無事撤退
銃声と爆発音が戦場を奏でる。戦車の持つ155ミリ砲が敵機を狙うが逆にビームに貫かれ爆散。攻撃ヘリのチャンパーが空中戦を仕掛けるが機動力が、違い過ぎてしまいアッサリ叩き墜とされる。
施設に設置してある対空ビーム砲とミサイルが敵機を狙うが、建物を盾にして防いで行く。更に高い機動力を駆使してユニオンの私兵と傭兵を翻弄して行く。
『は、速過ぎる。照準が追いきれねぇ!』
『弾幕を張れ!兎に角近づかせんじゃねえぞ!傭兵共!さっさと前に出るんだよ!』
『五月蝿ぇよ!クソの役にも立たねぇ癖に偉そうにほざくんじゃねえ!」
そんな中一機の重装甲の機体が地下ハンガーから現れる。ユニオン企業の持つAWの一つ【TZK-9ギガント】だ。分厚い正面装甲と四脚の前方に搭載されたコレまた分厚いシールド。両腕は35ミリガトリング砲を装備。両肩に十二連装ミサイルポッドを装備。更に30センチキャノン砲を一門装備している。
『情けねぇ連中だぜ。お前ら、此処は俺に任せな。その綺麗な装甲をズタズタのバラバラにしてやるぜ!序でにエルフが女なら俺のモンにしてやらぁ!』
ギガントから多数のミサイルと35ミリの弾丸が敵機に襲い掛かる。そのお返しと言わんばかりにビームが反撃されるが分厚いシールドによって防がれる。
『へっへっへ、そんな攻撃効かねぇんだよ!』
更にギガントが装備している30センチキャノン砲が火を噴き敵機を狙う。だが敵機は回避して建物の陰に隠れてしまう。
『よっしゃー!追い込め追い込め!アイツさえ倒せば勝つんだからよ!』
ギガントが更に砲撃を加える。ギガントの火力に続けと言わんばかりに戦車とビーム砲台から攻撃が加えられる。
これが通常のAWだったらグラサン掛けて勝ったなと言っても良いんだけどな。
「ふっ、勝ったな」
この時、司令官は勝ちを確信して呟いたとか何とか。
そして案の定と言うべきだろうか。レーダーを確認すると爆煙に包まれた場所には敵機の反応がある。爆煙越しでも生きているのが分かるのだが、何故か敵機は蒼い光に包まれていた。
無傷でだ。
「あら嫌だ。アレって主人公とかヒロインの奴がピンチになったら使える何かよく分からない凄い装置が作動してるパティーンじゃん」
自身の精神と呼応する兵器ってやつ?あー、やだやだ。そんなスーパーな兵器を戦争に持ち込むんじゃ無いよ!全く。
『ば、馬鹿な。無傷……だと?』
『ざけんな!くたばれえええ‼︎』
近距離戦の距離で30センチキャノン砲が火を噴く。だが敵機を包む蒼い光はその砲撃を防いでしまう。そして敵機の持つビームライフルから高エネルギーを探知する。
この時、ギフトを使い三秒先の未来を視た瞬間、俺はサラガンを出来る限り跳躍させた。
そして三秒後にビームライフルから凄まじいビームの嵐が味方のAWと戦車、更に施設を巻き込み破壊して行く。凄まじいビーム火力が通り過ぎた場所をレーダーで確認すれば、味方の反応は殆ど無かった。
「うわぁ……これ被害甚大じゃん。寧ろ壊滅だな」
サラガンを着地させてアサルトライフルを敵機に向ける。そして敵機がこちらを視認した瞬間、再び悪夢みたいな光景が視えてしまう。
「チィ!マジかよ。俺が相手にすんのかよ。司令部、コッチは壊滅状態だ。そろそろ撤退させて貰うよっと、あぶねー」
さっきまで居た場所にビームが走る。一応45ミリアサルトライフルで反撃はするが空高く飛ばれて回避される。
それでも未来を視ながら空を飛ぶ敵AWに向けて応戦し続ける。しかし、再び凄まじいビーム攻撃が視えたので慌ててブースターを使い回避機動を取りつつ地下通路に退避する。
「うへぇ、あんなの相手にするとかヤバすぎ。いやはや、ギフト様々ですな」
俺の持つギフトは【三秒先の未来視】だ。日常生活では大して役に立たないギフトだが、戦場では結構役に立つ。歩兵時代だった頃は本当に役に立ち続けてくれた。
たかが三秒されど三秒ってやつだ。
「司令部応答せよ。司令部!畜生、さっきから返事がねぇな。逃げたか?だったらこっちもズラかるってなもんよ」
45ミリアサルトライフルで牽制射撃をしながら後退。そしてブースターを一気に使い通路内を移動する。このまま施設の裏側に行けば輸送機くらいはある筈だ。しかし通路を移動してる際にも爆音と振動は続いていた。
自動防御装置が起動しているのか、ユニオンの私兵共が頑張ってるかのどちらかだ。尤も、私兵共に忠誠心があるかどうかは知らんがな。
通路内を移動してようやく裏側に到着した。輸送機とチャンパーが数機待機してある。俺はサラガンを輸送機の上に移動させ固定させ機体から降りる。そのまま輸送機に乗り込みシステムを起動させる。
「こんな時に役に立つのがハッキング装置ってね。ササッと終わらせて、こんなクソみたいな場所からおさらばってな!」
そして輸送機をハッキングして機体を起動させる。しかしエンジンが中々掛からない。
「おいおい、こんな時にそんなシチュエーションは要らねぇんだよ。さっさと掛かれっての」
そして輸送機のエンジンが起動。そのまま輸送機を上昇させて一気に離脱を開始する。
その時、上から敵機が現れる未来が視える。輸送機を左に動かしながら敵機から距離を取ろうとする。しかし敵機は容赦無くこちらにビームライフルを向ける。
「嘘だろ!勘弁してくれよ!」
輸送機が撃破される未来視が確定したので速攻で脱出装置を起動。脱出装置によりコクピットから椅子が射出される。それから直ぐにビームが輸送機に直撃。輸送機は炎と黒煙を上げながら墜落したのだった。
「あー、サラガン壊しちゃった。これ弁償せんとアカンのかな?」
パラシュートによりゆっくりと地面に向かって降りる。そして地面に降りた時、敵機が直ぐ近くに着地した。
《そこの傭兵に聞くわ。私達の同族は何処に居るの?答えなさい》
敵機のスピーカーから女の声が聞こえる。どうやらパイロットは女性らしい。それにしても同族か。つまりユニオンは手を出したらダメなヤツに手を出した訳だ。クソッタレめ。お陰様でこっちは完全にトバッチリじゃねーか。
「同族は知らん。俺はスマイルドッグ所属の傭兵だ。ユニオンからは施設警備として雇われてるに過ぎん。後から本社に聞いても構わん。俺はアンタの同族とやらとは無関係だ」
《……嘘はついてないようね。良いわ。今回は命だけは見逃してあげる。代わりに今すぐ失せなさい》
「Yes,ma'am!」
敵機はそのまま別の場所に移動する。どうやら本当に見逃してくれる様だ。今日はある意味運が良い。俺は待機中のユニオンのマドックに乗り込み機体を動かす。
「流石、中流企業なだけあってシステムの立ち上げが速いな。サラガンはジェネレーターの立ち上がりがイマイチだったし」
どうやらスマイルドッグ保有のサラガンよりユニオン保有のマドックの方が内部機関とOSが優秀な様だ。そのままマドックを輸送機に移動させようとする。しかし再び振動が走る。今度のは中々に大きい振動だ。
「何だ?採掘現場になんかあるのか?」
振動と共に再び爆発が起きる。気になるが余計な場所に首を突っ込めば巻き込まれるのは必須だ。
「という訳でさいなら〜。後はユニオンの頑張りに期待しよう」
元はと言えばユニオンのミスが起こした事だ。自分のケツは自分で拭って当然だ。俺はそのまま輸送機を起動させてスマイルドッグ本社との通信を繋げる。
「此方スマイルドッグ所属シュウ・キサラギ軍曹。IDナンバーN-67834。繰り返す、こちらスマイルドッグ所属シュウ・キサラギ軍曹」
『こちらスマイルドッグ所属オペレーターのナナイです。キサラギ軍曹、ご無事で』
「ようオペ子。何とか生きて脱出出来たよ。取り敢えず帰還座標を送ってくれ。因みに今は輸送機とマドックに搭乗してる」
『サラガンは如何されました?因みに私はオペ子ではなくナナイです。』
「敵機に輸送機ごと撃破されたよ。それと他の連中は消息不明だ。生きてたらユニオンの方から連絡が来るだろう。まぁ、殆ど戦死してるだろうがな。後オペ子はオペ子だろ。それで問題ねぇよ」
『了解しました。それでは帰還座標を送ります。後、私はオペ子ではありません。ナナイです』
「頼む。それじゃあ宜しくなオペ子。通信終了……はぁ、やってらんねー」
今回ユニオンがやらかした件。傭兵企業であるスマイルドッグ一つだけの損失だったら間違い無く僅かな損害賠償を請求して泣き寝入りするしかないだろう。
だが他の企業所属の傭兵もいた。そして俺が知り得た情報を伝えれば間違い無く傭兵企業はユニオンに対し強気に出るだろう。
「いつまで経っても人は争い続けるもんだな」
いや今は人だけじゃなくエルフや獣人に映画の様なエイリアンも居るし、果てには人造人間までいる始末だ。
恐らく次は大規模な戦闘になるだろうと予想しながら輸送機を自動操縦に切り替えて目を瞑るのだった。