日常から戦場へ
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作者と小説の活力になります!
工業団地には様々な工場がある。同時に空き地も豊富にあり、資材置き場や従業員の駐車場として利用されている。
しかし、3年程前から空き地にコンテナが置かれる様になった。
何でも、置き場が無くて場所をレンタルさせて欲しいとの事だった。
空き地を貸すだけでクレジットが入って来る。
つまり、小遣い稼ぎには丁度良かったのだ。
コンテナが置かれている場所に何人かの人達が集まっていた。
恐らく、コンテナを置いていた業者が回収か状況の確認をしに来ているのだろう。
誰も気にする様子は無く、素通りして行く。
【時間だ。コンテナを開放しろ】
号令と共にコンテナが真ん中から開いて行く。そして武装を施した攻撃ヘリ【CR-9チャンパー】が姿を見せる。
コンテナが開くのと同時に振動が地面を揺らす。
既にコクピットにはパイロットが搭乗しており、いつでも出撃出来る状況になっていた。
【油圧、電圧、武装問題無し。コントロール感度良好。いつでも出れます】
【よーし!エンジン回せぇ!】
外に居る整備兵達がチャンパーから離れる。二重反転ローターが徐々に回転を速める。
流石に素通りしている人達も何事かと様子を見たり、動画を撮ったりして状況を見守る。
【ゴング1、出撃する】
【頼んだぞぉ!】
グッドサインで答えるパイロット。そして、キャノピーが装甲に覆われる。
誘導員が離陸の許可を出す。チャンパーはゆっくりと離陸して行く。
他の場所も同じ様にチャンパーが離陸して行く。
そして、上空で他の機体と合流して速度を上げて飛んで行く。
「なぁ、アレって映画の撮影か?」
「スゲェな。今飛んでったのは攻撃ヘリってやつか?撮影にしては随分と本格的だけど」
「てかさ、何か通信が悪いんだけど。電波が繋がらない」
「本当だ。さっきまで繋がってたのに」
「通信会社がやらかしたか?これじゃあ、動画を上げれないじゃないか」
野次馬達を尻目に撤収準備に入る。手際良く片付けて、素早く車に乗り込み去って行く。
誰も気にしないし、興味も無い。
去って行く者達がテロリストだとしても知る由も無いのだから。
上空に16機のチャンパーが編隊を組みながら飛行する。
『こちらコウノトリ。そこのチャンパー部隊へ。今日は飛行の予定は無かった筈だが。何処の部隊だ?』
自治軍の偵察機の小型ヘリコプターが警戒中だった。
ホープ・スター企業が来ているので上空からの警戒は当然だった。
【ゴング1より各機、これより作戦行動に入る】
しかし、偵察機の質問を無視して指示を出す。
通信状況は酷くなって行く。だが、軍用の通信機はまだ生きていた。
『おい、作戦行動って何だ?何をするつもりだ。答えろ!』
編隊を崩して散開して行くチャンパー部隊。しかし、2機のチャンパーが偵察機に向けて銃口を向ける。
【攻撃開始】
下部の20ミリ機関砲が偵察機に向けて発砲。銃声が響き渡り、偵察機に次々と着弾。
コクピット部分は穴だらけになり、エンジンから燃料が漏れだし引火。
そして、炎上した瞬間に爆散してしまう。
更に地上では陽動の為に燃料を満載したトレーラーが爆発。周りに甚大な被害を出して、火の海にしてしまう。
また、他にも爆発物らしき物があると自治軍に向けて、民間人から多数の連絡が入る。
この時、現地の自治軍は緊急事態と即時に判断。即応部隊を回そうとするが隔壁やゲートが開かないトラブルに直面。
つまり、現場に待機している自治軍で対処するしか無かった。
そして、混乱している自治軍を他所に地面を高速で移動している機体が複数居た。
Ty-88Fロルフ。
武装を施し、邪魔な車両や障害物を蹴散らしながら地面を高速で駆け抜ける
民間人は悲鳴を上げながら逃げ惑い、吹き飛ばされた車両の中からは助けを求める声が聞こえる。
平和な街並みが血みどろの戦場へと徐々に姿を変えて行く。
【目標、敵AW。IFFを無力化しているとは言え、反撃はして来る。ハンデを貰ってる状況だ。やられるなよ】
モニターに映るのは、棒立ち状態の警備隊仕様のヴォルシアが2機。
『な、何だ?ヘリが撃墜された?戦闘が起きてるのか?』
『知らないよ。それに、通信も繋がらない』
『まさか……攻撃を受けてるのか?』
『そんな訳無いだろ。此処はコロニーの中だぞ。取り敢えず、周りの連中と連絡して……ん?何だ、味方か』
レーダーを見れば高速で接近して来る機体がある。
しかし、IFFは味方を示していた。
その為、警戒心は上空に向けられたままだった。
【全機、攻撃開始】
45ミリマシンガンを持つ2機のロルフが警備隊のヴォルシアに向けて発砲。
ヴォルシアは防御姿勢を取る事無く、次々と被弾してしまう。
『うわあああ⁉︎な、何がッ⁉︎』
装甲が弾け、頭部も吹き飛び倒れ込むヴォルシア。
味方が突然攻撃された事に唖然としてしまう。
『カイル!お、おい、撃つな!レーダーの反応は味方なんだぞ!俺達は味方だ!』
味方と勘違いしてる警備隊のヴォルシアに向けて急接近するロルフ。
左腕に装備しているパイルバンカーを構えて、コクピットに狙いを定める。
【打ち貫く!】
『や、やめッ』
パイルバンカーはヴォルシアのコクピットを打ち抜く。
貫通して、背中からパイルバンカーの先端が飛び出す。
オイルと赤い何かによって先端部分は美しく煌めく。
そのままヴォルシアのパイロットは何も言わなくなり、機体と共に沈黙する。
【このまま敵を掃討する。行くぞ!】
遂に、コロニー内で戦闘が勃発したのだった。
同時刻。上空での爆発。そして、立て続けに各地で爆発と黒煙が上がる。
爆発が起こる度に悲鳴が聞こえ、サイレンが鳴り響いている。明らかに暴動とは違う。
「……テロでも起きたか?」
『可能性は低いですがゼロでは有りません。通信も不通になっており、強力なジャミングが展開されています』
「明らかに敵対行為だな」
敵対行為と言えば、最近だと没落国家の兵器を使って襲撃して来た連中が居たが。
『一体、何が起きてるでござる?』
『何や?凄く嫌な予感がするんやけど』
『アイリ1、俺達はどうするんだ?』
『待機だ。ウラヌスから指示は来ていない。俺は通信が繋がるか再度やってみる。それまで各機は現状維持だ』
アイリ1はウラヌスと通信を繋げようと何度も繰り返す。
しかし、ジャミングが酷く近い味方との通信も通じ辛い。更に、レーダーは使えず敵が何処から来るのか判断が難しい。
(だからと言って、指を咥えたままなのは非常に宜しく無い)
俺はアイリ中隊に向けて通信を繋げる。
「アイリ12より各機。レーダーと通信が使えない以上、目視で警戒するしかない。建物に身を隠しつつ警戒しよう。このまま棒立ちなのは鴨撃ちの的になるだけだ」
俺は返事を聞かずに建物の陰に移動。武装の安全装置を解除しつつ、55ミリライフルを構える。
『田中!勝手な命令を出すな!俺が隊長だぞ!』
「分かってますよ。だから、自分の身は自分で守って下さいね。最低限の義理は果たした」
一応、立場上は同僚であり仲間だからね。何も言わなかったら、後々見殺しにしたと言われそうだし。
『ふざけるな!田中、勝手な事をするなと言っただろうが!』
俺はイチエイ隊長を無視しつつ、周辺を警戒。すると、遠くの方から何かが近付いてくる。
『上空、2時方向より味方機接近中。攻撃ヘリCR-9チャンパーです』
「チャンパーの配備は聞いてないぞ」
『しかし、IFFは味方を示しています』
嫌な予感がする。俺は予めギフトを使い3秒先の未来を視る。
暫く待つと直ぐに答えが出た。
ギフトで視た未来は、警報が鳴り響くコクピット内と迫り来る大量のミサイル。
「チィッ!各機散開!建物の陰に隠れてろ!」
『命令違反だ!隊長命令だ!田中を拘束……いや、撃破しッ⁉︎な、何で俺まで⁉︎』
そして、3秒後にギフト通りに大量のミサイルがチャンパーから放たれる。
【ゴング1より各機、一度通り過ぎてから反転。再度アプローチを仕掛けッ⁉︎しまった⁉︎】
ミサイル攻撃の結果がイマイチだったのか、若干速度を落としてしまうチャンパー。
コクピット内に警報が鳴り響き、前を向き直すゴング1のパイロット。
目の前に現れたのは警備隊仕様のヴォルシアが、プラズマサーベルを展開しながら地上から跳んで来る。
「ロックオン出来なくても、マニュアルで対処出来るんだよ!」
跳躍力が若干足りず、チャンパーの下部をプラズマサーベルで斬り裂く形になる。
斬られた場所から黒煙を出しながらコントロールを失い墜落し、建物に激突し爆散するゴング1のチャンパー。
【隊長!あの野郎、やってくれたな!】
ミサイルで攻撃しようとするゴング2。
しかし、空中で反転しつつ55ミリライフルを構えるヴォルシア。
「馬鹿が。動きを止めたか」
チャンスと言わんばかりにトリガーを引く。
55ミリの弾頭がチャンパーの側面に被弾。更に何発か当たり空中で爆散してしまう。
俺は地面に着地しつつ、再度周辺警戒を続ける。
『た、田中氏殿!アイリ1、6、9、10が被弾したでござる!』
「死んで無いんだろ?なら、動けなくなった奴は脱出させとけ」
上空に来たら、次は地上から来る。
敵を確実に倒すなら空と陸の連携は重要だ。
少なくとも俺ならそうする。
「各機、まだ上空に敵は居る。だが、次は地上から来るぞ。迎撃用意」
『でも、田中はん。ウチらの機体、ロックオン出来へんのやけど。そうなると、敵との区別が付かへんやないか?』
『そうだぜ。一度、後退した方が良い。イチエイ隊長も気を失ってるみたいだし』
戦意低下してしまい使い物にならないアイリ中隊。
だが、そんな状況を喜ぶのは敵だけ。
そして、このまま放置すれば待っている未来は全滅。
それに、俺はこんな情けない機体に乗って死ぬつもりは毛頭無い。
「テメェらの目と頭は飾りか!もう敵に捕捉されてる状況だぞ!逃げたとしても、背中から撃たれるだけだ!サッサと動け!それから、敵に対してはマニュアルで対処しろ!分かったか!」
返事は聞かない。既に敵が来ているからだ。
思った通り地上からも敵機が複数来ている。
『識別を確認。Ty-88Fロルフです』
「畜生、面倒な時に面倒なMWが来やがったか」
Ty-88Fロルフに関しては良く知っている。昔、俺がスマイルドッグに入る前くらいに使ってた機体だ。
軍用MWとしては高い完成度を誇っていた。操作性は良い訳では無かったが、扱い切れれば非常に頼もしい機体だ。
『ロックオン警報。捕捉されています』
「牽制射撃しながら後退する。敵を引き込む」
俺は55ミリライフルで牽制射撃をしつつ、後退を開始。
しかし、後退すれば味方に敵のヘイトが向くだろう。
(悪いが、少しの間だけ囮になってくれ。運が良ければ生き残れるさ)
心の中でアイリ中隊の健闘を祈りつつ、建物の陰に隠れる。
【隊長、チャンパーが2機……いえ、3機撃墜されました】
【警備隊の中にも手練が居るみたいだな。だが、恐れる必要は無い。我々が圧倒的優勢なのだ】
6機のロルフは車道に止まっている車両を蹴散らしながら、真っ直ぐに突っ込んで来る。
『敵だ!敵が来てるでござる!』
『一体、どないせいっちゅうねん!ロックオンも出来へんのやで!』
『弾幕だ!弾幕を張りまくるぞ!オーレム戦みいにやるんだ!』
戦闘可能なアイリ中隊は盾を構えながら射撃姿勢を取る。
『上空からも……流石、田中氏殿でござるな』
狙撃も可能な精度を誇り、ある程度の連射速度も持ち合わせている55ミリライフル。
少し離れた場所から敵チャンパーを引き付けつつ、撃破して行く。
(空さえ奪い返しちまえばアーマード・ウォーカーの本領発揮だぜ)
8連装ミサイルのロックオン機能が使用不可能になっており、敵チャンパーに対し少々手間取っているが。
【ゴング4も墜とされたぞ!】
【落ち着け。敵は俺達を市街地内に引き入れようとしている】
一度、高度を上げて追撃の手を緩めるチャンパー部隊。
【それに、奴は民間人の犠牲を無視した戦い方をしている。これ以上の深追いは流石にな……】
撃墜されたチャンパーの殆どは原型を保ちながら建物に突っ込んで爆散。
辺りは血と炎の海になっており、地獄絵図になっていた。
血の海に沈んでいる母親の側で子供が泣いている。
火達磨になり、必死に火を消そうと地面を転がり続ける人。
虫の息になり、地面を這いずりながら必死に助けを求める人。
周りを見渡せば様々な場所で炎と黒煙が上がっている。
短時間で平和な街が一瞬で地獄と化していたのだ。
【我々は、こんな事を望んでは「隙有りだよぉ!」ッ ⁉︎】
動きを止めて、地上を眺めている間に一気に間合いを詰める。
「馬鹿が!戦場のど真ん中で感傷にでも浸ってたか!」
高い建物の屋上を踏み台にしながら、一気にブースターを吹かし敵チャンパーに迫る。
出力の低いブースター。だが、幸いにもプラズマジェネレーターに関しては親衛隊と同じ。
なら、プラズマジェネレーターのリミッターを解除して無理矢理ブースターを吹かして速度を上げる。
動きを止めていた敵チャンパーに向けて55ミリライフルの銃口を向ける。
咄嗟に回避機動を取る敵チャンパー。
だが、その動きはギフトを使うまでも無く予想出来る。
必中距離になりトリガーを引く。55ミリの弾頭は敵チャンパーのコクピットを撃ち抜く。
鮮血がコクピット内を染め上げ、撃ち抜かれた穴から霧の様に空を舞う。
【この、悪魔めええええ‼︎‼︎‼︎】
敵チャンパーはミサイルを発射して迫り来るヴォルシアを攻撃。
直撃する瞬間に多目的シールドを構えるヴォルシアは、ミサイルが直撃して爆煙の中に消える。
【やったか!手間取らせてくれたな!】
そう呟いた次の瞬間だった。多目的シールドをパージしながら、爆煙の中から飛び出してくるヴォルシア。
その左手にはプラズマサーベルが展開されていた。
「さよならだ」
【ッ⁉︎馬鹿な!】
最後の悪足掻きに20ミリ機関砲で反撃。しかし、多少被弾した所でヴォルシアはやられない。
正面からプラズマサーベルの先端が迫る。
装甲に覆われたキャノピーを一瞬で融解してパイロットを消炭にしてしまう。
コントロールを失った敵チャンパーは、そのまま地上に向けて墜落して行く。
「さて、空の邪魔は減ったか」
幸い、俺達が担当している場所は大丈夫だろう。だが、次は地上の敵ロルフを倒す必要がある。
「全く、貧乏クジを引くのは慣れてるさ」
俺は愚痴を溢しつつ、残弾を確認しながら移動。必死に射撃し続けているアイリ中隊を助けに行くのだった。




