アズサ・ニャメラ軍曹
γ型はβ型を五体率いて横一列に並びながらスマイルドッグ艦隊との砲撃を交えていた。
「駆逐艦ベター被弾。尚も戦闘継続中」
「オーレムの残存戦力はγ型三体、β型五体、α型数十体になります」
「何とかなりそうですな。幸い此方の喪失した戦力はAW三機とMW二機程。パイロットも無事救助されました」
「それよりもだ。何故この宙域に入って直ぐにオーレムが待ち構えていたかだ」
「待ち構えるですか?」
「そうだ。儂にはそう見えた。陣形を組み侵入者を阻むかの様にな」
「確かに。連中は最初から統率が取れていましたね。しかし偶々では無いでしょうか?」
「それなら別に構わん。だが、ガルディア帝国はまだ何か隠してる。今までのオーレムとは違う物と考えて行動しろ」
「了解しました。全艦、全部隊に通達します」
社長は今回のガルディア帝国からの依頼に関してはかなり消極的だ。出来る事なら全く見当違いの場所を探し続けて終わらせたいとも思っていた。
しかしキサラギ准尉がシーザー少尉から情報を聞き出してしまった為、関わらざるを得ない状況になった。そして情報を聞き出したからこそ言えるのは余計に関わりたいとは思わなくなったのだ。
「全く、変な所で余計な事をしおって。あの馬鹿者は」
社長は頭痛薬を一つ飲みながら戦況を見る。所詮、自分達は唯の傭兵だ。今は社長室で椅子を温める仕事をしてるが若い時は軍での情報部に所属していた。
その時の情報分析能力を使い現状を鑑みるに良いとは言えない。
(ふん。精々ガルディア帝国にデカい貸しを作ってやる。その為には多少の戦果は必要だな)
己の企業を成長させ被害を少なくする為に社長は色々考えながら戦況に耳を傾けるのだった。
俺とキャット2は他の連中にα型とβ型を押し付けて三体のγ型が居る方へ向かう。γ型は現在スマイルドッグ艦隊と砲撃戦を行なっており、それに続く様にβ型五体も砲撃戦に参加している。
「キャット2、先ずは俺がβ型を潰す。そうしたらγ型からα型が出て来るはずだ。其処をロケットを使ってγ型ごと吹き飛ばしてやれ」
『成る程。つまりα型が出て来る前に吹き飛す訳ッスね!』
「無理ならそのままα型の殲滅に移行。γ型は大人しく味方艦隊に任せるぞ」
『了解ッス!』
「良い返事だ。行くぜ!」
俺はキャット2の返事を聞いてβ型に向けて突っ込む。すると向こうも此方を認識したのか砲塔らしき部分が動き出す。
「相変わらずグネグネと動いて気持ち悪いな。見た目も綺麗じゃねえからよ!宇宙クラゲをちったあ見習えや!」
プラズマキャノン砲を展開し先頭にいるβ型に照準を合わせる。そしてビームバルカンが放たれたのと同時にトリガーを引く。
プラズマキャノン砲から放たれたプラズマはβ型の土手っ腹に直撃。そのまま自身の肉体を維持する事無く内部から爆散する。ビームバルカンの弾幕を潜り抜けながら別のβ型に狙いを付ける。
「はい二体目っと。しかしオーレムが爆散する様は見てて気持ちが良いぜ。こう最後までバラバラになるからな」
「あの巨体を維持するのが肉体では無く器官なのは理解出来ません。非常に非効率かと」
「使い捨てにするなら効率的じゃね?コスト的な感じで」
「我々の様な立場ならそれで問題有りません。しかし相手はオーレムですが有機生命体なのです」
「まあ、確かにな」
ネロの指摘はご尤もだろう。だがオーレムに関してはどの勢力も首を捻るばかりだ。
連中は互いに連携する為に超音波だが超光波みたいなテレパシーを使ってる。まあ通信機みたいな物だな。だがそのお陰で見つかれば直ぐに連中は寄って来る。
俺は三体目のβ型に狙いを定めプラズマキャノン砲の銃口を向ける。モニターで捕捉すればロック完了の文字が出る。
「Good-bye」
プラズマが放たれ一体のβ型に直撃。そのまま貫通して陰になっていたβ型も纏めて始末する。そして最後の一体になったβ型に接近する。
「キャット2、そろそろγ型からα型が展開されるぞ。そっちはどうだ?」
『移動完了ッス。タイミングは何時でも構わないッス』
「なら今直ぐやれ。上手くα型が出てくる射出口を狙えば一撃で墜とせるかもな。以前動画で見た事がある」
『有りましたスね。確か【翡翠瞳の姉妹】でしたよね』
「はっ!そんな通り名なんざに興味ねえよ!唯俺も一体くらいは動画みたいにγ型を撃破してみたいがね。そうすりゃあ態々味方艦隊を使わなくても済むからよ!」
最後のβ型にはミサイルと45ミリヘビーマシンガンで仕留める。それと同時にγ型の側面部分が膨らみ射出口が現れる。
「今だ!突撃しろ!」
俺はキャット2に合図を出しながら手前に居るγ型に対しプラズマキャノン砲で射出口を狙う。無論艦船と同じエネルギーシールドがある為シールド内に入る必要はある。
だがバレットネイターなら問題無い。何故なら伊達に高機動型に改造され名実ともに俺専用機になった訳では無い。
「さあ、華々しい戦果で盛り上がらせて貰うぜ!今夜はParty Nightだ!」
γ型に向かって突撃する。無論γ型も迎撃に多数のビームバルカン、ビーム砲、プラズマ砲が此方に向かって攻撃をする。だが問題無い。先が視えるのに加えバレットネイターの機動力も合わさり戦艦級の弾幕程度は回避出来る。
「堪んねえ!これぞエースの独壇場だ‼︎」
そしてエネルギーシールドの内部に入りプラズマキャノン砲を展開。それと同時にα型の射出を確認。
俺は表情がニヤけるのを抑える事無くトリガーを引いた。
プラズマキャノン砲から放たれたプラズマは射出口に入り込む。俺はそのままのスピードを緩める事無くγ型から離れる様にする。
そして少しの間が空いた時だった。γ型の動きが止まる。それと同時にγ型の内部から青白い炎が噴き出る。炎は次々とγ型の内部から突き出て来たと思った瞬間一気に中央付近で大爆発が起きて真っ二つになる。
「よっしゃああああ‼︎γ型がカモになったああああ‼︎これでクレジットはウハウハ確定‼︎他のγ型は何処だ‼︎全部俺が狩り尽くす‼︎」
爆散するγ型を無視して他のγ型を確認する。すると丁度一体のγ型も爆沈する姿が確認出来た。
「そう言えばキャット2が居たの忘れてたわ。おーいキャット2、生きてるかー?」
『せ、センパーイ……助けて欲しいッス』
「何があった?一体はγ型撃破してるじゃねえか」
『大型ロケットの爆発とγ型の爆発に巻き込まれたッス』
「おいおい折角の稼ぎを無駄にすんなよ。まあ暫く大人しくしとけ。残り一体も墜とす……前に艦隊が仕留めるな。仕方ねえ、撤収するぞ」
『申し訳ないッス。折角のチャンスを……』
「しゃあねえよ。命あっての物種ってやつだよ。ほら帰るぞー」
『はい。ああ……機体がボロボロに。修理費があぁぁ……』
残り一体のγ型と射出されてるα型を無視して俺はキャット2のアーミュバンカーを牽引しながら戦線を離脱。
アーミュバンカーのダメージレポートを見ると確かに出撃時とは比べ物にならない位傷だらけになっている。まぁ、見た目からも全然違うけど。
二挺の45ミリヘビーマシンガンは無くなり右腕部と右脚部が吹き飛んでる。恐らく咄嗟に爆発から身を守る為に盾にしたのだろう。
他にも全体的に装甲はズタボロになってるし大口径ガトリング砲も銃身が破損している始末だ。
「まあ、何だ……随分と貫禄は出てるぜ」
『そんなの要らないッス!こんな風になるなんて思わなかったッス!』
「生きてただけ良かったじゃねえか。大型ロケットは発射出来た訳だし。もし発射する前にロケットが誘爆してたら機体諸共爆散してただろうしな!」
『そりゃあそうですけど。でも修理費がとんでもない事に……』
「因みに45ミリヘビーマシンガンの補充費もな。今回の場合はアズサ軍曹のミスだからな。弾切れで放棄するのとは訳が違うし」
『アァァアアア!先輩助けて欲しいッス!』
「ヤダねー。精々今回の稼ぎで賄える事を祈っとくんだな!」
『うわーん!先輩の鬼畜!鬼!悪魔!エース!』
「最後のエースが無かったら金輪際組むのを辞めるつもりだったぜ。命拾いしたな!」
俺はアズサ軍曹を弄りながら戦艦グラーフに帰艦する。
「此方キャット1。キャット2の損傷が激しい為ネットの用意を要請する」
『了解しました。第一カタパルトにネットを用意します』
「了解した。さて今夜は整備兵は徹夜コースだな。アズサ軍曹、どうする?」
『もう……もう……ごめんなさいするッス』
「そうかい。後は酒と夜食でも持ってけよ。そうすりゃあ何とかなるさ」
落ち込むアズサ軍曹を適当に慰めながらアーミュバンカーを第一カタパルトに運んで行くのだった。
今回のオーレム撃破数では断トツの堂々たる一位だった。無論俺に突っ掛かって来た連中は苦々しい表情で此方を睨む。俺はそんな連中に対して挑発的な表情で馬鹿にする。
「次は俺よりスコアが上がる様に頑張れよ。まぁ、アズサ軍曹にも負けてる様じゃあ土台無理な話だがな」
「ふん。キサラギ准尉の腕前は遺憾ながらも認めている。だがニャメラ軍曹はお前のお溢れを貰っただけじゃないか」
どうやら俺の戦果よりアズサ軍曹の戦果に納得が行ってない様子。お陰でアズサ軍曹の猫耳と尻尾が垂れてしまっている。
だがその考えは少々頂けないな。
「なら俺と組むか?」
「何?」
「俺はアズサ軍曹と組んでも互いに生きて帰れると確信してる。だから此奴とバディを組む事には躊躇いはねぇんだよ」
「……先輩」
俺はアズサ軍曹の猫耳を撫でながら話を続ける。
「俺と組むなら死ぬ覚悟で来いよ。今まで色んな連中と組んで来た。その内の半数以上は俺の真似をして死んだけどな」
大尉達からの反論は無い。唯少し怯えてるのを感じた。
やれやれ、俺達は傭兵なんだぞ?
「そして残り半分以下は病院送りか二度と組む事が無くなったよ。寧ろ組むのを断られる様になった。何でか分かるか?結局ソロになっちまうからだ」
「お前が合わせれば良いじゃねえか!それで済む話だろ!」
「テメェは馬鹿かよ。何で態々下手くその奴に合わせにゃならんのだ。俺はそんな理由で死ぬ気は無いね。悔しかったら手前らが俺の所まで来い!」
俺が連中に一喝すると余計に苛立ちを隠せてない様子だ。だがコレだけは言わせて貰う。
「そんな中でだ、アズサ軍曹は別だ。此奴は自身の戦闘スタイルを維持しながら確かな戦果を上げてる。それがどう言う意味か考えた事はあるか?」
「それは……。確かに、ニャメラ軍曹は無茶苦茶な所はある。だが助けられた事もあったな」
「だろ?全く違う戦闘スタイルにも関わらず生きて帰艦する。それは此奴が確かな腕を持ってるからだよ。何時迄もその階級に甘んじてると追い越されるぜ?それにだ、俺はもう階級維持はしないからな。俺が大佐クラスになるのも時間の問題だぜ」
「しぇ、しぇんぱ〜い……ミミ〜、はうぅぅ」
「おっと、すまえねえ。つい弄り過ぎた。だが後悔はしてない!」
ふにゃふにゃになったアズサ軍曹の腕を取りながら立ち去る。それに好きでも無いのに野郎の相手をするのは嫌だからな。後は連中がこれからどうするから知らないし興味も無い。精々死なない様に足掻く事を祈ろうか。
「他人の為に神に祈る時程、残酷な事は無いな」
「先輩……あの、その……あざッス」
「ん?ふん。今日は大漁だったからな。飯は俺が奢ってやるよ。だから次も頼むぜキャット2」
「せ、先輩……ッ!了解ッス!キャット1!」
俺はアズサ軍曹を連れて食堂に向かうのだった。その時の雰囲気はいつもより少し嬉しそうだったと記しておこう。




