憧れの存在
味方艦隊からの一斉射撃と共にサラガン改を一気に加速させダムラカ艦隊に突っ込んで行く。今まで以上の激しいビームによる応酬が繰り広げられる。
「リミッター解除。ファング1、着いて来いよ!」
『しっかりレディをエスコートしてよね!行くわよ!』
リミッターを解除したサラガン改の加速が一気に増してダムラカ艦隊に突っ込む。レーダーを確認すると多数の味方艦からデコイミサイルが発射されているのが確認出来た。
前方を注視すると敵AW部隊が回避機動を取りながらミサイルの迎撃を行っていた。
「通行料だ。取っとけ」
敵機に対しビームガンで狙い撃つ。敵もこの状況で突っ込んで来るのは予想していただろう。だがまさかこんなにも早くとは思わなかった筈だ。
敵サラガンはビームが数発当たり爆散。その爆煙に隠れる様に軌道を取りながら機体を動かす。
【此方カーチス1、敵AW二機が抜けた!速過ぎて俺達では追撃は無理だ!】
【スチル1了解した。スチル中隊、お客さんが来るぞ】
【この状況で突っ込んで来るとか頭可笑しいぜ!】
【へ、だが俺達も大概狂ってるよ】
【違いない。行くぞ!迎撃だ!】
艦隊防衛機動部隊と思われる敵AW部隊と防空戦闘用のMW部隊が迎え撃つ。
「その程度の弾幕で止められると思われてるとはね。随分と舐められた物だ。ファング1、露払いはするから一気に抜けるぞ」
『了解。本当、此処まで来れるなんて』
敵の弾幕を回避しながらビームガンを乱射。それと同時に邪魔な敵機に対しミサイルを撃ち込みながら追い払う。
「このまま下方十度!そのまま下に抜ける!三秒後に敵艦がこっちに気付くぞ!」
そして三秒後に敵フリゲート艦から多数のミサイルが放たれる。
「ミサイル多数接近中。ジャミングプログラム起動します」
「ナイスだ!一気にフリゲート艦の側を抜ける!」
止まる事無く敵艦隊に突入する。敵艦隊は此方に気付き始めて迎撃をしようとするが味方との誤射を恐れて上手く出来ていない。それでも艦隊からの弾幕は此方に躊躇無く襲い掛かってくる。
だがそれでも俺はこの状況を楽しんでいた。
「凄え!凄えよ!こんな弾幕の中を駆け抜ける事になるなんてな!俺はこういう機体を待ってたんだよ‼︎」
そして俺は自分が思っていた以上にサラガン改を気に入っている事に気が付いた。
例え一部装備が付けれなくなったとしても、ワンオフ機でなくとも。俺は確かにサラガン改に夢中になっていたのだ。
そして何より操作感覚はZC-04サラガン同様殆ど変わりは無いのだ。乗り馴れたサラガンの操作性をそのままに高性能化したサラガン改。
この時はまだ気付かなかったが相性は抜群に良かったのだ。
「うっひょおう!このままフィナーレと洒落込もうぜ!あ、ファング1着いて来れる?」
『当たり、前よ!』
「そいつは良い返事だ。もう少しでイストリアの正面に取り付ける!そこから一発デカイのぶちかましてやれ!」
俺とクリスティーナ大尉はスピードを緩める事をせず敵艦隊の合間を抜けて行く。流石デルタセイバーのパイロットなだけあって度胸も腕前も確かだ。
俺?勿論クリスティーナ大尉より上さ!何故なら。
「俺がスーパーエースだからだ!」
「流石ですマスター」
傭兵団のシルバーセレブラムの傭兵共はある程度引いた場所で戦線を維持していた。そして戦艦ガーディを主軸とした駆逐艦隊は適度に味方の援護射撃を行っていた。
「もう押されてんのかよ。あーあ、巡洋艦喰われてやんの」
戦艦ガーディの艦長席にのんびりと座って状況を見ているのは団長ことジャン・ギュール大佐だ。
「馬鹿だなあ。奴さんの駆逐艦は性能が高いんだって知ってるだろうが。そんなの相手に突出するとか有り得ねえわ」
脚を組み頬杖しながら欠伸をする。そして酒の入ったボトルを一口飲む。
「ん?何だこれ?」
「どうした。誰か墜ちたのか?全く、無理はするなと言っただろうが」
「いえ、違います。高速でダムラカ艦隊の中を移動している機影が二機あります」
「何?識別は」
「一機は例の機体、デルタセイバーです。もう一機の識別信号はZC-04サラガンと出ていますが速度が速すぎます」
「映像を出せ」
「了解。映像出します」
映像に写し出されたのは二機のAW。一機は既に確認済みのデルタセイバー。そしてもう一機は赤と黒のツートンカラーのサラガン。いやサラガンの改造機だ。
本来ならサラガンの改造機とは言えデルタセイバーに追従するのは難しいだろう。にも関わらずデルタセイバーの前を行き、ダムラカ艦隊の合間を縦横無尽に駆け抜けて行く。
そんな二機を見ていたジャンの表情が徐々に楽しそうになる。
「おいおいおいおい!誰だよ。誰だよあんな馬鹿な事が出来る奴はよお!デルタセイバーには興味ねえけどよ。何だよアレ。何であんな奴が居んの?あのサラガンと戦ったらマジで楽しそうじゃねえか!」
ジャンはそのまま艦長席から立ち上がり艦橋から出て行こうとする。
「俺の機体を今すぐ出せるようにしろ!大至急だ!それからジェーンと他の連中に無理すんなって再度言っとけ。良いな」
後は口笛を吹きながら出撃準備に入って行く。彼の表情はとても楽しそうであった。
今この瞬間、俺は非常に興奮し楽しんでいる。
次の瞬間には死ぬかも知れない戦場。ビームが飛び交いミサイルが追尾して来る。対空砲が弾幕を作り敵AWが此方に襲い掛かる。
そんな光景が三秒後に……いや、現在進行形で見えていた。そうなると三秒先を見通してたとしても、結局紙一重で避ける他無くなるのだ。
今までだったら程々に戦って適度に楽しむ。え?程々では無い?細けえ事は気にすんなよ。禿げたくねえだろ。そして生きて帰還し報酬を貰う。傭兵なら当たり前の事だろう。なら今の俺の状況はどうだ?
もし過去の俺。つまり二十一世紀頃の俺が今の俺の姿を見たらどう反応するだろうか?
分からない?いや、そんな事は無い。答えは簡単だ。
“憧れだ”
俺自身がそう言うんだ。間違いない。生活環境で若干の価値視は変わってるのは認める。だが根本的な部分はそう簡単には変わらない。特に人間の本質なんてな。
だから確信して言える。いや、言わざるを得ないのだ。平凡な日常の中で眠っていた本質。そして現実の物として触れられる距離にある“憧れ”の存在。
きっと最初はほんの些細な事だったのだろう。アニメか漫画の影響を強く受けたのだけなのだ。
“ロボットが好き”“人型兵器が好き”“軍事兵器が好き”
この感情こそが今の俺の全てだ。だからこそ俺は今、非常に充実して……
「る訳ねえだろうが!誰だよ!連中の戦力が補充されて無いとか言った馬鹿野郎は!あ、俺だわ畜生!」
今までの回想をこれでもかと言わんばかりに蹴飛ばしながら愚痴を吐き出しまくる。まあ楽しい事には間違いないから良いんだが。
『ボヤかないの。それに後もう少しよトリガー5!私もあと少しで行けるわ!』
「そうかい!そいつは邪魔だこの野郎!えっと、何だ?良かったな!」
目の前でマシンガンをこちらに向けて乱射していたMWにビームガンで黙らせながら先に進む。
そして超級戦艦イストリアを遂に捉える。
だが簡単には行かせては貰えない。ダムラカ艦隊とてイストリアを守ろうとするのは当たり前だ。
【イストリアに近付く敵機に対し砲撃を開始しろ……何?誤射など恐れるな!】
【艦を盾にするんだ!ぶつけてでも止めろ!】
【迎撃機は何している!足止めを行え!】
【こいつら頭ん中狂ってるのか?我々の艦隊の中を此処まで抜けて来るとは】
一隻の巡洋艦と二隻の駆逐艦がビームを撃ちながらイストリアの前に立ち塞がる。それと同時に近くにいるAWやMWまでもが寄って来る始末だ。
「流石の俺も超級戦艦に挑むとか人生初体験だぜ。だが逆に燃える展開なのはちげえねえわな!」
『そうね。もしかしたら勲章くらい貰えるんじゃない?』
「そいつは軍人の特権だよ!ついでに死ねば二階級特進と名誉も手に入るぜ!」
『残念だけど私はエリート街道にいるの。だから態々二階級特進とか必要ないのよ』
「そうかい。ならさっさと目の前の巡洋艦を抜けてイストリアに行くぞ!」
『此処まで来て墜とされないでよ!』
「誰に向かって言ってやがる。ネロ答えてやれ!」
「スーパーエースです」
巡洋艦と駆逐艦から放たれるビームとミサイルを掻い潜る。無論簡単に抜けられる物では無い。ダムラカとて決死の覚悟で此方を撃墜しようとしてくる。
【正面から来るか。一発でも良い。確実に当てろ】
【敵機尚も接近中。此処で止めなくてはイストリアに取り付かれるぞ】
【サラガンは無視して構わん!もう一機の方を集中して攻撃しろ!撃てえ!】
弾幕が展開されるものの全て回避される。それどころか手薄になったサラガン改からの攻撃より激しくなる。
「ヒィヤッハア!俺を除け者にすんなよ!寂しいじゃねえか!」
【しまっ!ヒギィ⁉︎】
【邪魔をするな!】
「そりゃこっちの台詞だ!」
【ああ!火が中に⁉︎】
「俺の撃墜スコアを稼がせて貰って感謝するぜ!テメェらの死は無駄にはしねえよ。俺の昇進の糧になるんだかな!アッハッハッ!」
【き、貴様ああああ‼︎】
しかしオープン通信で散々煽られてダムラカの兵士達はデルタセイバーを狙うのを疎かにしてしまう。その隙に巡洋艦に一気に接近するデルタセイバー。
「ファング1、幸運を祈るぜ」
『キサラギ軍曹……くっ、後をお願い』
俺はクリスティーナ大尉に対する返事の代わりにウィンクを一つして機体を反転させる。そして一気に急上昇させて敵部隊を引き付ける。
「俺の為に華持たせてくれよな!」
【各機!奴を撃墜するぞ!】
【まて、先ずはイストリアに接近している機体を破壊するんだ!】
【あれだけコケにされて黙ってられるか!行かせてくれ!】
「逝かせてやるよ。俺が直々になあ!」
【そう簡単にやられッ⁉︎な、何い⁉︎】
「はい一機撃墜。次逝こうか」
流れ作業の様に敵機を撃破する。今尚敵に囲まれてる状況だが俺にとっては決して不利な状況では無かった。
(いやはやギフト様々だぜ。先が読めるからビームを一、二発当てれば簡単に撃墜だ。要は先が見えるシューティングゲームみたいなものだな)
サラガン改の高い機動性と運動性。そして高出力の軍用ジェネレーター。この二つが組み合わさった結果AW、MW、戦闘機相手なら無双に近い。
「こういう展開を待ってたんだよ」
【速い!囲みきれないぞ!】
敵機の集団の中を突き進み目の前のマドックに狙いを付ける。
「圧倒的な力で相手を捩じ伏せる快感」
【当たれ!当たれええ!何故攻撃が当たらない!何故避けられる!】
マドックが乱射する45ミリの弾を避けてビームガンで反撃し撃墜する。
「相手を寄せ付けない存在」
【うわあああ!来るな来るなあああ⁉︎】
サラガンが背後を見せながら後退する。だが簡単に追い付きガラ空きの背中にビームを当てる。
「憧れの存在に」
【振り切れない!誰か!あっ⁉︎】
ビームがプラズマジェネレーターに直撃したのだろう。サラガンは一瞬で爆散する。
「本当のエースに」
【モニカの仇だあああ‼︎死ねえええ‼︎】
爆煙の中を抜けるとサーベルを片手に襲い掛かるサラガン。
「彼女にとっての憧れであり続ける為に」
【モニカ……俺は……何も……出来な】
プラズマサーベルを展開し擦れ違いざまにサラガンのコクピットを切り裂く。そして時間を置いて爆散する。
「俺はエースになる必要が有るんだよ」
【ば、化け物】
化け物と呟いたダムラカのパイロットが最後に見た光景。それは赤と黒のサラガン改がプラズマサーベルを展開しモニター画面に一杯に迫る姿だった。




