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羨望、嫉妬、憎悪

 前線ではオーレムとの戦闘が激化していた。しかし現場の傭兵達はオーレムに対し違和感を持っていた。


『此奴ら妙に連携が……いや、違うな。何だ?何か違う気がするんだが』

『奇遇だなアイアン2。俺もそう思うよっと!危ねえ』

『何か違うんだよな。だが違いが分からねえ』


 オーレムとの戦闘は今に始まった訳では無い。連戦する事だって多々有る。だが其処に違和感があったのだ。


『こんなに長期化するなんて聞いてねんだよ!畜生、前に行けば行くだけキツくなって来やがる』

『それだよ。何で此奴ら警戒艦隊みたいな動きしてんだよ。普通有り得ねえよ。そもそも連中は数で攻めて来るのが定番だろ!』

『知らねえよ!だが今までの戦闘でも一体も逃してはいない筈だ。なのに何故こうも行く先々で待ち伏せが居るんだ?』


 オーレムの生態の一つにコミュニケーションの為に互いにテレパシーを送っているとされている。そのテレパシーは自身がピンチになると近くにいる仲間に救難信号を送るとされてる。

 その為α型とは言え一体足りとも逃す事は固く禁じられてるのだ。


『分からねえ。分からねえけど今は戦うしかねえな。クソ、ガルディア帝国め。この借りはいつか万倍にして返してやる』

『おいおい、俺達アトラス社も居るのを忘れるなよ。一応ガルディア帝国はお得意様だからよ』

『ならガルディア帝国に伝えておけ!テメェのケツの尻拭いさせるなら情報寄越せってな!』

『それを言われちまうと何も言えねえな。俺達も全く同じ考えを持ってるからな』


 ZD-06エリオスで分隊を組みながら上手くβ型に取り付き撃破するアトラス社の傭兵達。その動きは伊達に戦場を生き抜いて来た訳では無い確かな実力を示していた。


『だが少々手遅れなのはあるな。数十体は抜けてる。ザウバー1よりスチワート。其方にオーレムが結構抜けちまった。すまねえが頼むぜ』

『此方巡洋艦スチワート了解した。各艦に通達。オーレム接近。繰り返す、オーレム接近。迎撃態勢に移行せよ』


 オーレムとの長期戦は前線部隊への負荷が大きくなる。結果として多数のオーレムが艦隊へ向かう事になる。無論艦隊とて簡単に墜とされる訳には行かない。直ちに迎撃態勢を整えるのだった。





『此方巡洋艦スチワートより各部隊へ通達。現在前線左翼より抜けたオーレムが多数接近中。迎撃部隊は直ちに迎撃態勢を取れ』

『戦艦グラーフより各艦へ。砲撃は引き続き前線部隊の援護を継続。対艦ミサイル用意。目標β型複数』

『目標β型複数。VLSハッチ開け』

『レーダー上に目標β型を捕捉。マルチロック完了しました』

『宜しい。各艦、対艦ミサイル発射!』

『対艦ミサイル発射』


 戦艦グラーフ、巡洋艦スチワート、そしてフリゲート艦五隻から多数の対艦ミサイルが放たれる。

 そんな光景を見ながら俺は戦艦グラーフの甲板上からポツリと呟く。


「やっぱりさ。このVLSハッチから発射されるミサイルはマジで良いよな。こう男心を擽るみたいな感じがしてさ」

『何訳分かんない事言ってるんスか!もうオーレムが直ぐ近くに来てるんスよ!』

「いやいや、戦闘艦から多数のミサイルが発射されるのを近くで見れただけで今日はお腹一杯だわ。ちゃんと動画も録ったし」

『先輩しっかりして下さいッスよぉ。まだ私達負けた訳じゃ無いんスよ?』

「俺はいつもしっかりしてるさ。でもまだ俺達の出番じゃねえだろ」

『もう私達の出番なんスよ!本当にどうしたんスか?』

「いやさー、重量機マジで動きが重いからさ。必然的に俺の動きも重くなる訳よ。分かる?」

『分からないッス』


 アズサ軍曹を適当に弄りながらも30センチキャノン砲を展開し砲弾を変更する。抜けて来たオーレムの大半はα型だ。β型は先程の対艦ミサイルで吹き飛んでる。なら対空用三式榴散弾ことTYPE-3を装填する。

 此方に向かって来るα型の群れに対しコクピットの上からスコープを取り出し照準を合わせる。


「三秒以上の距離だが……勘はある程度持ってるんでな」


 スコープ越しに見るα型の群れに照準を合わせてトリガーを引く。次の瞬間には機体に振動が走り映像から解析された音がヘルメットへ伝わり爆音に変換され鳴り響く。

 この音が中々リアルで良いんだよ。お陰様で宇宙空間でも銃声や爆音、果てにはミサイルの音も聞こえる訳だ。

 TYPE-3の砲弾は真っ直ぐにα型の群れに向かって行き数秒後に大爆発する。TYPE-3の広範囲に被害を与える為の砲弾は上手い具合にα型を巻き込んで行く。


『うわー、流石キャット1。何でも出来るんスね』

「何でも出来る様にならないと駄目だったんだよ。廃棄寸前のAWだろうが使い捨て同然のMWだろうがな。生き残る術ってやつさ。さて、もう一発!行って来おおおい!」


 再びTYPE-3を装填しα型に向け砲撃。更に味方艦隊の副砲も順次攻撃を開始する。


「ハァーッハッハッハッ!火力は正義だぜ!最後にもう一発受け取っとけ!遠慮は要らねえよ。此奴はサービスだ!」


 距離を詰め始めたα型に最後のTYPE-3を装填し砲撃。流石に大分バラけたα型には効果は薄いが何もしないよりかはマシだろう。

 そして味方艦隊と対空砲と防衛部隊のMW隊が攻撃を開始。俺もそれに続く様にアンカーを解除し宇宙空間へと舞い上がる。


「キャット2、α型を艦隊の内部に入れるな。此処で確実に撃破するぞ」

『了解ッス!やっと元に戻ってくれたスね。ホッとしました』

「何言ってんだか。俺は最初から変わってねえよ。ほら無駄口叩く前に敵を撃破するぞ」

『先輩が最初から真面目にしててくれば良かったんスけど』

「何か言ったか?」

『何も言って無いッス!』


 俺とキャット2は近付くα型に対処する為に行動を開始する。しかしα型は正面から様々な方向から向かって来る。もう前線はかなりヤバいのかも知れない。


『此方アイアン1!これ以上は前線を維持出来ないぞ!至急後退の許可を!』

『了解しました。直ちに第二防衛ラインまで後退して下さい。そこでMW部隊と合流し迎撃に当たって下さい』

『助かるぜ。サニー1、ザウバー1聞いての通りだ。後退するぞ!』

『やっと後退が出来るか。正直この任務は割に合わねえよ』

『ザウバー1了解した。俺達が殿をやってる。行くぞザウバー隊。俺達ヘルキャット乗りの実力を地球連邦統一領内でも示してやるぞ!』

『『『『『『了解!』』』』』』


 ザウバー1を筆頭にした十二機のヘルキャットは飛行モードに変形しオーレムに対し攻勢を仕掛ける。そして後方の第二防衛ラインではTZG-10ベヒモスが220ミリキャノン砲を展開。味方の後退支援を開始する。


『流石ザウバー1だ。可変機を完全に使いこなす姿は痺れるぜ。俺達はザウバー隊の邪魔をしない様に援護だ!アトラス社の花形を見捨てたとあっちゃあ、これから先満足な任務は受けれねえぞ!』

『『『『『『了解!』』』』』』


 多数のオーレム相手にも決して一歩も退かずに戦い続けるアトラス傭兵企業。そんな彼等を見てしまうと後退するのに躊躇するスマイルドッグの傭兵達。

 そんな時だった。二機の機体が前線に到着する。機体識別はギガントでコードネームはキャット1、キャット2だった。


『キャット1!何で此処に居るんだよ!お前ギガントに乗ってるじゃねえか!』

「あ?たった今社長直々のご指名があってな。後退の支援をしに行って来いってさ。全く、こちとら少しの小細工しか出来てねえギガントだってのに」

『まあまあ、味方を見捨てるのは不味いスよ』

「わーってるよ。だがギガントでやる仕事じゃねぇんだがな。まぁ……良いけどさ」


 その瞬間、キサラギ准尉の口元が思いっきりニヤける。そして機体を加速させてオーレムに対し攻撃を開始する。


「先ずはデカ物から仕留める。弾種、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)装填」

「了解。APFSDS弾装着完了」


 そして一番近くにいるβ型に狙いを付ける。そして30センチキャノン砲が再び火を噴く。

 砲弾は一瞬でβ型を貫く。そして一気に爆散するβ型。しかしその間にもα型は次々と此方に寄って来る。


「次から次へと。そろそろお前らとの遊びも飽きて来てんだよ!」


 近付くα型に二連装機関砲で薙ぎ払う。それに続く様ににキャット2の大口径ガトリング砲もα型を消し飛ばして行く。


『おい!キャット1!下……えぇ、何その動き』


 下方から来るα型に向けて加速したと思ったら最初の一体を踏み台にする。そのまま足を突き出しもう一体のα型を正面から潰す。そして最後にTYPE-3の砲弾を発砲。近くに集まっていたα型を纏めて吹き飛ばす。


「ふん。次はあのγ型だな。キャット2行くぞ」

『了解ッス。あ、皆は早く後退して下さいスね。でないと私達が後退出来ないんで』

「安心しろ。遅れる奴は俺自らが殺してやるよ。態々オーレムにくれてやる物はねえからな!」

『うわ!先輩それは流石に酷いッス!』

「キャット1だ。ちゃんと言えっての」


 そのまま周りのオーレムに攻撃をしながらザウバー隊の居る場所に向かうキャット小隊。その姿を黙って見てるしか無い自分達。


『あの二機のギガント凄いな。特にキャット1の動きは異常だな。紙一重で避けるだけでなくギガントで接近戦をするとは。マニピュレーターも無いのに良くやる。俺達はもう少しザウバー隊とキャット隊を援護をした後に後退するぞ』


 キサラギ准尉の動きに触発されたのかベヒモスのパイロット達もそれに続く様に攻撃を続行する。

 そんな中スマイルドッグの一人のパイロットは操縦レバーを強く握る。いや握るしか出来なかった。


『クソが……』


 誰かが悪態を吐く。その声には羨望、嫉妬、憎悪が入り混じっていたのは間違いないだろう。

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