日常から戦場へ2
『も、もうダメでござるうううぅぅぅ⁉︎拙者、まだ死にたく無いでござるううううう⁉︎』
『そんなもん叫ばんくても分かってるわ!アカン!ウチもリロードに入る!』
『カバーする!早くリロードするんだッ⁉︎盾に直撃した!助かった!』
アイリ中隊は既に半壊していた。被弾して動けない味方を守りながら、交互に射撃をしながら弾幕を継続させていた。
【半分は先行しろ。残りは敵を殲滅だ】
【了解。では、先に行きます】
【手柄は残しとけよ?】
【無理ですね。合流した時には全て終わってるでしょうから】
二手に分かれる敵ロルフ部隊。
数が減ったとは言え不利な状況に変わりは無い。
【しかし、連中は我々以上に街を破壊しますね】
【これでは、何方がテロリストか分からんな】
ロックオンが出来ない以上、自分で狙って攻撃するしか無い。
これが熟練パイロットや一流パイロットなら問題は無かっただろう。
だが、警備隊は三流以下。
それでも生き残っているのには理由がある。
以前、オーレム戦に於いてジェームズ・田中が簡単な武装構成と戦い方を教えた。
それを思い出したギャラン達は、敵を近付けない様に弾幕を張る様にしているのだ。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦である。
無論、それは宇宙空間や建物が無い場所で使うべき戦い方。
しかし、ギャラン達が選べる戦い方は少ない。必然的に一番良かった戦い方を選ぶしか無かった。
まぁ、結果として射線上の建物は穴だらけになっているのだが。
『あ、弾倉が後一つだけでござる!』
『このままやとウチら殺されてまう!』
『どうする?今からでも逃げるか?』
弾幕が展開出来なくなった時、それはアイリ中隊の死を意味している。
【攻撃が止まった。一気に間合いを詰めるぞ!】
【雑魚の分際で時間を取らせやがって】
【他の部隊は順調に進んでいる。遅れを取り戻すぞ!】
敵ロルフ部隊は45ミリマシンガンで牽制射撃をしながら間合いを詰める。
『敵が来てる!早く!』
『アカン、リロードが間に合わへん!』
地上を高速で移動し、邪魔な車両を蹴散らしながら迫り来る敵ロルフ。
殺意高めで来ているのを肌で感じてしまうギャラン。
(し、死にたく無い。まだ、推しのライブにも行きたい。それに、グッズも沢山買わないと)
走馬灯の様な物がギャランの頭の中を駆け抜ける。
そして、力の限り叫んだ。
『誰か、誰か……誰か助けてえええええええええ‼︎‼︎‼︎』
死ぬ恐怖心を吐き出す様に大きな声。
誰かに救いを求める声。
「煩いぞ。アイリ4」
そして、叫び声に対する返事が通信越しに聞こえる。
突っ込んで来る敵ロルフの側面から突然現れたヴォルシア。
速度を緩める事無く、躊躇無く蹴飛ばす。敵ロルフは、そのまま建物に突っ込み動かなくなる。
【パレット2!やってくれたな!雑魚の分際で!】
目の前のヴォルシアに向けて45ミリマシンガンを撃つ。
しかし、読まれていたのか多目的シールドで防がれ、建物の陰に逃げられてしまう。
【敵の動きが素早い。奴は手練だぞ!パレット3は追撃しろ!俺は側面から叩く!】
【了解!市街地戦ならロルフの方が優位なんだよ!】
逃げたヴォルシアを追撃するパレット3。
建物の陰に入った瞬間だった。上から55ミリライフルによる攻撃を、多数受ける羽目になってしまった。
不意の攻撃だったのか、防御姿勢を取る事無く敵ロルフは倒れ込んでしまう。
「こっちはアーマード・ウォーカー様だぜ?地面を這い蹲る事しか出来ないロルフとは性能が段違いなんだよ」
屋上から飛び降りるアイリ12のヴォルシア。
被弾らしい被弾は無く、戦闘している割には綺麗な状態。
「さて、お前で最後かな?いや、あの生き残りもいたな」
建物に突っ込んでいた敵ロルフは悪足掻きをしようと銃口を向けようとしていた。
しかし、俺は躊躇無く55ミリライフルでコクピット部分を狙い撃ち沈黙させる。
「まぁ、何だ。戦力を分散させたのは悪手だったな」
【パレット2……クッ、警備隊の分際で】
ヴォルシアを前に一歩下がる敵ロルフ。
圧倒的優位な状況だった筈なのに、追い詰められている状況。
レーダー、IFF共にまともに機能して無いのは間違いない。
だが、主導権は既に警備隊のヴォルシア側にあった。
「降伏は……しなくても良いよ。別の奴を捕らえれば良いだけだし」
多目的シールドを構えながら、プラズマサーベルを展開。
そのままブースターを全開にして間合いを一気に詰める。
【雑魚の分際でぇ‼︎舐めるなあああああ‼︎】
カウンター狙いでパイルバンカーを構える敵ロルフ。
【貰ったあああああ‼︎】
擦れ違う前にパイルバンカーを突き出し、トリガーを引く。
しかし、次の瞬間に腕ごとプラズマサーベルで斬り落とされる。
地面に落ちるパイルバンカー。
同時にコクピットに向けてプラズマサーベルの先端が突き刺さる。
「まぁ、こんなもんか。おーい、お前達生きてるか?」
プラズマサーベルを収納し、動かなくなった敵ロルフを蹴飛ばしながらアイリ中隊の方に向かうのだった。
何とかアイリ中隊が生存してる状態で合流する事が出来た。
正直、そのまま見捨てようかと思った。だが、それだと少々薄情かな?と感じた訳だが。
『だ、だながじどの〜。ぜっじゃ、じぬがとおもっだでござる〜』
「何言ってるのか全然分からん。取り敢えず状況の把握からだ。後、泣いてる暇は無いからな」
取り敢えず生き残ってる連中から情報を集める事にした。
多目的レーダーを装備していたからか、親衛隊がまだ生き残ってるのは知っている。
唯、他の警備隊やウラヌスの状況は不明のままだ。
これだけ大規模な攻撃を受けているのに通信の一つも来ない辺り、ウラヌスにも何かされている可能性は高い。
『攻撃ヘリと敵ロルフは、そのまま6時の方へ向かったぞ』
『あの方向はドームがある方向やん。まさか、アイドルを狙ってはるんか?』
『グズッ、ちょっと待つでござる。ライブ映像はまだ放送されてるでござる。唯、大分途切れ途切れでござるが』
「見せてみろ」
ギャランからライブ映像を見せて貰う。
殆ど静止画像だったが、まだアイドル達はライブ会場に残っている状況だった。
敵の狙いは相変わらず不明のまま。
だが、敵はドーム会場の方へ向かって行った。
なら、俺がやるべき仕事は唯一つ。
アイドルの護衛だ。
「取り敢えず、お前達は生き残りを集めて戦線を離脱しろ。ウラヌスとの通信が繋がらない以上、こちらの状況を掴めていない可能性が高い」
最悪なのはウラヌスも襲撃を受けている可能性もあると言う事だ。
もし、そうだとしたらキタチー自治軍も信用出来るか怪しくなってしまう。
(それに、攻撃を受けている状況にも関わらず自治軍の動きが鈍い気がするし)
内心、溜め息を吐き出しながら頭を切り替えてアイリ中隊に指示を出す。
「敵は無視して構わない。お前達の任務は状況を早急にウラヌスに伝える事。そして、親衛隊の増援を要請する事だ」
『田中氏殿はどうするので?』
「ドーム会場へ行く。最悪を想定するならアイドルが人質になる可能性が高い。この状況から安全に離脱するなら一番使える手だしな」
少なくとも、下手なお偉いさんより効果はあるだろう。
何と言っても宇宙的人気のあるアイドル達だ。複数人質に出来るチャンスでもあるからな。
下手な人質よりも非常に役に立つだろう。
まぁ、俺達にとっては面倒な事この上無いのだが。
「それから、可能であれば民間人の救助活動に手を貸してやれ。これだけ派手に暴れたんだ。俺達に対するヘイトを少しでも和らげる様にしないとな」
『何や、こんな時に随分と下世話な話やな』
「こんな時だからこそだ。企業イメージは大事だろ?俺達は企業戦士なんだからさ」
確かに襲撃を仕掛けたのはテロリストだ。だが、俺達が戦闘した事で、被害を拡大させたのは間違いない。
なら、テロリストとは違い誠意を見せる必要もあるのさ。
「それにさ、この有様だ。少なからずアイドル達にもヘイトが向けられるだろうよ。自衛の為とは言え、俺達も街に被害を出した加害者なんだよ」
敵の狙いが不明な以上、断言は出来ない。
しかし、IFFに細工されていた以上無関係とは言えないだろう。
そう考えれば哨戒機が狙われたのも、ロディ・カトラリーが狙われた理由も、何となく分かる気がする。
特にロディ・カトラリーに関しては狙わない理由が無い。
実力もあるし、人気者だし。目立つ存在なら狙われるのは必須だしな。
「アイドル達は関係無い所で評判を下げる事になるんだ。血の滲む様な努力を重ねて手に入れた場所を、俺達は土足で踏み荒らしちまったのさ」
『でもよぉ、それは連中が攻撃をして来たからで』
「死んだ連中と被害に有った連中に、同じ言い訳して通用すると思うか?俺は無理だと断言するよ」
少なくとも怒りの矛先は向けられる。
テロリストに向けても何も返って来ない。なら、何かしら反応があるホープ・スター企業に向けるのは当然だ。
そして、矢面に立たされるのはアイドル達の可能性は非常に高い。
「さぁ、お喋りは終わりだ。ウラヌスに連絡するのは1人でも大丈夫だ。だから救助活動も忘れるなよ」
『わ、分かったでござる。推し達を風評被害に遭わせる訳には行かないでござるからな』
『せやな。後は敵と出会わない事を祈るしかあらへんな』
『イチエイ達の回収も出来た。唯……4人は無理だったよ』
遂に本格的に戦死者が出た訳か。
あの状況で4人だけ済んだと考えるべきか。
それとも、あの程度の戦力に負けた事を恥じるか。
(対人戦の実戦経験なんて碌に無いだろうからな。責めても意味は無いさ)
そもそも、最初から警備隊に期待はして無いからな。
今は急いで親衛隊のレイピア中隊と合流する必要がある。
それに、こんな情けない機体に命を預けられん。
(FCサラガン与えてくれたら本気出すけどな。もう、テロリストなんざ全部蹴散らしてやんよ)
無い物ねだりをしても仕方ない。兎に角、急いでドーム会場に向かうしか無い。
「ウラヌスの方は任せたぞ」
『田中氏殿も気を付けるでござる』
『頼んだで。田中はん』
『田中の方がもっと大変だろうによ。頼んだぞ』
俺はドーム会場に向けて機体を移動させる。
アイリ中隊はウラヌスへ帰還する為に動き出す。
「しかし、敵の狙いは何だ?コロニーを奪うつもりか?それとも、本当にアイドルを狙っているのか?」
既に状況証拠としては証明されている。
哨戒機の襲撃。
親衛隊が狙われた航空ショー。
あからさまな警備隊の質の低さ。
警備隊配備のヴォルシア、ヴァルシア初心者仕様。
極め付けにIFFの細工。
これだけ揃ってホープ・スター企業を狙って無いとは言えない。
「まさか、本当に……没落国家が介入してるのか?」
襲撃して来た連中は没落国家の機体と艦艇だった。これだけ手の込んだ組織が仕組んだとしたら、状況的に没落国家が一番に来る。
もし、没落国家が介入しているとしたら最悪な状況なのは言うまでも無い。
『可能性は非常に高いかと。通信を幾つかハッキングし、精査しました。ノイズが酷かったですが、既に没落国家の存在が散見されています』
「……マジで?頭痛くなって来た」
『それから、親衛隊からの通信も解析しました。こちらも、同様にノイズが酷かったのですが内容は確認出来ました』
そして、エイティの口から最悪な状況を伝えられた。
『ドーム会場にて接敵。既に戦闘中との事です』
「クソッ、連中は本気なのかよ」
ドーム会場には大勢の民間人が集まってるんだぞ。
それに、守るべき護衛対象だって居る。
「最悪な想定が一番現実になるんだよな。全く、神って奴は相変わらず性格が捻くれてるぜ」
俺は速度を上げて急いでドーム会場に向かうのだった。




