戦いを続ける者達
感想が200行きました。
全然返信出来なくてごめんなしゃい。それでも内容は読ませて頂いてますので。
それはまるで宇宙に舞う雪景色だった。当事者達でなければ見惚れてしまっていただろう不思議な光景。
そして時間が経つにつれて白い物は自然に消えて行く。その頃にはダムラカの将兵達の大半が戦意消失していた。
「ブラックボールの重力磁場の消失を確認。転換装置の破壊に成功しました」
「そうか。ダムラカ艦隊もこれ以上の戦闘はもう無理だろう」
オープン通信から聞こえるのは誰かしらの泣き声。それだけで充分だとセシリア大佐は判断したのだ。
その判断をした時だった。敵戦艦ビクトワーヌから通信が入る。
【此方ダムラカ艦隊指揮官、ダグス・アルテマ大佐であります。本時刻をもって我々はエルフェンフィールド軍に対し降伏する】
「此方エルフェンフィールド艦隊指揮官、セシリア・ブラットフィールド大佐だ。そちらの降伏勧告を受理する。直ちに機関を停止し武装解除せよ」
【了解しました。それから部下達に寛大な処置を何卒お願いします。勝手な事だとは理解しております。ですが、どうか……】
ダグス大佐はそう言うと深々と頭を下げる。それに対しセシリア大佐はリリアーナ姫を軽く見る。リリアーナ姫はただ静かに頷くのだった。
「ダムラカの将兵達に関しては宇宙国際条約に則った形で処理します。ですが此方の方で多少の緩和的処置もされるでしょう」
【そうですか。ありがとうございます。直ちに機関を停止します。それでは失礼します】
ダグス大佐は敬礼して通信が切れる。そしてセシリア大佐は深呼吸を一つ吐いて帽子のツバを掴み位置を整える。
「そう言えばクリス……ファング1とトリガー5の回収に艦を差し向けろ。いつ迄も待ち惚けは可哀想だからな」
「確かにそうですね。それにクリスティーナ大尉はイストリアの破壊に貢献してましたからね」
「間違いなく勲章物ですよ。凄いですよね。クリスティーナ大尉は我が軍が誇るエースパイロットですよ」
オペレーター達がクリスティーナ大尉の功績話を楽しそうに話す。その話を聞いてるセシリア大佐も満更では無い表情をする。
「今度クリスと一緒にご飯でも食べに行くか。では回収ポイントに向け艦隊を派遣しろ。まだ抵抗勢力は有る可能性は高い。気を緩めるな」
停戦に近い状況になったが、未だに戦闘を続けようとする輩は何処にでも居るものだ。
そう何処にでも居るのだ。戦闘狂と呼ばれる傭兵共は。
ダムラカ艦隊との決着がほぼついた中、今だに戦闘を続けてる奴等が居た。
一人は赤と黒のツートンカラーのサラガン改に乗るキサラギ軍曹。もう一人は銀色のスパイダーに乗りビット兵器を多彩に操り攻撃を続けるジャン大佐。
この二人にとって最初からダムラカもエルフもカルヴァータ王家も関係無かったのだ。
【ハッハァ‼︎楽しいなあ!そう思うだろキサラギ!】
ビームマシンガンで此方に向けて乱射するスパイダー。更にビットを展開し一気に囲んで来る。
「楽しいのは同意だな。後はお前を倒してハッピーエンドに突入すれば尚の事最高なんだがな!」
ビットに対し60ミリショットガンを撃ちまくる。散弾だからこそ高速で動きまくるビット兵器の対処には持って来いの銃器だからな。
「態々お前の為にショットガンなんて普段使わない銃器持って来てやったんだ。感謝しな!」
【ハッ!最初から俺と戦う気があったってか?嬉しいじゃねえか!ええ、おい!】
「当たり前だ。ダムラカの連中を相手するなんざ、至極どうだって良いんだよ。一番厄介なのがお前なんだからな!」
最後のミサイルをスパイダーに向けて放ちミサイルポッドをパージする。無論スパイダーのステルス機能と高機動故にあっさりと回避される。
だがそれで構わない。その間にビットを更に二つ破壊出来たのだからな。
「そろそろビットの数が減ってきたんじゃないか?さっきまでの勢いが無くなってるぜ!」
【抜かせ!最初からビットを優先してた癖によ!】
「なら来いよ!叩き潰してやらあ!」
弾切れになったショットガンを放棄してビームガンを構える。それに対しビームマシンガンを構えながら六個のビットを展開するジャン大佐。
【俺はなキサラギ。正直驚いてるんだぜ?まさかサラガンの改造機で此処まで劇的に変わるなんてよ】
「だから何だよ。今更命乞いなんざ無駄だぜ。もう此処で決着付けるって俺は決めたからな」
【ツレねえな。まあ仕方ねえか。なら此処で決めるか】
「ああ、決めようぜ。俺とお前、何方が生き残るかをよ」
僅かに漂うデブリの中睨み合う。そして同時に動いた瞬間再びビームが飛び交う戦場に変わる。
「こういう本気の戦いってやつはさ、そう簡単に出来るもんじゃねえよな」
【何だ突然。雑談でもしようってか?】
「俺は雑魚相手に無双するのも悪くないとも思うんだよ。だがな、俺が本当に求めてるのは今の戦いなんだ。分かるか?ジャン。いやお前なら分かる筈だ。俺達は今、本気で戦ってるんだって」
ビームガンでスパイダーに向けて乱射する。スパイダーからも反撃のビームマシンガンの嵐が襲って来る。更に四方八方からもビットから放たれるビームが迫る。
だが全て紙一重で回避する。俺にとってたかが六個程度のビットに囲まれた位では問題にならないのだ。
「こんな戦いをやるからこそAW乗りになった甲斐が有ると言うもの。他の連中の思想も思惑も如何だって良い。今この瞬間に命張ってるって事が全てだ!」
【キサラギ……お前】
「俺達は傭兵だ。クソみてえな戦争屋だ。誰からも忌み嫌われ周りに迷惑を掛けまくるクソったれの存在だ。だからこそ、だからこそ!この戦場で己自身の存在を吼えるんだよ!俺は、俺達は此処に居ると!」
【ハ、ハハ……何だよソレ】
「ソレが俺には必要なんだ!憧れの存在で有り続ける為にもなあ‼︎」
【やっぱりお前……狂ってるぜ。誰よりも最高に狂ってるぜえええ‼︎】
「ジャアアアアアン‼︎」
【キサラギイイイイ‼︎】
再び機動戦に突入する二人。スパイダーの機動性に平然と食い付くサラガン改に更に口元に笑みを浮かべるジャン大佐。
【最高だぜキサラギ‼︎やっぱりお前って奴は本当に最高な奴だぜ‼︎】
「お前もな!だが最後に勝つのは俺だ‼︎」
【抜かせ‼︎】
ビームガンとビームマシンガンの攻撃が同時に放たれる。そして次の瞬間に互いの射撃武器が被弾し爆発する前に放棄する。
ビームガンとビームマシンガンが爆発したのと同時にプラズマサーベルを抜き互いに接近戦に縺れ込む。
【そう簡単に来させるかよぉ!ビットォ!】
「鬱陶しい攻撃をチマチマやりやがって!」
【何とでも言え!使えるモンは何でも使うのが俺の信条なんだよ!】
「気が合うな。俺もその信条持ってるよ!」
再びビットが展開されるもスパイダーとの距離は絶対に離す訳には行かない。此処で離されたら、もう食い付く事は困難だろう。
だから俺は自身のギフトを全力で使う。常に三秒先を見続けビットとジャンの攻撃を晒し、受け流し、距離を縮める。
(お前のギフトは強えよ。技量も合わさって今まで出会った中でも別格だ。だがなジャン、お前は……三秒先の殺気を感じる事は出来るか?)
そして最初で最後の決死の一撃を狙う。ビットからの攻撃をシールドで受けながらプラズマサーベルを振り被る。
「これで決まりだ!」
【馬鹿が!もう先は決まってんだよ‼︎】
俺が振るったプラズマサーベルを持つ右腕にビットから放たれたビームが直撃。そして破壊された右腕とプラズマサーベルが目の前に来る。
「今だ!」
俺はプラズマサーベルに向けて12.5ミリマシンガンを撃つ。そして運良くプラズマサーベルに当たりサーベル内に入っていたエネルギーが爆発する。
【何ぃ⁉︎】
「じゃあな、ジャン」
そして小型シールドの裏に隠してるパイルバンカーを構える。何か感じたのか咄嗟にスパイダーの右腕を前に出す。
だが俺はそのままスパイダーの右腕ごとパイルバンカーを穿つ。そしてパイルバンカーから杭の部分がスパイダーの右腕を貫きコクピットを打ち抜くのだった。
静寂。先程まであった戦闘が嘘みたいに静まり返る宇宙。唯、俺自身の荒い呼吸だけがコクピットに響いている。
「はあ、はあ、はあ……やった……のか?」
パイルバンカーは確かにスパイダーのコクピットを貫いた。だがまだ生きてると感じたのだ。
「おい、聞こえてんだろ。死んでたら返事しろよ」
【ケッ……死んでたら返事なんざ出来るかよボケが 】
あの一撃を受けても生きてるとは悪運が強いと言うべきなのだろうか。
「様式美だよ。察しろよなー。全く、これだから最近の若い奴わー」
【煩えよ。何だよそのイラッとする言い方。はあ……全く、俺は負けたのか】
モニターには音声しか聞こえなかったがピンピンしてるのは分かった。だから煽る事にした。
「いやー、まさか量産機の改造機にやられる新鋭機とはねー。これはサラガンが軍用機になっちゃうのかな?かな?あ、違うかー。スパイダーが悪いんじゃない。パイロットが悪いんだ!」
【テメッ‼︎この野郎‼︎もう一戦だ‼︎今直ぐやるぞ‼︎】
「アッハッハッ!負け犬の吠える声は聞いてて気持ちが良いのう!のう!」
【クソったれが‼︎】
俺は今の内にジャンをトコトン弄る事にした。何故ならどうせ暫く会う事は無いだろうからな。
だが人生とは上手く行かないらしい。
「八時方向より高速で接近する機影を確認」
「何?機種は」
「識別照合。YZD-23スパイダーです」
「え?マジで……」
「更に戦艦ガーディを確認。直ちに離脱する事をお勧めします」
「言われなくとも離脱するさ。じゃあな、ジャン大佐。後でヤケ酒でも楽しんでくれや!ウッヒャッヒャッヒャ!」
【ぜってえに許さねえからな‼︎キサラギイイイイ‼︎】
「バイキュー」
そしてジャンの機体からパイルバンカーを抜きながら適当にスパイダーを蹴り飛ばして離脱する。
だがもう一機のスパイダーが此方を追尾し始める。と言うか艦砲射撃も来るんですけど。
「おい巫山戯んな!さっさとジャンの回収して介抱してやれよ。仲間だろ?」
【ジャンを傷付けた…………ない】
「あん?何だって?」
【絶対に許さない】
モニターに映し出されたのはダークエルフだ。だがその目のハイライトが消えて濁ってる風にしか見えない。
「怖っ……え?ジャンの奴ヤンデレが趣味なのかよ。いやヤンデレ自体は鑑賞するのは良いんだが関わるのはちょっと……ねえ?」
【逃がさない。此処で殺す】
「おい、ジャン何とかしろよ。とどめ刺さなかったんだから借り返せ。今返せ。今直ぐ返せ」
【さぁてな。俺は今からヤケ酒を飲まねえといけねえからな】
「巫山戯んな!テメェの女だろうが!」
【そうなったジェーンは色々厄介だからな。まあなんだ。頑張れ。じゃあな】
「おい、待てよ。おい!クソったれ。マジであの女殺しに来てんじゃん!」
真っ直ぐに此方に迫るスパイダー。正直スパイダーの顔も厳ついし、四つのセンサーアイも相まって中々の迫力がある。更にジェーン自身から殺気なら何やらが駄々漏れだから余計に怖い。
と言うかスパイダー自身から負のオーラが滲み出てるんすけど。
「だ、誰か助けてー‼︎」
俺はサラガン改を加速させながら逃げに徹したのだった。