地下鉄の番人
リリアーナ・カルヴァータを乗せた貨物列車はモバル空港に向け移動していた。貨物列車には多数の兵器とセクタルの戦闘員が乗車していた。
そんな中でリリアーナ姫は個室に監禁されながら俯き沈黙を守っていた。無論一人で監禁されてるなら憂鬱な気分になるだけで済んだだろう。だが現実は非情なものだ。
「ですから我々セクタルがエルフの持つ技術を正しく導く事こそが大義であり、ひいては全宇宙に住まう全ての生命体を正しき道に導く役割を」
(辛い。もう何度目でしょうか?この方の話は……)
先程、司令官に追い出されたセクタル幹部の小太りのおっさんがリリアーナに高明(?)な御高説(??)を垂れ流していた。然も一度や二度では無く監禁中に何度も同じ話をしてくるもんだから精神的に色々キツい。
(うぅ……何故こんな事に。大体私は善かれと思ってやった事。それ以外に何も無いのです)
内心ゲンナリしながら言い訳を愚痴るリリアーナ姫。だがセクタル幹部の御高説(笑)は止まらない。
「よって地球連邦統一政府にガルディア帝国は我々セクタルによって管理運用されれば確実により確かな進化と!未来が!約束される事は!間違い無く!それによって全宇宙に存在する生命体は我々セクタルに誠心誠意の感謝を込めて」
(誰か助けて。このままでは私本当に死んでしまいます。と言うかこの方を何処か遠くに置いて下さいまし)
最早精神面が虫の息に近いリリアーナ姫。然も拷問や薬を使わず御高説一つで此処まで追い詰めてる辺り、新手の拷問なのでは?と疑いたくなる。だがセクタル幹部は全く飽きる事なくより熱く激しさを増しながら御高説を垂れ流す。
「我々セクタルこそが全宇宙のおおっ⁉︎な、何事だ!」
突然列車が急激に速度を落とし始める。そして完全停止後にアナウンスが伝えられる。
《緊急停止プロセスが作動しました。乗員の方々は運転士の指示に従い列車から離れて下さい》
(緊急停止プロセス?まさか救助隊が?)
リリアーナ姫に僅かな希望が再び見え始める。まだ救助隊は諦めていないのだと。少し待つとドアが慌しくノックされる。それと同時にセクタル幹部は立ち上がりドアを勢い良く開けて言い放つ。
「いつまで停まってるつもりだ!さっさと動かさんか!」
「そ、それが自動操作を受け付けないとの報告が。恐らく敵のハッキングによる攻撃かと」
「馬鹿な!地下鉄の存在がもうバレたと言うのか!」
「恐らく目的地のモバル空港も」
「ならさっさと動かせ!今は一刻も争う状況なのだぞ!手動でも何でも良い!はようせんか!」
「はっ!了解しました」
「それから近くの戦闘部隊に敵の足止めをさせるんだ!急げ!」
セクタル幹部は部下と共に部屋から出て行く。遠ざかって行く足音を聞きながらふと気がつく。彼奴らは鍵を掛けて無いのではないのかと。試しにドアの取っ手を掴み力を入れる。するとドアはあっさりと開いてしまう。
「世界樹の護石よ。どうか私をお守り下さい」
リリアーナ姫はペンダントに付いてる蒼石に軽くキスをしてからドアを開けたのだった。
俺達は貨物列車に機体を乗せてリリアーナ姫の追跡を続行していた。そして追跡する戦力はデルタセイバー一機、スピアセイバー六機、マドック一機。救出部隊の陸戦隊十二名となっている。
武装は35ミリガトリングガンが弾切れで放棄。予備のビームガンと敵の多目的シールドを拝借している。
現在の戦力の要はデルタセイバーになるだろう。地下トンネルの様な閉鎖空間ならデルタセイバーが時々使ってるシールドが役に立つ筈だ。つまりだ。
「頑張れファング1。貴女なら弾受け出来るって信じてるから」
『貴様大概にしておけよ。確かに腕はあるから見逃して来たが』
「見逃して来たか?いっつも俺が何か言うと怒ってるじゃん。全然見逃してないじゃねえか」
『黙れ小僧!貴様にお嬢様の命を軽々しく扱われて堪るか!』
良い作戦だと思って進言したが案の定周りからは大顰蹙を買う事になる。じゃあ、どないせいっちゅうねん。
『皆落ち着いて。私は大丈夫よ。寧ろトリガー5の案が最良だと判断するわ』
『しかし!それではお嬢様が!』
『それにデルタセイバーでは火力が高過ぎる。恐らく私は攻撃には殆ど参戦出来ないわ。なら皆を守らせて欲しい』
『お嬢様……分かりました。宜しくお願いします』
『うん。任せて頂戴』
何やらエルフ同士で寸劇が興じられる。こいつら余裕持ってるな。全く、今からお姫様を救出するってのに。
俺は寸劇を無視してネロと陸戦隊の連中に通信を繋げる。現在ネロは運転席で陸戦隊のエルフと一緒に居る。何故ならネロのハッキング能力が異様に高いので追跡ルートの割り出しや路線変更も出来るのだ。
「ネロそっちはどうだ?」
『問題ありません。現在も敵貨物列車は停車中です。恐らく手動作業に手間取っているのかと思われます』
『なあ、これ本当に戦闘補助AIなのか?戦闘補助の役割を超えてると思うんだが』
「成長したんだよ。何せ俺の相棒だからな」
『はい。私はマスターの相棒でありマスターの守護者ですので』
『やっぱりこのAIなんか変だよ』
「安心しろ。俺も最近少し可笑しいな?と思ってるし」
何でか知らんがネロの俺に対する好感度が上がりまくってる気がするんだよ。まあ実害は無さそうだから良いけどな。
『警告。スケジュールに無い列車の移動を確認。恐らく敵の増援です』
『もう此方の追跡に気付いているのか』
「向こうも馬鹿じゃねえってだけの話さ。どっちが先に接敵する?」
『増援の方が早いです。恐らく並走する形になります』
「メインディッシュを頂く前には丁度良いぜ。ファング隊、そろそろ寸劇は終わりにしとけ。観客は来ねえけど別のお客さんが来るぜ」
寸劇しているファング隊に通信を繋げて言う。
『寸劇なんてしてないわよ!失礼ね。話は聞いてたわ。敵の戦力はどのくらいか分かる?』
『装甲列車です。他戦力は不明です』
「装甲列車?ダムラカの連中はどんだけ浪漫が好きなんだよ。立場が違ってたら間違い無く意気投合して仲間になってたぜ」
惜しい惑星を無くしたと確信した瞬間だ。
『敵増援との接触まで残り十秒です。右の線路から来ます』
「派手に歓迎してやるぜ。こちとら最新鋭機揃いなんだからな!」
『貴方の機体は量産機じゃない』
呆れた風にクリスティーナ大尉が口にする。どうも最近態度が軟化してる気はする。だからだろうか、俺の口元も自然とニヤケ気味になってしまう。
「中身は一級品なんだよ」
『マスターはスーパーエースですので』
「そう言う事だ。お客さんのお出ましだ!来るぞ!」
地下鉄を疾走しながファング隊を追い詰めに来る存在。
暗い地下鉄の中を我が物とし高速で駆け抜ける存在。
【間も無く接敵します】
【トンネル内の破壊許可は出ているが無闇に破壊したくはない。MW隊、敵の足止めを行え。此方の砲撃で仕留める】
そして敵の装甲列車が遂に姿を現わす。
先頭車両は分厚い装甲に覆われた車両で、上部に二連装プラズマキャノン砲と多連装ミサイルポッドを装備したMWの上半身が付いていた。そして対歩兵用の機銃が何基か付いている。
二両目は更に武装が多くなる。二連装キャノン砲が二基、二連装プラズマキャノン砲一基を搭載。その間にはミサイル発射台が二基搭載。対空砲も見える範囲で五基搭載されている。
そして残り六両の車両にはコンテナを積んだ車両と武装し、前面に追加装甲を施したMWが起動しようとしていた。
【エルフ共め、簡単に行かせると思うな。此処を貴様等の墓場にしてくれる。尤も、貴様等には勿体無いくらい立派な墓穴になるがな】
汽笛を鳴らし威嚇をする様に存在感を示す。地下鉄の番人が俺達に襲い掛かる。
装甲列車と並走する形で戦闘が始まる。だが線路の間には壁、柱、鉄骨が障害となり射撃での応酬が行われていた。
「またビームが柱に当たっちまった。これすっごくイライラするんだけど」
何度も敵に向けてビームガンで撃つのだが、高速で走り続ける列車の間に障害物があるので全然当たらない。仮に当たったとしても効果が今一つな状況に陥っていた。
『壁が邪魔で当たらん。寧ろ敵の攻撃が通ってるぞ』
『敵はマシンガンで弾幕を張ってる。威力は低いがこうも当てられては』
『チィ、対空砲が厄介だ。先頭車両をやられたら追跡が出来なくなるぞ』
然もスピアセイバーの武装はビームライフルで統一されていた。確かにビームライフルは強力だ。コンクリートの壁くらい余裕で貫けるだろう。だが敵も予想してたのがご丁寧に定期的に対ビーム撹乱粒子を散布している。この閉鎖空間でだ!この閉鎖空間で!
『また一機撃破したわ。どう?トリガー5。貴方は何機撃墜したかしら?』
「く、くぅ……悔しい。悔し過ぎる!」
しかしデルタセイバーの高出力ビームライフルは対ビーム撹乱粒子下でも高い威力を発揮していた。後何気にクリスティーナ大尉殿のドヤ顔が一番ムカついたのは秘密だ。
だがこの状況下で確実に敵MWや対空砲を撃破してるのはクリスティーナ大尉のデルタセイバーのみ。寧ろデルタセイバーしかいない。
「おい!何が最新鋭機揃いだよ!揃いも揃ってポンコツじゃねえか!」
『貴様も倒せてないだろ!』
「こちとら安価な量産機なんだよ。分かる?ZM-05マドックて言う安価なAWなの。君達の搭乗する最新鋭機(笑)のGX-806スピアセイバーとはスペックが違うんだよ!」
『中身が一級品の台詞は何処に行った。一級品じゃなくジャンク品の間違いか?トリガー5』
「はて?そんな事言ったかのう?ワシは只の一般傭兵ですからのう」
『こいつ……近い内に痛い目に合えば良いと思うんだよ』
ファング隊との楽しいやり取りをしながらも攻撃は続ける。だが装甲列車の二連装キャノン砲が此方を狙う。
【一撃で仕留めろ】
【了解です】
そして二連装キャノン砲の照準が先頭列車に狙いを付けた瞬間、線路が分岐に入ってしまい離れてしまった。
「まあ、そうだよねー。線路だもん。別れる時は別れるよな」
『だけどこれで少しだけ時間を稼げたわ。姫様は今何処に?』
『現在モバル空港に向けて移動再開。しかし速度が出ていない為、約十五分で接触します』
「あの装甲列車は何処でぶつかる?」
『約五分後に再び接触します。また長くほぼ直線の線路が続きます』
長い線路。つまり長い撃ち合いが始まる訳だ。そして次は二連装の砲塔が動き出すだろう。
「ネロ、この列車の制御はどうなってる」
『自分がほぼ対応しています』
「敵の砲撃時に任意のタイミングで急ブレーキするか急加速して避けろ。難しいだろうがやって貰うしかない」
『了解しました。善処します』
「それで良い。後危なくなったら陸戦隊の連中に守って貰えよ」
『了解です』
俺はファング隊へ視線を向ける。すると向こうも向こうでこっちを見てくる。
「何だよ。円陣でも組んでファイトオーとでもやろうってか?」
『そんな訳あるか。唯、あの装甲列車に対してどうすれば良いか』
「取り敢えず広い場所に出るんだ。そこで決着が付く。いや、着けなけりゃならねえ。理由は分かるよな?」
誰もが分かってる事。此処で装甲列車を破壊しなくてはリリアーナ姫の救出は出来ない。なら次の接触で倒すしかない。
「まあ広い場所に出るなら多少は俺達も動けるさ。精々柱に当たって戦場とこの世からフェードアウトしねえ様に気を付けな」
『貴方ねぇ、もう少し言い方を変えなさい。色々ストレート過ぎるのよ』
「今更俺が敬語使うの想像出来るか?俺は出来ねえな」
『全く。だけど確かに広い場所ならデルタセイバーも動けるわ。そうすれば直ぐに倒せるんだから』
クリスティーナ大尉の戦意を見て他のファング隊も気合が入る。そんな彼等に一言だけ言う事にした。
「ま、無理なら俺がやるさ。何たって一級品だからな」




