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付き合ってやるさ

沢山の感想、誤字報告有難うございます。更にレビューも頂けました。改めて有難うございます(^^)

 数時間後にはダムラカ艦隊との全面対決になる。俺はその時までに自分の機体の様子を何度か見に行っていたが、見に行くたびに機体がバラバラになってるのは何とも言えない気持ちになった。

 更に戦闘データの回収だと言う理由でネロが没収されたりと悲しい事もあったが、無事に機体は組み上がり目の前に鎮座していた。


「ふぅん。正面から見ると普通のサラガンだな」

「ですが背面はかなりの改修が施されています」

「いやネロ、お前これ改修じゃねえだろ。寧ろ改造されてるよ。何だよあの背中の二つの大きいスラスターは。戦闘機じゃねえんだからさ。俺のサラガンは可変機に転職したんか?」


 〜改修したら可変機に転職しました〜。どっかの小説のタイトルでありそうだな。

 ネロから映し出されるホログラムを見ながら機体の感想を言うとだ。


「スッゲェ高機動型だな。脚部とかもスラスター追加されてんじゃん」

「はい。その通りです。改修の結果、宇宙装備は必要有りません。また一部の宇宙装備や空戦装備が取り付け不可能な状態になっております」

「ダメじゃん。それめっちゃダメなやつじゃん」

「ご安心下さい。背中に追加された大型スラスターの可動範囲が広い為、通常の宇宙装備よりも高い運動性を確保。またプラズマジェネレーターも軍用の物を改修し出力強化された物を使用しております。更に大型スラスターにより高い機動性も獲得しています。また武装は従来通りに装着可能です」

「でも継戦時間とか短いんでしょう?」

「そちらも問題有りません。元々拡張性の高いサラガンです。更に訓練機だった事も幸いしており更に余剰スペースが残されておりました。結果として余剰スペースを全て使い継戦時間は確保しております」

「まあ良いけどさ。所で脱出装置はどうなってるか分かる?」

「廃棄しました。元々マスターの戦闘スタイルは高機動型による高速戦闘です。故に脱出装置は不要と判断しました」

「そっかぁ……因みに誰がそれ提案したん?やっぱりあのクソ整備兵共か」

「いえ、最終的には私です。今迄の実戦データから計算しマスターなら問題無いと判断致しました」

「そっかぁ……死ぬ時はお前も道連れだからな。絶対に逃がしゃしねえよ」

「何処までもお供します」


 ネロと会話を楽しみながらふと気が付いた事がある。あのサラガンは元々訓練機だった。つまり結構中身の老朽化は激しかったのでは無かっただろうか。

 操作してる時には特にエラーも無かったから問題無いと思っていたが。その事をネロに聞くと中々興味深い話が聞けた。


「OSこそ旧バージョンでしたがそれ以外はしっかりと整備されていました。恐らく訓練機時代からも丹念に整備されていたかと」

「へえ、ちょっと意外だな。普通に古い機体だから老朽化で細かい所とかダメだと思ってたよ。特に訓練機だったし」

「いえ、訓練機だったからこそ丹念に整備されていたと推測します。恐らく訓練生による事故死の確率を少しでも減らしたかったかと。それからダムラカ又はセクタルに保有されていた時は実戦を経験していませんでした」

「成る程な。訓練機からの一気に高機動型にジョブチェンジかよ。こいつ成り上がってんな」


 そう思いながらサラガンを見上げる。やはり正面から見ると普通のサラガンだけど。

 だがもう一つ気になる所がある。


「何で赤と黒のツートンカラーなの?俺カラーに関しては頼んで無いよな」

「クリスティーナ大尉からの要望です」

「何してんのあの乙女エルフ」

「恐らく自機のカラーリングに合わせたかったのだと推測します」

「乙女エルフからポンコツエルフにジョブチェンジしたいの?」

「不明です」


 とは言うものの自機の改修が間に合ったのは良かった。然も無料でかなりの改造を施して貰ってる訳だからテンションは上がる訳だ。


「これで俺のサクセスストーリーが幕を開ける訳だ。階級もいつまでも軍曹止まりじゃ格好つかねぇからな」


 それから整備班長から改修したサラガンに付いて説明を聞く。殆どネロが言っていたのと変わらないが一応しっかりと聞いておく。


「実戦までには間に合ったがテストは出来なかった。シミュレーター上では問題は無かったが実際に動かさなければ出てこないエラーもあるだろう」

「テストは実戦でやるさ。それよりペダルやレバーの調整が先だな。後シミュレーターで操作出来るか?」

「可能だ。コクピットから直接出来る様にしている」

「完璧だな。なら早速やるぞ。もう時間も無いしな。ネロは補助に徹しろ」

「了解です」


 ダムラカ艦隊との戦いまで残り時間は多くは無い。それまでに出来る事は全てやる必要がある。特に高機動型になったサラガンの操作感覚だけでもしっかりと覚える必要はある。

 久々に初心に近い高揚感を胸に抱きながらコクピット内に入る。システムを立ち上げながら首の骨を軽く鳴らしながら操縦レバーを握り締める。


「改造機だろうが何だろうが乗りこなしてやるさ」


 モニターに映る宇宙空間に集中しながら機体を一気に加速させるのだった。






 ダムラカ艦隊との開戦前に最後のブリーフィングが始まる。今回はちゃんと前もって席に着いたのでビリッケツになる事は無かった。


「諸君待たせたな。これより最終ブリーフィングを始める」


 セシリア大佐とリリアーナ姫が入室したので敬礼する。そして答礼を貰い席に座る様に指示が出る。


「現在我々はダムラカ艦隊が集結しているポイントに向かっている。奴等は大規模消失が起きた場所に集結したまま移動などはしていない。恐らく我々が来るのを待っているのだろう」

「態々敵陣に向けて突っ込むのかよ。ハハ、良い的になりそうだぜ」

「本来なら本国からの増援を待つ予定だったのだが変えざるを得なかった」


 スクリーンに映し出されたはのは黒いタコ焼きこと圧縮されたであろう惑星群の塊。そして中央にマーカーが付き説明が入る。


「この小惑星規模の物をブラックボールと仮称する。このブラックボールの中央には今尚重力転換装置が機能し続けているのだ」


 セシリア大佐がそう言った瞬間周りが騒つく。だが騒つくのは仕方ないだろう。つまり今の今までずっと重力転換装置は機能し続けていると言う訳だ。

 そして最悪なのは大規模消失の二の舞が起きる可能性が高いと言う訳だ。


「畜生マジかよ。こんな事ならもっとクレジット要求するべきだったぜ」

「そっちの心配かい?」

「当たり前だろ。どうせベネットに居ても巻き込まれる可能性は高いしな。だったらもっとクレジットを貰って勝てば問題ねぇんだよ」


 ピンチとチャンスは同じ様な物だしな。そして再びセシリア大佐から説明が入る。


「本来ならブラックボールは自然とバラバラになる筈だった。だが重力転換装置の核となる部分が生きていた為にこの形になっているのだ」

「その核とは何ですか?」

「それはコレだ」


 スクリーンに映し出されたのは魔法陣だか魔術式だった。いや、だから此処でファンタジー要素は要らねえんだよ。


「此処からは私が説明致します。この魔術式は私が重力転換装置の制御用に作成しました。この魔術式はまだ機械的技術での制御が不十分だった為です。その為私が魔術式による仮の制御を作ったのです」

「質問。何故魔術式が生きてると判断したので?出来ればお馬鹿な俺にも分かる様に説明してくれると助かりますが」

「先程もセシリア大佐がおっしゃりましたが本来なら塊になる事は有りません。何故なら制御装置が無くなればそれで終わりますから」

「分かった様な気がする。つまり塊になってるから生きてると判断したと?」

「そうです。それからブラックボールが自然とですがゆっくりと回転しているのも一つの理由になります。よって私は魔術式と重力転換装置が生きてると判断致しました」


 リリアーナ姫は一度深呼吸をして再び説明に入る。


「重力転換装置が生きてると言う事は強い衝撃などは与えない方が良いでしょう。如何に魔術式が生きてるとは言え過剰な衝撃により暴走を制御出来なくなります。魔術式は万能ですが万能止まりなのです。よって私は早期に解決する為に、戦艦アルビレオに搭載している試作重力砲による一点集中砲撃による破壊を此処に立案致します」


 戦艦アルビレオの試作重力砲。恐らくユニオン艦隊に向けたあのエゲツない攻撃の事だろう。だがアレは球体で発射されてたから一点集中は難しいと思う。


「戦艦アルビレオの試作重力砲の制御は現段階でも完璧では有りません。ですので私が直接制御を行い試作重力砲のパフォーマンスを100%にします」

「大した自信だぜ。失敗すれば俺達は一瞬で死ぬだろうに」


 俺は小声で愚痴る。無論近くの奴等は睨んで来るので親指を下にして返事をする。その間に説明がセシリア大佐にシフトする。


「その為には敵超級戦艦イストリアの破壊は絶対だ。もしくは超級戦艦イストリアに搭載されている干渉装置の破壊だ」

「干渉装置?」

「これは先の戦闘での記録だ。アルビレオの重力砲の展開中に起きた瞬間だ。幸いまだ制御範囲内だったので良かったものの、最悪自滅する可能性が有った。この時イストリアからの干渉が確認されている。よってアルビレオの重力砲が使用出来る環境を作る必要があるのだ」

「質問。もしその干渉装置がブラックボールに向けられたらどうなります?」

「恐らくですが重力転換装置が再び不安定になり、魔術式の制御許容範囲を超えた瞬間ブラックボールが爆ぜるでしょう」

「その時に出る被害は?」

「圧縮され続けた物が放たれるので私達は高確率で全員死にます。また放たれた物が光速を超えるスピードで飛ばされますので、その……恐らくこの辺りの宙域に甚大な被害が出ます。迎撃をするにも確実に落とせるだけの物が必要になりますので」

「つまり最悪三大国家くらいの艦隊じゃねえと対処出来ねえ訳だ。何かテンション上がって来たわ」


 絶望的な状況だろうが、それを防いだ時の快感は堪らねえだろう。特にダムラカの思惑を潰すのは楽しいだろうしな。


「最初にも言ったが本来なら増援を待つのが良いだろう。だがこれ以上時間を掛ければダムラカ艦隊が移動する可能性は高い。また過剰な戦力投入はダムラカ艦隊を刺激してしまいブラックボールを危険に晒す可能性が高い。よって現戦力を以ってダムラカ艦隊との決着を付ける」


 力強く言うセシリア大佐だが実際は上手く行くとは限らない。そもそも超級戦艦イストリアにどうやって近付くのかと言うのだ。


「今作戦ではスピードが重要になる。超級戦艦イストリアのシールドを抜く方法は二つ。一つは実弾による波状攻撃だ」


 当たり前の事だ。艦船に付いてるシールドはビーム兵器には滅法強いが実弾兵器には無力に等しい。無論シールドを対実弾用に切り替えば良いだろうが変わりにビームの直撃を受ける事になる。

 それならば実弾の直撃の方がマシなのだ。被弾した被害も実弾の方がまだ対処し易い。何故なら高出力のビームだと装甲なんて簡単に貫かれてしまう。そしてそのまま機関室に直撃。そしてはい、さよならな訳だ。


「そしてもう一つが……デルタセイバーによる近距離射撃での破壊だ」

「マジかよ。あの乙女エルフが主人公エルフにジョブチェンジかよ。いやー、世の中どうなるか分かんねぇな」


 セシリア大佐の言葉に感心しながらクリスティーナ大尉を見る。すると意外な程……いや、意外でも無いか。普通に動揺していた。


「それからデルタセイバーの護衛の為に追従出来る機体を随伴させる。随伴可能機は高機動装備のスピアセイバー六機とトリガー5だ」

「おうちょっと待とうか。高機動装備のスピアセイバーは分かる。だが俺の機体はまだテストもしてねぇんだぜ?寧ろ実戦でテストする予定なんだよ。分かる?俺には予定が入ってんの」

「スペック上では貴様の機体程適した物はない。それに貴様の腕前も含めて決めた事だ」

「お、おう?今俺褒められたのか。マジかー、あの目付きヤバ過ぎのセシリア大佐から褒められるのは悪い気分じゃねえわな」

「貴様は後で私の部屋に来るように」

「んな睨まれながら言われても嬉しくないわ」


 セシリア大佐と目を合わせない様にしながら手を振って断る。そんな中此方をジッと見つめる存在がいた。


「なんですか大尉殿。まさかビビってるとか言わないですよね?」

「ビビってなんか無いわよ!唯、その……少し自信が無いだけで」

「はん!高性能機のデルタセイバーに乗ってるでしょう?どうしても無理なら俺がやってやるよ。今すぐデルタセイバーから降りて膝でも抱えてな」

「何よその言い方。貴方に何が分かるのよ!」

「知らねえし興味もねえよ。だが此処で逃げれば別の誰かがやるだけだ。それ以外に何もねえよ。もしくは最悪の展開になって全員お陀仏になるだけさ」


 反論は無かった。唯沈黙だけが部屋を満たしていた。

 だがそんな事を気にしてる暇は無い。何故ならもうダムラカ艦隊との戦いまで間近なのだ。


「まあ、此処まで来たんだ。大尉がやるってんなら付き合ってやるよ」

「……本当に?」

「そんな迷子みたいな視線を送られちまったらな。嫌でもやるしかないだろ?ほら、シャキッとしろよ。大尉だろ」

「大尉は関係無いわよ」

「俺より年上で尚且つ階級も上なんだ。気張って行けよ。因みに大尉て幾つなのさ」

「其処はリラックスじゃないの?それにいきなり女性に年齢を聞くなんてマナー違反よ」

「リラックスしろって言っても緊張すんだろ。それに今だけはマナー違反上等だよ」


 そう言うと少しだけ表情が柔らかくなるクリスティーナ大尉。その様子を見ていたセシリア大佐は頷きながら話を進める。


「突入部隊はこちらで選定する。無論自信が無い者は遠慮無く言って貰って構わん。だが先程もキサラギ軍曹が言っていたが最悪の展開になれば全員死ぬ事になるだろう」


 そして後の話は艦隊の配置や細かい話に移って行く。その間に端末に連絡が入る。誰からと思い見るとママからだった。そして中身をザッと見て直ぐに消去する。

 それから数時間後に遂に艦隊はワープに入るのだった。





 アデス・バングス大将は今年で九十を超える歳になっていた。そして最近よく夢に見るのはかつての別荘だった。

 小高い山々に囲まれた自然豊かな場所。近場には小川が流れておりとても綺麗な場所だった。別荘には祖父母と両親。そして妻と三人の子供達。

 だがあの日、全てが消えた。

 緑が豊かな場所も綺麗な水が流れる小川も。別荘も実家も財産も何もかもを失った。そして何より一番失いたくない家族全員が消えたのだ。

 准将だった頃、偶々国境警備艦隊の視察に赴いていた。そんな時だったのだ。全てを飲み込む黒い渦が現れたのは。

 そこから先の事はよく覚えてはいない。唯国境警備艦隊を率いて惑星ダムラカに向けて進路を取ったのは覚えている。そして其処で見つけたのだ……ダムラカを。

 あの当時に何が起きていたのは知っている。軍部が如何にエネルギー問題に苦悩していたのも知っていた。またエネルギー不足により市民達が苦慮していた事も。

 そして悪魔との契約を結んでしまった事も。


「詭弁だな」


 本当は知っている。噂で聞いてはいたが莫大なエネルギー装置を軍事利用しようとしていた事だ。だがそこにリリアーナ・カルヴァータの存在が無い事も。お姫様は最初に置いただけなのだ。悪魔の様な装置を。


「よりにもよって何故ダムラカだったのだ。他の惑星ならこんな事には」


 当時残っていた上官達は失意の上に老衰または自殺で死んだ。数少ない上官達が居なくなったお陰で簡単に大将の地位に就いた。無論張りぼての階級だとしてもだ。

 そしてパンドラの箱を開けたのは間違いなく我々だ。だがパンドラの箱を置いたのはリリアーナ・カルヴァータだ。それだけの事実があれば充分だ。


「閣下、緊急事態であります」

「何事だ」


 思考の途中に邪魔が入る。無論無視をする訳にも行かないので入室させる。


「失礼致します。エルフェンフィールド艦隊のワープを確認。目標は我が艦隊になります」

「そうか。敵の増援はどうか?」

「増援との合流の情報は有りません。しかし連邦艦隊が徐々に集結しつつありとの情報は有ります」

「ならば目の前の敵艦隊を叩く。全艦隊に第一種戦闘配置を通達せよ」

「了解しました!」


 若い部下からの敬礼を受けながら立ち上がる。これが最後になる。例え刺し違えたとしてもリリアーナ・カルヴァータだけは道連れにする。

 憎悪を胸に抱きながらアデス・バングス大将は超級戦艦イストリアの艦橋に向かうのだった。

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