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さらば俺専用ZM-05マドック

 リリアーナ・カルヴァータはコンテナの物陰に隠れていた。本来なら直ぐに見つかり再び監禁されていただろう。だが、今の風はリリアーナ姫に味方していた。


「おい、聞いたか?さっき装甲列車が破壊されたらしい」

「嘘だろ?なら何でもっと速く動かさないんだよ」

「自動操作が壊れたらしいんだ。今度、整備兵共に鉛弾をくれてやる」

「そいつは良い。俺も付き合うぜ」


 そして誰もが戦闘配置に付く為に行動に移る。


「おい、もう直ぐ仕事の時間だ。さっさと配置に付け」

「分かってる。だが、面白い状況になってると思わないか?」

「は?何が面白い状況だ」


 そこに現れたのは個性的なパイロットスーツに身を包む傭兵だった。


「この閉鎖空間で装甲列車を破壊した連中。そんな連中が徐々に近づいて来ている」

「だから早く戦闘準備に入れって言ってるんだ!」

「分かってると言っている。やれやれ、これから楽しめそうな状況だってのに。どいつもこいつもシケた面しやがって」


 苛立ちまじりの指示を受けるが、傭兵自身は気にする素振りも無い。


「閉鎖空間での戦闘なら俺の機体は火力を発揮出来る」


 傭兵は自機の足元に行き機体を見上げながら呟く。


「どんな奴が相手だろうと勝つのは俺だ。今までも、そしてこれからも」


 傭兵の呟きは誰にも聞かれる事は無い。傭兵の周りは慌ただしく戦闘配置に付こうとしてるのだから。





 リリアーナ姫を乗せた列車が遂に視界に入った。俺達はようやく此処まで来れたのだ。


『各機、此処が最後の正念場よ。姫様は間違い無くあの列車に乗ってる。各機の奮戦を期待します』

『『『『『了解!』』』』』


 クリスティーナ大尉からの激励を受けながら、俺はネロを回収しコクピット内に設置する。


「よくやったな。大活躍だったぞ」

「お褒めに預かり光栄です」

「さあ、もう直ぐでこの救出劇も終わる。フォロー頼むぜ」

「了解しました」


 遂に敵の列車に追い付く。そして、此方の路線を変更し上手く敵列車の後方に着けた。


『全機、攻撃開始!姫様はまだ先に居る。先ずは目の前の敵を全て撃破するわよ!』


 デルタセイバーを筆頭にスピアセイバーが続く。そして、俺も遅れない様に付いていく。

 無論敵のAW、MWが迎え撃つ。だが、デルタセイバーのシールドが全ての攻撃を防いでしまう。そして、後方からスピアセイバーがビームライフルで攻撃して行く。


「結局デルタセイバーを盾にしてんじゃん。やっぱり、俺の考えは最高だった訳だな」


 俺もチマチマとビームガンを撃つ。次々と敵のAWとMWが撃破されて行く。余りに戦闘力の差が有り過ぎた。

 装甲列車は対ビーム撹乱粒子を散布しながら戦っていたが、流石に普通の貨物車にそんな物は搭載してはいない。

 結果としてデルタセイバーの高出力ビームがAW、MWをほぼワンショットキルして行く。


【攻撃が防がれてるだと⁉︎そんな話聞いてねえぞ!】

【キャノンだ!キャノン持って来い!早く!】

【有り得ない……こんな事が……】

【あのシールドを剥がせ!攻撃を当て続ければいずれ無くなる筈だ!】


 だが、一機ずつ確実に破壊されて行く。寧ろ敵部隊に同情するレベルで次々と破壊されて行く。


「これが最後の正念場か。前菜の陸上戦艦と装甲列車が粘り過ぎたな」

「仕方無いかと。デルタセイバーの戦闘力は未知数ですが通常兵器での対処は難しいでしょう」

「ビームとかなら少しは効果有りか?」

「多少の効果はあるかと」


 そして、列車の真ん中辺りに来ると敵の存在は殆ど無くなって行く。随分と呆気ない終わり方だなと思っているとクリスティーナ大尉から通信が入る。


『全機戦闘停止』

「はぁ?何言って」

『トリガー5、少し静かにしろ。直ぐに分かる』


 そして、クリスティーナ大尉はスピーカーをオンにして声を出す。


 《リリアーナ姫。私はクリスティーナ・ブラットフィールド大尉です。姫様の救出に参りました。もう此処は安全です》


 すると、リリアーナ姫と思われる人物がコンテナの陰から現れる。ドレス姿で現れたエルフの少女は至って健康的に見える。少なくとも拷問とかは受けた様子は見られない。


「でも、何で姫さんの場所が分かったんだ?発信機とか付けてたのか」

「いえ、発信機などの信号は有りません」

「じゃあ、どうやってだ?」


 俺が少しだけ首を傾げていると、何故かクリスティーナ大尉はデルタセイバーを前に出し跪かせ機体から降りてしまう。

 そして、姫さんの所に向かって行く。


「いやいや、あのお嬢様は馬鹿でッ⁉︎マジか畜生!」


 三秒先にとんでもない未来が視えたので、慌てて機体をデルタセイバーの近くまで動かす。そして、コンテナ越しからプラズマキャノンで放たれた攻撃がデルタセイバーに襲い掛かる。

 咄嗟にデルタセイバーを右に押し出すが、敵の放ったプラズマはマドックの右腕に直撃。ビームガンと右腕が吹っ飛んで行く。


【大物狙えると思って潜んでたんだがな。まさか、小物が釣れるとは。期待外れにも程があるが仕方ねぇか】


 コンテナを破壊しながら中から一機のAWが姿を現わす。

 濃い赤色がメインで黒色が関節や一部装甲に塗装されている。下半身は四脚で上半身は恐らくサラガンがベースだろう。だが色々カスタムされたパーツで構成されておりパッと見サラガンとは分からない。更に追加装甲も装着しており耐弾性を向上させている。

 武装は二挺の45ミリサブマシンガン、右肩に六連装ミサイルポッド、左肩にプラズマキャノン砲を搭載していた。

 俺は吹き飛んだ右腕を一度見てから再び敵を睨む。


「……やってくれたな」


 左手にアックスを装備。そして、リミッターを解除しブースターをギリギリまで吹かす。


【まずは手前からだ。どっちにしろ、お前ら全員俺が此処で終わらせてやるからよ】

「砲台みたいな構成の癖にイキってんじゃねえよ」

【あ?ハッ!ドノーマルのマドックでイキってんじゃねえよ!】


 それと同時にブースターを一気に使い距離を詰める。無論、敵は45ミリサブマシンガンで弾幕を張りながら六連装ミサイルを放つ。


「ジャミングプログラム起動」

「ネロ最高かよ」


 45ミリの弾幕の中を突き進む。ジャミングの影響で、敵AWからのミサイルがあらぬ方向に飛んで行くが一発のみ右脚に当たる。

 だが、被害は軽微なので問題無い。


【この一撃で終わりだ‼︎】


 プラズマキャノン砲が展開されプラズマが放たれる。無論、視えてるが後方にファング隊がいるので、避ける事無く右脚を突き出し攻撃を受ける。

 そのままの加速を付けた勢いでアックスを振り上げる。


「そのキャノン砲は危険過ぎるぜ」


 敵AWのプラズマキャノン砲を斬り飛ばす。そして、敵AWに向けて体当たりする。


【貴様!邪魔だ!退け!】

「そんな連れない事言うなよ。それに、まだ俺のターンは終わってねえからよ」


 アックスを逆手に持ち敵AWの頭部を叩き潰す。そのままアックスを横に抉る様に動かす。


「知ってるか?マドックには切り札が装備されてるんだぜ」

【知るかよ!たかがノーマルのマドックに何が出来るか!】


 俺を振り解こうと後方に移動する敵AW。だが、もう遅い。

 敵AWにしがみ付きながら切り札で狙い付ける。


「対人用12.5ミリにやられる雑魚パイロットとして名を轟かせておきな!」


 抉れて内部機関が見える場所に12.5ミリで撃ちまくる。

 幾ら装甲が厚く頑強でも、精密機械の塊のAWにとっては致命的な攻撃。例え、対人用と謳っても12.5ミリはコンクリートの壁くらいなら撃ち抜く威力はある。

 敵AWはそのまま後ろの機材にぶつかりながら動きが止まる。敵のパイロットに関しては恐らく生きてるだろう。AWのコクピットブロックは一応頑強に作られてるからな。


「最近、機体を壊してばっかりな気がするな。まあ、生き残れたから良いけど」


 俺は溜息一つ吐きながらファング1に通信を繋げる。


「お姫様の救出は出来たかな?姫騎士さんよ」

『その……御免なさい。私、つい機体から降りちゃって』

「別に気にしてねえよ。代わりにマドックの修繕費払ってくれれば問題無いさ」

『本当に御免なさい』


 すっかり気落ちしてしまったクリスティーナ大尉。だが、目標となるリリアーナ姫は確保出来た。


「俺に謝るより陸戦隊の連中に謝っとけよ。折角の数少ない出番を奪っちまったんだからよ。可哀想に。少しだけ陸戦隊に同情するよ」


 因みにリリアーナ姫は陸戦隊に保護され後方の列車に運ばれていた。


「さて、それより俺のマドックも救出してくれ。折角、俺用にチューニングされた機体なんだ。簡単には手離したくない」

『何てケチ臭い奴だ。大体その機体は我々が供与したヤツじゃないか』

「細けえ事は気にすんな。ほら早く運べよ」

『こいつ本当に天罰落ちないかな』


 二機のスピアセイバーがマドックを持ち上げようとする。だが、マドックは持ち上がらない。


『敵のAWに引っかかってるのか。持ち上がらんな』

『仕方ない。機体を放棄して降りろ』

「嫌です」

『『は?』』

「俺は絶対に降りんぞ。絶対にだ!なんなら置いてっても構わん!」

『馬鹿な事を言うな!さっさと降りろ!』

『時間が無いんだ。早くしろ』

「嫌だ!こいつは俺の機体なんだ!俺の、俺用のチューニング機……畜生」


 結局、命には替えられないので諦めてコクピットから出る。そして、スピアセイバーの手の平に乗せてもらい撤退して行く。


「マスター、元気出して下さい」

「少しだけほっといてくれ」

「マスター……」


 この後ネロが色々言葉を選びながら、何とかキサラギ軍曹の機嫌を戻す事に成功したのは別の話である。尤も、戦闘補助AIが慰める世にも珍しい光景なのだが。

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