ロディ・カトラリー
親衛隊員を救ってから暫くの間、色々と騒がしい日々が続いた。
ホープ・スター企業として今後も危険な航空ショーを続けるのか?
アイドル達に対する護衛が不足しているのでは?
民間人に負傷者が出たから、事故を起こしたパイロットと救出活動をしたパイロットは謝罪をしろ。
大手メディアから個人配信者まで騒がしいくらいに喚いていた。
更に悪い事は続く。ジェームズ・田中の身元を大手メディアが取り上げたのだ。
まぁ、救出活動を行なった勇気ある者として扱っていたが。俺からしたら目立つこと自体良い迷惑だ。
インタビューをお願いします!とホープ・スター企業を通じて依頼が来たので断固拒否したがな。
「……助けるんじゃ無かった」
『デメリットは想定以上に大きかったですね』
「だが、結構早くに沈静化してくれたのは良かった」
沈静化した理由。それは、ナインズを筆頭にしたアイドル達が特別ゲリラライブを行ったからだ。
突然のゲリラライブと配信が行われたので、民衆の注目をメディアから一瞬で奪ってしまったのだ。
お陰でジェームズ・田中に関して騒ぎ立ててた連中も沈静化せざるを得なかった。
更に、救出した親衛隊ロディ・カトラリー自身がホープ・スター企業が主催するメディアに顔を出して注目を集めていた。
「庇われたとは思いたくは無いがね」
『しかし、タイミング的には庇われた形になってます』
「フン、偶々だろ。仮に意図的に庇ったとしても、俺からは何も言うつもりは無い」
そもそも、親衛隊と馴れ合うつもりは無いからな。
「さてと、少し外の空気を吸ってくるか」
俺は自室から端末で情報収集していた。
幸い、ジェームズ・田中に関してエルフェンフィールド軍が勘付いた様子は無い。
何故なら、共和国領内にエルフェンフィールド軍の艦隊が派遣されていないからだ。
もしかしたら、少数派遣で来てるかも知れんが。
後は、没落国家に関する情報もだ。
『没落国家の目撃情報が数件ありました。しかし、確証の無い情報が殆どです』
「だとしたら、俺が撃破した連中は没落国家の装備を手に入れた宙賊だろう」
『しかし、没落国家の装備を揃えるのは困難です。それなら入手しやすい旧式のサラガン、マドックを実戦向けに改修して運用した方が遥かに良いかと』
「そこだよ。俺が気になってるのは」
テロを行うにしても、入手困難な没落国家の装備を使うだろうか?
それならサラガン、マドックを使った方が遥かに安上がりだ。
伊達に、傭兵や自治軍などで運用されているアーマード・ウォーカーでは無いのだ。
「うーむ、分からん。仮に没落国家が関わってたとしてだ。ホープ・スター艦隊を襲う理由が薄いんだよ」
『しかし、宇宙的人気のアイドルを人質に出来れば身代金は莫大な額になります』
「莫大って言っても、国家運営出来る額と考えると少な過ぎるぜ」
それに、三大国家はテロリストの要求を受けないのは明白。
三大国家としての面子もあるから断固拒否の構えを取るだろう。
となると、徴収出来る所と言えば……。
「フッ、アホくさ。被害妄想もこの辺りで切り上げだな」
そもそも、没落国家が関わっている証拠は圧倒的に少ない。
確証の無い敵に注意するより、万全の態勢を整えて迎え撃つ方が遥かに良いだろう。
俺はコミュニティルームに向かう。そこで宇宙を見ながら、ゆっくりと過ごすのだ。
因みに、現在の俺は警戒任務から除外されている。
理由としては、下手に注目を浴びない方が良いという、上からの配慮だそうだ。
実際には、これ以上の厄介事は必要無い、というところだろうがな。
コミュニティルームに到着して、自販機に向かう。
(無難なドリンクにしようかな?いや、やはり新作ドリンクにするべきか)
非常に悩ましい事だ。
「やぁ、ジェームズ君。元気にしていたかい?」
「ん?アンタは……ロディ・カトラリーか」
爽やかボイスに釣られて振り返る。すると、本物のイケメンが良い笑顔と共に現れた。
いや、マジでイケメンやねん。
茶髪のオールバックに健康的な肌色。
優れた容姿に加えて、右の目元には泣き黒子まで付いている。
更に身体は鍛えているのか、細マッチョで実戦的。
流石は男性アイドルを差し置いて、無駄に女性陣から人気高いのも頷ける。
アイドルじゃない分、もしかしたらの可能性に拍車が掛かっているのも人気を後押ししているのだろう。
「ハハハ、ロディで良いさ。フルネームだと面倒だろ。俺も、ジェームズと呼ばせて貰うからさ」
それでもって、気さくと来たもんだ。これで人気が出ない方が可笑しな話になるだろう。
まぁ、俺の方が戦場に出れば目立つのは間違い無いけどな!
「別に構いませんが。改めて、警備隊所属のジェームズ・田中です」
「親衛隊所属のロディ・カトラリーだ。飲み物を買うのかい?なら、奢らせて欲しい」
「別に、奢る必要無いですよ。奢られる理由も無いですし」
「君は命の恩人だよ。だから、飲み物くらい奢らせて欲しいんだ」
仕事をしたまで。と言いたかったが、多分引き下がらないだろう。
なら、大人しく奢られようじゃないか。
「では、ご馳走になります」
「あぁ、何が良いんだい?」
「新作にします。もしかしたら、本当に美味いかもですし」
「……一応聞くが。ニーナ様の味覚に関しては?」
「味覚音痴なのは知ってますよ」
「そ、そうか。ジェームズ君は、チャレンジャーだね」
適当に宇宙が見える席に座る。
そして、ニーナ・キャンベル監修の新作ドリンクにストローを刺して飲む。
「さて、早速だが……体調の方は大丈夫かな?」
「体調は平気ですよ。まぁ、味に関しては……無味ですね」
何で体調の心配されてんねん。
やっぱり、味覚音痴だけじゃ無いのか?別の悪影響でも出るか?
そんな飲み物を売るんじゃねーよ!ホープ・スター企業さんよ!
そして本当に味が何もしない。水でも多少なりとも味がするだろうに。
「取り敢えず、ジェームズ君には改めて礼を言うよ。あの状況で、救出された事自体が奇跡みたいなものだからね」
「偶々上手く出来ただけです。それで?何か話があるのでは?」
「あぁ、その通りだ。唯、他言無用でお願いしたい」
ロディは顔を近付けて、ボリュームを下げて話を続ける。
しかし、コミュニティルームで話しても良いんだろうか?
「もしかしたら、親衛隊内部に裏切りが居るのかも知れないんだ」
「裏切りですか。まぁ、嫉妬や妬みからの嫌がらせはありそうですね。流石に機体に仕掛けるのは、やり過ぎですが」
「知っていたのか。あの後、一応機体を調べて貰った。結果として、本来使われない筈の爆薬が使われていたんだ」
「…………」
どうやら、ロディの搭乗機には爆薬が仕掛けられていたらしい。
爆発自体は小規模な事から事故に見せ掛けて、ロディを始末するつもりだったのだろう。
「それだけでは無い。変形機構にも細工がされていた。あの時、人型に可変出来なかったからね」
「成る程。逆に、中途半端な変形止まりで無くて良かったですね。そうなってたら、流石に見捨ててましたよ」
「……確かに。まだ、飛行が出来てただけ運は良かったのかも知れない」
ロディは謙遜するが、あの状況でも飛行を維持させ続けたロディの腕前が一番良かったのは言うまでも無い。
後は爆弾仕掛けた犯人の詰めが甘いのも原因だろうがな!
「因みに、何かしら危害を加えられそうな理由とか心当たりはあるんですか?」
「無いとは言えない。ジェームズ君も知っているだろう。俺はモテるんだ。だから、無駄に周りからの顰蹙を買う事もある」
「自他共にモテる事を認めてますからね。アイドルに転職する事をお勧めしますよ」
呆れる理由だが、実際にありそうだから笑えない。
側から見ても本当にイケメンだからな。外見も声質もイケメンとか反則だぜ。
女性受けでも狙ってるんか?
「それは断る。俺はアーマード・ウォーカーのパイロットだ。パイロットとしての立場を捨てる程、アイドルに魅力を感じ無い」
「……ふーん、成る程ねぇ」
どうやら、見た目と違いアーマード・ウォーカーが好きらしい。
この辺りでなら話は合いそうだな。
「兎に角、今は信用出来る仲間が必要なんだ。最近、妙に周りが騒がしいからね」
「確かに、最近騒がしい事には同意しますよ。しかしですねぇ、ホープ・スター艦隊は生半可な戦力では有りませんよ?」
超級双胴戦艦1隻を旗艦とした一個艦隊。
航空戦艦1隻、収縮砲搭載型戦艦4隻、収縮砲非搭載型戦艦4隻、巡洋艦15隻、砲撃型駆逐艦30隻、対空フリゲート艦10隻。
更に艦載機を含めれば隙の無い大艦隊の出来上がりになっている。
まぁ、個人的に対空フリゲート艦が少ないと思うがね。
この大艦隊を、たった10隻で本格的な対空防御は難しいだろう。
勿論、艦載機や他の艦艇と共闘する前提だとしてもだ。
「心配する必要は無いのでは?それに、信用出来るのは親衛隊の方ですよ。警備隊の現状を知らない訳では無いでしょう。初心者仕様の機体に、カスみたいな実力も無い連中の集まりですよ」
改めて認識すると、警備隊って笑えない状況だよな。
「確かに。親衛隊より深刻なのは警備隊だろう。だが、それでも手札は多い方が良いのは分かるだろう?」
「へぇ、俺を手札にしようってか?なら、エースパイロット達相手に勝ってから言えよ。俺は安くないんでね」
「そんなつもりでは無い。だが、俺達は上手く協力出来ると思うんだ。それに、エースパイロットに気に入られている噂は本当みたいだからな」
深刻そうな表情になるロディ。それでも絵になるから微妙に腹が立つ。
俺は味気ないドリンクを飲みつつ、ロディに言い放つ。
「フン、噂なんてどうでも良いんだよ。で?勝てたのか?それだったら多少なr「オーッホッホッホッホッ!ロザリア・法龍院の華麗なる登場ですわー!」……今度は何だよ」
護衛役の親衛隊と共に現れたロザリア・法龍院。
美人だし、目の保養になるのは間違い無いが。いかんせん、声がデカくて頭に響く。
だが、無駄に声が綺麗で不快にならないのが不思議でならない。
「見つけましたわー!ジェームズ・田中さん!さぁ、今日から貴方は私の護衛にして差し上げますわー!光栄に思いなさいな!」
「いえ、結構です」
「私の護衛になれば専用機を差し上げますわ!何と言っても私こう見えて、バンタム・コーポレーションの社長令嬢ですものー!オーッホッホッホッホッ!」
専用機の言葉を聞いて、俺は目を見開いてしまう。
専用機。バンタム・コーポレーション経由ならウォーウルフをベースにしてくれるだろう。
更に、社長令嬢護衛の為と言えば贅沢な仕様も不可能では無い筈だ。
(え?ちょっと待って。つまり、鈍足機から成り上がれるってコトォ⁉︎)
思わず顔がニヤけてしまうのは仕方無い事だった。
「もしかして、俺復活編が来たか?」
サングラスの位置を調整しつつ、無味無臭のドリンクを飲む。
こうなると味気ないドリンクも美味く感じるから不思議なもん……いや、やっぱり味無いわ。
『ジェームズ、ダメですよ』
「……畜生、分かってたさ。分かってたけどもさぁ」
少しくらい、希望に縋りたいと思いたくなるやん。
ハッカス・スイーツ
どこにスイーツの要素があんねん。無味無臭で水より高値で売るんじゃない。
星1確定だよ。