マジでキャラ紹介って苦手なんですよ。服装やら外見やら説明すると本当に大変なんですよ。これやるだけでも執筆速度が止まりますから。もう、ずっと戦闘シーンだけ書きたいです!
商業区画は中々賑やかなものだ。
道を歩けばブランドショップの数々が見つかるし、様々なアイドル達の音楽やサインの直筆が売られている。
中には大炎上して地に落ちたアイドル達のグッズが投げ売りされているが、結構売れている印象だ。
大炎上したとしても、人気が高い故にファンに愛され続けるアイドル。
ある意味、アイドル冥利に尽きるのでは無かろうか?
(単純にファンの規模数が桁違いなだけだろうがな)
何せ、商売相手は全宇宙に住む多種多様の種族達なのだ。
スキャンダルから炎上した所で擁護するファンは一定数居る訳だ。そして、涙流しながらの会見でも開けば何とかなるだろう。
「少なくともグッズの在庫処分はやり易そうだな」
しかし、周りを見ると美男美女率が高い。
恐らく、アイドル達の身内や親戚などが多いのだろう。
また、スタッフの人選もかなり厳選していると聞く。確かな身分が無ければ簡単には雇われないとか。
流石は現役アイドルから原石まで幅広く揃えているだけはあるな。
(そう考えるとマジでラッキーだったよなぁ)
まさか、エルフェンフィールド軍も俺がホープ・スター艦隊に居るとは想定する事も出来ないだろう。
今頃は惑星カルヴァータ周辺の宇宙ステーションとか手当たり次第に捜索してそうだな。
暫く道なりに歩いていると目の前に人集りが出来ていた。
何事かと遠目で見てみると、現役アイドルによるグルメ巡りをしている様だった。
「また面倒な。別ルートに行くか」
これ以上、アイドル達との接触は極力回避したい。普通の正規市民は高嶺の花とは無縁なんだからさ。
「ウラヌス・オブ・スターには沢山の食べ物屋が多くて誘惑が多いんだよね。だから、カロリー計算が凄く大事なんだから」
人を惹きつける声。その声を聞いた瞬間から違和感を覚えつつ、顔を向けてしまう。
「「分かる〜。でも、魅力的なスイーツも多いから困っちゃう〜」」
綺麗なハモりボイスが周囲の視線を奪って行く。
「あーし的にはぁ、B級グルメもお勧めしちゃうかなぁ」
「確かに。甘い物だけで無く、美味い食べ物が豊富にあるからな。アタイもカロリーには気を使わねぇとな」
様々な美声と圧倒的なカリスマ性。周囲にはキラキラとしたエフェクトが見えてしまう始末。
「アイリちゃんは好きな食べ物が串焼きなんだっけ?」
「うん!私の一番のお気に入りなの!」
トップクラスの美少女達の輝く笑顔。
アイドル・ナインズ達によるグルメ巡りが行われていたのだ。
「……いや、声しか分かんないんだけど」
え?容姿の説明が無いって?
だってー、人集りで姿が見えないんだもん。そもそも、娯楽目的で来た訳だし。
それに、アイドルよりもアーマード・ウォーカーの情報の方が興味あるし。
「アーマード・ウォーカーで思い出したけどさ。エイティ、今更だけどアストギアを使ってた敵の詳細って分かる?」
『詳細は不明です。そもそも、撃破した機体の回収自体を行なった形跡がありませんでした』
「……何だと?そんな事は有り得ないだろう」
『信じられない事ですが、事実です』
未確認の敵性勢力から攻撃を受けた。
それが宙賊、ならず者だとしても、普通は残骸から調べるのが常識と言っても過言では無い。
それで情報の一つや二つ手に入れれる可能性もあるのだから。
だが、調べる事をしなかった。
明らかに異常と言える状況。
(いや、違う。身内に裏切り者が居るのか?)
ホープ・スター企業を裏切ると言う事は、必然的に数百億単位のアイドルファン達を敵に回す様なもの。
それだけでは無い。様々な企業との繋がりもあるのは明白な巨大企業様。
そんな相手に喧嘩を売るのなら、一度精神科に行く事をお勧めするレベルだ。
(そもそも、逃げた先で一波乱有りますって聞いて無いし。ジェームズ・田中は波乱とは無縁の人生を歩むんだよ)
少なくとも後半年以上はな!
「ハァ、面倒事は俺が居なくなってからにして欲しいもんだぜ」
アイドル達に背を向けながら適当な食べ物屋を探す。
丁度、小腹も空いて来たのでタイミング的には悪く無い。
アイドル達の肥えた舌を日々相手にしているんだ。俺のグルメ舌を満足させる飯屋くらいはあるだろう。
「ジェームズ!一緒にご飯食べよー!」
「デッケー声を出すんじゃ無い!目立つだろうが!」
「貴様の声が一番大きいぞ」
『何故、貴方はそうやって直ぐ目立つんですか』
翡翠瞳の姉妹こと、フランチェスカ中尉とフランシス大尉が仲良く現れた。
それも、外出用のお洒落な服装だった。
フランチェスカ中尉は白いワンピースの上にカジュアルなチェック柄の羽織物を身に付けている。白いショートブーツも良いアクセントになっている。
フランシス大尉は少し大人なコーディネートで黒を基調としたコートと淡い肌色のロングスカート。ロングブーツも合わせて非常に似合っている。
そもそもエヴァット姉妹自身がアイドル顔負けの容姿とスタイルの持ち主。
つまり、何を身に付けても似合ってるって事さ。
「相変わらず美少女姉妹の仲は良さそうで何よりだよ。で?何か用か?」
「ご飯一緒に食べよう?お腹空いてるんでしょう?」
「貴様には5万クレジット分を支払う必要があるからな。まぁ、好きなのを選べ」
「5万クレジット?あぁ、あの時のか」
そう言えば、シミュレーター室で俺が辛勝した戦いだったな。
もし、再びエヴァット姉妹と戦えば勝つ自信はある。だが、負ける可能性が高いのも事実。
やはり、勝率を上げるには専用機が必要になるだろう。それも、可及的速やかにだ。
(贅沢は言わない。脱出装置は無くても良いから専用機を下さい!最低でもバレットネイター以上で!)
心の中で浪漫を叫ぶ。
「脱出装置は必要だと思うよ?」
「代わりに浪漫が手に入るんだ。等価交換としては充分だろ」
「脱出装置はパイロットにとって最後の命綱だろうに」
仲の良いエヴァット姉妹に突っ込まれながら浪漫について語る。
だが、そんな俺達は少々目立つ存在になっていた。
「アレって……翡翠瞳の姉妹じゃないか?」
「凄い!本物だ!」
「隣に居る男は知り合いか?」
「あの!自分ファンなんですけど!写真良いですか!」
あれよあれよという間にエヴァット姉妹の周りに人集りが出来る。
無論、俺は巻き込まれる気は無いので手を離せとフランチェスカ中尉に心の中で訴える。
(手を離せ。俺は腹拵えの為に一時離脱する)
(駄目だよ。私達を置いてったら怒るから)
(じゃあ、残るから借金返済手伝って)
(……それは無理だよ)
借金の話題をチラつかせたら直ぐに手を離してくれた。
それはそれで少々悲しいんだがなぁ。
「全く、俺はアイドルでも何でも無いってのに」
人集りを無理矢理脱出して行く。何人かは此方に視線を向けるが、直ぐに興味を無くしたのかエヴァット姉妹の方へ向かう。
「取り敢えず、あの串焼き屋で良いか」
何となく懐かしい匂いがした。食欲を唆る匂いではあるが、別の感覚を覚えた。
「おっちゃん、串焼き10本」
「あいよ」
店員もおじさんだったから余計に懐かしい気分になる。
もう少しで思い出せそうなのだが、中々思い出す事が出来ない。
そんな時、後ろから話し声が聞こえた。
「このお店の串焼きがとっても美味しんだよ!私の一番お気に入りなの!」
「「へぇ〜、確かに良い匂いがするね〜」」
「食欲が非常にそそられる。20本くらい大丈夫かな?」
「ちょいちょい、カロリー計算は何処に行ったの?アグ姉さん」
「20本は少し多いか。10本くらいで良いんじゃないかな?」
後ろを見なくても分かる。
今日は、これ以上この場所に居続けては駄目だと理解した。大人しく部屋で引き篭もってろと言われている様なものだと。
(何でだよ!別に俺から関わろうとして無いじゃん!もう、無視だ!無視!絶対に振り向かないからな!畜生めぇ!)
大体、このまま振り返って容姿やら服装を見たら紹介文とか書かないとアカンやろ?
アレ、凄く苦手で大変なんです。
(何か、別の奴の感情が来てないか?気の所為?)
気の所為だよ。
「そうか。気の所為か」
『何をブツブツと呟いているのですか?』
「いや、何となくな」
いつの間にやら出来上がった串焼きを受け取る。
そして少し離れた場所で食べ歩きを敢行する。
「B級グルメは食べ歩きによって美味さ倍増するからな」
美味そうな串焼きの肉を一口頬張り食べる。
何の肉かは知らないが、熱々で肉汁豊富で非常に美味い。
唯、味付けは非常に不味かったがな。
「……チッ、ゴミ溜めの味がする」
何でだよ。無関係な場所に居るのに、この味を再び味わう事になったしまったのか。
俺は串焼き屋を見る。串焼きを焼いている店員も、会計をしている店員も知り合いでは無い。
なのに、ガキの頃にお世話になった味がしたんだ。
「偶々……か。ハァ、今日は厄日だな。大人しく部屋に居た方が良さそうだ」
宇宙は広いとは言っても、よりにもよってガキの頃に食べてた串焼き屋を思い出すとは。
俺は残った串焼きを、ゆっくりと咀嚼して行く。
懐かしい味に、思い出したく無い思い出が次々と蘇る。
「そう言えば、サキュバスの館に居た同郷の連中は元気かな?」
今思えば、サキュバスの館に逃げ込むのも有りだったな。
あそこだったら美人の同郷人が何人か居た訳だし。
多分、そんなに不自由しない逃亡生活が送れた気がするよ。
(唯、エルフェンフィールド軍も馬鹿じゃない。逃亡し易い場所には捜索隊を派遣してるだろうな)
結局、今の場所が一番見つかり難いのかもな。
俺は昔の記憶を思い出しつつ、串焼きを食べるのだった。
ジェームズ・田中が肩を落としながら去って行く。
そんな彼の事を気にする人達は居ない……筈だった。
「……ゴミ溜めの味」
ナインズの一番人気でもあるアイリちゃんは、串焼きを食べながら小さな声で呟く。
そもそも、この味はワトソンプロデューサーに無理を言って、再現出来そうな料理人達を紹介して貰って作ったのだ。
元々住んでいた故郷は既に都市開発に巻き込まれて無くなっていた。
つまり、あの頃の貧しくても楽しかった思い出も無くなってしまったのだ。
だから、せめて初恋の男の子がよく持って来てくれた串焼きだけでも残したい。
聡明な男の子だった。周りの男の子達よりも大人だった。
泣いてる子の世話をしつつ、ゴミ捨て場から使えそうな物を売っていた。
そして、食べ盛りの子供達を養う為に串焼きを買って来てくれていた。
今も何処かで生きていると信じている。だって、誰よりも優しくて頼りになった男の子だったから。
私達が売られる時も分かっていたんだろう。
最後は涙を流して悲しそうな表情をして別れを惜しんでくれていたんだから。
少しだけ物思いに耽る。だが、今も動画配信されているので直ぐに気持ちを切り替えてアイドルスマイルを貼り付ける。
「この串焼きが一番好きなの。だって……凄く暖かい気持ちになるから」
私はそう言ってから串焼きを頬張るのだった。
思い出補正ってあるよね?




