依頼の区別
「触手美味かったよ。久々に海の幸を食べた感じがしたぜ」
「それは良かったデース。それで依頼の方なのですが……」
「決めるのは社長だよ。社長に聞いてくれ」
「社長サーン……お願いしマース」
シーザー少尉の涙目を一身に受ける社長。社長は溜息を一つ吐いてから言う。
「良いでしょう。我々としましてもガルディア帝国からの依頼は無碍には出来ませんので」
「しゃ、社長サーン!」
「ガルディア帝国の事です。我々以外にも同じ様に雇われ企業はいるのでしょう?」
「恐らくそうだと思います。ですが依頼した以上は契約通りのクレジットはお支払いしマース」
「先程キサラギ准尉も仰いましたが感謝の言葉は要りません。クレジットとデコイを用意して頂ければ結構です。尤もデコイ自体は此方である程度の調整は必要ですが」
「申し訳ありまセーン。今回は依頼を受けて頂きありがとうございマース」
「ご安心下さい。我々としましてもガルディア帝国とは上手く付き合って行きたいと思っておりますので。ナナイ軍曹、お見送りを」
「了解しました。では此方へ」
ナナイはシーザー少尉を案内しようとする。だがシーザー少尉は首を横に振り再度社長を見る。
「我儘を一つ良いですカ?」
「何でしょうか」
「出来れば私もこの艦に乗せて欲しいのデース」
「機密データがそんなに心配かよ。自分のミスを他人に尻拭いさせる癖によ。だったら自分でやれよな」
「勿論タダとは言いまセーン。私が提供出来る量でタコ焼きを作らせて頂きマース」
「社長、決まりだな。俺が空き部屋を案内しよう」
「待て馬鹿者。どうしてお前は直ぐに意見を変えるのだ。はあ……疲れる」
「シーザー少尉が我儘言うからですよ。ほら、社長に早く謝って」
「我儘言ってごめんなサーイ」
「どう見ても先輩が悪いッスよね」
結局シーザー少尉はナナイ軍曹とアズサ軍曹の案内で戦艦グラーフの一室を当てがわれた訳だが。
「良かったですね社長。ガルディア帝国との縁が切れなくて。然も向こうからお願いされちゃいましたからね」
「ふん。礼は言わんぞ」
「はて?何の事やら」
お互い呆けた風に言うが口元の笑みは消えてはいない。
今回のガルディア帝国の依頼はかなり大規模な形になっている。
先ずは三億クレジットの賞金を掛けられた指名手配犯アイリーン・ドンキース博士。この三億クレジットに引き寄せられる殆どの連中が囮としての役割。ガルディア帝国からしたら俺達も囮の一つなのだろうが。
そして次に機密データの確保。アイリーン博士の生死に関しては何も言わなかった。つまり博士より機密データの方を優先した結果だろう。だが逆に言えば機密データの方が厄介の種かも知れん。
最後にシーザー・ブルック少尉。軍属とは言え本職は研究員だ。とてもでは無いが交渉には向いてない。にも関わらず、あんな奴を交渉に向かわせた。それだけ機密データに関わる者達は少ないのだろう。
「社長、前のお姫様救出の方がマシな気がしてなりません」
「だが必要以上の情報は聞き出せた。儂ら以外の者達に依頼してるなら多少なりとも連携は取れるかも知れん」
「向こうの連中が三億クレジットに眩んで無ければ良いですが。社長、三億と言う数字に騙されなくて良かったですね」
「……普段からそうしてくれれば儂の肩の荷も大分楽になるのだがな」
「はて?何の事やら」
こうして俺達スマイルドッグはアイリーン博士を捜索する為に中継宇宙ステーションより出航する。此処から先は虱潰しにOLEM保護団体との繋がりのある組織や団体に協力を申し上げる訳だ。勿論武力を使ってな。
「この広い宇宙で一人の人間を捜索する訳か。砂漠の中のダイヤモンドを探す様な感じですかな」
「それだけならマシだ。荒ごとになるのは間違いないだろう。任せるぞキサラギ准尉」
「了解です。ご期待に添えさせて頂くよう最善を尽くしましょう」
俺は社長に対し敬礼をして退室したのだった。
OLEM保護団体との繋がりのあるデブリ回収業社を発見した。そのデブリ回収業社に対しAW部隊での訪問が決定した。
「あんなデブリの中に潜んでるとはな」
『表向きは唯のジャンク屋ッスからね。じゃあ自分は何の武装にしようかな〜』
「今回は威圧で充分だからな。アズサの場合、重武装で行けば良いんじゃね?」
『早速大口径ガトリング砲のお披露目ッスね!なら両腕には四連装ショットガンで行きまッス!』
「マジかよ。威圧感半端ねえな。俺は何時も通りで良いかな」
アズサ軍曹の重武装のAWはTZK-9ギガントをベースにカスタムされた機体だ。
【TZK-9Cアーミュバンカー】は本人の特徴とも言える白い髪と紅い瞳と同じで白をベースとし紅色を入れている。そして重武装でもある程度の機動確保の為に強化型プラズマジェネレーターを更に出力アップさせた。結果として元のTZK-9ギガントより一応高い機動性と運動性は確保しているらしい。
『間も無くAW隊は出撃になります。準備は宜しいでしょうか』
「キャット1準備完了。今回はキャット2と組むぜ」
『キャット2も準備OKッス。先輩、やっぱりキャットなのは自分が猫だからスか?』
「当たり前だろ。それ以外に何があるんだよ」
『そ、そっすよねー。いやー、まさか真顔で返事が来るとは思わなかったッス』
そして他の傭兵仲間達が順次出撃して行く。と言っても今回は少数のみの出撃になるので直ぐに俺達の番になる。
『キャット1、カタパルトへ移動』
「カタパルト接続完了。武装は45ミリアサルトライフルと多目的レーダー、十二連装ミサイルポッド。後は多目的シールドとプラズマサーベルっと」
慣れ親しんだ武装を装着しながら武器の接続も確認。
「ウェポンシステム、オールグリーン。キャット1いつでも出れる」
『了解しました。進路クリア、発進どうぞ』
「シュウ・キサラギ准尉、バレットネイター、出るぞ!」
『御武運を』
出撃信号が青になりカタパルトから宇宙へと射出される。そして俺に続く様にアズサ軍曹もカタパルトに接続される。
『キャット2、出撃どうぞ』
『キャット2、アズサ・ニャメラ軍曹、アーミュバンカー、行きまッス!』
『お気をつけて』
俺の後に続く様にキャット2のアーミュバンカーが宇宙に射出される。
今回出撃したAW隊は六機。二機構成の三個小隊になる。
『ようキャット1、随分イカす機体に乗ってるじゃねえか』
『やっぱりキャット1の機体だったか。その悪役っぽいカラーリングはお前に良く合ってるぜ』
「そいつは褒め言葉として受け取っとくよ。因みにカラーリングに関しては俺は一切関わってねえけどな」
『そうなのか?意外だな』
『てっきりノリノリでやったかと思ってたぜ』
「馬鹿言うな。あの時はそんな暇無かったよ。寧ろよくあんな状況下でカラーの注文をしたよな。あのポンコツエルフは」
久々に思い返すのは、以前共闘したクリスティーナ・ブラットフィールド大尉。いや、今は少佐になったんだったな。
何となくエルフ達との共闘を思い出してると後ろから追いかけて来るキャット2から通信が入る。
『待って下さいよセンパーイ!先輩の機体速いんスから』
「はあ、せめてコードネームで呼べよなキャット2」
『待って下さーい!キャット1!』
「全く。誰に似たんだか」
そう呟いた瞬間お前だよ!と言われた気がした。無論誰も喋っても無いから気の所為だと思うが。
そしてキャット2と合流し、俺達はデブリ帯へ突入する。
この宙域には多少の重力が掛かってる大きい岩石がある為、宇宙を漂流している破壊した艦船や放棄した艦船が偶にある。基本的には鉄屑にしかならない代物ばかりだがジャンクも馬鹿に出来ない。
何故なら放棄した艦船は機関が壊れたが運良く乗員は無事と言う場合は多数ある。逆に船体自体は駄目でも機関部は無傷と言う場合もある。これは艦船の中でも機関部が重要区画に指定されてる為だ。故に頑強で分厚い装甲で守られているのだ。
そして少々頭の回るジャンク屋連中はソレをニコイチしてマフィアや宙賊に売り払う。所詮放棄された艦船だ。誰も気付きはしない。態々全てを中古の値段で売ったり、鉄屑に戻すよりよっぽど利益は出る。
何せマージンは取られる訳では無いからな。
「さて、少し驚かしてやるか。キャット1より各機、俺が突っ込むから何か反応があれば潰してやれ。まあ、こんな場所で見つかるとは思えんがな」
『アイアン1了解。景気良く行って驚かしてやれ。きっと連中ビビるぜ』
『サニー1了解。派手に掻き回してやれ』
『キャット2了解ッス!いざとなればキャット1の近くの敵はバラバラにしてやるッス!』
『『『『それはやめとけ』』』』
『な、何でですか!』
同僚達との通信もそこそこに一気にバレットネイターを加速させる。背中の二つの大型スラスターが火を噴きながら一気に加速する。
「良いね。段々調子良くなってる感じだな」
「はい。元々マスターの戦闘データを基に改修されましたので。恐らく機体に慣れればそれだけ操作性は上がります」
「成る程な。これなら脱出装置を外した甲斐があるってなもんよ!」
「レーダーに敵性勢力無し。周辺宙域の詳細なマッピングを継続します。このままの速度でしたら目標まで残り五分です」
「さて、何かしらの反応が有ると有り難いがな」
俺は可能性は薄いだろうと思いながらもデブリ回収業社へと向かう。
回収業社へと近付くとMWで作業をしている連中がチラホラ見え始める。だが武装らしい武装は殆ど無い。精々自衛用の20ミリバルカンかミサイル砲塔くらいだろうか。
【な、何なんだアンタ。此処に一体何の用があるんだ?】
「下っ端に話す事はねえよ。それより社長と幹部クラスを出しな。話は其処からだ。無論断って貰っても構わない。代わりに俺達は受けた依頼を強行するまでだがな」
【ちょ、ちょっと待ってくれ!今マミヤ主任に確認する!】
「急げよ。俺だけなら何とかなるとか考えてても良いんだぜ?代わりの授業料はテメェらの命になるがな」
そして暫く待ってる間にアイアン小隊、サニー小隊、キャット2が追い付く。
『いやー、流石キャット1ッスね!あの速度で突っ込むとか正気じゃ無いッス!マジ尊敬しまッス!』
「褒めてもマタタビは出ねえぞ」
『それで連中は何か言ってたか?』
「いや、何にも。寧ろ普通のジャンク屋としか言えねえな」
【お待たせしました。私が此処の責任者になります。それで、一体どの様なご用件で?納品期限にはまだ数日余裕がある筈ですが】
「単刀直入に言おう。アイリーン博士と研究データは何処だ?」
【アイリーン博士……ですか?いえ、知りません。それに研究データも何の事か】
マミヤ主任なのか唯の責任者なのかは知らない。だが嘘を吐いてる様には見えない。そんな中キャット2が俺の前に出て重兵装を構える。
『正直に言わないとこの四連装ショットガンと大口径ガトリング砲が君達を待ってるッスよ!』
【本当に知らないんです!嘘ではありません!何なら調べて貰っても構いませんよ!】
「こりゃ白だな。はい撤収。ご協力有難うございました」
【え?えぇ……そうですか】
『お騒がせしましたッス。でも良いんですか?こんな簡単に終わらせても』
「良いに決まってんだろ。俺達は仕事をやってる。そして他の同業社の連中も同じ様な事をやってる。態々俺達が貧乏くじを引く理由はねえよ」
そう今回のガルディア帝国からの依頼でもあるアイリーン・ドンキース博士の捕獲と機密データ。
だがガルディア帝国としてはアイリーン博士より機密データの方を重要視してる節がある。少しだけ調べてみたがアイリーン博士は確かに天才だ。だがあの程度の天才は沢山いる。
なら答えは簡単だ。機密データの方が重要なのだ。それこそ世間に露呈したら不味い代物。そんな物に態々関わるなんて馬鹿な奴だけって訳さ。
無論スマイルドッグも表向きは引き受けた。ガルディア帝国の不評を買えば後が怖いからな。具体的に言うと三大国家の一つから信用が無くなった。それだけで充分想像は付くだろう。
「どっかの馬鹿がアイリーン博士とカチ合わねえかな」
最早他人事の考えの中、戦艦グラーフに帰還するのだった。




