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真実の価値

「話を戻しますが重力転換装置によりエネルギー不足の解消について学会で発表した後でした。様々な惑星の関係者の方々から連絡が来まして、その中には惑星ダムラカからもありました。勿論私は全てを断りました。あの装置は単純故に一歩間違えれば取り返しの付かない事になるのを知っていました」

「知っていた。知っていたにも関わらず教えたのですか?ダムラカはその事実を知らされて無かった!」


 バーグス中尉は声を上げてリリアーナ姫に問い掛ける。いや問い掛けるとは違う。どちらかと言えば糾弾に近いだろう。


「いいえ。私は確かに伝えました。まだ試作である事。ブラックボックスは絶対に弄らない事。そして兵器転用は絶対に避ける事。何故なら制御に関する場所には私の魔術式で補助してるのです。しかしそれは魔術式で補助してるに過ぎません。それを理解した上で彼等は約束し署名しました。今でも署名した書類は全て保管しています。尤も、それを信じる者達が居るかは疑問ですが」


 大規模消失事件は全てを消したのだ。それこそ関係者と呼べる連中だってリリアーナ姫を入れて何人残ってるだろうか。


「……では、何故ダムラカだけに技術提供をしたのですか?他の惑星からは全て断っていたのでしょうに」

「惑星ダムラカは慢性的なエネルギー不足に陥っていると聞きました。それ以外にも聞けば市民は常に困窮しているとも。私はこれを機に人間とエルフとの間により確かな架け橋が出来ればと思いました。勿論下心が無い訳ではありません。試作の重力転換装置ですからデータ取得の意味も有りました」

「そりゃそうだ。無料で渡したらそれこそ架け橋なんて無理だな。それでも聞いてる限りでは無料に近いけど」

「私はあくまでデータの取得を第一に考えさせて頂きました。そうしなければダムラカの市民達に多大な負荷を掛けるのは必然でしたから」


 話を聞いてる限り何ともまあ御人好しなお姫様だと思った。毎年人目を避けて慰霊に行くのもそうだし、ダムラカ市民に負担を掛けたく無いから名目上データ取得を行う実験台にもした訳だが。実質無料同然だろう。


「優しさが生んだ悲劇か。どっちにしろ救い様がねぇわな。然もその優しさが今回の誘拐事件を引き起こした訳だし」


 仮にリリアーナ姫の言ってる事が事実ならダムラカの連中が約束を破って転換装置を軍事利用したのだろう。若しくは魔術式に欠陥があったか。

 どちらにしろ惑星ダムラカと周辺の惑星群は無くなったのだ。仮に謝って済む問題でも無かったとしても当事者達が居ないのだからどうしようも無い。


「私は……唯、助けたかった。それだけなのです」


 リリアーナ姫は目を閉じて静かにそう呟く。だが、俺にはその呟きが泣いてる様に感じた。


「でもまあ、無事に帰って来れて良かったじゃねえか。俺達も無事任務完了した訳だし。後はお父さんとお母さんに怒られない様な言い訳でも考えてるんだな。頑張れ稀代の天才リリアーナ姫。君の無事を祈ろう」


 ウィンク一つかまして言ってやる。すると案の定リリアーナ姫の表情が引き攣る。あの表情が見れただけでも良しとしよう。


「セシリア、私どうしたら?」

「事実を有りのままに話した方が良いと思います」

「絶対に怒られます」

「どう頑張っても怒られるかと。少なくとも陛下達はリリアーナ様を心配しております」

「うぅ……どうすれば」


 そして何故か此方を見るリリアーナ姫。いや俺に振られても無理だぞ。


「何だよ。俺にどうしろと?まさか愛しい人役にでもなれってか?」

「馬鹿者。貴様にその様な役など存在しない」

「んじゃ何だよ。まさか言い訳でも考えろってか?それこそ無茶だぜ」

「仮にだ。貴様ならどう説明する?もし良い案を出したなら私個人からボーナスを与えよう」

「少し時間をくれ。真剣に考える」

「あ、私達も参加良いですか?」

「構わない。好きにしろ」


 俺は久々に真剣に怒られない言い訳を考える。大体今回の件は不明な点が多い。それこそリリアーナ姫しか知らない様な事柄も多数ある。ならそれを利用すれば良い。


「じゃあ俺から行くぜ。俺なら人助けをしてる最中に捕まったって感じに言うぜ。これなら多少はマシになる筈だ」


 アーロン大尉が至極真っ当な言い訳を考える。だが直ぐに嘘だとバレるのはNGだ。案の定セシリア大佐の表情はピクリとも動いてない。


「私なら買い物中に誘拐されちゃったとか?この辺りの限定のブランド物とか」


 女性ならではの言い訳を考え出すチュリー少尉。だがリリアーナ姫は王族だ。それこそ使用人に言えば数日後に自室に届いてる生活をしてる。つまりその言い訳ではダメだ。


「現地への視察に行った。何の理由かは自分で考えて貰う必要があるが」


 意外と良い線を言うミクニ少尉。これにはセシリア大佐とリリアーナ姫も頷く。


「素直にダムラカへの慰霊で良いと思います。何も隠す事では無いでしょう」


 バーグス中尉は至極真っ当な内容だ。だが行くなと言われて行ってたのだから普通に怒られるだろうけど。

 そして最後に俺の番になる。色々考えたが結局こんな考えに行き着いた。


「全部ダムラカの所為にすれば良い」

「全部だと?」

「そう全部。慰霊も誘拐も全部ダムラカが悪い事にする。全ての元凶をダムラカに押し付ければ皆幸せだ」

「キサラギ軍曹、それはどう言う意味だい?説明次第では僕は君を許さない」


 俺の意見にこれまで以上に怒りを露わにするバーグス中尉。そんなバーグス中尉の視線を少しだけ受け止めながら話を続ける。


「簡単な話だ。お姫様はダムラカの連中に脅された。そして致し方無く誘拐される羽目になった。それで良いじゃねえか。大体ダムラカなんて表向き何処にも無いんだぜ?無い所に全ての罪を被せればクレームも出ない。何たって惑星そのものが無いんだ。調べようがねえ」

「なら僕達が戦った相手は誰なんだ!答えてみろ!キサラギ軍曹!」

「うるせぇな。デカイ声出さなくても聞こえてるよ。亡国で非正規市民(ゴースト)な連中だ。つまり宙賊みたいな連中だな。ま、戦力そのものは正規軍顔負けだったけどな」

「彼等はゴーストでは」

「どう考えてもゴーストじゃねえか。あの環境で税金を払ってる様には見えないね。大体地球連邦統一政府に反逆した連中だ。それに亡国と化して周りに迷惑を掛け続ける。然も未だにあの宙域を根城にしてると来ている。揃いも揃って夢見過ぎなんだよ。いい加減現実見ろっての」


 そう言うとバーグス中尉は俺を思いっきり睨み付けてくる。だが事実なのは変わりはないので無視する。

 その様子を見ていたセシリア大佐は溜息を一つ吐いてから口にする。


「キサラギ軍曹の意見は少々過激が過ぎる」

「過激?ゴーストに対する風当たりを知らない訳が無いでしょう?使い捨ては当たり前。スケープゴートに使っても問題ない。良いデコイでしょうに」

「それでもだ。それに姫様はその意見には賛同していない」

「そうかい。そいつは残念だね」

「おい。お前はゴーストに何か恨みでもあんのか?」


 アーロン大尉が俺に聞いてくる。だから素直に教えてあげる事にした。


「恨みも何も無いよ。何たって俺は元非正規市民(ゴースト)だからな」


 自身の身元をあっさりと言い放つと数人が驚いた表情をする。

 そもそも非正規市民(ゴースト)とは何か。大半の連中は股の下かフラスコの中から生まれる。そして二週間以内に正規市民である親から役所で手続きを済ませれば晴れて正規市民となる。

 正規市民になれば公共施設の使用、学校、金融機関への使用など当たり前の物が使える。無論正規市民にも国によって変わるが何処も似た様な物だ。

 そしてゴーストはこれらの当たり前の物が全て使えない。人権も無ければ救いもない。唯生きてるだけの存在。生まれてくる環境が同じだとしてもだ。更に厄介なのが。


「良く一千万クレジットも貯めたわね。貴方十九歳でしょう?」

「まぁな。本当ラッキーだったよ」


 地球連邦統一、ガルディア帝国、銀河自由共和国のどの勢力も正規市民になるには一千万クレジットと同じ額が必要となる。唯、別勢力の正規市民なら多少の制限は掛かるが日常生活に於いては何一つとして不自由はしない。

 だが救済処置が無い訳では無い。それはギルドに入る事だ。各ギルドに登録するにも百万クレジットか正規市民からの推薦者三人が必要だ。その何方かをクリアすれば所属ギルドにある施設や備品関係に一部公共施設が使用出来る。

 無論各ギルドのノルマ達成も課せられるが安い物だ。尤も、ゴースト相手に推薦する酔狂な正規市民は居ないので必然的に百万クレジットを支払う事になるのだがな。


「俺はスタートダッシュが良かったからな。お陰様で地球連邦統一の正規市民になれたよ」

「ほう。だからラッキーボーイな訳か」

「それもあるが戦場でも生き残って来たからな」

「だからと言って簡単にゴーストを生贄にする理由は?」

「はん!簡単な事だ。それがゴーストだからだ。元ゴーストとして言わせて貰うなら死んだ連中は運が無かった。それだけさ」


 ゴーストを使った犯罪は腐る程ある。それだけゴーストは利用され易いのだ。

 だからゴーストは自身の身を守る為に犯罪に手を染める。それしか知らないからだ。


「技術や生活が豊かになっても根元は変わらねえよ」


 俺は昔を思い出しながら呟く。そして思い出したく無い愛した女が出て来たので首を軽く横に振るのだった。






 結局あの後は解散する事になった。リリアーナ姫から大規模消失事件の真相が明らかになった。最早全てがダムラカの暴走によって起きた事件と言っても過言では無いだろう。そう考えるとリリアーナ姫も結構巻き込まれた口になるのかも知れない。

 尤も本人が嘘を言ってる可能性も高いので俺は微塵も信じてはいない。せめてカケラくらいなら信じても良いかも知れんがな。

 因みに今艦隊は宇宙ステーションベルモットにいる。此処で艦隊は多少の補給を行っているからだ。

 そして俺達傭兵部隊は殆ど御役目御免な立場になっている。つまり適当な場所で降りても誰も文句は言わない訳だ。


「確かこっちだったな。そうそうあの店の角を曲がった先の裏通りの筈だ」

「本当にこんな場所にあんのか?」

「あるって。俺を信じろよ。間違いねえから」

「此処まで信じられない奴は見た事が無い」

「おう。胡散臭さじゃあMr.仮面がダントツだからな」

「それより早くママの所に案内してよ。ほらほらしっかり思い出して」


 俺は傭兵仲間達と一緒にM & Mに向かっていた。バーグス中尉も誘ったが用事があるとかで断られてしまったが。


「この道を真っ直ぐに行くと……あ、有ったぜ。彼処だ」


 俺達は開店前のM & Mのドアをノックする。すると中からママご本人が姿を見せる。


「あら!もしかしてアーちゃんにチュリーちゃんじゃない〜。久し振り元気してたん?」

「おうママ久し振りだな。そっちも相変わらず元気そうで何よりだぜ」

「久し振り!ねね、私ママのお酒が飲みたいわ。今からでも大丈夫?」

「勿論よ。貴方達なら大歓迎よん。それよりそっちの子は何方かしらん?」

「此奴はミクニ少尉だ。仮面被ってるのは仕様だから気にしなくて良いぜ」

「宜しくお願いします。仮面は訳有っての事ですので」

「あらそうなのん?お酒は飲めるかしら?」

「大丈夫です」

「なら良かったわ。ほら立ち話もなんだから入って入って」


 俺達はママに誘われるがままに店内に入るのだった。

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