説明!
俺はローネちゃんことネロの背中を追い続けていた。
案内された場所は、俺とは真逆の様な存在感溢れる建物だった。
「教会かよ。今更、懺悔でもしようってか?」
『貴方の場合は、懺悔する前に迷惑を掛けた各方面に謝罪した方が良いかと』
「その手間を省く為の教会なんだよ。お陰で自己嫌悪から解放される訳だしな」
懺悔した所で相手からしたら知った事では無いけどな。
強いて言えば、俺みたいに逃げ切った奴が行く場所なのは間違い無いだろう。
「まぁ、どうせ直ぐに傭兵に戻るんだ。懺悔する必要は無いんだよ」
俺はそのまま立派な教会の扉を開ける。中にはローネちゃんともう一人居た。
名も知らぬ美しく輝く石像を前に膝を折り、立派な杖を持ちつつ祈りを捧げ続けている美少女。
ナインズの一人、ニーナ・キャンベルが居た。
まぁ、ファンタスト宗教の聖女様だからな。そりゃあ、教会で祈りを捧げるのも頷ける。
「マスター、懺悔室にお入り下さい。あそこなら防音完備、盗聴防止が備わってますので」
「……なんか、本格的に懺悔しそうな感じになったな」
『今の貴方にはお似合いかと』
「ほっとけ」
俺は先に懺悔室に入る。続いてローネちゃんも後に続く。
「君は反対側に行くんだよ?」
「……分かりました」
「いや、何で不服そうになんねん」
俺が間違っているのか?教会はこんな雰囲気の場所だったか?
流石の俺でもTPOは弁えるぜ?
そして、ローネちゃんは反対側の懺悔室に入る。
取り敢えず、どの辺りから説明すべきか。
「そう言えば、何で俺の正体を見破ったんだ?このサングラスならアンドロイドの目も誤魔化せると思うんだがな」
俺はそう言ってからサングラスを外す。
このサングラスのお陰で、エルフェンフィールド軍から上手く逃亡出来た要因の一つでもある。
伊達に裏ルートで入手した750万クレジットのサングラスでは無いのだ。
「私はマスターの戦闘補助AIです。故に戦闘時の操縦の癖は熟知しております」
「癖か。確かに土壇場な状況に入れば、誤魔化せんわな」
どうやら、この前の救出活動の時に勘付かれたらしい。
マニュアルで細かく微調整しながら操縦してたからな。ネロを搭載していた時でも、マニュアルで操作する事は何度かあった。
「後は戦闘時のデータも調べさせて頂きました。結果としまして、96.9%の適合率が出ました」
「まぁ、今回の場合はネロ限定だろうな。普通は警備隊の戦闘データなんざ調べたりしないし」
後はギフトの読心を持ってる奴くらいか?
まぁ、俺の正体がバレた所でエルフェンフィールド軍に伝わらなければ何でも良いさ。
「さてと、そろそろ説明しようか。俺がネロから離れた後の事は知らんだろ」
「はい。あの後の事は私には存じておりません。最終的にエルフェンフィールド軍に入隊した事だけは把握しております」
「なら、その間の話をしておく」
俺はネロと別れた後の説明をする。
対デルタセイバー用にリンク・ディバイス・システムに手を出した事。
少々特別なOSを使った事。
所属不明艦隊と交戦しながらデルタセイバーの奪取に成功。
その後にデルタセイバーと一騎打ちをした事。
「無謀な戦いなのは分かっていた。時間も殆ど無かったからな。勝率の低い戦い。そして、俺の我儘に違いは無かった」
「マスター……」
「他にも戦う理由があったと思う。だけど、思い出す事が出来なくなった。恐らく、リンク・ディバイス・システムを使用した後遺症だろう」
記録に名を残す事は出来た。だが、他にも心残りがあった気はする。
だが、目標自体は無事に達成出来たので多分大丈夫だろう。
「マスターのお身体は?」
「問題無い。寧ろ、快調と言っても良いな。身体が軽くなった……いや、心が軽くなった感じだな」
色々な事から解放された気はする。だけど、同時に虚無感だけが残った。
果たして、これは俺が望んだ結末だっただろうか?
「まぁ、デルタセイバーには勝ったのは間違いないがな!最後の最後に俺が手心加えてやった訳だし」
「それで、その後にエルフェンフィールド軍に入隊したと?」
「うん、まぁ……な。何と言うべきか」
現在進行形で89億クレジットの借金から逃亡してます。
こんな情けない理由をネロに言うのは正直嫌です。
でも、言わないと駄目だよなぁ。
「実はな……デルタセイバーの、修繕費を払う事になってな」
「修繕費ですか。それも、デルタセイバーのですか?」
「あぁ、その額は……89億クレジットだ」
重い空気が懺悔室を満たす。
いや、もうね。分かるよ。フォロー出来る範囲を超えてるくらい。
89億クレジットなんて返済出来る訳が無いし。
あのままエルフェンフィールド軍に所属し続けていたら、遅かれ早かれ本格的に軍人ライフを歩む事になっただろうし。
「マスター、私もアイドルになって貯金はあります」
「それはネロのクレジットだろ。お前が人前に出ても立派に見える様にする為の資金だ。大事に使え」
「しかし、私は戦闘用補助AIです。アイドルになる必要は無いのです」
確かに、戦闘補助AIの本分は軍事兵器に搭載される事だろう。
だが、軍事兵器以外の道があるのも事実だ。
「お前に無くても、周りが必要としている。アイドルって、そんなもんだろ?」
現にネロはアイドル・ナインズの一員として大活躍中なのだから。
「才能があって使ったら人気アイドルになれた。それで良いじゃねぇか」
「ですが……」
「元戦闘補助AIのアイドルなんざ、滅多に現れるもんじゃないし。これからの活躍に期待してるよ。ローネちゃん」
俺はそう言ってから懺悔室から出る。
懺悔室から出てたら、丁度ニーナ・キャンベルも祈りを捧げ終えたのだろう。
こちらに歩み寄って来た。
「懺悔は終わりましたか?」
「懺悔?今更、俺がそんな事をやって意味があるとでも思うかい?」
懺悔室に入ったが、別に許しを請う訳じゃ無いからな。
「そう言えば一つ聞いても良いかな?」
「何でしょう?」
「アンタは何に祈りを捧げてたんだ?偶像?それとも象徴?」
もしくは、役に立たない神様って奴かな?
「全ての人々が安心して暮らせる様に、神に願っていました」
「へぇ、神頼みしてた訳か。因みにだがな、俺は神様って奴がどんな性格してるか知ってるぜ」
俺はそう言ってからニーナ・キャンベルに近付き、耳元で囁く様に言う。
「此処だけの話、神様って奴は冷酷でな。勝者には微笑み、敗者には慈悲なんて無いんだよ」
「……ギルティ」
有罪?上等だよ。こちとら借金89億クレジットから逃亡の身だからな!
「後、お前さんは味覚音痴を早急に何とかして貰える様に神様に祈っとけ。そっちの方もギルティだからな」
「…………」
おやおや?自分に対しては無罪ってか?
良いねぇ。その自分に甘い性格。俺は結構好きdッ⁉︎
「痛ッ!お前、その杖の先端で足を刺すんじゃない。聖女だろ。慎みを持てよ」
「…………」プイ
いや、無言でそっぽ向かれても困るんだがな。
「まぁ、良いや。アイドルの仕事頑張れよ。ローネちゃんもな」
「応援ありがとうございます」
「マスター……応援、ありがとございます」
俺はナインズの2人に背を向けて教会を後にする。
教会と言う場所なだけあって静かで、心洗われる様な雰囲気はあったがな。
「神聖な場所は俺には似合わねぇな」
『似合う様に努力をすれば良いのでは?』
「俺は傭兵に戻るつもりなんだぜ?それに、教会に縋る様な性格して無いからな」
俺はエイティと話をしつつ、商業施設へとむかうのだった。
居住コロニー・キタチー
資源衛星を利用した巨大な居住コロニー。立地としは少々孤立しているが、周辺には資源衛星が豊富にある為、後50年程は仕事に困る事は無いだろう。
しかし、この半年の間で一気に人口増加が加速する事案が発生した。
アイドル・ナインズを筆頭にした多数のアイドルグループが大規模ライブを行う。
お陰で、居住コロニー・キタチーは一時的にバブル経済並みに景気が良くなった。
無論、アイドル達がライブを終えてしまえばバブル崩壊は必至だろう。
だからこそ、今の内に経済を回し続ける必要がある。
確かに、キタチーの周辺宙域にも資源は豊富にあるだろう。
しかし、消費し続けるだけでは資源が枯渇するのも目に見えている。
その為、キタチー内の約6割程の企業は資源採掘機材関連の仕事を行っている。
資源採掘機材自体の需要は豊富にある。そして、資源衛星からより効率良く採掘出来るか日々研究が続けられていた。
「ふぅ、やれやれ。本業を忘れてしまいたい気分だよ」
町工場にある資源採掘機材の修理工場。その社長室から1人の男性が呟く。
「社長、駄目ですよ。本国を裏切ったらどうなる事やら」
「分かってるさ。しかしねぇ、こうも事業が上手く軌道に乗せれた訳なんだがな」
今回の作戦の為に事前に会社を経営し、現地の隠れ蓑として運用する事。
隠れ蓑とは言え経営は順調で、業績は常に黒字を叩き出して来た。
この辺りは社長役の営業手腕が非常に大きいと言えるだろう。
「意外と私には、こう言う道が合ってたのかねぇ」
お茶を啜りながら黄昏る社長。
今や第二の故郷と呼んでも差し支え無い居住コロニー・キタチー。
だが、そんな第二の故郷を間も無く戦火に巻き込んでしまう。
「資源採掘機材自体はどこも必要としてますが。その分、ライバル企業も多い訳ですし」
「この町工場も中堅クラスには持ち込めたからねぇ。手放すのが惜しいよ。いや、本当に」
没落国家と違い三大国家から隔絶されて無く、様々な惑星へ売り込みが出来る。また、食料不足や社会的不安とも無縁の環境。
この環境が揃っている場所に居続けたいと思うのは間違いでは無いだろう。
「しかし、この作戦が成功すれば我々は英雄になりますよ。それに本国に戻れば凱旋ですよ」
「そうだねぇ……それで、準備の方はどうだね?」
社長の目が軍人の目付きに変わる。
それに呼応する様に部下達は姿勢を正し報告を上げる。
「はい。既に部隊の配置は完了しております」
「軍用MW【Ty-88ロルフ】、攻撃ヘリのチャンパーも手配済みです」
「コンテナやトラック等も自治軍に話は事前に通しております。また、張り紙や看板など設置しておりますので、当日までは何もされないでしょう」
既に矢は放たれたのだ。後は、何処まで飛距離を伸ばしつつ目標を捉えるか。
「傭兵共はどうだ?」
「大人しくしてます。恐らく、高額報酬の任務前に問題を起こしたくは無いのでしょう」
コロニー内に親衛隊の増援を入れさせる訳には行かない。
数合わせとしてでも、使える物は何でも使う必要があるのだ。
「そうで無くては困る。何の為に高額報酬を用意したのか。理解出来る傭兵共で助かったな」
社長は渋い笑みを浮かべながら再び窓の外を眺める。
既に、この場所は戦場なのだ。なら、後は最小限の犠牲で作戦の成功を願うばかり。
(無駄な抵抗はやめて欲しいものだねぇ)
お茶を啜りながら社長は作戦の内容を吟味し直すのだった。




