動き出す敵2
ヴォルシアの攻撃を必死に回避しながら、打開策を考えるベイル1。
(これ以上、直感を使えば脳に後遺症が出かねん。だが、息子の仇は取る!)
だが、ギフトを使わなければ敵ヴォルシアからの攻撃を避ける事は叶わないだろう。
狙撃の腕は一級品で、近接戦闘すら容易に熟す技量の高さ。
唯の警備隊員では無いのは明白だった。
《オラオラァ!さっきから逃げてばっかりじゃねえか!そんな無様な戦い方だと、息子があの世で泣いてるぜぇ?後、巡洋艦の援護射撃も無駄にすんなよ!ハハハハハハ!》
オープン通信による数々の挑発的な発言。
ベイル中隊の中でも一番技量が高く、父親を尊敬し軍に入隊した優秀な息子でもあったベイル2を数分もしない内に始末した警備隊員。
情報では警備隊は殆ど使い物にならないと報告があった。
だが、蓋を開ければベイル中隊は半壊している。
【ワンショットキル……貴様は必ず、必ず!殺してやる!】
《威勢が良いのは立派だねぇ。まぁ、口で言うのは無料だもんな。けどな、口だけの奴に実行する力は無いんだぜ》
殺意高めで飛んで来る高出力ビーム。
ギフト頼りで咄嗟の判断で機体を動かす。
今はまだ逃げ切れているが。いつまで耐えれるか。
《さてと、そろそろかな?どうだい、そっちの方は片付いたか?》
『何なんですの?その声は』
《こっちにも色々事情があるんでね。まぁ、無事なのは理解出来たよ。後は……お前だけだな》
次の狙撃もギフト頼りに避けようとする。
だが、コクピットに激しい振動が伝わる。
【何ッ⁉︎被弾しただと!何故だ!確かに直感を感じた筈!】
機体ステータスを確認すれば左脚部を失っている。
機動力を失った今、接近する事は叶わないだろう。
《直感で当たると予測出来ても、タイミングと方角とか見ないと分かんないだろ?ギフト頼りなのは結構罠なんだぜ》
【……こんな、手練れが居るとは】
逃げ切る事は不可能となった。
もし、このまま逃走を続けても機動力を奪われて終わるだけだ。
《大人しくする事をお勧めするよ。でないと、コクピットを撃ち抜いちゃうかもよ?》
ロックオン警報がコクピット内に響く。
味方巡洋艦からの援護射撃は来ている。だが、既にホープ・スター艦隊は感づいている。
後、数分もしない内に小型艦が派遣されるだろう。
これ以上、我々が長居する事はリスクが大き過ぎる。
【最早、これまでか】
息子の仇を取る事が出来なかった。だが、息子が尊敬していた軍人としての自分自身の役割は最後まで果たす。
コンソールから自爆コードの数字を入力。
そして、モニターには30秒後に自爆する事が表示される。
【貴様……名前は何と言う?】
《ハッ!これから自爆しようとする奴に名乗る名前は無いね》
【……そうか】
タバコを一本取り出し、火を付けて一気に吸う。
コクピット内で可燃性のタバコを吸うのは禁止されている事だが。
最後くらいは良いだろう。
『ちょっと!お待ちなさいな!自爆するなんて駄目ですわ!』
《先に言っとくぞ。絶対に敵機に近付くなよ。ドリル娘。フラグじゃねーからな》
『キイイィィ!また貴方は私の事をドリル娘と言いましたわね!』
《言ったよ。だから何じゃい》
我々は、こんな奴に負けたのか。
【フゥ……クラーニ、ミリア。すまない】
亡き息子と今も帰還を待っている妻に謝罪する。
だが、私にも軍人としての意地がある。
モニターのカウントがゼロになる。
そして、次の瞬間にはコクピット内が眩い光で満たされるのだった。
最後まで生き残っていた敵機の自爆。同時に敵巡洋艦もワープを使用して逃走した。
宇宙は再び静寂に戻った訳だが。
「結局、情報らしい情報は没落国家が使用してる兵器を使ってる事くらいか」
『はい。敵パイロットとの通信記録でも、所属を明かす内容は有りませんでした。唯一分かったのは名前だけですが。情報としての価値は無いでしょう』
「状況証拠だけなら没落国家一択なんだけどな。だけど、共和国を欺いても良い事無いだろうし」
(簡単に情報を漏らす程、都合良く行かないもんな)
ご都合主義だったら、この時点で分かると思うんだがな。
「まぁ、細かい事を調べるのは俺の仕事じゃない」
つまり、面倒事は上に丸投げって訳さ。
暫くすると、レーダーに反応が出る。どうやら、やっと救援部隊が来たらしい。
『こちら、ブルーロック所属、第15パトロール艦隊。通信障害、及び戦闘光を確認した。そちらの状況を直ちに報告せよ』
「チッ、面倒だな。まぁ、仕方ないか」
先にホープ・スター艦隊が来てくれると思っていたのだが。
まぁ、向こうもアイドル使ってコンサート中だからな。忙しいだろうから、仕方ないのかも知れん。
俺は大人しくパトロール艦隊と通信を繋げる。勿論、音声は元に戻してからな。
「こちら、ホープ・スター企業、警備隊所属のジェームズ・田中です。先程、所属不明の敵対勢力からの攻撃を受けましたが撃退しました」
『敵対勢力だと?確かか』
「はい、戦闘記録データが有りますが。送りましょうか?」
『直ちに送れ。確認する』
戦闘記録データを送り、また待機する。待っている間にもパトロール艦隊から次々とAWが出撃して来る。
『確認が取れた。君達、全員無事で何よりだ。それに、ロザリア・法龍院さんまで居たとは』
一気に態度が変わるパトロール艦隊の責任者。
まぁ、宇宙一人気ナインズの1人が居るんだ。そりゃあ、掌返しはお手のものになるだろう。
『オーッホッホッホッホッ!私の活躍を大々的に宣伝して頂いても宜しくてよー!』
『勿論です。親衛隊の方達も含めて宣伝させて頂きます。ブルーロック宇宙ステーションを守ってくれた形でね』
『これで私の人気も龍の様に登っていきますわー!オーッホッホッホッホッ!』
「いや、そこ鰻じゃね?」
まぁ、両方とも長いから良いのかな。知らんけど。
俺達は一度帰還する事になる。
この時、俺は知るよしも無かった。
他のエリアを哨戒任務中の警備隊は全て未帰還だったと言う事実。
俺は、ようやく危機感を抱き始めた。
もう、他人事ではいられない可能性があると言う事実。
だが、それでも大丈夫だと過信していた。
ホープ・スター艦隊は三大国家の一個艦隊に匹敵する戦力。
生半可な戦力相手なら容易に対処可能。
現状、肉壁同然の警備隊のみ失っている状況。
本命の親衛隊、エースパイロット達は1人も失っていない。
だが、もし敵が一個艦隊以上の戦力で襲って来たとしたら?
果たして撃退する事は可能だろうか?
アイドル達を守り切る事は出来るだろうか?
「ま、何とかなるさ」
障害となるなら対処するまでだ。
エースパイロットの実力は伊達じゃ無いんでね。
ブルーロック宇宙ステーションにて、2週間に及ぶアイドルコンサート。
最終日の目玉イベントとして、大規模なパレードが行われる。
この2週間で歌って踊ってトークショーに握手会。更に写真撮影など、多数のイベントに参加して来たアイドル達全員が参加する大規模パレード。
更に親衛隊による航空ショーが大々的に行われるので盛り上がる事間違い無し。
因みに、親衛隊の航空ショーは結構人気が高く。ミリオタ達からも一目置かれている。
「結局、交通整理はやるんだもんな。そんなもん、歩兵の連中にやらせれば良いだろうに」
文句を言いつつ、モニターに映る群衆を誘導する。
モニターに映る群衆の大半はアイドルのファン達。後は宇宙的人気の高いアイドル達を一目見ようと集まっている。
中には商売を始めてる連中も居るので、更に混雑しているが。
とは言え、大半の人達は大人しく誘導に従う。中には自分勝手な連中も居るが、殆どは大人しくしている。
まぁ、交通整理の割には過剰な武装してるからな。
今も写真撮られてるもの。
『交差点付近に侵入しようとする車両があります』
「またかよ。看板にも交通不可って書いてるだろうが」
これで何度目だろうか。10回を超えた辺りから数えるの止めたからな。
《はいはい、この先は交通不可ですよ。戻って下さい》
「何だぁ!テメェ!」
「俺達の邪魔をしようってか!あぁ!」
「♯¿☆。◇□○◎◇」
「アイリちゃんが俺を待ってるんだ!早く退けよ!」
文句を言い始める善良なファン達。中には言葉が通じない奴も居るが。
しかし、ちゃんと話し合えばちゃんと理解してくれる。
俺は機体を車両近くまで前進させる。
徐々に近寄って来る人型汎用機動兵器。高さ13.5mの巨人がスピードを緩める事無く、一気に迫り来る訳で。
生身の連中からしたら恐怖の感情が大きくなる。
車両ギリギリまで脚部を幅寄せしてから停止。そして、再度通告する。
《直ちに引き返せ。今直ぐに。NOW》
「な、何なんだよ!お前はよぉ!」
「もう、行こうぜ。別の場所からでも見れるからさ」
「※□○◇!♯◎☆¿✗○!」
「アイリちゃーん!俺が行くまで待っててくれよー!」
慌てた様子でUターンして戻って行く車両。
パレードに来るって言うなら、事前にルート検索しておけば良かったのに。
『田中氏殿、もう少し穏便に対応した方が』
「銃口向けて無いだけでも充分穏便にやってますよ」
今の武装は45ミリアサルトライフルを両手で持ち、多目的レーダーと六連装ミサイルポッドを両肩に装備している。
まぁ、一般的な武装構成と言っても良いだろう。
因みに、ギャランの武装は35ミリガトリングガンと大型シールドを装備している。
『やっぱり、田中氏殿は本当に凄いでござるな』
「はい?何が凄いんですか」
俺がギャランに問い掛けると、少し遠い目になりながら語る。
『この前もロザリア様を守りつつ、敵を撃退してたでござる。それに、入社して早々にワンショットキルなんて呼ばれてるでござる』
「守ってたのは親衛隊の人達ですよ。自分は敵と戦ってただけです」
まぁ、ワンショットキルに関しては否定出来ないがな。
『普通はそんな事出来ないでござる。拙者なら、敵が目の前に来たら逃げてしまうでござる。だから、田中氏殿は凄いんでござる』
「成る程。しかし、敵前逃亡は頂けませんな。そんな事したら、警備隊を辞めさせられますよ?」
『……最近、警備隊の死亡率が一気に上がったでござる。だがら、辞めるのも仕方ないかな……と』
成る程な。まぁ、死にたく無いのは辞めるのに妥当な理由だろう。
しかし、ギャランの場合は辞めたら色々失う物が多い気がするんだよな。
ほら、彼はアイドルの大ファンだし。
「つまり、ゲリラライブとかは諦めると?」
『…………』
いや、沈黙するんかーい。
結局、まだ諦め切れて無いのだろう。素人が戦場で出来る事は限られてる。
なら、その限られてる部分を全力でやれば良い。
「まぁ、これから射撃重視で戦うしか無さそうですね。無理に前に出ようとすると死にますから」
『し、死ぬ……うぅ、死にたく無いでござる』
「取り敢えず、ミサイルだけ装備するのも手ですよ。後方支援として割り切って、敵機をロックオンしたらトリガーを引くだけですから。まぁ、接近されたら終わるんですけどね。ハハハ」
『……この前のやり方で頑張ってみるでござる』
溜息を吐いて落ち込むギャラン。
だが、落ち込んでる暇は無いぞ?何故ならギャランの大好きなアイドル達が近くを通る訳だからな。
「取り敢えずアイドル達を見て元気出して下さい。後、2時間もすればパレードも始まりますから」
野郎を慰める趣味は無いので、面倒な事はアイドル達に丸投げさ。
まぁ、そのお陰でギャランのテンションが再び爆上がりしたので大丈夫だろう。
平和な時間が過ぎて行く。
ジェームズ・田中の変わらない日常。
一般正規市民として平和な日々。
「パレードねぇ。偶には祭り気分で見るのも悪く無さそうだな」
ギャランのハイテンションな声を聞きながら物思いに耽る。
だが、既に悪意は側まで迫りつつある。
 




