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機密の内容

 一週間後。アイリーン博士と機密データの捜索をするも未だに手掛かりは無い。強いて言うならオーレムの目撃と襲撃情報が増えてる位だろう。

 その結果二つ程の傭兵企業と数十名のバウンティハンターが被害に遭ってるとか。幸い民間人にはまだ被害は出てはいないのが救いだろうか。お陰で惑星ソラリスを中心とした宙域にOLEM注意喚起が発表された。


「OLEM保護団体と何か関係あるんスかね?」

「有る訳ねえだろ。寧ろ有ったら色々不味いわ」

「でもでも、時期的に一致してません?アイリーン博士が逃げ込んだ状況と」

「偶々だよ。偶々。どうせアイリーン博士は今もOLEM保護団体の中に引き篭もってるよ。仮に関係があっても実験用に捕獲してたオーレムが逃げ出したとかだろ」

「そうッスかね?何か自分の中では違和感があるんスよ」

「それは女の勘か?」

「後は傭兵の勘ッス」

「なら関係あるかもな。本来なら関係なんて有ってはならない事だが」


 俺とアズサ軍曹は一緒に食事をしながら進展の無い現状に推測し始めていた。

 俺はアズサの考えを否定しつつも内心少しは同意していた。恐らく傭兵企業とバウンティハンターは同士撃ちをしたのでは無いかと推測する。多分近くにOLEM保護団体の関係者かアイリーン博士本人が居たのだろう。そして三億クレジットに目が眩んだ結果だと。

 そしてオーレムに関しては本当に偶々かOLEM保護団体が捕獲してた奴が逃げ出したかの何方かだ。だがアズサ軍曹の言う通り腑に落ちない点でもあるが。

 無論スマイルドッグとしては今の状況が最善の形だろう。態々危険地帯に近付く馬鹿は居ない。だが現場の連中にとっては唯の暇な日々が続く訳だ。


「さてと、溜まってる映画とアニメでも観て暇潰ししてるわ。じゃあな」

「うわー、先輩唯の暇人ッスね」

「良いかアズサ。俺の様なクソみたいな傭兵が暇人なのはな、宇宙が表向き静かな時だけだ。覚えておけ」

「自分でそんな事言わないで下さいよ〜。何かその言い方は嫌ッスよ」

「嫌われるのは傭兵の専売特許だよ」


 俺は食事を終えて食堂の自販機から飲み物を二本買う。部屋にはオツマミの柿ピーとお菓子は有るのでダラけるのには良い一日になりそうだ。


「キサラギ准尉、ちょっと宜しいでショーウカ?」

「おや?シーザー少尉。この前のタコ焼き美味しかったですよ。それで自分に何か?」


 飲み物を買い自室に戻ろうとしたら丁度シーザー少尉に呼ばれた。別に断る理由も無いので話を聞く事にする。


「いえ、その……アイリーン博士は見つかりそうでショーカ?」

「一応捜索はしてますがね。何しろ手掛かりはOLEM保護団体くらいだけですから。他に手掛かりが有れば話は別ですが」

「そうデスカ。はあ、やはりOLEM保護団体だけでは難しいデスカ」

「そりゃOLEM保護団体は小さい組織では有りませんからね。少なからず支持してる組織や団体、果てには小さいながらも企業も有りますから」


 OLEM保護団体と関わりを持ちたい連中なんて当たり屋の片棒を担いでクレジットを無駄に分捕る役割だろう。無論、宇宙国際法に照らせばあっさり引き退るのも連中の特徴だ。

 こうして見ると唯の詐欺グループに見えなくもないのが地味に笑える所だがな。


「その、出来れば何ですが……オーレムが目撃された場所を調べてみて下サーイ」

「……理由を聞いても?」

「ごめんなサーイ。言えまセーン」


 自身の触手を丸めながら縮こまってしまうシーザー少尉。そして前より小さく見えるのは間違いなくシーザー少尉の触手を使ったタコ焼きが原因だ。それでも少し伸びてる印象はある。


「またタコ焼きご馳走して下さいよ」

「ッ!き、キサラギ准尉!ありがとうございマース!」

「だから抱き付くな!絡み付くな!止めろ!俺にそんな趣味はねえんだよ!」


 シーザー少尉からの情報。それはアイリーン博士かOLEM保護団体の何方かと接触する可能性がある訳だ。それと同時に戦闘が起こるのは確実だろう。

 俺はシーザー少尉を引っぺがして社長室へ向かう。どうやらグータラ生活も終了のお知らせが来たみたいだからな。

 恐らく現場に行けば何かしらのアクションはある筈だ。そこで何が起きてるのか確認も出来る。


「さてアイリーン博士かオーレムか。何方が出てきても潰せば問題は無いがな」


 関わりたくは無いと思っていても、俺は久々の戦闘の予感に少しだけ高揚してるのを感じたのだった。




 社長にそれとなく事情を伝えると溜息一つ吐かれて無言で追い出された。

 まぁ、気持ちは分からんでもない。折角何事も無く終わる依頼だと思っていた訳なのだから。だがシーザー少尉からの情報を無視すればガルディア帝国との間に溝が出来るかも知れない。

 そしてシーザー少尉の情報を元に分析が開始される。すると少々興味深い形になって現れた。

 それはオーレムの目撃情報がある程度集中した宙域で現れたのだ。それは奇しくも同業の連中とバウンティハンターが被害に遭った場所にも近い。


「キナ臭くなって来ましたね。来やがりましたねネロちゃんよ!」

「はいマスター。私の予想では72%の確率でOLEM保護団体が居ると予想します」

「そこにアイリーン博士が居れば最高だな!依頼が有るとは言え公正な三億クレジットの賞金首だ。アイリーン博士をガルディア帝国に突き出せば貰えるだろうよ!三億かぁ……何買おっかな?」


 ガルディア帝国にとっては機密データが全てだ。他の事柄は殆ど眼中に無いくらいに。それはそれで構わない。寧ろそうして欲しいくらいだ。此方としては要らない三億クレジットを回収出来るなら万々歳だからな。


「最初は囮用だと聞かされてたが普通に賞金首だもんな。然るべき場所に突き出せば、あら不思議。三億クレジットに早変わりよ!」

「依頼の方はどうされるのですか?」

「無論やるよ。機密データをシーザー少尉に渡す。俺達はアイリーン博士をガルディア帝国に引き渡して三億クレジットを受け取る。簡単な流れさ」

「流石ですマスター。ところでアンドロイドのボディに御興味御座いますか?」

「何だ?アンドロイドだがセクサロイドの話か。今は必要ねえよ。だがな、三億クレジットさえ手に入れば最高級のボディだって買ってやれるさ!」


 現在スマイルドッグはオーレムによる被害に遭った宙域と場所、時間を計算しOLEM保護団体の予測移動地点に向かってる。

 俺はネロを持ちながらブリーフィングルームへと向かう。ブリーフィングルームへ到着すると既に殆どの同僚は集まっていた。


「ようキサラギ准尉。今回も参加すんのか?偶には俺にも手柄を寄越せよ」

「なら報酬は貰うぜ。戦果なら幾らでもくれてやるがな」

「マジかよ。ならそれで頼もうかな」

「おい、それだけは止めとけって。死にたくねえだろ」

「なんでだよ。お互い合意の上なら問題ねぇだろ?」

「前に似た様な事した連中が居たんだよ。それでキサラギの奴滅茶苦茶高い戦果を全部そいつらに渡したんだよ」

「それで?」

「次の任務で戦死したよ。依頼人曰くエース並の戦果を出したのだから問題無いと判断したらしいが」


 堂々と人前で話す同僚達に少し関心する。だが俺は笑みを浮かべながら聞き返す。


「へぇ、良く知ってるじゃん。で、何か問題でも?」

「い、いや……別にキサラギ准尉を責めてる訳じゃ無いよ。唯、何だ。身の丈に合った戦果を出した方が良いって此奴に忠告したんだ」

「別に俺は何でも構わねぇけど。で、俺の戦果を買うかい?特に今は専用機を手に入れたからな。良い戦果を約束するぜ。ついでに酒場に行けば綺麗なネェちゃんを口説く材料にも成るかもな」


 俺がスマイルドッグと同じ様な笑顔をすると引き攣った表情で首を横に振る同僚達。全く、折角の小遣い稼ぎだったのにな。残念だ。

 それからアズサ軍曹、ナナイ軍曹、社長、シーザー少尉が入室して来た。アズサ軍曹は俺の姿を見ると近寄って来て横の椅子に座りに来た。妙に猫に懐かれた気分だ。


「全員集まっている様だな。これより簡潔に分かり易く任務を説明する」


 今回は社長自らが説明をするらしい。つまりそれだけ危険度が高い可能性を示唆している。


「我々スマイルドッグ艦隊はアイリーン博士が潜伏しているだろうと思われる宙域に向かう。そこは最近オーレムの目撃情報が多発している宙域だ」


 ブリーフィングルームのモニターには現在オーレムによる被害位置と発生日時が示されていた。


「見て分かる様にオーレムは何故かこの宙域で多数目撃されている。また我々同様の傭兵やバウンティハンターなどにも被害が出ている」


 社長はモニターを見ながら説明を行う。俺はネロを人差し指を立たせた状態で何とか回転させようと頑張るが、生憎ネロは戦闘補助AI。つまり高性能だけど結構重たいのだ。下手にやれば俺の人差し指が本来曲がらない方向へ逝くだろう。

 だが諦める訳には行かない。今までの様に両手、中指の平、手の平、空中回転させるのではネロも飽きてしまうだろうからな!


「そこで今回はこの宙域を重点的に調べる事に決定した。もしアイリーン博士を見つけた場合はなるべく捕縛する様に。但し無理なら、本当に無理なら……頑張っても無理なら……」

「社長ー、宇宙で二番目に大好きなクレジットに執着したい気持ちは分かりますが。別に社長の懐には入りませんよ?なあ皆。早い者勝ちだよな?」


 俺が適当に煽ると周りの連中は頷く。


「まあ、俺は今回は成るべく別の方を優先しますがね。もしかしたらガルディア帝国に高待遇でスカウトされるかも知れねえし。そうすりゃあ三億クレジットなんて端金以上の名誉と立場が来るかも知れねえけどな。何方を選ぶかはお前ら次第だけどな」

「先輩は何方を選ぶんスか?」

「余裕が有れば三億と命。無ければ任務と命だ」

「おぉ、流石先輩ッス!じゃあ自分もそれで行きまッス!」


 俺がそう言うとアズサ軍曹も賛同し意見を合わせる。すると周りの連中も自然と似た感じになる訳だ。ある意味アズサ軍曹の存在は有難い時はある。

 勿論俺がスーパーでエースなパイロットだからってのが一番だがな!


「お前達がどうするかは自由だ。だがスマイルドッグとガルディア帝国の名を傷付ける事は許さん。そうなった場合は背中から撃たれる覚悟を持て。此処から先はシーザー少尉から補足がある。ではお願いします」

「分かりマーシタ。皆サーン、宜しくお願いしマース」


 シーザー少尉は頭をペコリと下げる。頭頂部のヅラは落ちなかったけど。


「先ずはアイリーン博士ですが先程社長サーンが仰った通りデース。出来れば捕縛で構いまセーン。そして私達ガルディア帝国からの最重要なのが機密データデース」


 モニターには幾つかの機材が写し出される。


「この機材は全てアイリーン博士が持って行った代物デース。つまりこの全てを回収する事が目的デース」

「質問。その機材は何ですか?」

「申し訳ないデース。それは機密なのデース。ですがガルディア帝国にとって最重要な代物なのデース」

「なら機材が破損した場合はどうなるんスか?例えば死ぬ間際に機材諸共!みたいな感じになったら」

「その場合は……残骸だけでも回収して下サーイ。お願いしマース」


 シーザー少尉の答えに周りからは溜息が溢れる。勿論俺も勘弁してくれの気持ちで一杯だ。


「ですが簡単には破壊などはしない筈デース。アイリーン博士はプライドが非常に高いデース。ですから自分が開発したと思ってる代物は恐らく破壊はしまセーン」

「因みにアイリーン博士は何の研究をしてたのですか?」

「はい。オーレムに関し……あ」


 俺は何となく軽い感じでサラッと聞いてみたらシーザー少尉もサラッと質問に答えてくれた。いやはや中々良い答えが聞けた訳だが。


「成る程ね。オーレムに関する研究ね。何となく繋がり始めたな」

「いや、あの、その……」

「ああ、大丈夫さ。多分俺を含めた全員が居眠りしてたから聞いてねえよ。なあ?お前ら寝こけてただろ?」


 俺が同僚達に聞けば皆苦笑い気味で頷く。流石に空気を読んでくれたのは有難い。


「此処からは俺の独り言になる。多分博士はオーレムに関して何かしらの重大な発見をしたんだと思う。だからOLEM保護団体にコンタクトを取った。そしてOLEM保護団体もその重大な発見に価値を見出した。それこそガルディア帝国を敵に回してでもだ」

「はわ、はわわわ⁉︎」


 俺の独り言に慌て始めるシーザー少尉。やれやれ、ガルディア帝国は全ての所属する連中にポーカーフェイスくらいは訓練させておくべきだったな。

 まあ、その辺りは雑だったので俺達にとってはラッキーなのは間違いない。


「無論、俺達はガルディア帝国を敵に回すつもりは無い。だからシーザー少尉の言う通り機材と機密データの回収を第一に置く。唯、シーザー少尉からのリップサービスが欲しんだよ。特に情報だ」

「じょ、情報……デスカ?」

「そう情報だ。全部を話せ……とは言わねえよ。唯、もう一声欲しいんだ。俺達は確証が欲しいんだ。分かるだろ?」

「それはそうデスが、はう……どうしまショーウ?」

「安心しなって。もうちょい踏み込んだ話をしてくれれば良い。何せ俺達はこれから不確定要素の強い戦場に行く。だが、それはシーザー少尉も同じなんだぜ?この戦艦グラーフもそうだが俺達が生きるも死ぬもシーザー少尉次第になる可能性もある。後は、分かるよな?」

「も、勿論デース。ですが……」

「お互い簡単には死にたくは無い。だから手を取り合って協力する。当たり前の事だろ?」


 シーザー少尉に静かに語り掛ける様に話す。シーザー少尉の様子を見るに後もう少しだ。

 俺は内心笑いながら表面上では爽やかな風に装いながら話を続ける。


「大丈夫さ。この中に三大国家の一つのガルディア帝国を敵に回す奴は居ないよ。少なくともアイリーン博士よりは信用出来る」

「誰にも……言いまセンカ?」


 シーザー少尉から問い掛けに皆が静かに頷く。


「勿論だ。この瞬間から俺達は一蓮托生だ」

「……分かりました。もう少しだけ深く話しマース」


 この瞬間シーザー少尉が堕ちた。俺は内心悪の笑い方三段活用をしながら静かに頷くだけに留める。


「アイリーン博士はオーレムに関する研究主任デーシタ。そしてある特定の波長を発見したのデース。分かり易く言うとテレパシーみたいな物デース」

「そのテレパシーが何なのかは聞きません。唯、戦場で何が起きるか教えて下さい」

「それは……フゥ……」


 静かに深呼吸をするシーザー少尉。そんな彼を俺達は静かに話し出すのを待つ。そして遂に彼の口から情報が出た。


「オーレムの……出現と増援が予想されマース。これ以上はもう……」

「大丈夫です。それだけで充分です。もう充分です……クソ、マジかよ」


 シーザー少尉の口からは最悪に近い情報が出て来た。唯、この情報が有るのと無いのとの差はデカい。

 だがふと同時に気になる事も出て来た。

 それは何故アイリーン博士は生きてると確信してるかだ。オーレムは基本的に同族以外は無差別に破壊及び殺しに来る。にも関わらずアイリーン博士と機密データの確保の依頼。


(まだ何か有るのか。最悪なのはオーレムを操作する事だが。恐らく自分達の存在を見えなくする様にするのが妥当な所か。全く、この情報こそ最初に言えっつーの!)


 最悪な情報ではあったが、より深刻な内容で無いだけマシなのかも知れない。


「神頼みか。やっても最悪の状況しか来ねえからな」


 それでも縋りたい気持ちは出て来る物だ。例え意味の無い事だとしても。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >そしてある特定の超音波を発見したのデース。 超音波だと宇宙では使えないのでは?波長辺りに変えた方がいいと思います。 [一言] 投稿お疲れ様です。いつも楽しませてもらっています。
[一言] オーレムがオーメルになってるところがありますよ? もしかして:リンクス
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