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ラストチャンス

 陸上戦艦ヴァンガードのあちこちから爆発が起きる。機関室は火の海に包まれ通路は爆発の影響で歪み隔壁が壊れている。

 数ある武装は最後までその役目を果たし機能を止めていた。


「こちらダムラカ軍所属、陸上戦艦ヴァンガード艦長ダルス・ギリアム准将である。そちらの指揮官と話がしたい」

『こちらエルフェンフィールド軍所属のクリスティーナ・ブラットフィールド大尉です』

「本艦はこれ以上の戦闘は不可能と判断。よって三十秒後に機関を停止させる。その後、そちらに投降する」

『分かりました。それまで銃口は向けさせて頂きます』

「了解した。寛大な処置に感謝する」


 ギリアム准将は周りに居る将兵を見渡す。全員がまだ諦めた目をしてはいない。だがギリアム准将はゆっくりと首を横に振る。


「諸君、御苦労だった。残念だが我々の戦いは此処までだ」

「司令……」

「まだ我々は……」

「此処で死ぬ事はない。まだ君達には待ってる人が居るだろう。後は任せたよ」


 ギリアム准将はそう一言残し艦橋から出て隣の部屋に入って鍵を掛ける。艦橋に居る将兵は最敬礼をし見送る。そして、その姿を最後にギリアム准将は帰らぬ人となる。


《総員退艦せよ。繰り返す、総員退艦せよ。陸上戦艦ヴァンガードは放棄される事が決定した。直ちに退艦せよ》


 艦内放送では退艦命令が伝えられる。その放送を聞き涙を流し俯く者、退艦命令が信じられず呆然とする者、未だ諦めず消火活動を行う者。

 だがその者達に喝を入れる者達がいた。


「貴様等‼︎何をやっているか‼︎さっさと退艦せんか‼︎」

「お前らの様な若造が命令無視をするとはいい度胸だな。後から厳罰に処されたいか?」

「早う行け。後はワシらの仕事だ。お前さん達には生き残る義務がある。さあ行くんだ」


 老兵と呼ばれる者達は若年兵達の尻を蹴り飛ばす様に陸上戦艦ヴァンガードから退艦させる。だがその間にも火災は強くなり被害は増えて行く。


『お嬢様、このままでは我々も危険です』

『確かにそうね。けど彼等を見捨てる訳には行かない。マッド隊はヴァンガードの乗組員の退艦を支援して頂戴』

『了解しました。リリアーナ様をお願いします』

『勿論よ。ファングリーダーよりファング隊、トリガー5へ。これより陸戦隊の資源加工施設への突入援護を行います。リリアーナ様の救出へ向かいます』

『『『『了解!』』』』

「陸戦隊の増援を待った方が良いんじゃない?陸戦隊の数少ないし」

『駄目よ!そんな悠長な事してたらリリアーナ様を救出出来なくなってしまうわ。全機、私に付いて来なさい』


 デルタセイバーを先頭にスピアセイバー六機が追従する。俺はため息一つ吐いてからマドックを動かす。


「大体あの施設も結構デカいんだぜ?どうやって探すんだよ。まさか機体から降りて探すとか言うんじゃねえだろうな」


 だが少し考えてから否定する。流石にそんな事したら俺達の存在意義が無くなる。多分、生き残ってる陸戦隊に突入させるのだろう。

 幸いにも陸戦隊は全滅してはいない。当初の数より大分減っているが兵員輸送車にはパワードスーツを身に纏ってる強者達が居る。多少の時間は掛かるだろうが施設内の敵に負ける事は無いだろう。


「となると俺の仕事は逃げようとする連中のカモ撃ちか。ようやく楽な仕事になったぜ。流石に陸上戦艦と戦うとか想定外過ぎた」

「お疲れ様でした。どうやら幸運の女神を満足させる事が出来た様ですね」

「俺のテクに掛かればざっとこんなもんよ」

「流石スーパーエースです」

「そのネタまだ引っ張るの?そろそろ勘弁してくれませんかね?」

「事実です」


 資源加工施設の近くに行くと陸戦隊は突入準備に入っていた。最初に施設周辺の敵をほぼ一掃したからか反撃は無く静かな物だ。

 しかし陸戦隊の数は大分少なくなっている。生き残ってる陸戦隊だけで突入、及び探索するのは時間が掛かるのは確定だ。


「だが妙に静かだな。ヴァンガードの連中は生身でも対抗して来た連中も居たんだがな」


 改めて資源加工施設を確認する。資源加工施設の割にはデカ過ぎる建物と敷地。そして大量の兵器群。極め付けが陸上戦艦ヴァンガードが配備されてた事だ。

 兵器や施設には維持費が掛かる。それが大規模になればなるだけ大きくなるのは必然だ。施設の周りを見れば主要となる道はたったの二本だけ。無論トラックだけの輸送では限界はある。空路からも運んではいるだろうが足りない気がする。


「うーむ……定番なのは地下だよな。あ、地下鉄とか?」


 しかし直ぐに首を横に振り否定する。


「ないない。そんなのSFの世界でしかないって……あ、此処SFの世界だったわ」


 そうなると地下鉄の線はあるかも知れん。だが所詮は創作の話。そんな簡単に話は進まないだろう。

 そして陸戦隊が資源加工施設内に突入し第三皇女リリアーナ・カルヴァータの捜索に向かう。通信内容から敵の反撃は自動タレットくらいで人の姿は無くもぬけの殻になってるらしい。


『一体姫様はどこに?そもそも本当に此処に居たのかしら?』

『現在、司令室を確保。しかし情報端末は殆どが破壊され復旧作業は困難な状況』

『他の捜索を行って下さい。私達はこのまま周辺警戒を』


 これはいよいよ地下鉄路線が高くなってるかも知れん。ダメ元で一応通信に入り込む。


「地下鉄の線は無いか?どこかに隠し通路があってそこから撤退したとか」

『地下鉄か。確かに可能性はあるな。今の所人っ子一人見当たらん状況だ』

「こっちからも探してみる。もしかしたら資源搬入口があるかも知れん。特にあの馬鹿でかいクレーンの近くとか怪しいし」

『何でクレーンが怪しいのよ?』

「大尉殿は本当にお嬢様なんですねー。これだけの兵器や資材を運び出すにはクレーンが有れば楽だろ?勿論MWで持ち運びしてる可能性もあるけどな」

『お嬢様は関係無いでしょう!』


 お嬢様の言葉をスルーしてマドックをクレーンの近くまで移動させる。周りを見渡し搬入口があるか確かめる。


「擬装してるのは間違いないだろうし。パッと見荒れた大地しかねえや」


 敵さんも簡単に痕跡を残す事はしない。周りを探索してる時だった。背後で大爆音が大地と空気を震わせる。振り返れば陸上戦艦ヴァンガードが火柱を上げ幾つもの爆発を起こしながら黒煙を上げる。

 燃え盛る陸上戦艦ヴァンガードに対し乗組員達は涙を流し敬礼を続ける。その姿をみてヴァンガードは彼等にとって大切な場所だったのだと理解した。

 そして確かな絆もあったのだと。


 今此処に彼等の故郷が一つ消えたのだ。


「最期まで家族を守ったか」


 陸上戦艦ヴァンガード。時代錯誤な存在だとしても確かな力を証明したのだ。


「まあ、だからと言って現状は行き詰まってるんだけどな!」

「今の一言で全てが台無しになりました」

「俺が最後までセンチメンタルな事言う訳ねぇだろ。大体俺はあの戦艦の乗組員じゃねぇし」


 しかし、このままでは本当に手詰まりになってしまう。地下鉄ですら俺の予想でしかないし。

 だがどうやら幸運の女神は本当に俺の側に居るのかも知れない。何故なら目の前の地面に大きな四角状に溝が出来ていたのだから。恐らく先程の大爆発の影響が擬装を剥げたのだ。


「やっぱ俺ってラッキーボーイだな。ファング1聞こえるか?手掛かりを見つけた。至急、陸戦隊を連れて来てくれ」


 これ以上女神を待たせるのは紳士として失格になってしまうからな。なるべく早く先に進む為に行動するのだった。





 俺の予想は大当たりだった。やはりダムラカの連中は地下鉄を使用し大規模に兵器や資源の輸送を行っていた。唯一つ問題があるとすれば地下鉄ステーションが予想以上に大規模だったのだ。何故なら線路だけで六本あるのだ。然もこの資源加工施設は所謂中継的な役割なのか左右に線路が続いているのだ。

 貨物列車が往復する事を考えると十二通りの道程がある。そして全てを虱潰しに捜索してる余裕は無い。


「考えろ。ダムラカの連中は徹底抗戦はせず何故お姫様を連れて逃げた?つまり脱出する為だ。そしてまだ利用価値があるからだ」


 俺はネロを持ちながらマドックから降りる。そして陸戦隊と共に手掛かりを探す。制御室に向かうと陸戦隊のメンバーがコンソールから情報を引き出していた。


「どうやらこの場所まで破壊の手が回らなかったみたいだな」

「恐らくあの陸上戦艦が予想より早く破壊されたからだろう。流石ファング隊とマッド隊だな」

「いや一番の功労者は間違いなく俺だぜ?何せヴァンガードに一番乗りしたからな」

「ふん。どうせ偶々だろう。ほらサッサと情報を引き出す手伝いをしろ。こんな時くらいしか役に立たないだろ?」

「はん!活躍する前に出落ちした連中に偉そうに言われたくねえよ」

「チッ。その減らず口を叩く前に黙って作業に入れ」


 陸戦隊は俺に対し非常に雑に扱う。こいつらにいつか必ず嫌がらせしてやる。


「へいへい。じゃあネロ頼むぞ。お前なら出来ると信じてるからな」

「お任せ下さい。必ずやご期待に添えてみせます」

「お前だけだよ。俺の味方はよ」


 ネロにコードを差し込み手付かずのコンソールに繋げる。するとあら不思議。幾つかのプロテクトを瞬く間に解除し情報が引き出される。そして一番見たかった情報を見つける。

 それは俺達が施設に乗り込む十分前にスケジュールに無い貨物列車が動いていたのだ。そして貨物列車の路線先はモバル空港。


「宇宙に逃げる気か」


 空港と言っても小型の宇宙船くらいなら有る。つまり最低でもリリアーナ・カルヴァータだけでも宇宙に逃がしダムラカ艦隊に回収させるのだろう。


「連中の行き先が分かった。モバル空港だ。奴等、宇宙に逃げる気だ」

「此処まで来てこれか。ファング1聞こえますか?姫様の行き先が判明しました」


 陸戦隊の連中に伝えて今の状況を整理する。恐らくもう宇宙船の出発準備は済ましてある状態だろう。そしてモバル空港に着き次第宇宙へ逃走し、ダムラカ艦隊と合流を果たすだろう。

 そして移動している貨物列車へ追い付ける機体はデルタセイバーくらいしか無いだろう。

 つまり何が言いたいのかと言うとだね。


「俺の出番此処までじゃね?」


 マドックで追い掛けたらブースターが保たねぇからな。大体量産機に出来る領分を超えてるわ。


「いやー残念だわー。もう少し戦えたんだがなー。でも仕方ないよねー。だって追い掛ける手段が無いんだもーん。それに俺量産機だし」

「ハッキング完了しました。現在モバル空港に向かっている貨物列車を緊急停止プログラムを作動。もって五分程です」

「ネロちゃん?」

「間も無く三番線に貨物列車が到着します。ご注意下さい」


 暫くすると無人の貨物列車が到着する。然も後ろには空きスペースのある列車もあるのでAWも楽々搭載可能だ。


「ご満足頂けたでしょうか?」

「此処まで御膳立てされたらやるしかないじゃん?それに勝利の女神を飽きさせないのは良い男の務めだ。ネロ行くぞ」

「どこまでもお供します」


 俺は通信をクリスティーナ大尉に繋げながらネロを持ちマドックに戻るのだった。


 次がラストチャンスだと確信しながら。

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