各々の目的
居住コロニー・キタチーはかつて無い程の賑わいを見せていた。
それもその筈、宇宙を股に掛けるアイドル達がこのコロニーにやって来るのだ。
既にコロニーの中はお祭り騒ぎで、アイドル達の歓迎ムード一色であった。
「フン、呑気な連中。もう少しで、この辺りも戦場になるってのに」
1人の女性がジョッキに注がれた酒を一気に煽りながら呟く。
赤紫のボブカットに切れ目が特徴的。容姿は良く、スタイルもモデル体型なので、今日だけでも何度もナンパされては撃退して来た。
「もう少しで私も……」
「よう、アンジェラ。下見に来てんのか?」
「ダグラス。アンタも似た様なもんでしょう?」
大柄だが細身の男性が同じ席に座る。そして店員を呼んで同じジョッキで酒を注文する。
「なぁ、アンジェラ。今回の作戦後はどうすんだ?正直、雇い主が余り宜しく無いからよ」
「別に。やる事やって報酬貰ったら、さよならよ。それに、雇い主は裏切る暇は無いでしょうから」
「確かに。殆どの相手が雑兵とは言え戦力的にAWが無いからな。コロニー内への持ち込みが政府関係以外は厳禁なのは痛い所だぜ」
丁度、道路でトラックに輸送されている自治軍のAW。恐らく、定期点検の為に運ばれてるだけだろう。
店員からジョッキに並々に注がれた酒を一気に呷り、美味そうな表情になりながら話を続ける。
「プハァッ。まぁ、俺達はコロニー内に侵入する敵を阻止するだけだからな。敵の親衛隊が来る可能性もあるだろうから、気張って行かねぇとな」
「私は違うわ。コロニー内に配置されてる親衛隊を始末するのよ」
「おいおい、そんな話聞いてないぜ?」
「私も言ってないもの」
何でも無い様に言うアンジェラに呆れた表情で見るダグラス。
だが、ダグラスは直ぐに真剣な表情になる。
「援護は要るか?」
「要らない。どうせ、親衛隊はコロニー内用の装備だし。私の機体なら蹂躙出来る」
アンジェラは何でも無い表情だった。
それは、自信の表れなのだろう。負けるとは微塵も思って無いのだろう。
「しかし、奴さんも思い切ったもんだよな。アイドルを狙うなんてさ」
「何でも良いわよ。それに、順調に進んでくれた方が色々助かるし」
「そうだな。報酬もかなり良い額だし。まぁ、コロニーに居る連中からしたら良い迷惑だろうがな」
傭兵2人の会話は誰にも聞かれる事無く、喧騒の中に消えて行く。
間も無く戦場になる居住コロニー・キタチー。
コロニー内で戦闘は御法度なのが暗黙のルールだ。何故ならコロニーが破壊されれば、宇宙空間へ生身で放り出されてしまう。
だからこそ、コロニー内では極力戦闘行動はしない。
強力なビーム兵器などは地面を貫通して、コロニーに直接ダメージを与えてしまう。
使用するにしても低出力にして調整する必要がある。
(私も、後少しであの場所に行ける。ナインズには恨みは無いけど、踏み台にさせて貰うわ)
アンジェラは自身の願いを叶える為に、ナインズやコロニー内の民間人を犠牲にする事に躊躇はしない。
だからこそ、無事に作戦が済む事を願うばかりである。
場所は変わって、キタチーの商業区には様々な店が立ち並んでいる。
元々、盛んな区画だったのだがホープ・スター艦隊が来ると決まった瞬間から、一気に人の入れ替わりが激しくなった。
正確に言えば入って来る人口割合の方が多いのだが、その分治安が悪化して出て行く人達も増えた。
行政も何とかしようと自治軍を常に派遣してパトロールに回しているのだが焼石に水状態。
治安悪化に歯止めが掛からない状態になりつつあった。
尤も、その治安悪化が仕組まれてる事だとは誰も気付いていないのだが。
ゲームセンターには何人かの客が娯楽を楽しんでいた。
昼間なので外は明るいのだが、店内は少々薄暗くなっている。
昔ながらの筐体やホッケーゲームにビリヤード。比較的新しい物だとVR機能を搭載した没入型ゲーム機がある。
様々なゲームがある中、本格的なゲーム筐体がある。
それがアーマード・ウォーカー、モビル・ウォーカー同士での対戦型コクピットゲーム機だ。
簡単に言えば、軍の訓練所や教習所にあるコクピット筐体を使用したゲームだ。
そもそも、軍でも使用されているので本格的な操作感は折り紙付き。更に性能は高くは無いが、慣性装置もあるので身体に掛かるGも体感可能。
また、ダメージなども正確に表現されるので、本格的な戦闘を実感出来る。
更に、パイロットとして成り切れるコクピット型筐体として人気が非常に高い。
その為、一部の猛者達はコクピット型筐体の本体を購入して自宅に設置している程なのだ。
店内に設置されているコクピット型筐体の何個かは起動して動いていた。
対戦して負けたのか落ち込んだ者、文句を言う者と次々と筐体から出て行く。
そして、試合が終了したのと同時に最後まで動いていた筐体から1人の美少女が出て来る。
「お兄さん達弱過ぎ〜。私に一発も当てれずに負けるなんて、ざぁこざぁこ。キャハハハハ」
負けたプレイヤーを真正面から煽る美少女。
薄紫色の髪をサイドテールにしており、前髪の一部には黄緑と白のメッシュが入っている。
身長は低く、幼い声質からも10代前半なのだろう。スタイルは若干成長しているが、まだまだ成長期の真っ只中。
顔は非常に整っており、若干吊り目気味なのが生意気な雰囲気を出している。
更に左目の目元下には四葉のクローバーの刺青が小さく彫られている。
また、赤い帽子を被っており良く似合っていた。
「く、この……ガキが調子に乗りやがって」
「えぇ〜?でもでもぉ、本当の事だよぉ?ずっとゲームやってるのにシェナに負けちゃったもんね!」
女の子特有の高い声が野郎共の耳に響く。同時に劣情を少女に向け始める。
そもそも服装からして少々過激なのだ。
ロングブーツとニーソックス。ミニスカートに腹出しスタイルの長袖パーカー。
女性に耐性の無い野郎共にとって、目に毒な格好をしていたのだ。
「そ・れ・に〜、シェナが一番活躍してたんだからさ。文句言う前に強くなれば良いんだよ?キャハハハ〜」
「ま、まぁ、確かにな。うん、そうだな。まだまだ、俺達は未熟だったよ」
「そうだ、ジュース飲むか?勝ったご褒美だ。一本奢るよ」
気が付けば野郎共も下心満載でシェナの周りに近付いて行く。
しかし、シェナは気にする素振りを見せない。
そんなシェナの様子を見てた野郎共は行ける!と感じ始める。
「そうだ!シェナちゃんに良い物をあげるよ」
「良い物?何々?シェナが喜びそうな物?」
「勿論さ。唯、余り人目に付きたく無いからさ。少し場所を移動しようか」
明らかに危ない誘い。普通なら拒否するだろう。
「うん!分かった!じゃあ、案内してくれる?」
だが、拒否する事無く指示に従おうとする。
その瞬間、野郎共はヤレると判断してしまった。
疑う事無く後ろに付いて来るシェナ。そんな姿を見て、良識ある奴は躊躇してしまう。
「お、おい。良いのか?やっぱり、やめといた方が」
「何言ってんだ。生意気なメスガキを教育をするのは大人として当然だろ?要は社会貢献ってやつさ」
だが、止まる事は無かった。
下衆の笑みを浮かべて、これから始まるお楽しみに心を躍らせてる始末。
シェナを人が余り立ち寄らない離れたトイレに連れて行く。
そして、打撃音と悲鳴がトイレの中に響き渡る。
助けを求めてトイレの外に腕を伸ばす。
だが、足を掴まれて引き止められてしまう。
「ねぇ、喜びそうな物ってコレ?」
「ち、違う!違います!だ、だから、許しt」
言い訳は許さない。トイレに引き摺り込まれて、再び打撃音と悲鳴が響き渡る。許しを乞う者も居たが、問答無用で同じ末路を辿る事となった。
そして、床に血を流した野郎共の呻き声だけが聞こえる。
「あーあー、つまんないのー。ゲームでも弱いのに現実でも弱いなんて、本当に唯の雑魚じゃん」
手に付いた血をハンカチで拭い取って捨てる。
「でもぉ、もう少しで楽しくなるもんねぇ。早く強い奴と戦いたいなぁ」
シェナはゲームセンターを後にする。
その足取りは軽く、これから始まるイベントを楽しみにしていたのだった。




