日常から戦場へ4
コロニーの外でも色々と騒がしくなって来ていた。
メインゲートを含めた全てのゲートが開かない状況。
輸送艦から旅客船まで様々な艦艇が渋滞を作る羽目になっていた。
『おい、どうなってるんだよ。早くゲートを開けてくれよな。次の輸送に遅れたらどうするんだよ』
『申し訳ありません。現在、復旧作業中でして』
『医療品も積んでるんだぞ。次の輸送が遅れて患者に間に合わなかったら、責任は其方が取れよ』
『勿論です。ですので、もう暫くお待ち下さい』
『全く、頼むよ。本当にさ』
コロニーの周辺には輸送艦隊が商品の納入を待ち、傭兵企業の艦隊が補給と修理を行う為に待機していた。
一向に進まないゲート解放。メインゲートだけで無く、全てのゲートが閉じている状況。
そして、この状況に一番焦りを覚えているのはホープ・スター艦隊だった。
「ええい!ゲートはまだ開かんのか!ウラヌスとの通信はどうなってる!」
「依然、音信不通です。レーダーにも影響が出てますので、かなり強力なジャミングが仕掛けられていると思われます」
航空戦艦エイグラムスの艦長は焦っていた。
唯でさえ、ウラヌスとの連絡が取れない状況。直接AWを向かわせたが、どのゲートも完全に閉鎖している。
また、未確認の情報だがコロニー内で所属不明勢力から襲撃を受けているらしい。
最悪なのは、アイドル達が巻き込まれてしまっている可能性が高いと言う訳だ。
「……こうなっては、致し方あるまい。管制塔の責任者に通信を繋げろ」
「了解。通信繋げます」
今、管制塔のオペレーター達は非常事態に陥っている。
唯でさえ、ゲート開放に手間取っているのだ。また、通路の隔壁も殆どが閉じられている状況。
明らかに人為的。
更にコロニー内では戦闘が勃発。現在、コロニー内に配備されている自治軍が必死の抵抗を行っていた。
元々、コロニー内には治安維持を目的としたAW部隊、MW部隊が配置されている。しかし、部隊数は多く無く、殆どは歩兵部隊だ。
そして、コロニー内が戦闘になれば戦火に巻き込まれる民間人が多数出てしまう。救急車や消防車が緊急出動して対応しているが圧倒的に人手不足。
ならば、歩兵部隊を避難誘導や救出活動に向かわせるしか無い。
本来のキタチー自治軍の戦力なら鎮圧は容易に出来ただろう。
しかし、戦力が完全に分散されてしまい出撃出来ない部隊が多数発生。
結果として、コロニー内は地獄絵図になってしまったのだ。
『あー、これはこれは。エイグラムスの艦長殿で?あぁ、分かっていますとも。ゲートの開放まで少々手間取っておりますが、順調に進んでおりますので』
冷や汗を浮かべながら愛想笑いを浮かべる責任者。
そんな責任者の姿を見ても表情を一切変えない艦長は口を開く。
「単刀直入に言わせて貰う。既に状況は、ある程度把握している。これ以上、貴様等の不手際に付き合い続ける訳には行かん。よって、一部ゲートを武力を持って開放させる」
『ま、待って下さい!今、我々も必死に対応しています!ですから、もう少し、もう少しだけ待って頂けると』
「駄目だ。テロリストがコロニー内で好き勝手に暴れて居るのだろう?なら、我々が守るべきアイドルが狙われる可能性は非常に高い」
『それは分かります。しかし、テロリストの数は多くは有りません。現場の戦力だけでも充分に対応可能ですので』
何とかして矛を収めて貰える様に必死に説得する責任者。
しかし、既に事態が悪化しているのは明白だ。
この時、艦長は決断した。
企業の力を存分に使う事を。
この状況を打破する為には必要な事だと。
「貴様に選ばせてやる。メインゲートを破壊するか、貴様が指定したゲートを破壊するか」
『お、脅しですか?そうなればホープ・スター企業を然るべき場所に』
「やってみろ。だが、アイドルに傷の一つでも付けたらどうなるか。キタチー程度の弱小コロニー、社会的に潰す事など造作も無いのだぞ」
『…………』
「それにだ。折角、発展させたコロニーを過疎地にはしたく無いだろう」
完全な脅迫。本来なら許される事では無いだろう。
しかし、その脅迫に抵抗する力はキタチーには無かった。
「さぁ、選べ。メインゲートを強制的に開放されるか」
『……分かりました。コロニー側面の55番ゲートの破壊許可を出します。唯、隔壁も閉鎖してますので』
「こちらで対処する。貴官の迅速な判断に感謝する」
艦長は通信を切ると即座に指示を出す。
「これより55番ゲートの破壊作戦を行う。工作班は緊急出動。警備隊のAW部隊も出撃させろ」
艦内が慌ただしくなるのと同時に警備隊もやる気を出して来る。
普段から役立たず、給料泥棒など言われている警備隊。
更にジェームズ・田中が警備隊最強の座に君臨してから肩身が狭くなっていた。
普段から整備士達に対しても普通に接するジェームズ・田中。
対して無駄に横暴な態度を取る警備隊。
好感度は何方が高いのかは明白だった。
だからこそ、このピンチはチャンスと捉えたのだ。
『よぅし!お前ら、気合い入れて行くぞ!俺達がアイドル達を救う救世主になるんだからな!』
『当たり前だろ。役立たずの親衛隊は指でも咥えて見てろってんだ』
『これで田中の野郎も少しは大人しくなるだろうな』
意気揚々と出撃する1個中隊の警備隊。同時に工作班も輸送艇で移動する。
しかし、その様子をコロニー周辺で見てる者達が居た。
一隻の輸送艦が移動を開始。編隊を組みながら移動している警備隊へ近付いて行く。
【航空戦艦エイグラムスから工作部隊が出撃したのを確認したぞ。ご丁寧に1個中隊も引き連れてる】
【警備隊だけなら楽な仕事になるんだが。まぁ、敵は全部殺せば良い】
【ビビんなよ。コロニーを盾に戦えば艦砲は来ねぇからよ】
【邪魔者は全部殺せば良い。それだけ報酬は増えるってなもんだからな】
輸送艦の格納庫ハッチが開く。そこからアーマード・ウォーカーが次々と出撃する。
【へへへ、間抜けな連中が来やがったぜ。俺達のクレジットに変わってくれるってさぁ!】
警戒が散漫な警備隊。その隙を、荒くれ集団の傭兵共に狙われてしまう。
突如、上からビームと実弾の弾幕が警備隊と輸送艇に襲い掛かる。
警備隊は突然の攻撃に右往左往しながら、次々と撃破されてしまう。
輸送艇も後退しようとするが、目の前に傭兵の機体が現れる。
【追加が来ねぇとよ、俺達の稼ぎに成らないんだわ。悪りぃけど、死んでくれや】
他の傭兵のAWとは違い、かなり手が加えられているAW。
TZK-9ギガントをベースにしているが、30センチキャノン砲を撤去。
代わりに追加のプラズマジェネレーターを搭載し、両肩にビームキャノン砲を2門装備。
唯でさえ装甲の厚いギガントに、一部追加装甲も取り付けられている。
また、250ミリバズーカと二連装45ミリヘビーマシンガンを装備。
ダグラス専用機【TZK-9Dグスタフ】
防戦になれば真価を発揮する重装甲、重火力のアーマード・ウォーカー。
左手に持つ二連装45ミリヘビーマシンガンの銃口が輸送艇に向けられる。
乗組員達は僅かな悲鳴を上げて、輸送艇諸共爆散して行く。
【さぁて、俺達も始めるぞ。気張って行くぞ!】
こうして、コロニーの外でも戦闘が勃発してしまうのだった。
急いでドーム会場に向かっているが、道中でも敵のロルフとチャンパーが執拗に襲って来る。
無論、俺に銃口を向けて来た敵は1機残らず始末した。しかし、ドーム会場に到着する頃には、かなり足止めを食らってしまった訳だが。
「唯でさえ鈍足なのに余計に時間が掛かっちまったな。エイティ、状況は?」
『余り宜しくは無いみたいです。どうやら、敵には雇われの傭兵が居るそうです』
「へぇ、泥舟に乗る酔狂な傭兵が居るんだ。なら、一度顔くらいは拝んでみたいもんだ」
跳躍して障害物を避けながら移動を続ける。
残弾の確認をすると少々心許ない。一応、予備としてビームガンを装備しているから大丈夫だと思うが。
「しかし、傭兵が相手か」
『はい。現在、レイピア中隊が応戦してますが戦況は一方的に押されています』
「何やってんだよ。親衛隊の名が泣くぜ」
『どうやらドーム会場周辺には多数の民間人が集まって居る様です。出店やゲリラライブを行なって集客してたと』
「集客?やる必要は無いだろ。ホープ・スターから見たら端金以下だろうに」
出店程度で稼げた売り上げなんて、ホープ・スター企業から見れば小銭同然。
そもそも、チケットやらグッズなどは事前に予約して販売して利益を得ているのだ。それなのに、出店で利益を取るなんてナンセンスだろう。
「嫌な予感がするぜ。最悪、もっと上の方が関与してるかも」
とは言え、今は目の前の敵に集中するべきだ。
例え、相手が没落国家だとしても排除する事には変わりは無い。
(まぁ、実戦経験の差なら圧倒的に向こうが上だろうな)
何故なら常にオーレムと戦闘しているらしいからな。AWも対オーレム戦に特化してるみたいだし。
対して、こちらは親衛隊とエースパイロット部隊しか頼れない。後はAS部隊も一応頼れるだろう。
警備隊は、数合わせ程度にしか使えない訳だからな。
「チッ、厄介事なら俺抜きにして欲しいもんだぜ」
『間も無くドーム会場が見えます』
建物の間を抜けるとドーム会場がモニターに映し出される。
周辺では敵ロルフが親衛隊に向けて攻撃を行なっていた。
それと、歩兵とパワードスーツらしき姿も見えたので目を覆いたくなる。
(本格的にアイドル狙ってますやん。いや、ちょっと……逃げて良いかな?駄目だよなぁ)
それでも近場の敵ロルフに背後から55ミリライフルで強襲を掛けながら、親衛隊と接触を図る。
【良い加減しつこいよ!サッサとミンチになっちゃいな!】
『させるか!私達は最後まで守り切るぞ!』
『勿論ですよ!テロに負けたら親衛隊の恥ですからね!』
『やってやりますよ!絶対にアイドル達は守ってみせます!』
残り3機となっているレイピア中隊。しかし、戦意は衰える事無く果敢に敵に立ち向かっている。
幸い、レイピア中隊は普通に反撃出来ているので敵も手を焼いてるのだろう。
【邪魔だって言ってんのよ!】
『しまった⁉︎キャア⁉︎』
『フォード隊長!不味い!レイピア6!援護を!』
『敵ロルフが!駄目だ!間に合わない!』
脚部を斬り裂かれたレイピア1のヴォルシアは地面に座り込む形になってしまう。
そして、パイルバンカーをセットして打ち貫く姿勢を取るレクス。
「チッ、させるかよ」
狙いを合わせてトリガーを引く。
55ミリの弾頭が次々と敵マドックに被弾。しかし、ダメージを与えられた様子は無い。
だが、こちらに注意を引く事は出来た。
【警備隊のヴォルシア?……へぇ、そんな状態でも戦って来たんだ】
一度ブースターを吹かし、後退するレクス。
レクスはレイピア中隊との戦闘で右肩の35ミリガトリングガンが損傷。機体にも被弾しているが、戦闘には何一つとして問題無い状態。
俺はレイピア1の前に着地して、55ミリライフルの銃口をレクスに対し向ける。
『識別を確認。傭兵アンジェラ、【ZM-05FAレクス】。マドックの重装甲仕様です』
目の前のレクスを見る限り、強化パックも使用してるのだろう。
普通に戦えば手を焼きそうだが、今回は少々特殊な戦場。
無闇に攻撃すればドーム会場に当たる可能性が高い。それは出来るだけ避けたい筈。
つまり、相手も同じ土俵に居る事を意味している。
『アイリ12……すまない。助かった』
「その様子だと動けそうに無いな」
『あぁ、脚部をやられた。だが、砲台代わりなら』
45ミリアサルトライフルを構えて射撃姿勢を取るレイピア1。
しかし、俺から言わせて貰えば銃口は下の方に向けて欲しい。
正確に言うなら敵歩兵の方にだな。
「レイピア1、先に謝っとくわ」
『?一体何をッ⁉︎アグッ⁉︎』
俺は座り込んでるレイピア1を思いっきり蹴り飛ばす。
そして、倒れ込んだ先は敵パワードスーツ部隊と味方歩兵部隊の間。
『アイリ12!貴様、一体何を!』
「テメェは歩兵とドームの盾になってろ」
そう言ってから、グレネード1個を敵パワードスーツ部隊の方に放り投げる。
【ふ、伏せろおおおお⁉︎⁉︎⁉︎】
【奴は悪魔か!歩兵に向けてグレネードを⁉︎】
慌てて逃げ惑う敵パワードスーツ部隊。
「ボンッ!てな」
そして、次の瞬間にはグレネードが爆発して敵パワードスーツ部隊の半分くらいを一掃。
残りは頭部に内蔵されている対人用12.5ミリ機銃で、敵パワードスーツ部隊の掃討を始める。
【アンタねぇ!私を無視して何してんのよぉ!】
一気に距離を詰めるレクス。
しかし、俺は直ぐに射撃をやめて移動を開始。レクスをドーム会場から少し離す必要があるからな。
俺はレクスに対し通信を繋げて言い放つ。
「態々、距離を取ってくれて感謝するぜ。お陰でパワードスーツ部隊の大半は始末出来た」
【ッ……挑発のつもり?だったら、その馬鹿な行動を後悔させて上げる!】
「親衛隊のヴォルシアも物理的な盾にも出来た。一部とは言え、側面からの侵入は難しくなったもんなぁ!」
残りの防衛は味方歩兵部隊とパワードスーツ部隊の頑張りに期待しよう。
しかし、敵さんは接近戦なら中々隙の無い戦い方をしている。
工業用チェーンソーを振り被り、外れた時の隙をパイルバンカーでカバーする。
更に両肩には35ミリガトリングガンも備えているから、厄介極まり無い。
まして、俺の機体はこの様だ。性能差で見れば、勝てる要素は少ない。
(だが、ドーム会場を盾にすれば35ミリガトリングガンは撃てねぇだろ?大事な大事な人質を殺しちゃうからな)
だからこそ、今の内に35ミリガトリングガンは潰す。
一度、ブースターを使いドーム会場の反対側に飛び移る。その時に35ミリガトリングガンで撃たれたが、多目的シールドで防ぐ。
「これだと撃てねぇだろ?ほら、撃ってみろよ!」
【アンタ……正気なの?守るべき対象を盾にしてッ⁉︎】
55ミリライフルで左肩の35ミリガトリングガンを狙撃。
上手く破壊出来たが、アンジェラは気にしてる様子は無い。
【ッ!良い加減しつこいのよ!警備隊の分際でぇ!】
そもそも、ドーム会場付近で下手に発砲すれば跳弾する可能性が高い。
その為の接近戦仕様のレクスなのだ。
元々、射撃武装はオマケ程度だ。
同じ様に跳躍してドーム会場を飛び越えて来る。俺は55ミリライフルで迎撃する。
【そんな豆鉄砲が私のレクスに効く訳無いでしょう!】
ブースターを吹かし、一気に間合いを詰めるレクス。
【アンタも他の親衛隊みたいにミンチにして上げるわ!】
右腕に装備してある工業用チェーンソーが唸り声を上げる。
振り上げられた工業用チェーンソーの刃が、高速で回転し迫り来る。
だが、俺は既に動きを視ていた。
レクスが工業用チェーンソーを振り上げながら迫り来る。
同時に間合いをズラす為に、こちらも前に出る。
【死ねええええええ‼︎】
振り下ろされたのと同時に多目的シールドで防ぐ。
勿論、そのまま防いでしまえば多目的シールド諸共斬り裂かれるだろう。
俺は、工業用チェーンソーが多目的シールドに当たったのと同時に多目的シールドをパージ。
勢い良く多目的シールドを巻き込んだ工業用チェーンソー。
根本部分で多目的シールドが食い込んでしまい回転が止まってしまう。
【なッ⁉︎そんなッ!ウグッ⁉︎】
「今度は俺のターンだ」
接近して来たレクスのコクピット部分に向けて、膝蹴りを喰らわす。
膝蹴りの衝撃で後ろにヨロケてしまうレクス。
【フッッッざけんなぁ‼︎】
「残念、想定の範囲内だよ」
反撃にパイルバンカーを構えるレクス。
しかし、俺は55ミリライフルを手放し標準装備されている近接用コンバットナイフを左腕の脇下に突き刺す。
火花が散り、パイルバンカーを構えた動きのまま止まるレクス。
既に間合いに入られているレクス。
右腕の工業用チェーンソーには多目的シールドが食い込み稼働不可。
左腕の脇下から接近用コンバットナイフが突き刺さり、コントロールが利かなくなっている。
反撃手段は尽きた。
【アンタ……一体、何者なの?】
雑魚だと思っていた警備隊のヴォルシアに、一方的に制圧された。
接近戦はアンジェラの得意な戦い方だった。なのに、既に自分は攻撃手段を失っている状況。
思わず質問してしまうアンジェラ。
だから、返事を聞いた時は嘘だと確信した。
「唯の警備隊員だよ」
機体にハンデがある状態でも勝てる奴が唯の警備隊員な訳が無い。
(あの男……私を騙したの?)
この作戦に参加する際にある男と約束を果たした。
あの男なら、どんな奴でも上へと導く事が出来る。
今居る場所から憧れの場所へ行ける。
そう、思っていたのに……。
【ワトソン……絶対に許さない】
その怒りの呟きは唯の警備隊員にも聞こえていたのだ。