強大な敵。強力な味方。
居住コロニー・キタチーは工業を中心としている。
資源採掘機材をメインとして他の精密部品なども生産している。
【さて、諸君。準備の方は良いかな?間も無く、作戦開始となる】
パイロット達は軍用MW【Ty-88Fロルフ】のコクピット内で待機していた。
本来なら軍用MWの持ち込みは不可能だった。
だが、資源採掘機材と言うカテゴリーとしてバラバラにした状態でTy-88Fロルフを運んだのだ。
勿論、軍用として重要な精密部品などは持ち込む事は不可能。
なら、どうやって用意したのか?
答えはキタチーが工業中心のコロニーであること。
軍用では無いが、資源採掘機材に使用する精密部品の生産技術。その生産技術を利用すれば、軍事用の精密部品の製造も可能だった。
つまり、現地での軍事用部品の入手は容易いものだったのだ。
【これから諸君達には警備隊を始末して貰う。相手は企業のAWだが安心して欲しい。既に手は打っている】
町工場の社長室に居るのは、作業着を身に付けている社長では無かった。
没落国家の軍服を身に付けている軍人が社長室に居たのだ。
【奴等から見れば、我々は味方の表示になっている。つまり、連中はIFFを使用出来ない。敵と味方の区別が付かないのだからな】
町工場には様々な軍用機材が置かれていた。
通信兵が通信機で各部隊に細かく指示を出して行く。
作戦計画の最終チェックを行なっている士官達。
必要無い物を次々と処分している兵士達。
【強力なジャミングも展開される。そう簡単に解除はされない様に複数設置してある。また、陽動として各地に爆薬を設置してある。もしもの時は、上手く活用しろ。作戦中は常に時間を意識しつつ行動せよ】
既にコロニー内に罠は仕掛け終えている。
後は各地で待機している強襲部隊に号令を出すのみ。
その為にも最後の確認作業は必要な事なのだ。
【無論、相手から反撃はされるだろう。だが、所詮は無能な連中だ。航空戦力として攻撃ヘリ【CR-9チャンパー】も用意している。よって、空と陸からの攻撃により連中は何も出来ない】
警備隊は既に無力化している。仮に動ける奴が現れたとしても、仲間をカバーする為に動けば確実に鈍くなる。
それこそ、取捨選択が出来る奴が現れない限り。
【但し、親衛隊は別だ。流石に親衛隊にまで手は出せなかった様だ。よって、我々を敵だと認識出来る。だが、我々は親衛隊の相手をする必要は無い。親衛隊の相手は傭兵に任せて貰って大丈夫だ】
そう言うとアンジェラの機体が各部隊に伝達される。
ZM-05FAレクス。
ZM-05マドックの重装甲仕様。マドックのバリエーション機をベースにしているアンジェラ専用機。
軍用プラズマジェネレーターを搭載。また、重量増加による機動力低下を高出力型ブースター、スラスターで補っている。
そして、格闘戦を得意としている。
【既にゲートは完全封鎖に成功している。これで内部の敵に集中出来るだろう。それから、コロニー内の自治軍も障害になるなら排除して貰って構わない】
コロニー内部は没落国家によって掌握されていた。
様々な場所に罠が仕掛けられており、外部と繋がるゲートの閉鎖。通路の隔壁が閉まっている状況になっている。
だが、コロニー内の民衆達や自治軍兵士達は気付いていない。
そもそも強力なジャミングが発動しているのだ。
現在進行形でトラブルが続出していても、伝える為の連絡が取れない状況になっている。
【第一目標はナインズ全員の拉致だ。他のアイドルは可能であれば拉致する。それから、民間人への誤射も気にする必要は無い。我々を、あの遥か遠くの宙域に追いやった連中だ】
自分達を遥かな宇宙の果てに追いやり、制裁を続けている三大国家。
我々を見捨て、惰眠を貪り続ける愚民共。
三大国家に属している者達は全員同罪だ。死んで償うべきなのだ。
故に、市街地であろうが遠慮など必要無いのだ。
【コロニー・キタチーに関しては、我々の障害になると決まり次第破壊許可を出す。情けを掛ける必要は無いが、我々は誇りある軍人なのだ】
ホープ・スター艦隊を見捨てれば見逃す。手を貸すのなら障害として排除するのみ。
どの道、キタチーが選べる選択肢は限られている。なら、一番安全な選択を選ぶ事を期待しよう。
【また、プランAが失敗した場合は即時にプランBに移行する。この場合はホープ・スター艦隊の旗艦ウラヌス・オブ・スターを鹵獲。他の艦艇は殲滅する】
超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターの艦内には大勢の人達が住んでいる。
それこそ、アイドルの卵や原石が豊富に存在している宝箱。
プランBに移行すれば犠牲は桁違いに増えるだろう。
同時に、より多くのアイドルを確保出来るメリットも増える。
他の有象無象アイドルでも使い方は沢山ある。
例え、切り札にならなくても強力な手札になる。
【作戦は以上だ。我々は互いにいがみ合い続けてきた。だが、主義主張の違いはあれど、悲願でもある新国家樹立を目指す志は同じ】
少しだけ故郷を思い出す。裕福な生活では無かった。だが、他人より恵まれていた。
だからこそ、現状を打破する存在が必要なのだ。
本来なら、オーレムの直ぐ側で政争に明け暮れる余裕など無いのだから。
【三大国家と同等の存在になる最後のチャンスだ。レオナルド・フォン・タハール13世の持つ強力なカリスマ性。そして、ホープ・スター企業が誇る最高峰と言われているナインズの魅了】
我々が新国家を作るのだ。
俗世に堕ちた無能な軍上層部。
血筋だけで役に立たない政治家。
いつも最初の犠牲になるのは誠実で、優秀な愛国者達ばかり。
今回の作戦が成功すれば、必要の無い存在を一掃出来るチャンスにもなるのだ。
【馬鹿げた作戦ではある。だが、我々は既に選べる立場では無い。後の世で、後ろ指を差される事になろうとも新国家樹立が達成出来ていれば良いのだ】
汚名は喜んで受けようではないか。
自力で解決出来ず、外部の力を頼る事を選択したのだ。
だが、それで問題が全て解決出来るならやるべきなのだ。
何故なら、もう我々には選択出来る時間が無いのだから。
【失敗すれば我々は……緩やかな破滅の道へと歩む。それだけは絶対に阻止しなければならない】
オーレムによる襲撃頻度は年々増え始めている。
襲撃頻度が増えれば、犠牲も増えるのは当然だった。
例外的にここ数年はオーレムの襲撃頻度が例年に比べて少なかった。無論、それで安心とは言えないが。
【ナイン・アルカディア・プロジェクト。レオナルド・フォン・タハール13世を主体とし、ナインズで囲いを作り絶大なカリスマ性を発生させる】
もっと簡単に言えば強制ハーレム計画だ。
レオナルド様を主軸として、周りにナインズを配置するのだ。
しかし、馬鹿には出来ない。
レオナルド様のカリスマ性は圧倒的だ。だが、周辺の勢力を吸収するには不足している。
だからこそ、ナインズのカリスマ性も追加するのだ。
ナインズの協力があれば、レオナルド様を中心に全てが纏まるのだ。
幸い、内政に殆ど興味の無いレオナルド様。象徴として利用するなら非常に使い勝手は良いだろう。
【この計画で全ての柵が無くなる。そして、大勢の市民達が救われる。大勢の罪無き者達が救われるのだ】
全ては新国家樹立の為。
全ては優秀な愛国者達の為。
全ては四大国家として君臨する為。
【各員の健闘を祈る。諸君に神の加護が在らん事を】
これから先の戦いで誰が勝者となり、誰が敗者となるか。
充分な準備を整えて作戦に挑む戦士達。
普段と変わらないと信じている企業戦士達。
そして、波乱と目立つ事を望まない一般正規市民。
果たして勝利の女神は誰に微笑むのか。
答えはまだ誰も知らない。
現在、超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターはコロニー内の超大型格納庫に収納されている。
普段は物資を大量に運んでいる大型輸送艦を収納しているが、今回は特別にウラヌスだけを中に入れている。
ホープ・スター艦隊はコロニーの外で待機しているので、何かあれば直ぐに駆け付けて来るだろう。
「なんだか、このコロニーに来てから嫌な予感が凄く強くなってるんだけど。親衛隊だけで無く、エース部隊も直ぐに動ける様にしておいてくれ」
「第二種戦闘態勢の命令を出しますか?」
「まさか、今はコロニー内だよ?流石に他所様の戦力が暴れたら不味いでしょう。キタチー自治軍の頑張りに任せますよ」
オリバー・アンダーソン艦長の持つギフト【危険予測】が警鐘を鳴らしている。
しかし、既にアイドル達はコンサート会場に入って歌やらダンスを披露しているだろう。
それに、更にコロニー内にAW部隊を投入すれば治安を乱す恐れもある。
「やれやれ、困ったものですねぇ」
確かに危険予測は警鐘を鳴らしている。だが、非常に危険かと言われるとそうでも無い。
強いて言えばオーレムや宙賊が襲撃時に来る時に近い感覚。
アンダーソン艦長は自身の経験から、まだ状況としては対処は出来ると判断したのだ。
「まぁ、ファンが感極まって暴走する可能性は有るかもだねぇ」
「一応、即応用歩兵部隊の編成指示を出しておきましょう」
「そうだね。それが一番安牌だね」
経験則から判断してしまったアンダーソン艦長。
しかし、今感じている経験則と比べても圧倒的に危険度は高い。
なのに、危険予測が機能しなかった。
いや、ギフトはしっかりと機能している。
唯、コロニー内に配置されている警備隊の中に想定外の圧倒的な戦力。
個人で戦局を変えてしまう可能性を持つ存在。
その存在を見抜けていないホープ・スター企業。
その為、この後に始まるアイドル襲撃に対し、アンダーソン艦長と副官は想定以上の危険度に唖然としてしまうのだった。




