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傭兵としての勘

 艦隊はオーレムに対し厳重警戒をしながら前進していた。だが今までのオーレムの襲撃が嘘の様に静まりかえっていた。

 各艦の艦橋や監視所ではレーダーや肉眼での周辺警戒が行われている。


「現在レーダーでのオーレムの確認はありません」

「一時足りともレーダーから目を離すな。何か反応があれば直ぐに報告せよ」

「了解」

「偵察機からの報告はどうだ?」

「依然報告はありません」

「そうか。今の所は問題は無いとの事です」

「だが連中は何処から共なく現れる。それこそあの忌々しい黒いGの様な存在だ」

「あの生物は元々は地球産らしいですな。どうやら初期の宇宙開拓時代のコンテナや食料庫に紛れ込んでたらしいです」

「お陰で別惑星やこの艦内でも繁栄してる訳か。オーレムよりも図々しい生き物め」

「しかし敵意はありません。それに一部の人達にはペットとして人気は高いですよ。私の娘も大好きで良く一緒に生活してますし」

「……そうか。幸せそうで何よりだな」


 社長は嫌悪感丸出しの表情で艦長の言葉を静かに肯定し、艦橋から見える宇宙空間を見る。今は静けさを保っているが、いつオーレムが来るか分からない状況だ。

 そして艦隊も機動部隊も長期戦を想定していない。そもそもオーレムに対して長期戦など殆ど聞いた事が無いのだ。


「兎に角、周辺警戒は厳とせよ。良いな」

「了解しました」






 俺達パイロット達はいつでも出撃出来る様に待機所に集まっていた。そこで多少なりとも話をしながら適度な緊張感を持っていた。


「嵐の前の静けさだな。間違いねえ。もう一波乱来るぜ」

「おい、そう言う事言うなよキサラギ准尉。本当に一波乱来たらどうすんだよ」

「その時はオーレムを全部潰せば良い。分かり易いだろ?」

「先輩は極端過ぎるんスよ。もう少しオブラートに言えないんスか?」

「オブラート?そうだな……連中にありったけの弾を撃ち込んでやる」

「全然オブラートじゃ無いッスよ」

「いや寧ろ准尉の言う通りだろう。態々オーレム相手にオブラートに包んで言う必要は無い。遠慮なく暴言を吐ける数少ない生き物だ」

「違いない。まだゴーストやテロリストを相手にしてた方がマシだな。少なくとも挨拶は出来る」

「何言ってる。俺達傭兵だって立場が違えばテロリストそのものだよ」

「「違いねえ!アハハハ‼︎」」


 こんな感じで何時もと大して変わりは無かった。


「それにしてもバレットネイターでしたっけ?あれは本当の所どうやって手に入れたんスか?」

「あれ?話して無かったっけ?」

「話して無いッスよ。勲章の話は聞きましたけど」

「そうか。まあバレットネイターも似た様な物だな。あの機体は見ての通りサラガンがベースだが三日くらいで完成させた急造品だ」

「おいおい、急造品て大丈夫なのか?途中で空中分解しましたってオチは笑えないぞ?」

「まぁ、テスト無しの実戦だったから余計に笑えないんだけどな。唯、この辺りは流石エルフの技術力は宇宙一イイイイ‼︎と言われてるだけはあったよ」

「何スか?いきなり大きな声を出して」

「様式美だ」

「様式美……そうスか」


 何やらアズサ軍曹が諦めた表情をする。はて?何ででしょうか?


「急造品とは言え俺の戦闘データを元に改造された機体だ。操縦感覚もサラガンとほぼ同じだったから直ぐに慣れたし。そのお陰で名実共に俺専用機になった訳よ」

「因みに階級を上げた理由は?」

「専用機が無料で手に入ったから」

「何だよその理由は。専用機が手に入らなかったらずっと軍曹を続ける気だったのか?」

「まぁ、二十歳前半辺りで諦めようとは思ってたけど。それより早くに手に入ったから良かったぜ」

「因みに手に入らなかったらずっとサラガンに乗ってたんスか?」

「多分自分で高い機体買ってカスタムしてたわ」

「へえ、意外と拘りを持ってるんだな。流石はエースと言った所か」

「そこはエースは関係無いスよ。多分この人だけッス」

「おう、急に人を雑に扱い始めたな」

「やだな〜、そんな事無いッスよ〜」


 アズサ軍曹の笑顔を見ながら尻尾を逆撫でする。すると「にゃ⁉︎」と声を上げて尻尾を俺から遠ざけて丸めてしまう。

 まぁ、そんな姿が実に愛らしいのだがな。暫く待機所で仲間達と話しているとオペ子から通信が入る。


『AW部隊に通達。これより出撃準備に入って下さい』

「出撃準備?オーレムが来たのか?」

『いえ、目標の艦艇をレーダーで確認しました』

「目標の艦艇て……つまり」

『はい。目標の艦艇にはアイリーン博士が居る筈です。無論破棄された後の可能性もありますが』

「マジッスか。でも何かしらの手掛かりは有るかも知れないスよね?」

「オペ子、向こうは俺達を捕捉はしてるのか?」

『ナナイです。いえ、確認出来てるのは高速大型輸送艇のみです。また周辺に警戒レーダーなどは確認出来てません。恐らく此方の捕捉はされてはいません』

「成る程な。なら俺達の出番な訳だな。そして三億クレジットを手に入れてウハウハ生活待った無しだ。良し!出撃準備だ!俺の実力を三億クレジットと共に全宇宙に轟かしてやらあ‼︎」


 三億クレジットが囮と分かっていても誘惑には抗い難い物。俺達はアイリーン博士と機密データの確保の為に行動を起こす。


「先輩、ようやくこの任務にも終わりが見えて来たッスね。自分暫く休暇取りたいッス」

「良いんじゃないか。今回は結構連戦続きだったからな。それに早いとこ任務を終わらせるのには賛成だ。余計な飛び火がこっちに来る前にな」


 そして俺達は格納庫へ到着し各自の機体へと乗り込んで行く。すると整備兵の一人が敬礼しながら寄って来た。と言うかあのクマの酷い青年だ。


「キサラギ准尉、お疲れ様です』

「おう、お疲れさん。この前はギガントを地味に酷使して悪かったな」

「いえいえ、ギガントは宇宙では余り乗る人いないので大丈夫ですよ。そもそもギガントは防衛戦や支援向きの機体ですから」

「その言葉をアズサ軍曹にも聞かせてやりてぇよ。何であいつ弾幕を張りたいが為に突撃するんだか」

「でも生きて帰って来てますから。整備する自分達からしたら良い知らせです」

「お前……今日帰還したら飲みに付き合えよ。無論、俺の奢りだ」

「あ、ゴチになります」


 それから整備兵は端末を取り出して報告をする。


「バレットネイターの整備は完了しています。それから以前より少しバランスの悪さが出てたので多少の改善は行いました。しかしバレットネイターには拡張スペースが殆ど有りませんでしたので微々たる物でしたが」

「所詮は急造品だ。まだまだ粗が出て来るだろう。だが、それがまた良いんだがな」

「良いんですか?」

「おうよ。他人から見たら欠点だが自分から見たら長所なら問題はねぇだろ?少なくとも俺はバレットネイターを気に入ってる。大抵のトラブルも受け入れて物にして見せるさ」

「流石エースパイロットですね。それから戦闘はこの際いつも通りにやって貰っても構いません」

「お?良いのか?てっきり抑えてくれと言われるもんだと思ってたぜ」

「いえ、言っても余り意味が無い事が分かりましたから。唯、最悪通常のサラガンの部品で代用する場合もあります。無論、関節部やスラスター関係は必ず報告しますので」

「分かった。因みに予備の部品は?」

「残念ながら」


 俺は仕方ないかと思いながら少し労る操縦をした方が良いかもと考える。戦闘中に雑な操縦でトラブルが起きましたなんて死んでも死にきれんからな。


「なら少し気を付けて操縦するよ。無論全力でやる時は無理だが」

「構いません。無事の帰還を願ってます」

「おう。ありがとな」


 俺は整備兵に敬礼をしてからコクピットハッチを閉める。因みにネロちゃんは今日はお留守番だ。理由は各宙域で起きたオーレムの戦闘記録と今回の戦闘記録を比較して貰ってるからだ。

 流石に高性能なネロとは言え大した機材は用意出来なかったからな。時間が掛かるのは仕方ないだろう。


「システム起動開始。機体各部のダメージシステムの同期確認」


 ネロが居ないので返事は無い。この辺りがサラガン系統の欠点だよな。然も発売から何十年経ってるのに、サラガン系統は安価なAWを維持する為内部パーツは簡略化されたのを積んでるし。


「お陰でカスタム機のベースとしてはかなり優秀なんだがな。重量機から高機動機まで幅が広いの何の」


 サラガン系統はその拡張性から様々な種類の機体構成を出している。無論、他系列の機体も同じだが一番安価なのはサラガン系統なのは間違いない。


「まあコクピット内は少し寂しいけどな。仕方ないか」


 機体チェックが終わり武装も以前と同じに設定をする。そして出撃準備が整ったのでオペ子に通信を繋げる。


「此方キャット1、出撃準備は完了した。いつでも出れるぞ」

『了解しました。アトラス社のAW部隊も準備が整い次第出撃になります』

「なら俺のバレットネイターの機動力を見せつけてやるさ」

『既に見せ付けてるのではないのですか?』

「二、三回の出撃でも少数のオーレム相手だったからな。寧ろギガントで出撃した時の方がオーレムの数は圧倒的に多かったし」

『そうですか。では暫くお待ち下さい。出撃可能になり次第通達します』

「おう、宜しく頼むぜ。さてと、キャット2聞こえるか?」

『キャット1、やっぱりギガントじゃないんスね』

「いや、何でまたギガントに乗らなきゃならんのだ。大体ギガントは何方かって言うと地上向きじゃん。勿論俺くらいの腕前なら宇宙でも大活躍だがな!」

『普通は避けれない攻撃を避けるから余計に目立ってる気がするッスよ。でも、お陰で私達は他の傭兵よりはマシな環境に居ますけど』

「あ?何甘えた事言ってんだよ。そんなヘタれた事言ってると助けてやんねぇぞ」

『それはマジで勘弁して欲しいッス!自分も頑張りまッス!』

「その意気だ。今回はアイリーン博士と機密データだが機材の回収が第一優先だ。この際アイリーン博士の命は無視しても構わないだろう。キャット2はいざという時に艦船の撃破を優先しろ」

『良いんスか?でも三億クレジットはどうするんです?』

「死んだら三億クレジットで復活出来るなら良いけどな。それにガルディア帝国としては機密データの方が重要だ。囮の三億クレジットは……後回しだ」

『今ちょっとだけ間がありましたスね』

「喧しい。分かったらそのつもりで行動するぞ」

『了解ッス』


 それから暫く待機してるとオペ子からの通信が入る。


『全出撃部隊に通達。間も無く出撃になります。これより艦隊から目標艦艇に対しジャミングを展開。ジャミングの展開後にAW部隊は直ちに目標艦艇に取り付き確保して下さい。尚、当該目標艦艇をボギー1と指定します』


 そして遂に出撃になる。ガルディア帝国からの依頼は機密データの確保。つまり艦艇となるボギー1だけを確保をすれば問題は無い。


「再確認させて貰うが中の人員に関しての()()()()()()()()良いんだな」

『はい。問う必要性は有りません。ですが取り付いた後には投降を呼び掛けて下さい』

「どうせガルディア帝国を裏切った挙げ句、切り捨てられた連中なんだ。余計な手間をする必要は無いと思うがな」

『先輩、それじゃあ宙賊と大差無いッスよ』

「はん!切り捨てられる程の馬鹿な事をする連中だ。寧ろ此処で仕留めた方が後々の為だと思うがな。いや、正直に言うとだ。俺は此処でアイリーン博士を殺した方が良いと考えてる」

『もしかして警戒してますか?』


 オペ子の質問に沈黙で返す。唯、こう言うのは定番なんだよ。マッドサイエンティストを生かして捕らえようとすると自分達が死ぬ流れだ。

 無論、所詮はフィクションの中での話なので現実とは違うのも理解している。だがシーザー少尉が口を零したオーレムの研究。そしてこの宙域でのオーレムの動き。とてもでは無いが無関係とは言えない。

 ならアイリーン博士が何かをする前に殺すのは何も間違ってはいない。例え三億クレジットをふいにしてもだ。後は序でのシーザー少尉がアイリーン博士を説得したいと考えていてもだ。


『分かりました。ですが投降を呼び掛ける前に殺してしまえば宇宙国際法に接触する恐れが有ります。例えガルディア帝国を裏切ったかも知れませんが、アイリーン博士は正規市民です』

「チッ、分かってるよ。唯の確認で聞いただけだ。だが何かやろうとするのが見えたら直ぐに殺す。それが一番安全だ」

『その根拠は?』

「勘だ」

『そうですか。ではその勘が外れる事を願いましょう』

「そうだな。俺も考え過ぎだと願いたい所だぜ」

『そうッスよ先輩。考え過ぎッスよ。それにボギー1以外に敵は見当たらないみたいですし。多分取り付いて直ぐに鎮圧出来るッスよ』


 二人の言い分は理解出来る。所詮ボギー1は大した武装も無い高速大型輸送艇。ワープによる長距離移動と大量の荷物を運べる以外に長所は無い。それに武装が追加されてたとしても此方は傭兵艦隊だ。戦力の質も量も違うのだ。


『出撃命令が出ました。キャット1、出撃準備は宜しいですか?』

「ああ、構わない。機体も俺も何時も通りの調子だ」

『了解しました。現在の宙域では艦隊よりジャミングが掛けられています。周辺への警戒及び味方への接触には気を付けて下さい。それではキャット1、カタパルトへ移動開始』


 バレットネイターがカタパルトまで移動しカタパルトへの接続を開始する。武装も以前とほぼ同じ重装備で行く。そして肩部側面小型多目的シールドを肩部サイドブースターへ変更する。これで若干の機動性、運動性の向上に繋がる。


「カタパルトへの接続を確認。武装システムオールグリーン。いつでも行ける」

『了解しました。進路クリア、発進どうそ』

「シュウ・キサラギ准尉、バレットネイター、出るぞ!」

『周辺には充分気を付けて下さい。御武運を』


 オペ子の言葉を聞きながらカタパルトから射出される。そして早期にボギー1への接近を果たす為に一気に近付く。

 何故ならオペ子とアズサ軍曹の言葉を聞いても、俺には考え過ぎだとは微塵も思えなかったのだから。

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