TZK-9ギガント
オーレムとの戦闘は引き続き行われた。しかしアイリーン博士、OLEM保護団体の足取りは依然掴めていない。
そんな中、俺達と同じくガルディア帝国より依頼を受けている傭兵企業と合流する事になった。
「良かったですね社長。このだだっ広い宇宙の中を探す手間がほんの僅かですが少なくなって」
俺は社長室のソファーに座り自前の大口径マグナムM&W500と軽機関銃MG-80の整備をしながら社長と話していた。
「馬鹿を言うな。奴等、何処から情報を嗅ぎつけたのか知らんが。恩着せがましく言って来たわ」
「まぁ、自分達と同じ様な立場ですがね。とは言うものの戦力も質も此方が上です。精々お互いが上手く協力出来る事を願いましょうよ」
「ふん。連中、共同なのだから戦列は揃えるべきだと言いおったがな」
「嫌なら別れましょうか?そうした方がお互いハッピーになれますしねっと。よし、完璧。次はMG-80と」
M&W500の整備を終えてMG-80の整備を始める。その様子を見てた社長は一言言う。
「その銃、いつから使っておる?確か入社当初から持っておったな」
「MG-80は俺が歩兵やってた時に。この見た目と圧倒的な弾幕を形成出来るんで即決で買いましたよ。マグナムは貰い物ですね」
「ほう。随分と趣味の良い銃を貰ったな」
「ええ。本当、満足な貯蓄も無い癖に……大丈夫とか言って強がりやがって」
「……キサラギ」
「大丈夫とか言う奴に限って大丈夫じゃ無いんですがね。まあ、趣味が良いのは認めますが。お陰で今でも現役で使えますし」
俺は再びMG-80の整備を再開する。しかし社長は一言も喋らない。別に今時似た様な話なんざゴロゴロ転がってるってのに。
「なぁ社長。同情するならクレジット欲しいんですが」
「同情なんぞしとらんわ馬鹿者が。それよりだ次からは共同任務になる。精々足元を掬われん様にするのだな」
「大丈夫っすよ。足元に縋り付いて来たら蹴り飛ばしますんで。それで向こうの戦力が巡洋艦一隻と駆逐艦五隻。後は空母擬きの輸送艦一隻か。しかしまあ、揃いも揃って結構な旧型ですこと」
整備を一旦止めて端末から軽く情報を見る。艦船の型こそ古いが火力と防御力はあるので問題はないだろう。それにある程度の実績は持ってる傭兵企業みたいだ。それに輸送艦があるなら艦載機の数は多いだろう。
「偵察とかは楽になりそうですな。共同するも良し、別れるも良し。社長の判断に任せますよ」
「貴様ならどう判断する?」
「俺ですか?戦場で楽出来るだけの実力があるなら共同も吝かではありませんがね。幸い戦歴は悪くは無さそうですが」
端末の情報を見ながら考えを述べる。幸いそれなりに実績があるから信用は出来るだろう。唯、三億クレジットに目が眩まなければ良いがな。
「まぁ、その時はその時で叩き潰せば良いがなっと。良し、MG-80の整備完了。そろそろ新しいのに買い換えたいんだけどな。でもMG-80は今でも細々と生産されてる隠れた名銃だし」
「確かにな。いざとなれば巡洋艦を潰せば問題無いか。なら共同の打診を受け入れる。キサラギ、連中との軋みを作るなよ」
「俺はいつでも良い子にしてますよ?社長。じゃあ俺は部屋に戻ってますわ」
俺は銃と整備道具を片付けて社長室を後にする。取り敢えず共同する傭兵企業の名前だけでも確認する。
「アトラス傭兵企業か。主力AWはガルディア帝国よりの機体だな」
取り敢えず最低限の情報を頭に入れて自室に戻るのだった。
アトラス傭兵企業と合流して三日が経過した。共同任務に関しては殆ど問題は無かった。無論その間にもオーレムとの戦闘は何度か起こったが撃滅に成功している。
そしてやはりと言うべきかアトラス側もガルディア帝国の依頼を受けて此処まで来たらしい。尤もアトラス傭兵企業はガルディア帝国から地球連邦統一へ来た訳だが。
俺はアトラス傭兵企業に搭載されてる艦載機を色々調べていた。この宙域の奥へ行く程オーレムの襲撃が増えたお陰で中々調べる暇が無かったからだ。
「【ZD-06エリオス】か。サラガンが地球連邦統一製の機体ならエリオスはガルディア帝国製だな。後はギガントと似たコンセプトの【TZG-10ベヒモス】と可変機の【FA-11ヘルキャット】も扱ってんのか。成る程ね。艦隊より艦載機に力を注いでる感じか」
しかし此処までガルディア帝国製の機体が揃ってるとなると変な勘繰りをしてしまいそうだ。尤もアトラス傭兵企業がガルディア帝国領内で主に活動してるので仕方ないだろう。
「でもエリオスは性能が中途半端なんだよなぁ。サラガンより高い割に同じくらいの機動力だし。マドックより軽量だけど装甲厚は薄いし。まあ【ミラーレス】との互換性があるから正規軍並の戦力には出来るけど。あ、でもサラガンも普通にアストレイ並に性能上がる……と言うかバレットネイター……」
何かエリオスに対して色々考えたら少々不便に思えて来た。まあバレットネイターはかなり改造したからな。寧ろ軍用機との高い互換性がある分エリオスの方が良いのかも知れんし。
「でもエリオスか。懐かしい機体でもあるけど」
エリオス自体には乗った事は無い。だが味方として共に戦った事もあるし、敵として交戦した事もある。
特に思入れは無いが少しだけ苦手意識はあるのは否定しない。無論自分が弱かったから仕方ないと思うがな。
「取り敢えず今の所はお互い探り合い中かな。後はさっさとOLEM保護団体とやらを見つけたい物だね」
結局共同任務になろうがやる事は変わらない。俺達は傭兵だ。クレジットと引き換えに任務を遂行する。そんなクソみたいな連中なのだから。
そして噂をしてれば何とやら。早速警報アラームが鳴り響く。
《総員第一種戦闘配置。オーレムの接近を確認。パイロットは直ちに出撃態勢に移行せよ》
流石はオーレムが大量発生してる宙域だ。休む暇は与えてはくれそうにない。
「今回も出るか。まだまだバレットネイターを扱い切れてる訳じゃねえからな。精々俺の糧になってくれよ」
俺はそう呟きながら自室を後にするのだった。
アトラス傭兵企業とは満足な交流は無い。しかしオーレムは全ての勢力にとって害虫並の存在だ。つまり害虫駆除に関しては敵対勢力で無い限りどの勢力も大抵は協力する。
例えば三大国家は基本的には敵対関係だ。だがオーレムに関しては援軍を出せるなら出すみたいな感じだ。無論増援を拒否される場合もあるので、その時は素直に従うのが吉な訳だ。
因みにエルフ共も三大国家相手に不可侵及び中立の立場を表明し認めさせてはいるが、オーレムに対しては協力を惜しまないとも宣言している。
つまり、それくらいオーレムは様々な勢力に多大な被害を与え続けているのだ。
「はん。下等生物のオーレムなんざ軽く仕留めてやるがな。行くぜネロ」
「了解ですマスター。しかし一つ問題があります」
「問題?何だよ」
「恐らくですがバレットネイターの整備が終わって無いかと思われます。これが前回の機体レポートです」
「どれどれ……んん〜、これは微妙に怪しいな。特に関節部が」
一番新しいレポートを見ると関節部にかなりの負荷と摩擦が掛かっていた。
「取り敢えず格納庫に行って確認だな」
「了解です」
格納庫に行くと案の定と言うべきだろうか。バレットネイターは絶賛整備中だった訳だ。
「あらら。こりゃあ久々にサラガンで出るしかないな。まあ別に構わねえけどさ」
「キサラギ准尉!お疲れ様です!」
「おう。お疲れ様。整備ご苦労さん」
話し掛けて来たのは目の下にクマが出来てる若い青年の整備兵だった。年齢は多分十五、六くらいだろう。
「申し訳無いですがバレットネイターはまだ整備中でして」
「気にすんなよ。見たら分かるから。俺は予備機のサラガンで出るから良いよ」
「その、大変申し訳無いんですが……」
予備機のサラガンに移動しようとしたら整備兵が口籠ってしまう。俺は首を傾げながらも聞いてみる。
「どうした?何かトラブルでも有ったか?」
「はい。連日のオーレムの戦闘でサラガンの損耗率が想定以上でして。それで出来ればギガントの方に乗って頂けると」
「ギガント?おいおい青年よ。こんな時に冗談は止してくれよ。まだサラガンはあるだろ?最悪デブリと化してるサラガンでも拾ってくれば問題無いだろ?」
「いえ、その……何と言ったら良いか」
「マスター、宜しいでしょうか?」
整備兵が再び口籠ってるとネロが発言の許可を求めて来た。勿論拒否する理由は無いので許可する。
「構わねえよ。で、何だ?」
「恐らくですがマスターがサラガンで戦闘に出た場合、高確率で関節部及びジェネレーターに高い負荷が掛かります。一時的な戦闘なら問題は有りません。しかし現在の様に定期的にオーレムとの戦闘が頻発している状況です」
「まあ、そうだな。多分直ぐにリミッター外すだろうなぁ。機動力が遅え!とか言ってさぁ」
「はい。そしてスマイルドッグに所属しているAWパイロットの大半はサラガンに搭乗しています。また彼等も戦闘により機体を損傷、損壊しています。今はまだ消失はしていませんが時間の問題です。ですがその時間を延ばす為にも、この整備兵の男性は苦言を申し上げているかと」
「……本当にすんません」
「いや、まあ……謝る必要はねぇよ。寧ろ俺の方こそごめんな。何時もサラガンボロボロにしてて」
言われて気付く事もある。今までの戦闘で使ってたサラガンを思い出したら多分、全部総取っ替えしてたんだろうなぁ。きっと整備兵達からは軽量機に乗れよ!とか愚痴られてたんだろうなぁ。
「取り敢えずギガントに乗るわ。んで艦隊防衛してるわ」
「あ、有難うございます!」
「そんな喜びながら言うなよ。地味に悲しくなるわー。て、聞いてねえし」
「マスター、私がアンドロイドのボディを手に入れれば何時でも慰める事が出来ます」
「最近ネロがアンドロイドボディを勧めてくる気がする。気の所為かな?」
「気の所為です」
「そうか。気の所為か」
俺はギガントが待機している場所に向かう。無論何機かは出撃準備が完了している様だった。その中には白と紅色のカラーリングのアズサ軍曹のアーミュバンカーもあった。
「あれ?先輩。何か自分に用ですか?」
「そうか。アズサにも言っとくわ。俺今日はギガントに乗るから」
「うえ!マジッスか!あれ?バレットネイターはどうしたんスか?」
「整備が間に合わねえんだとさ。後サラガン搭乗も勘弁してくれだとよ」
「何でサラガンが駄目なんです?」
「直ぐに関節部やジェネレーターを駄目にしちゃうからかな?見た目が綺麗でも中身がな……」
俺はアズサ軍曹から目を逸らしながら質問に答える。まあ此奴、基本馬鹿だから気付かないだろうけどな。
「成る程。つまりオーレム襲撃に備えてサラガン搭乗禁止令が発令された訳ッスね!そんな話今まで聞いた事ないッスよー!すっごくウケるんスけどー!」
「おい、何直ぐに気付いてんだよ。てか笑うんじゃねえよ」
俺は笑うアズサ軍曹を無視してTZK-9ギガントに乗り込む。
「相変わらずの重装甲だな。武装は三十センチキャノン砲は固定だったな。腕はこの際、対空仕様の二連装機関砲に換装するか。どうせ接近戦は出来ないしな。後は気休め程度に肩部側面迎撃ミサイルでも付けとくか」
俺は起動シーケンスを立ち上げながら機体構成を考える。ギガントは高い火力と防御力があるが機動力は無いに等しい。なら戦艦グラーフに引っ付いて艦隊防衛に専念する事に決めたのだ。
因みに三十センチキャノン砲は無重力でも一応撃てる。但し、射撃時には射撃安定プログラムを起動しなくては駄目だが。まあ腐っても三十センチだ。反動は半端無く大きいのだ。
一応砲身や他の部分で反動を補う構造にはなっているが限界はある訳だ。それでも三十センチをギガントに固定装備させてる辺り、ギガント開発陣の巨砲主義が見え隠れしてる気がするが。
尤も、態々射撃安定プログラムを立ち上げる奴は殆ど居ないだろう。何故なら宇宙空間で三十センチキャノン砲を使う際は艦船に張り付いてアンカーを射出して使った方が安定するからな。
「起動シーケンス開始。機体各部の正常を確認」
それから暫く待つと機体のプラズマジェネレーターが動き出す。
「プラズマジェネレーター起動を確認。キャット1よりキャット2、今回はどうする?」
『勿論一緒にお願いしまッス!寧ろキャット1がギガントでどんなアクロバティックな動きをするか見てみたいッス』
アズサ軍曹の言葉に苦笑いしながらオペ子にも通信を繋げる。
「馬鹿言うな。流石にギガントじゃあ無理だよ。此方キャット1、出撃準備完了した」
『了解しました。今回はギガントで出撃ですか。珍しいですね。てっきりサラガンに乗るものかと』
「整備兵にサラガン搭乗禁止令を出されたんだよ。サラガンの消耗率が予想以上だからな」
『そうですか。ではカタパルトへの移動を開始します』
機体がカタパルトへ移動し接続を開始。それと同時にギガントの両腕に装備されてる三十ミリガトリング砲を二連装機関砲に換装する。それと同時に大型弾倉も肩部に装着される。更に肩部側面にも六連装迎撃ミサイルを取り付ける。
「武装システムオールグリーン。あ、そうだ。ネロ、機体の設定を少し変えておいてくれ」
「どの様に変更しますか?」
「勿論加速よりだよ。ギガントで最高速度なんざ上げても意味無いからな」
「了解しました。機体プログラムの変更を行います」
そしてカタパルトのハッチが開き出撃準備が整う。
『キャット1へ。進路クリア、発進どうぞ』
「シュウ・キサラギ准尉、ギガント、出るぞ!」
『無事の帰艦を』
オペ子の言葉にグッドサインで返事をしてカタパルトから射出される。そして機体を戦艦グラーフの近くまで寄せながら抜けて来たオーレムを迎え撃つ態勢を整える。
「さて、ギガントで出撃した訳だが。俺が出張った瞬間、結構ヤバい状況になる訳だからな。そうならない事を祈るぜ」
所詮ギガントは局地的な動きしか出来ない。そんな機体が動き出したら前線の被害が出始めてる証拠だろう。
そんな中、結局最後の最後は祈るしか無いのが何とも皮肉としか言えないが。