日常から戦場へ5
やっぱり、戦闘シーン書くのが一番楽しんだな
(ワトソンねぇ。取り敢えず、やる事やったら締めるか)
確かに、ワトソンプロデューサーならホープ・スターの内部に関しては詳しいだろう。
色々と計画を仕掛けるとするなら立場的にもやり易い。
しかし、ワトソンプロデューサーに対しては雇って貰った恩がある。まぁ、それ以上に実害が大き過ぎるけど。
特に警備隊仕様のアーマード・ウォーカーに関しては減点対象だ。
「エイティ、この戦いが落ち着いたらワトソンプロデューサーについて調べろ。可能なら社長とナナイにも連絡取ってくれ」
『分かりました。因みにですが、スマイルドッグを呼ぶのですか?』
「最悪、スマイルドッグに逃げ込みたい。予定より早くなっちまったが……まぁ、想定外ってやつさ」
まだ諦めていないレクスは体当たりを仕掛ける。
しかし、打つかる前に避けて脚を引っ掛けて転倒させる。
【許さない。アンタも、ワトソンも……どいつもこいつも私の邪魔ばっかりして!】
「随分と溜め込んでんな。偶にはストレス発散でもやれば良かったのに。馬鹿な女だぜ」
プラズマサーベルを展開しつつ、レクスのメインブースターを斬り裂き、右脚を貫く。
「さてと、お前には新しい役割があるんだ。しっかりと役目を果たせよ」
【……何言ってんのよ。頭でもイカれてんの?】
俺はレクスの左肩を掴み、無理矢理起こす。
そして、55ミリライフルを拾い上げて射撃姿勢を取る。
「暴れたらプラズマサーベルでコクピット貫くから。大人しくする事をお勧めするぜ」
【アンタ……まさか、私を】
味方に誤射する可能性が高かった為、下手に援護射撃出来ず見守る事しか出来なかった敵ロルフと敵チャンパーに向けて照準を合わせる。
「今からテメェが盾になるんだよぉ!」
これぞ人質作戦である。
重装甲化しているマドックだから撃たれ強いし、人質も入ってるから撃たれ難いだろうし。
まさに、一石二鳥の完璧な作戦である。
「さぁて、撃てるもんなら撃ってみやがれ!ギャハハハハ!」
【傭兵が人質にされたのか!】
【不味いな。このままでは下手に攻撃出来なッ】
【ゲック3!この、外道野郎がああああ‼︎】
こちらに対して攻撃が出来ないのを良い事に、しっかりと狙って狙撃して行く。
やっぱり、動きながらのセミオートライフルは当てるのが難いからね。
【ふざけんじゃ無いわよ!アンタは!】
「暴れるんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」
『このままでは、本当に悪魔になりますよ?』
「勝ちゃあ良いんだよぉ!勝ちゃあ!歴史がそれを証明してるしな!ダハハハハ!」
しかし、55ミリライフルの残弾が残り僅かとなる。
それでも限界まで撃ち続ける。
「チッ、最後の弾倉か」
レクスの陰に隠れながらリロードする。
このまま膠着状態に持ち込めば、有利になるのは俺達だ。
相手はコロニー内部で戦闘を始めたテロリスト。
本来ならアーマード・ウォーカーを投入したかった筈だ。だが、コロニー内部への持ち込みは非常に厳しい。
それこそ、ホープ・スター企業の様な大企業クラスの信用が無ければ無理な話。
つまり、テロリストは限られた戦力しか保有して無いのは明白だ。
「さぁて、相手はどう動く?時間は有限だぜ?……おい、盾が動くなよ。ザグっと逝くか?ん?」
【……マジでアンタだけは殺す】
「どうやってだよ。手も足も出ない状態の機体でよ」
軽くレクスに機体を打つけて黙らせる。
そして、再び狙撃態勢を取りトリガーを引く。
テロリスト達は建物の陰に隠れながら隙を狙っていた。しかし、味方のアンジェラ機が人質になっている状況。
更に大半のチャンパーが撃墜され、航空支援が無くなっていた。
【隊長、このままでは目標の確保が】
【味方の歩兵部隊の再編成完了しました。今しかチャンスは有りません】
【……仕方あるまい。全機、攻撃を開始。アンジェラ機諸共、撃破せよ】
【【【【【了解!】】】】】
覚悟を決めたテロリスト達。
そして、親衛隊と警備隊のヴォルシアに向けて攻撃を開始する。
それは、アンジェラを見捨てる事を選んだ結果だった。
敵ロルフから45ミリマシンガンによる攻撃が再度始まる。
俺はレクスを盾にしてる上、ドーム会場を背にしている。しかし、それでも攻撃を受ける事になった。
【フザっけんな!私は味方だろ!助けに来いよ!】
「問答無用って訳か。だけどさぁ、アイドルに当たって殺したら意味無いだろ?」
しかし、目の前の敵マドックは既に人質としての役割を果たしていない。
つまり、お役目御免と言う訳だ。
俺はレクスの陰に隠れつつ、55ミリライフルの銃口を背中に合わせる。
【ちょっと!撃たないで!私はまだ生きてる!まだ、死にたくは】
「人質としての価値が無くなったか。なら、もう良いよ」
先程までの声質とは違う冷酷な声。
まるで、要らない物を処分するかの様な言い方。
【……ちょっと、待ってよ。冗談でしょう?】
アンジェラが見た光景。それは自分の真後ろで55ミリライフルの銃口を突き付けられていた。
「ご苦労様。それじゃあ、さよなら」
【ッ⁉︎】
咄嗟に頭を抱えて防御姿勢を取るアンジェラ。
しかし、そんな事は関係無いと言わんばかりに衝撃がアンジェラを襲う。
そしてコクピットにも爆発が起こり、アンジェラは意識を失う。
「エイティ、親衛隊が落とした武器をマップに出してくれ。今から使うからな」
『了解しました。マップ上に表示しました』
役に立たなくなった盾を蹴飛ばしてから移動開始。
取り敢えず近場に落ちている武装を拾い上げる。
「60ミリショットガンか。まぁ、悪く無いチョイスだぜ」
残弾を確認しつつ、予備弾倉も急いで拾う。
その間にも敵ロルフと敵チャンパーからの攻撃は続いているので、回避しつつ反撃する。
「オラオラオラァ!くたばりやがれ!テロリスト共が!」
親衛隊が奮戦した結果だろう。敵チャンパーの数は3機、敵ロルフは6機程度。
守るべき対象がいるので不利な状況でも、随分と上手く戦ってたのが分かる。
空中で20ミリ機関砲を撃ち続けていた敵チャンパーに60ミリの散弾が襲い掛かる。
キャノピーなどは装甲で覆われているとは言え、厚くは無い。
散弾が直撃してキャノピーは穴だらけになり、パイロットは一瞬で血塗れになる。
そのまま、コントロールを失い墜落する敵チャンパー。
周りの被害を気にする様子の無いジェームズ・田中の戦い方。
本人は任務を優先しており、他の被害に関しては二の次になっている。
そもそも、コロニー内部での被害による損失はホープ・スター企業が持つと言われている。
だからこそ、本人は敵の排除に比重を置いているのだ。
【これ以上、奴を野放しにするな!迎撃!】
【歩兵部隊、敵パワードスーツ部隊と接敵。援護を求めてます】
【……チャンパーの援護射撃は可能か?】
【…………】
部下は静かに首を横に振り無理だと伝える。しかし、今もホープ・スター側のパワードスーツ部隊が歩兵部隊を蹂躙しようとしている。
もはや、一刻の猶予も無い。
【時間が無い。俺が前に出る。各機、援護を】
【11時方向!あのヴォルシアが来ます!】
建物の陰に隠れつつ、間合いを詰めてくる警備隊のヴォルシア。
60ミリショットガンを構えつつ、一気に距離を詰めて来る。
「死に晒せえ!テロリスト共が!」
少々距離が空いていたのだろう。被弾したが損傷は軽微だった敵ロルフ。
しかし、こうなってしまえば歩兵部隊の援護は不可能になってしまう。
更に悪い知らせは続く。
【隊長、先程自治軍が格納庫のハッチを無理矢理解放したそうです】
【……間に合わなかったか】
そして、タイムリミットが来てしまった。
途中までは上手く作戦は進んでいた。
親衛隊も残り3機にまで追い詰めていた。
本来なら歩兵部隊、パワードスーツ部隊もドーム会場に突入させナインズを確保していた筈だった。
だが、途中から乱入して来た警備隊のヴォルシアが全てをひっくり返した。
傭兵アンジェラのレクスを容易く鎮圧。
歩兵部隊とパワードスーツ部隊にグレネードを投げ込む冷酷さ。
何より、ゴング隊との合流が無かった。
恐らく、あのヴォルシアに殺られたのだろう。
今も迎撃しているが、直ぐに建物に隠れて射線を切りつつ、別の場所から反撃して来る姑息っぷりを発揮。
これ以上の長居は無用だ。
【撤退の信号弾を。殿は私がやる】
【しかし、隊長。奴を相手に一人では】
【良いから行け!その命、無駄にする事は許さん!】
【ッ……了解】
撤退の信号弾を放つ。信号弾を見てスモークを散布しつつ、テロリスト共は撤退を始める。
だが、それを許す程ジェームズ・田中は優しくは無い。
「俺が見逃すとでも?随分と甘く見られたもんだな」
俺はブースターを吹かし、敵ロルフをモニターに捕捉しながら呟く。
「一人たりとも逃しはしない。一人、二人は確保するとして、残りは……全員殺すのが楽か」
60ミリショットガンを構えながら逃げる敵ロルフを追撃する。
無論、殿を受け持つ隊長機が果敢にも立ち向かう。
【ここから先は私が相手になる!】
「勇者気取りか?人攫いしようとしてた分際でさぁ!」
45ミリマシンガンが迎撃を試みる敵ロルフ。
しかし、アッサリと回避され間合いを詰められてしまう。
【速い!いや、上手い!】
「終わりだ」
最初に狙うのは45ミリマシンガン。続けて左手で構えていた接近用アックスも撃ち壊す。
最後に敵ロルフの目の前に着地して、蹴り飛ばして動きを止める。
【グッ⁉︎強い!】
「倒れないか。上手く受け流した様だが。これでチェックメイトだ」
逃走出来ない様に脚部を吹き飛ばそうとした瞬間。
コクピット内にロックオン警報が鳴り響く。
『ジェームズ!上空から熱源が接近して来ます!』
「何?チッ、別方向からか!」
急いで上空を確認する。
上空から凄まじい速度で真っ直ぐに迫り来る1機のアーマード・ウォーカー。
軽量機をベースにした未確認のAW。
全体的に線の細い機体であり、頭部が赤く塗装され自己主張が中々に激しい。
【アレ?アンジェラ殺られちゃったんだ。まぁ、別にどうでも良いかな】
武装はビームライフル一挺を装備。左腕部には近接用火器として二連装30ミリマシンガンを装備。
両肩、両肩側面に追加ブースターを装備しており、圧倒的な速度で空中飛行を実現していた。
『識別を確認。傭兵シェナ・パライ【RTX-01Rレッドキャップ】。ロックオン可能です』
「何?なら、ミサイルで!」
迫り来るレッドキャップには、何故かロックオン出来た。
一瞬だけ疑問に思ってしまったが、ミサイルのロックオンが完了したのと同時にトリガーを引く。
八連装ミサイルポッドから一斉にミサイルが放たれる。
【へぇ?警備隊の生き残りも居たんだ。なら、少しだけ遊んで上げるね!】
ミサイルを二連装30ミリマシンガンで迎撃。迎撃し切れないミサイルは高い運動性を生かして回避。
瞬く間に距離が縮まってしまう。
【シェナか!援護感謝する!】
【邪魔だからサッサと逃げてくんない?】
俺は敵ロルフを放置し、後退しながら60ミリショットガンで牽制。
しかし、牽制射撃が予想されていたのだろう。建物の陰に隠れつつ、更に間合いを詰めて来る。
「弾切れか!なら!」
後退しながら60ミリショットガンをレッドキャップに向けて放り投げる。
【キャハハ!そんな機体で私相手に勝てる訳無いじゃん!】
左手にプラズマサーベルを展開して60ミリショットガンを斬り裂き、そのまま接近戦に移行する。
こちらもプラズマサーベルを展開し、相手のプラズマサーベルを受け止める。
【まだ戦うんだ?諦めた方が良いよと思うよ?】
「ガキだと?ハンッ!戦場に乳臭いガキが出張って来んなよ!」
何度もプラズマサーベルが打つかり合う。プラズマサーベル同士の鍔迫り合いになれば、稲妻が発生し周辺を危険な明かりで照らされる。
【隙ありだよ!】
ヴォルシアのプラズマサーベルを弾き飛ばし、脇が空いた隙を狙って敵軽量機はプラズマサーベルを横薙ぎに振るおうとする。
「隙ありはこっちの台詞だ!ガキィ!」
横薙ぎに振るおうとした隙を狙って体当たりをする。
流石に想定外だったのか、体当たりで弾き飛ばされるレッドキャップ。
【中々やるね……お兄ちゃん!】
無論、追撃の手を緩めるつもりは無い。
対人用12.5ミリマシンガンで敵軽量機の頭部に向けて牽制射撃。
そのままビームガンを取り出し、至近距離からコクピットに向けて射撃する。
必中距離。外す事の無い射撃だった。
だが、射撃は当たらなかった。
ビームガンによる至近距離での連射射撃。それをレッドキャップは紙一重で回避しながら一気に上空に向けて飛び立ち離脱。
しっかりとチャフとスモークを散布する辺り、ソロでの戦いに慣れてると感じた。
【次はもっと楽しい戦場になるから!それじゃあね!お兄ちゃん!】
そう言い残して一目散に離脱するレッドキャップ。途中、自治軍と思われる部隊を撃破しながら離れて行く。
だが、このまま逃すつもりは無い。
「待てやゴラァ!逃すかよ!」
追撃しつつブースターを吹かすのだが、出力が一気に弱くなってしまう。
『警告。これ以上のジェネレーターの負荷は容認出来ません』
「……しまった。リミッターを解除したままだった」
このままリミッター解除し続けるのは危険だ。最悪、自爆する可能性だってある。
俺は逃げたレッドキャップを睨む。既に遠くに撤退しており、追撃は無理だった。
更に敵のロルフ部隊、歩兵部隊なども撤退しており、貴重な情報源を失ってしまった。
また、ジャミングがまだ効いているのでレーダーも殆ど使えない。
敵ながら見事な撤退だった。なら、追撃は他の連中に任せるとしよう。
俺は一度深呼吸してから、ジェネレーターのリミッターを戻すのだった。
しかし、この男は人質作戦は取るわ、歩兵相手に手加減しないわ、ドーム会場も平然と利用するわ。
本当に、こいつ主人公か?




