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ッ!閃いた!

『それでは宜しく頼みますね。アーノルド艦長。では、失礼させて頂きます』


 サーナリ・アデランスは少々御満悦な表情をしながら通信を切った。

 コロニー内の損害賠償の請求や重要参考人としてキタチー側で拘束する事が決まったからだ。

 対して、アーノルド艦長は中々に焦っていた。


「不味い、不味いですよ。このままでは……」


 損害賠償の請求だけなら良かった。クレジットで解決出来るのは、互いに後処理が楽になると分かっているからだ。

 今回のテロリストによる無差別攻撃もナインズを狙っていた動きだった。


 つまり、ホープ・スター艦隊がコロニー・キタチーに来なければ被害は無かった。


 極論過ぎるし、随分とキタチー側に都合が良過ぎる話だろう。

 無論、見返りとしてコロニー内の世論はホープ・スター企業の味方している。更に補給や修理に関しては優先的に対応してくれる。

 また、ゲート破壊に関しても許可を出したのはキタチー側なので不問にするそうだ。


「ハァ、たったの3時間程度で出来る事は知れてますがね。さて、問題は……ジェームズ・田中君か」


 ジェームズ・田中の経歴を調べたら、成り上がり特有の経歴が殆ど無い代物だった。

 こうなると、この経歴はほぼ偽物だと言えるだろう。


 だが、ホープ・スター艦隊に所属してからの経歴は本物だ。


 入社して早々に警備隊の中で一番の実力者となり、ワンショットキルの称号まで得た。

 エースパイロット相手に模擬戦で勝利した噂も出ている。事実、エースパイロット専用のシミュレーター室に出入りしている所を見たと言う者が複数居る。

 更に様々な問題に対して実力行使で対処して見せた。極め付けとしては、ナインズを含めたアイドル達を守ったのだ。


 もし、彼が居なければどうなっていただろうか?


「艦長、田中さんなのですが。私は本社から派遣されたエージェントかと思います」

「エージェントですか。つまり、本社はこの状況を予測していたと?」

「はい。ワトソンが保有していた相手のギフトを読み取るギフト【見透し】を掻い潜れる人材。更に、いざとなればアイドル達を死守出来る能力」


 確かに、本社の力を使えば何とかなりそうですが。

 恐らく、ワトソンが裏切り者なのも本社は知っていたのだろう。

 だが、相手は没落国家だ。生半可な対応では、逆に被害が拡大してしまう。


「成る程。成り上がりの身分は欺瞞と言う訳ですか」

「確証は有りません。しかし、実績は出ています」

「…………」


 多少は信頼しても良さそうですが。まだ、信用出来る段階では無い。


 だが、彼を見捨てる選択肢は無くなった訳だ。


 没落国家相手だ、使える手札なら何でも使わなければ生き残る事は難しいだろう。


「仕方ありませんね。この手は余り使いたくは無いのですが。君、ニーナ・キャンベルさんに連絡を。緊急の要件があるとな」

「了解しました」


 オペレーターに指示を出してから、アーノルド艦長は考え続ける。

 没落国家が次はどんな手を使ってくるのか。勿論、連中の要求を拒否すれば武力で対応して来るだろう。


 正面から戦えば敗北は濃厚。


 エースパイロットが在籍しているとは言え、向こうにもエースパイロットは居るだろう。


 そうと決まれば戦う事は極力少ない方が良い。


 それに、内部にも不穏分子は間違い無く存在しているだろう。


 無闇に没落国家と接触すれば色々と面倒事が増えるだろう。



 だが、それらを全て覆す力を持つ者が居たとしたら?



 その人物の活躍によってホープ・スター艦隊の運命が決まるかも知れない。


 個人の力で大勢が救われる可能性があるのだから。


「ジェームズ・田中……彼は一体、何者なんだ?」


 アーノルド艦長の呟きに答えられる者は誰一人として居なかった。





 アイリ中隊の()る気が漲ったので、俺達は格納庫に向かっていた。


「田中氏殿、何故格納庫に行くのでござるか?」

「残念ですが、俺達の機体には色々と手が加えられている。悪い意味でね。その悪い部分を少しでも減らす必要がある」

「でも、それなら整備士達が居るからええんちゃう?」

「IFFに細工したのは誰でしょうかね?間違い無く現場の奴にしか出来ない細工だ」


 既に現場の連中は信用出来ない状況。今やホープ・スター艦隊の内部は疑心暗鬼に囚われていると言っても過言では無いだろう。


(全く、ワトソンの野郎。死んでも面倒な置き土産なんぞを残しやがって)


 内心、愚痴を垂らしまくりながら格納庫へ向かう。

 ワトソンとは関わりは殆ど無かったが、この状況に俺を置いたのは絶対に許さんからな!


「今は身内に敵が居る事を前提に動くしか無い。つまり、自分の身は自分で守る。それだけさ」


 そして格納庫に到着。格納庫の中は既に修羅場状態だった。


「おい!配線が違うじゃ無いか!しっかり確認しろ!」

「オイル交換は親衛隊を優先だ!急げよ!」

「誰か!システムチェックを手伝ってくれ!このままだと終わらないよ!」


 既に修羅場と化している格納庫。

 敵が目の前で構えている状況なのに、全ての機体を再度点検しなければならないのだ。


 もし、戦闘中にシステムトラブルが起きたら目も当てられない。


 それに、大事な大事なAW部隊が使い物にならなくなったら、艦隊だけで対応しなければならない。

 そうなったら敗北はほぼ確定した様なものだろう。

 最悪、整備士自身が戦闘に参加する可能性もあるからな。必死に作業するのは良く分かる。


「このヴォルシアの搭乗者は誰だい!ジェネレーターにこんなに負荷を掛けて!自爆する気かい!」


 赤髪をポニーテールにしている妙に色気のある女性整備士が声を張り上げる。

 良く見れば腕には整備班長の腕章が付いていた。


(ヤベ……俺の機体だ)


 周りの機体に比べて被弾しているのが良く分かる。

 そのお陰か、整備士達が妙に多く張り付いているのだ。


「確か、田中って奴です!」

「田中ぁ?……確か、ワンショットキルか」


 そして周りを見渡たす整備班長と目が合う。

 俺は咄嗟に目を逸らしたが、サングラスを付けていたので意味が無い事に気付く。

 少しだけ俺を睨んでいたが、溜息を吐いてから整備班長は指示を出す。


「警備隊のは田中機を優先!ワンショットキルならしっかり仕事して貰わないとね!」


 どうやらジェネレーターの件は許されたらしい。

 だったら、ついでにブースター、スラスター関係も改善してくれんかね?


 俺が整備班長の元に行こうとした時だった。


 突然、別のドアが開き完全武装を施した兵士達が侵入して来る。


「全員動くな!我々はキタチー自治軍の特務部隊である!」


 銃口を向けながら一気に突入して来る特務部隊。

 だが、そんな特務部隊に整備班長は果敢に立ち向かう。


「こんッのクソ忙しい時に!アンタ達!握り潰されたいのかい!」


 手に持っていたレンチを握り潰して、ひん曲げてしまう。

 哀れな最初の犠牲者はレンチ君だった模様。


「あーと……オホン!我々は貴女の邪魔をしに来た訳では有りません。その……5人程、重要参考人として同行して貰いたく」


 勢いが無くなり、特務部隊の指揮官は冷や汗を流しながら丁寧に説明を始める。

 まぁ、目の前でレンチ握り潰されたもんな。そりゃあ、敬語にもなるよな。

 若干、腰が引けている指揮官。しかし、次の瞬間。指揮官は俺に視線を向けて言い放つ。


「では、ご同行を願います。ジェームズ・田中さん」

「…………え?俺?」


 あっという間に特務部隊の隊員達が、銃口を向けながら俺を取り囲む。

 そして、腕を掴み逃げられない様にされてしまう。


「ちょ、待てよ!俺が何したって言うんだよ!」

「惚けるな。貴様が成り上がりだと言う事は把握している。そもそも、ホープ・スター艦隊に潜入した時期を見ても実に怪しいのだよ」


 人を見下す様な視線を向ける指揮官。


 だが、俺には頼れる仲間達が居るのだ!


「そうだ!以前から田中は怪しかった!俺の命令にも従わなかった!」

「おい!クソイチエイ!余計な面倒事を増やすんじゃねえ!」


 イチエイは今がチャンスだと言わんばかりに俺を特務部隊へと売り払おうとする。

 何かイチエイに恨まれる様な事をしたかな?と思っていると心当たりが多いのでプチ後悔。


(畜生、毎度毎度俺が一体何したっていうんだよ!)


 内心愚痴を吐き散らしながら何とか言い訳を考えようとする。


「ま、待って欲しいでござる!田中氏殿は悪い人では」

「ご安心下さい!彼は重要参考人として事情聴取をして頂くだけです。全て正直に話せば直ぐに解放しますよ」


 一歩も引き退るつもりは無い指揮官。

 このままでは間違い無く特務部隊の連中に連行されるだろう。

最悪、俺は無実の罪で投獄されてしまうだろう。


(何か、何か言い訳を考えないと……ッ⁉︎)



 その時、ジェームズ・田中に電流走る!



様々なメリットとデメリットが高速で頭の中で駆け巡る。


ジェームズ・田中として。

シュウ・キサラギとして。


そして、直ぐに結論は出た。


(……そうだよ。別に連行されても良いじゃん。このまま、何事も無く戦線離脱出来るじゃん)


 これはチャンスだ。まさか、向こうから転がり込んで来るとはな。

 大体、あんな初心者仕様のAWで戦えって言うのが無理な話。

 勝てる戦いにも勝てん無いし。何より死ぬリスクが無駄に高くなるだけだ。


 ピンチをチャンスに変える男。それが俺って訳さ。


 アイリ中隊の仲間達が必死に俺を助け様としている。

 だが、俺にとっては良い迷惑なのだ。


(悪いが、このまま一足先に安全圏に離脱させて貰うよ)


 俺は口元がニヤけるのを堪えつつ、サングラスを押さえながら口を開く。


「まぁ、仕方ありませんね。俺が大人しくしてれば、キタチーの住人達も少しは安心出来るのでしょう?」

「その通りだ。尤も、君が我々の質問に正直に話せば……な」

「分かりました。貴方の指示に従いましょう!」


 少し語尾に勢いが出てしまったが多分大丈夫だろう。

 俺はそのまま特務部隊の隊員に手錠をかけられ連行される。

 それでも俺は抵抗はせずに大人しくしている。


(勝ったな。後はホープ・スター艦隊が出航するまで黙秘してれば完璧だ)


 このまま風呂に入っても負ける要素は無い。


 俺は勝利を確信した。


 沈むと分かっている泥舟から離脱出来る。


 それも、誰にも怪しまれずにだ。


(後は、ゆっくりとキタチーで働こう。流石に……アーマード・ウォーカー関係はやめとくか)


 まぁ、良くて土木関係かデブリ回収業者になるかだな。


 既に、俺はこれから先の再就職を考えていた。


 だが、運命って奴は俺の事が嫌いらしい。

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― 新着の感想 ―
一般的なクリムゾンウルフの伝説どこまで広まってるんだろうか? ・エルフの勲章持ち ・マザーキラー ・東郷組相手に無双、生還する ・ウォーウルフの協働開発者 ・デルタセイバー単独破壊 が表立った成果かな
本当にこの男は即生き死にの状況でないとカンが働かんなwww
ジェネレーターはゆるされたか でも運命(作者)は田中を許さない あはれ、全国の田中
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