も無い。
様々な視点から考えた結果アルダートン中佐は決定を下す。
『良かろう。其方に増援を送る。但し損失した戦力のみの形になる。今はこれ以上下手に連邦を刺激したくは無い。然も、あの辺りは国境に近い宙域だ』
「あ、有難うございマース!とてもとても感謝デース!」
『シーザー少尉は引き続きスマイルドッグ社と同行し続けろ。何か有れば直ぐに連絡をする様に。以上だ』
「了解しまシータ。それでは失礼しマース」
シーザー少尉は触手を使い敬礼をしながら通信を切る。そして溜息を零しながら少しだけ安堵する。
「良かったデース。中佐が送ってくる戦力なら確かデース。これなら多分簡単には切り捨てられまセーン」
こうしてある程度ガルディア帝国との繋がりを得る事になった傭兵企業スマイルドッグ。それが吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。
「ようオペ子!相変わらず良い尻してんな!胸は……相変わらず残念だけどさ」
「きゃっ⁉︎せ、セクハラです!」
「当たらないんだな。これがな」
俺は食堂へ向かう途中でオペ子の安産型の尻が見えたので一撫でして挨拶をする。無論反撃の張り手はギフトを使って予測済みさ!
「落ち着けって。怒った所で胸は大きくならねえぞ。何なら俺が揉んで大きくしてやろうか?」
「本当に最低です。死ねば良いのにと心の底から思いました」
「安心しろよ。次の戦場は予想が付かないからな。もしかしたらの可能性は低くは無い」
「……貴方らしく無いですね。いつもなら、その様な弱音は吐かないでしょう」
「それだけ嫌な予感がしてんのよ。まぁ、その話は一旦横に置いといて」
俺はパントマイムを使いその話を横に放り投げる。
「α型の件は助かったぜ。俺もなるべくバレない様にはしてたんだかな」
「偶々です。普通なら気付く事では無いでしょう」
「だが世の中は偏屈な連中だらけだ。そんな中での一件な訳だからな。今ならデザートくらいなら奢るぜ」
「では、お言葉に甘えてスペシャルメニューをお願いします。あ、デザートも追加で」
「成る程。尻代は高く付いたな。いや、逆に考えればスペシャルメニューで済むと?」
「馬鹿な事言ってないで行きますよ」
「へいへい。分かりましたよナナイ軍曹殿」
俺はナナイ軍曹と一緒に食堂に向かう。
「しかし、アズサ軍曹も物好きですね。貴方みたいな人に好意を抱くなんて」
「まぁ、俺イケメンでモテるからな」
「……ハッ。イケメン?」
「鼻で笑いながら突っ掛かるなよ。傷付くだろ?」
「別に構いませんよ。それでアズサ軍曹の好意をどうするのですか?」
「ん?断るよ。俺はまだ引き摺ってるんでね」
「女々しい人は嫌われますよ」
「元々嫌われ者だ。今更一人二人増えた所で問題ねぇよ」
それからこの話は終わる。アズサの態度を見れば俺に好意を抱いてる事くらい直ぐに分かる。だが俺はどうしてもまだ乗り切れてない。
(女々しいか。女々しいだけならどれだけ良い事か)
俺は内心自分自身に毒を吐きながらソッとM&W500に触れるのだった。




