惑星ウィリアム
一万文字逝っちまったぜ…
エルフェンフィールド軍とダムラカ軍の戦いはエルフェンフィールド軍による勝利で幕を閉じた。
尤も利益も無く被害のみが出た戦いなのでエルフ側からしたら正に無意味と言えるだろう。更に戦争相手のダムラカ軍には国家と呼べる存在は無いので尚更徴収出来る物は無い。
一応補足として伝えておくが国とは三大国家の何れかの勢力にキチンと税金を支払い、尚且つ自治権の獲得を行い、惑星に住んでる事が条件なのだ。因みに惑星に住んでると言うのがミソで、資源惑星などは条件には入らない。誰かしらが住んでおり経済基盤が出来ていれば問題無いのだ。
結局、両軍共に手に入る物は何も無かったのだ。慰謝料も無ければ事実の公表も。
そして何よりダムラカ軍のトップであるアデス・バングス大将の戦死により事実上のダムラカ軍解散となった。そもそも軍隊としての規律と戦力を維持し続ける事など、たかが一士官程度では到底無理な話な訳だ。
「結局、唯の自己満足だったんだろうな。傍迷惑な話だけどさ」
俺は社長の長い説教を聞き終えて宇宙が見える待合スペースでコーヒー片手に一服しながら座っていた。
現在、スマイルドッグ艦隊はエルフェンフィールド艦隊に追従していた。ダムラカ残存艦隊はエルフェンフィールド艦隊により武装解除、及び機関停止により曳航された状態だ。
因みに何故スマイルドッグ艦隊が追従してるのかと言うと、デルタセイバーとクリスティーナ大尉を引き渡した後に追従する様に指示が来たらしい。
正直俺としては、もうエルフ共と関わる理由は無いと思う訳だ。大金と言えるクレジットは貰った訳だしね。
「後はバーグス中尉だけか。まあ、態々エルフの連中に教える義理も無いけど」
コーヒーを一口飲みながら後の事を考える。
恐らくダムラカ軍には厳しい処罰が待ってるだろう。何せエルフの王族であり第三皇女でもあるリリアーナ姫を拉致、監禁した訳だ。もしこの事が公にされれば、いよいよを持ってダムラカ軍の命運は決まったのも同然だろう。
だがもし彼等に救いがあるとしたらどうなるか。あの世間知らずでお人好しなリリアーナ姫がきっと肝になるだろう。
「世間知らずって言っても確実に五十超えてるんだよなぁ……合法ロリ?」
一瞬何故か魔法少女姿のリリアーナちゃんを思い浮かべたのだが、中身が五十超えてると思うと痛々しく思えてしまう。
「これが知らぬが仏ってやつか。先人の人達は言う事が洒落てんな」
結局、最後に決めるのは上層部の連中だ。俺の様な傭兵には何にも決定権など無いのだ。
「勝って兜の緒を締めよって言うのも間違いねえよな。やっぱり先人の人達は中々言う事が違うな」
暫く静かにコーヒーを飲みながら宇宙を照らす星々の輝きを見続けるのだった。
戦いが終わり二日程が経過した頃。道中で味方の増援艦隊と合流したのだが中々な艦隊戦力の増援が送られていたのだ。
その戦力は二個艦隊に匹敵する程の艦隊戦力。仮にこの艦隊がもっと早くに合流してたら早急に決着は着いただろう。だがその結果ダムラカ軍を無闇に刺激する可能性は高いので何方も対して結果は変わらなかったかも知れない。
唯、俺が楽出来るか出来ないかの違いだろうからな。
因みに俺は再び戦艦アルビレオに乗艦していた。序でに社長とオペ子、他護衛が数人も着いて来た訳だが。
「まさか俺が勲章を貰う事になるとはね」
「まさに意外な結果ですね。傭兵相手にも勲章を渡すのは。余程気に入られたのですね」
「あんな年増の多い種族に気に入られてもね。そもそもエルフは外見が綺麗過ぎるんだよ」
「良いではありませんか。私もイケメンエルフとお付き合いしたいですし」
「まあオペ子ならエルフと間違われるかもな」
「珍しいですね。貴方が褒めるなんて」
「いやさ昔のエルフのイメージは貧相な身体付きだったからさ。オペ子は胸無いから間違えられても不思議じゃねえよ」
「最低です」
オペ子のジト目の睨みを受けながらからかってると前方から見知った人物が現れた。その人物は帽子を被り軍服に身を包んでおり、一瞬だがセシリア大佐にも見えてしまった。
「おや?クリスティーナ大尉殿ではありませんか。お身体の調子は大丈夫で?」
「え、ええ。大丈夫よ。私は大丈夫。全然平気よ」
「俺には大丈夫そうには見えませんが。今から医務室行っときます?」
何だか落ち着きが無い様に見えるのだがな。それに頬も若干赤くなり始めてるし。
「まあ何でも良いんですが。自分達は今からブリーフィングルームに向かってるんですよ。どうせ公には〜とかいう下らん前口上が入るんでしょうがね」
「そうね。その通りね」
「ん?まあ、そんな訳で自分達はこの辺で」
「ま、待ちなさい!」
「何ですか?大きい声をだしちゃって」
「いえ、その……わ、私も行くわ」
「あ、そうなんですか。なら行きましょう」
クリスティーナ大尉を仲間に加えてブリーフィングルームに向かう。
「何かやったんですか?」
「何かって何をだよ」
「だってあの大尉さんずっと顔赤かったですよ」
「んなもん決まってんだろ。俺に惚れてんのさ」
「……ハッ」
「鼻で笑いやがったな」
小声でオペ子と話してると後ろから咳払いが聞こえる。振り向くとクリスティーナ大尉がちょっと不機嫌ですと言わんばかりの表情をしていた。
「貴方達随分と仲が良さそうね。どう言った関係かしら?」
「んー、オペレーターと傭兵な関係だな」
「私も一応傭兵になりますがAWなどには乗れませんので」
「そう、なら別に良いの。でもちょっと距離が……その、近過ぎると思うの」
「距離?」
「距離ですか」
俺とオペ子は目を合わせながら考える。その上で取り敢えずオペ子と離れてクリスティーナ大尉に近付く事にした。
「これで良いですか?」
「ふぇ?え、ええ。まあ……良いんじゃあないかしら?」
「あ、これで良いんだ。ならさっさと行こうぜ。あ、社長。この美人のエルフがクリスティーナ大尉だ。最初の依頼を受けた時から共に戦場に出てた仲なんだよ」
「そうか。ウチの馬鹿がさぞかしご迷惑をお掛けしたことでしょう。申し訳ない」
「おい、何で迷惑前提で話してんだよ」
「儂に常に迷惑を掛けてる時点でそうなるわ」
「そう言われちまうと何も言い返せないな」
それからクリスティーナ大尉は終始静かに社長とかオペ子と話をしていた。俺は最後になるのでアルビレオの艦内を何となく見渡していた。
「そんな事無いですよ。キサラギ軍曹はとても素晴らしい傭兵です。彼程心強い味方は中々居ません」
「そうですかそうですか。まあ一応うちのエースですからな」
「それに危険度の高い任務にも忠実に行う姿勢は正規軍にも負けてはおりません」
「へぇ、正規軍にですか。チラッ」
「……勘弁してくれ」
そしてブリーフィングルームに到着するまで、何故からクリスティーナ大尉の口からベタ褒めされる展開になる。その間に社長とオペ子、後護衛の連中からの生暖かい視線に耐えねばならなかったのだ。
勿論止めようと思ったのだが楽しそうに話す大尉殿を見たらつい口を閉ざしてしまう。そして何より場の雰囲気は悪く無いので良しとしたのだった。
ブリーフィングルームに到着し中に入る。すると中にはリリアーナ姫、セシリア大佐、ファング隊、マッド隊、バーグス中尉、豪華な軍服を着た女性士官一人に衛兵達が揃っていた。
「失礼します。クリスティーナ大尉入室します。道中にてキサラギ軍曹以下スマイルドッグの関係者を連れて参りました」
「御苦労だったな。さてキサラギ軍曹。前に来たまえ」
「此処はもう少し色っぽく言って欲しかったですな、セシリア大佐殿」
「フッ、残念だが私には婚約者がいるのだ。恐らく惑星カルヴァータに帰還後には話が進むだろう」
「なら仕方ないですね。精々俺を不幸にさせる位には幸せになる事をお祈りしましょう。あ、これ結婚祝い金です。どうぞ」
「ああ、すまんな。貴様は変な所で気が利くのだな」
「よく言われます」
そしてセシリア大佐が下がるとリリアーナ姫が前に出る。その手には勲章の入った小箱を持っていた。
「キサラギ軍曹。貴方には色々助けられました」
「気にしないで下さい。自分は成すべき事をやったまでですので」
「ですが、魔法少女扱いされたのは人生で初めての経験でした」
「俺が初めての男ですか。実に光栄ですよ」
「フフ。この勲章を渡すにセシリア大佐とクリスティーナ大尉以下此処には居ない方々からの推薦がありました」
「成る程ね」
「本来なら公の場で渡すのが一番なのでしょう。ですが、これは私達エルフであり軍人でなければ受け取れない物。こういった流れは異例です。ですが、それでも構わないと私は思うのです」
その時のリリアーナ姫の表情は少々思案顔になってる気がした。彼女が何をしたいのかは分からない。だが次に下手な事をやれば王家、軍、政治でも庇い切れないかも知れない。
だからだろうか。つい一言言ってしまったのだ。
「時代の流れによっては自分達が変化しなくてはならない時もあります。勿論急激な変化は周りを混乱の中に入れるだけでしょう。なら如何すべきか。答えは簡単です。貴女が信頼出来る人物に相談しなさい。そして考えて決めて下さい。後は決める前に御両親に相談してみて下さい。少なくとも無碍にはされないでしょう」
「キサラギ軍曹……そうですね。信頼出来る方に相談してみます。最後に有難うございます」
「お気に為さらず」
一瞬だけ驚いた表情をするリリアーナ姫。だが直ぐに元の表情になり静かに頷く。
「では。シュウ・キサラギ軍曹。貴官の活躍は我が軍に於いて多大な貢献をしました。その功績を称えブルーアイ・ドラゴン勲章を授与します」
箱が開けられると、そこには青い宝石を目に取り付けた銀色のドラゴンが剣に絡み付く見事な一品が入っていた。何とも豪勢な勲章ですこと。
静かに一歩前にでた瞬間……腰からお気に入りであり浪漫が詰まった大口径リボルバーを取り出した。
そして三秒後に悲惨な結果が視えたので銃口をバーグス中尉に向けて言い放つ。
「折角の俺に対する祝いの場だ。これ以上の厄介事は御免だね」
返事は無い。だが動きが止まったのは間違いない。
「なあ、もう終わったんだよ。ダムラカは負けた。全身全霊を使い切って敗北したんだ。敗者には敗者としての道を歩む義務がある」
「それで……無かった事にするのかい?」
「それは知らないな。だが勝利者に不利な条件が入ると思うか?歴史を見てみろ。殆どそんな条件はねえよ。勝った奴が正義だ。それが全てだ」
「なら、なら!あの犠牲はなんだったんだ!何の為に僕達は此処まで戦って来たのだ!」
バーグス中尉の表情は最早疲れ切っていた。もう如何すれば良いのか本当に分からないのだろう。
そんな彼に何と語れば良いのだろうか?果たして俺に彼の思いを諦めさせる事は出来るのだろうか。
「なら別の方法を探せば良い。少なくとも武力で訴えても無駄だと理解した筈だ。武力によって散って行った連中が身を以てアンタに教えてくれたじゃねえか」
「別の方法?そんな方法なんてある訳が」
「歴史評論家とか平和維持団体に入るとかあるじゃねえか。視野をもっと広げろよ。バーグス中尉、今貴方の視野は非常に狭くなってる。どうせ使命だが責任感やらでそうなってるんだろうがな」
「だが……僕は……」
きっとバーグス中尉の頭の中は混乱しているのだろう。なら今が逆にチャンスだ。混乱し精神的に参っている人間には突き入る隙は大きくなる。
「バーグス中尉、まだチャンスはある。今から多少の時間は掛かるだろう。だが今なら間に合う。間に合うんだ。さあ、懐から手を出すんだ。それで全てが終わるんだ」
「……ッ」
己自身との葛藤に苦しむバーグス中尉。その姿はまるで迷子で不安を露わにしている子供その物だった。
だからだろうか。一瞬だけ彼女とアイツを思い出してしまったのは。
俺はバーグス中尉の方へ静かに一歩き出しながらリボルバーを仕舞い右手を差し出す。
「バーグス中尉、後はアンタが決める事だ。それに迷ってるならウチに来ると良い。バーグス中尉くらいの実力者なら直ぐに溶け込めるさ」
「は、はは……君は、本当に……優しい人だ」
「野郎に惚れられても困るんだがな」
そして僅かな間が出来る。その間に俺の右手を掴んでくれればハッピーエンドを迎える訳だ。
だが現実はいつも俺に辛く当たる。
バーグス中尉は俺の右手を掴む事は無かった。そして彼は笑顔で俺に呟いた。
「ありがとう、キサラギ軍曹」
そして三秒後に視えた結末。バーグス中尉は再び懐に手を入れる。
「待て!撃つな!」
俺は後ろにいる衛兵達に向かって叫ぶ。そして……
ダアアァン‼︎
ブリーフィングルームに一発の銃声が響き渡る。衛兵の一人がライフルをバーグス中尉に向けて発砲。バーグス中尉は何も出来ずに胸の辺りを撃ち抜かれたのだった。
「わ、私は、姫様に仇となる者を厳粛に対処するのが」
衛兵の言葉を無視しながらバーグス中尉の元へ駆け寄る。
「バーグス中尉!おい、しっかりしろ!何で諦めた!」
「ぼ、僕は……後悔してないよ。例え……例え……僕の人生が、ダムラカの全てだとしても」
そう言うと懐から白い羽をあしらった高価そうなペンダントを取り出す。そしてペンダントのスイッチを押すとホログラムの映像が映し出される。
「これが……ダムラカ、なんだ」
ホログラムには緑豊かな山々が映し出されていた。近くには綺麗な水が流れる川があり青い空には鳥が羽ばたき飛んでいた。そして遠くには別荘が映し出されていた。
そして場面が少しだけ変わり若い夫婦の姿と赤ん坊が現れた。
「祖父母に……なる筈だった、人達だよ」
「ならこの赤ん坊がアデス大将か」
「……君は、何でも知ってるんだね」
「知ってる事だけさ」
そして場面は別荘内に移り、最後に再び緑豊かな景色が映し出される。
「僕の人生は……ダムラカだった。この映像が、全てなんだ。この景色を、一度で良いから……見てみたかったがはっ」
「バーグス中尉……」
「はあ、はあ、意味が無い事なんて……最初から知ってたよ。けど……諦めたく無かった。なあ、キサラギ軍曹。僕は……間違ってただろうか?見た事も、触れた事も、そこに足を着けた事も無い場所に……思いを寄せ続ける事は。唯の愚かな者だろうか?」
もうバーグス中尉は長くはない。手で押さえてはいるが血は止まらないし多分心臓にもダメージがある。呼吸ももう満足には出来ないだろう。
俺は静かに目を閉じてから再び目を開けていつもの表情にする。
「間違ってないさ。少なくとも俺より立派な生き方だよ。それに此処までずっと故郷の為に頑張って来たんだろ?なら、胸張って行けよ」
「キサラギ軍曹……ありがとう。ようやく認められた気がするよ」
「ならあっちに行ったら親父さんに文句の一つや二つ言って来いよ。きっと感動して男泣きしながら聞いてくれるさ」
「ふ、ふふ……そうだね。そうするよ」
そしてバーグス中尉は再びペンダントからホログラムの映像を出す。繰り返される映像を見ながらバーグス中尉は徐々に力が抜けて行く。
「そろそろ……行くよ」
「そっか。向こうに行ったら良い戦友が見送ってくれたって自慢して来い」
「うん、そう……する……よ」
バーグス中尉の身体から力が失われた。俺はペンダントの位置を直してから立ち上がる。
「さてと。オペ子、ハンカチあるか?」
「え?ええ、ありますけど」
「貸して。後で洗って返すから」
「いえ、返さなくて結構です」
俺はオペ子からハンカチを貰い血塗れの手を拭く。そしてリリアーナ姫の元へ行く。
だが護衛の連中が此方に銃口を向けるのは勘弁願いたいのだがな。
「おいおい、俺は勲章貰いに来たんだぜ?態々汚れない様に手だって拭いたってのによ。ほら、さっさと下ろせっての」
「如何致しましょうか?」
「銃を下ろせ」
「ハッ!」
豪華な軍服を着た女性の命令により銃を下げる衛兵達。そして此方を見ながら問い掛ける。
「いつから気付いていた。答えなさい」
「遂さっき……て言ったら信じるのかな?」
「答えるつもりは無いと言う事かしら?」
「聞けば何でも答えが聞けると本気で思ってるのか?アンタ軍人だろ。情報部に聞いて来いよ」
「……」
無言の睨みを無視しながらリリアーナ姫が持っている勲章入りの小箱を貰う。
「そうだ。バーグス中尉なんだが。もう少しだけ、あのままにしといて貰って良いですかな?」
「あのままに……ですか?」
「ああ。せめて故郷の映像を胸に焼き付かせてやりたいんだ。無理なら無理で構わないけど」
「いえ、大丈夫です」
こうして俺の勲章授与式は終わった。最後はバーグス中尉のお見送りになってしまったが仕方ないだろう。
結局、選んだのは彼自身なのだから。
勲章授与式から二日後。今度はクリスティーナ大尉以下活躍した部隊の表彰式が行われた。バーグス中尉の件があったにも関わらず表彰式を強行したのは意外だった。恐らく近衛部隊が何らかの形で関わってるのかも知れない。
もしくは此処で有る程度の安全を示したかったのかも知れないが。
無論大々的に行われる事では無かったが、それなりに華やかな形になった。何せ近衛部隊によるしっかりとした演出に豪華絢爛な食事など。此処が軍艦内だとは誰も信じられないだろう。
「これ美味えな。あ、この海老っぽいのも堪んねえな」
「そうですね。あ、このお肉も美味しいです」
「ネロも食うか?て、お前は食えねえか」
「はい。残念ながら私には食事を食べると言った飲食機能はありません」
「そいつは残念だぜ。いやー、しかしこんな豪華な食事に有り付けるとはね」
「社長は良いとしても私は完全にお溢れを預かってるだけですが」
「別に良いんじゃねえの。それより青椒肉絲もあるじゃん。良いね良いね。盛り上がってくるぜ」
周りを無視しながら静かに丁寧に沢山食べながら食事を楽しんでいた。因みに俺とオペ子はスマイルドッグの軍服みたいな制服に身を包んでいる。
無論周りの目は多少はある物の気にしない事にした。それより美味しい料理の方が魅力的なのだ。
そんな時だった。若干周りが騒がしくなったので其方に視線を向ける。
「おぉ、流石ブラットフィールド家の御令嬢達だ。軍服姿も何とも美しい」
「然も准将と少佐になられたのだろう?いやはや二人共、実に素晴らしい方々だ」
「それに姉のセシリア准将はご結婚も決まってるとか。折角准将になったにも関わらず軍を抜けてしまうのかも知れませんな」
「だがクリスティーナ少佐も敵艦隊に突入した英雄だ。恐らくお見合いの話も多数来るでしょうな」
人混みに紛れて良く見えないので目の前の料理に集中する事にした。
「貴方も英雄願望などあるのですか?」
「なあオペ子、俺に英雄願望があるならとっくの昔に傭兵辞めて軍に入ってるよ」
「言われてみれば確かに。貴方にあるのは自殺願望ですか」
「そうそう。俺にあるのは自殺願望て、何でやねん。精々快楽主義が良い所だろ」
「因みにですが、あの時何故バーグス中尉を勧誘したのですか?彼がどういった人物かは知っていたのでしょう?」
「空っぽになった奴は惰性で生きる。それは生きるとは言えない」
俺は静かに食器を下ろしオペ子を見る。オペ子も察したのか食べるのを止めた。
「いや口の中に入ってるのは食べて良いんだよ」
「し、失礼しました」
そして水の入ったコップを渡して話を続ける。
「俺は惰性や諦めの中生きている連中を腐る程見てきた。そういった連中の行き着く先は大抵碌でもない場所に行き着く」
幼少の頃を思い出す。人権を持たぬ者達にとって一日生きるのも精一杯。だがある日、突然力が抜けてしまいそのまま死んで行く連中もいる。
そんな連中が最後に行き着く場所は大抵身体を売っていた。もしくは物乞いで日々を過ごす事だけだ。他に何かをする訳でも無い。唯、虚無を見続けて生きて行く。
「バーグス中尉はイケメンだ。間違いなく色んな連中に狙われるだろう。ならそうなる前にスマイルドッグに入って貰って、イケメンに寄って来る女の一人や二人くらいお溢れ頂戴出来たら良いなあって思ってたんだ」
「最後の話は唯のモテない男の思考ではありませんか。真面目に聞いた私が馬鹿でした」
「俺だってモテたいんだよ。可愛い女の子とイチャつきたいんだよ。察しろよ」
「はいはい、頑張って下さい」
「ならばマスターの為に私が可愛い女の子になりましょう」
「ネロ……大丈夫だから。俺大丈夫だから」
「良かったですね。自分好みのセクサロイド作れる口実が出来て」
「喧しいわ。作るにしても戦闘用も付け加えるよ」
結局の所、バーグス中尉は救えなかった。もし過去に戻れるならと思う。
(いや無いわ。自分から死を選んだ奴だ。態々過去に行くのも手間だし)
精々あの世でこんなにも美味しい料理が食べれなかった事を悔やむが良いさ。
そんな事を考えながら食事を再開すると誰かしらの気配を感じたので振り返る。するとセシリア准将とクリスティーナ少佐が居た。
「セシリア准将殿、クリスティーナ少佐殿、昇進おめでとうございます」
「おめでとうございますセシリア准将、クリスティーナ少佐」
「おめでとうございます」
俺とネロとオペ子は敬礼しながら賛辞を言う。ネロは敬礼出来ないって?心の中はいつでもプライスレスさ!
「ありがとう。其方の方は?」
「スマイルドッグ所属、戦艦グラーフのオペレーターのナナイ・ササキ軍曹です」
「知ってるとは思うが私はセシリア・ブラットフィールド准将だ」
そしてセシリア准将は此方を見ながら少々残念そう表情を浮かべる。
「バーグス中尉の件は残念だったな。だが貴様には最後まで助けられた。姫様を救った事、改めて礼を言おう」
「お気になさらず。まあ上手くは行きませんでしたがね」
「仕方あるまい。貴様は最善を尽くした。そして我等エルフの王族でもあるリリアーナ様を救ったのだ。だから誇れ」
「個人的には勲章を貰えただけでも儲け物ですがね」
セシリア准将は近くにいたボーイからワインを貰い一口飲む。
「因みにだが本国に戻れば少佐にも同じ勲章が授与される」
「そんなに珍しい勲章では無さそうですね」
「そんな事は無い。平時では貰う機会は殆どないからな。それに今の時代は昔に比べて平和な物だ」
「流石長い年月を生きてるエルフなだけはありますな!まさに年の功と言うやつですな!」
「私に対して年齢の事でからかえば特別に女性への正しい扱い方を教えてやろう。無論二人っきりでな」
二人っきりと言う割には全然色っぽさが無いのは如何なものかと思う。
こんな感じにセシリア准将と話してるとオペ子とクリスティーナ少佐の話も盛り上がってる様子だった。
「へぇ、昔からキサラギ軍曹は変わってないの?」
「ええ。階級も本来なら中尉になっていても可笑しくは無い程の実績もあるんですが。何故か階級を上げないんです」
「そうなの?」
「他にも社長に悪戯したり他のメンバーを煽って勝負を仕掛けてはご飯のオカズを巻き上げたり」
「私もこの前一週間分のデザート全部取られたわ……」
「ごめんなさい」
「良いのよ。貴女が謝る必要は無いから」
向こうも楽しそうにお喋りをしていて何よりだ。
こうして身内での細やかなパーティは終わりを迎えた。クリスティーナ少佐とはそれ程話す事は無かったがこんな物だと思っている。
所詮俺は傭兵だ。次の戦場ではお互いが敵同士の可能性は充分にあるのだから。
ダムラカとの停戦協定後、ある一つの惑星がテラフォーミングされた。場所はエルフの管轄内の宙域の一番端の位置。惑星カルヴァータから一番遠い場所になる。
その惑星の名前はウィリアムと命名された。そしてウィリアムの近くにはブラックボールが浮かんでいる。
この惑星の名前の由来は最後まで故郷を憂いた青年に対し、敬意を表する形で決まったらしい。
その後、惑星ウィリアムにはエルフの管轄する惑星群との公平な貿易が開始されたとか。無論惑星ウィリアムを防衛する為に自衛艦隊も設立された。
一体何故この様な異例な事が起きたのか。それは最後まで抗い続けた者達の行動が報われたのかも知れない。
だが真実など、どうでも良いのだ。今は唯惑星ウィリアムを見守るブラックボールが今尚存在している。
それだけで充分なのだから。
はい。一度此処で区切ります。
沢山の方々の感想による応援、アドバイス、誤字報告など本当に有難うございます。この場を借りて改めてお礼を書かせて頂きます。
実はですね。当初はランキング入りとか読者の事は余り意識してませんでした。理由は精々千人くらいが読んで来て一緒に盛り上がれば良いやの気持ちでした。
そしてこの小説を書いた切っ掛けも大した物ではありません。
フロム成分が不足してたんです。だから自己生産して補充した。
そして自己生産を始めたのも、とある女王陛下が目元を隠しお菓子を片手に言ったのです!
「フロムが無ければ自分で作れば良いじゃない」モグモグ
そんな軽い感じで始めたこの小説。故にタイトルも適当なのも納得でしょう。そして初期設定も雑なのも納得でしょう。
ですが1ヶ月ほどでPVが百万人超えた辺りで「あ、これヤベェかも」と思いました(*'ω'*)
更に感想ではラジオで聞いてみたいとか書籍化とか映像化とか色々有り難い事も書いて頂きました。軽い気持ちだとしてもやる気に繋がりました(^^)
結果自分と同じ様なフロム成分不足患者が現れてきました。そんな人達と盛り上がれば良かったのです。
それでも他のロボ好きの人達にも読んで頂いたり、Twitterや他のサイトでも宣伝して頂いたりと。
最初はこんな理由で始めました。でも今はもう少し煮詰めたいと思っています。
暫く更新は止まります。ですが、その間にもストックは書き続けたいと思っております。一応伏線も作ってますからね。彼女とは?アイツとは?主人公の過去は?
また次の更新の時にお会い出来る事を楽しみにしています。
改めてIII count Dead Endを読んで頂き有難うございます。
そして、この小説を気に入って頂けたら評価して頂けたら幸いです。
それでは〜(・ω・)ノシ
次回【OELM】