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スマイルドッグ

 折角の興奮も高揚感も今では興醒めも良い所だとしか言えない状況だ。原因は何か?間違い無く今追いかけて来てる無粋な連中以外居ないだろう。

 尤も文句の一つや二つを言った所で意味が無いのは分かる。だがそれでも文句は言いたいのが人と言う生き物だ。


「後からギャーギャーと煩えな!そんなにジャンが大事なら縛って監禁でもしとけやボケェ!」

【そのつもりだから安心しなさい。でもね、坊やは私の大切な人を】

「はいはいその話はさっきから聞いてるよー。と言うか良い加減に逃してくれませんかねえ?」

【それも無理よ。貴方は間違いなくジャンの心に居続けるもの】

「いや、それは勘弁だわ。野郎の心に残り居続けるとかめっちゃ萎えるんだけど」


 最初は回収ポイントへ向かっていたのだが未だに寝こけてる眠り姫(ポンコツエルフ)を思い出したので急遽別ルートへと離脱している。

 だがジェーンとか言うダークエルフの美女なんだが、ジャン大好きと言いながら俺に対し殺気バリバリに出しながら追いかけて来る訳だ。

 正直そろそろ面倒臭くなって来たのも仕方ないだろう。

 俺は機体の速度を若干緩めながら武装と推進剤とダメージレポートを確認する。

 武装は左腕部に装備してるパイルバンカーと小型シールドと12.5ミリマシンガンのみ。

 被弾した場所は背中の左に追加されたブースターと右腕部。それから右脚部の反応も少し怪しい所がある。今の所背中のブースターは稼働してるが長引かせるのは良くないだろう。


「まあ何とかなるか。よし潰そう」


 機体のSIM機動を行いながら反転。ジェーンの操るスパイダーと対峙する。


【ようやく殺される気になったかしら?】

「その台詞そっくりそのまま返すぜ。テメェがどんな理由であれ俺を殺すってんなら……」


 一気にブースターを吹かしスパイダーに接近する。


「先にぶっ殺してやるよ。安心しな。ジャンにはお悔やみ申し上げますと言っといてやるからな」

【満足に武装も無いのに私に勝つつもり?フフ、その度胸だけは買ってあげる】

「年増ババァに買われても嬉しく無いわ」

【……今何て言ったかしら?】

「年増ババァに買われても嬉しく無いわって言ったんだよダークエルフのババァ!」


 そう言った瞬間向こうは肩に搭載されてる散弾砲と手持ちのビームライフルを乱射しながら突っ込んで来る。


【私はまだ三百入ってないわよ!】

「人間的に言えば充分ババァなんだよ!大体そんなにキレまくってたら目尻と眉間に皺が出来ちゃうぜ?」

【絶対に許さない。坊やは女の天敵よ!】

「肌年齢は幾つですか?まさか三百代に入ってます?喜べ、今度高価な化粧水を送ってやるよ!」

【ガーディ!艦砲射撃で援護しなさい!】

【アイアイ姐さん!サラガンに向けてぶちかませ!】

「援護要請するとかマジ切れやん。めっちゃウケる」


 数少ないデブリを使いながら回避機動を取る。無論ジャンとの戦闘で受けたダメージが徐々に機体に出始めてるのも事実だ。


(時間は少ない。幸い今の所この女一人だけだ。一応ジャンの女だから出来るだけ殺すのはやめといた方が良いか?でないと後から面倒臭いだろうし)


 唯、戦場なら不幸な事故は付き物だ。その時は諦めて欲しいのも事実だ。


「死んでも悪く思うなよ。精々、年甲斐無くはしゃいだ自分を恨みな」

【教育がなってない様ね。なら私が教育し直してあげる!】

「生憎教育はもう遠い過去でしか受けてねえからな。それに今更、道徳の授業は勘弁願いたいぜ」


 僅かな隙を探しながら接近戦を仕掛けようとするも、ジェーンの戦い方は意外にも堅実的だ。

 此方に射撃武器が無いのを知っているのかビームライフルを主軸に牽制に散弾砲を放ってくる。散弾砲は近〜中距離には中々の威力があるので容易に近付けないのだ。


「こりゃ無理だな。それに推進剤の残量が大分不味い」


 此方の挑発に殆ど食い付かないのも痛いが推進剤も15%を切っている。サラガン改なら何とかなると思ったが少々自信過剰になってたか。


「チッ、興奮し過ぎたか。これじゃあ冷静さを失って死んだ連中と大差ねえな」


 更に悪い事に戦艦ガーディも近付いて来ているのだ。


【よし野郎ども。相手はあのラッキーボーイのキサラギだ。もし奴を鹵獲出来れば特別ボーナスを進呈しよう】

【【【【ウオオオオ‼︎】】】】

【流石団長!太っ腹だぜ!】

【カスタム機だが何だから知らねえが特別ボーナスは俺様が頂くぜ!】

【因みにキサラギの近くにはジェーンがいる。然もキレた状態でな。まあ無闇に刺激しない事はお勧めするぜ】

【マジっすか団長。だが特別ボーナスはデカい。間違い無くデカい】

【だろうな。然も団長直々の特別ボーナスだ。その分危険だがやる価値はあるぜ】

【ジャン大佐に認められた実力者かも知んねえけど。俺達相手にどれだけ粘れるか】


 更に戦艦ガーディから多数のAWの出撃を確認。


「ヤバいな……これ以上は無理か。離脱する」


 最早オープン通信を繋げる理由も無いので切りながらファング1に通信を繋げる。


「ファング1起きてるか?おい、返事しろ」

『スゥ……スゥ……』

「寝てんじゃねえよ!さっさと起きろ!起!き!ろ!」

『駄目よ……まだ、結婚前だし……』

「こ、この!ポンコツエルフ!何が結婚前だ!結婚する前に男を見つけるんだな!畜生!」


 最早ポンコツエルフは使えないと判断。ならばと思い味方艦隊と通信を試みる。


「緊急事態だ!シルバーセレブラムの連中に襲撃されてる!至急増援を送れ!」

『此方……ビオン……一度繰り返……』

「だから!回収ポイント付近にも敵が居るんだよ!」

『通信状……悪い……もう一度…………せ……』

「クソったれが!このポンコツ通信機が!今度最新のやつ買ってやらあ!」


 兎に角今は回避に専念する。だが流石はシルバーセレブラムの傭兵共だ。練度と連携がそこら辺の宙賊や正規軍とは違う。正に実戦で磨かれた技量と言える。


「推進剤残量10%を切りました。直ちに離脱して下さい」

「分かってるさ。けど艦砲が鬱陶しい。そして狙撃っ!の機体も居るのか」


 このままではジリ貧。もしくはデルタセイバーでも囮にすれば僅かな時間は稼げるだろう。そう考えたが一瞬だけクリスティーナ大尉(ポンコツエルフ)の寝顔が浮かんだ。


「チッ、此処までか。ジャンの部下なら投降しても殺されはしないだろう……多分、きっと、恐らく」


 機体の速度を緩めようとした時だった。前方に複数のワープ反応が現れる。


「おい、此処で敵の増援だと?あ、これ本気で不味いやつだ」


 そしてワープから現れたのは戦艦一隻、駆逐艦五隻、フリゲート艦五隻の艦隊。更に艦隊にはあるエンブレムマークが付いていたのだ。

 笑顔のブルドッグが銃器を持ちながら葉巻を吸ってるコミカルなエンブレムマーク。いや企業マークと言うべきか。


「スマイルドッグ?え?マジでスマイルドッグじゃん」


 俺は慌ててスマイルドッグの戦艦グラーフに通信を繋げる。


『此方傭兵企業スマイルドッグ。戦艦グラーフです』

「オペ子!マジでオペ子じゃん!何々?俺を助けに来てくれたパターン?」

『社長、馬鹿者(キサラギ軍曹)を発見しました』

「オペ子?オペ子が馬鹿者って言った!」

『通信を代われ。この馬鹿者が。勝手に命令違反をしおって』

「いや、まあねえ?でもほら退職届は出したじゃん?だから……その、さ」

『退職届か……。儂はそんな物を受け取ってはおらん。そもそも退職届は自分の手で直接渡す物だ。それを見ず知らずの者に託すとは』


 受け取ってるじゃんと口に出かかったが社長なりに何か考えがあるのだろう。それに今この状況で下手な事言って反転されたら洒墜にならないし。


「取り敢えず助けてくれると凄く嬉しいんだけど」

『安心しろ。儂はお前にたっぷりと言いたい事を言いながら説教をせんといかんからな』

「えぇ……それはちょっと」

『艦隊反転。直ちにこの宙域より離脱』

「分かったよ!今回だけは大人しく説教受けるよ!」

『ふん分かれば良いのだ。分かればな』


 俺は肩を落としながら溜息を吐いてしまう。何故なら社長の説教は長く正論が続く為反論出来ないからだ。


『戦艦ガーディ、及びAW部隊に対し牽制射撃。墜とす必要は無い。追い払えれば充分だ』


 そしてスマイルドッグ艦隊から砲撃が開始される。


【畜生!後少しで特別ボーナスだってのに!】

【どうする?まさか増援が来るなんて】

【だが向こうは撃ってる。やり返すべきだ!】


 回避機動を取りながらも此方に接近しようとする傭兵共。だがそれも直ぐに終わる事になる。


【はい全員撤収。直ちにガーディに帰還する様に】

【団長!マジですか!連中俺達に撃ってるんですよ!】

【そうですぜ。何機か墜ちて、墜ちて……あれ?誰も墜ちてねえ】

【連中は俺達とヤル気ねえよ。分かったらサッサと引き上げるぞ。それにエルフの増援もいつ来るか分かんねえし】

【で、でもよう団長】


 ジャン大佐の命令に渋るのも数名いる。だがそんな数名に冷徹な言葉を投げ掛ける。


【ああ、そうなんだ。俺様の命令が聞けないのか。それならそれで構いやしねえよ。好きにしな。これより命令に従う者を収容後、現宙域を離脱する。急げよ】


 その言葉を聞いて愚図ってる連中も慌てながら戦艦ガーディに帰還する。そしてあっという間に宙域から離脱を開始する。

 そして戦艦ガーディが離脱する前にジャンから通信が入る。


【次会う時を楽しみにしてる。俺も機体も更に強くなるからな】

「今でも充分な機体持ってるじゃねえか。あ、スパイダー要らないなら俺に……行っちゃった」


 言うだけ言ってワープして行くジャンと戦艦ガーディ。どうやらようやく肩の力を抜いても良さそうだ。


「はあぁぁ……マジで疲れたあぁぁ。あ、この後説教か。ああぁぁ……休みたい」


 俺は肩をガックリと落としながら戦艦グラーフに帰還するのだった。


「あ、そうだ。このポイントにデルタセイバー放置してるんだった。今から行ってくれ」


 ついでにクリスティーナ大尉とデルタセイバーの回収も行いエルフェンフィールド艦隊と合流を果たすのだった。





 戦艦グラーフに帰還し機体を固定しコクピットから出る。見慣れた格納庫を見てようやく一息付けれると感じる。

 そしてデルタセイバーの方に視線を向けるとコクピットの前で待機してる衛生兵達が居た。


「何かあったのか?」

「コクピットが開けれないんです。多分情報漏洩を防ぐ為だと思うのですが」

「ふぅん。まあ連中も馬鹿では無いって訳か。ならさっさと回収して貰うかコードでも教えて貰うしか無いわな。あ、そうだ。ダメ元でネロに試してもらうか」

「最善を尽くします」

「あ、それ一応出来るんですね」

「安かったんだけどな。まあラッキーと思っとけ」

「そうですか。ならお願いします」


 物は試しと思いながらネロにコードを接続する。


「ネロ、無理だと判断したら直ぐに止めろよ。お前が壊れたら俺の相棒が居なくなっちまうからな」

「勿論です。私はまだマスターと共に過ごしたいと感じております」

「お前……女だったらちょっと惚れてたやも」


 そしてネロにハッキングをして貰い一分が経過。


「申し訳ありません。防衛プロトコルが固く解除出来ませんでした」

「良いんだよ。気にしなくても大丈夫さ。お前は良く頑張った。さ、部屋に帰って休憩休憩っと」


 俺はネロを連れてさっさと部屋に戻る事にした。そんな俺を信じられないと言わんばかりに見てくる周りの連中。いやだってさ開かないものは仕方ないじゃん?なら本職の連中かエルフ共に任せた方が良いじゃん。

 俺は口笛を吹きながら社長室に向かう。一応この後に色々話が有るだろうからね。勿論説教もあるだろうがな。


 この時誰も気付かなかったがクリスティーナ大尉は目覚めていた事。そしてどうしても今はデルタセイバーのコクピットから出る訳には行かなかったのだった。





(な、ななななんで出れないのー⁉︎別に平気じゃない。普通に出て会えば良いじゃない。なんで出来ないのよー⁉︎)


 クリスティーナ大尉は頭を抱えて悶えていた。何故かアイツの姿を見たら胸の高鳴りが激しくなったのだ。理由は予想はついてる。

 だてに増幅と言うギフトと共に人生を歩んで来た訳ではない。だがそれが何故こうなったのかは分からなかったが。


「平気よ。私は平気よ。普通に接して、普通に話して……普通に……手を繋いで……普通に、あれ?何か違う気が」


 元々憎からず思っていたが、それがまさか此処まで増幅されるとは予想外だったのだろう。

 こうしてクリスティーナ大尉はアイツが格納庫から出て行っても暫くコクピットの中に引き篭もっていたのだった。





「ヘックショイ!ふう、スッキリしたぜ」

「スッキリしたでは無い!せめて手で隠せ!何故儂に向けてクシャミをする!この馬鹿者が!」

「いやいやー、たかが傭兵一人の為に態々戦場に来る社長よりかは馬鹿じゃありませんよ。あ、そうだ。社長の為に沢山の湿布買っといたから」

「要らんわ馬鹿者ー‼︎」


 暫く社長室から怒鳴り声と笑い声が聞こえていたのは別の話である。尤もこの話は当事者だけが知るだけで充分なのだが。

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