故郷の最期
「こちらトリガー5!取り付いたぞ!此処から出来るだけ砲塔を破壊してやる!ついでに艦橋も穴だらけにしてやらぁ!」
『ちょっと落ち着きなさい。何も一人でやる必要は』
「一人でも出来らぁ‼︎」
そう言った瞬間、目の前にある三連装の主砲がこちらに砲口を向ける。そして三秒先にとんでもない未来が視えたので慌ててブースターを使い機体をにスライドさせる。
次の瞬間三連装の主砲が轟音を立てて発砲。俺は轟砲による衝撃波と爆風により反対側の船体に吹き飛ばされる。
「生きてるって本当に素晴らし過ぎる!ネロ、機体チェック」
「メイン回路に異常発生。サブ回路に接続します。操縦の即応性の低下にご注意下さい」
「他は何とも無いんだな?」
「はい。マスターと自分を含め奇跡的に無事です」
「つまり幸運の女神は俺達に興味があるって事さ。なら男として女神を失望させる訳には行かねぇよな」
機体を立て直し周りを見渡す。今もヴァンガードからは味方に対し攻撃は継続されている。無論、反撃はしているが対ビーム撹乱粒子により効果は薄い。
「やっぱり実弾の信頼性はピカイチだぜ。さあ、此処から本番だ。先ずは手近な速射砲と対空砲から潰す」
マドックを移動させ味方に砲撃をしている速射砲に近付き35ガトリングガンで狙う。
「弾はまだ沢山有るんだ。遠慮せず受け取ってくれ」
トリガーを押し35ミリガトリングガンの砲身が回転し直ぐに弾が放たれる。速射砲は穴だらけになり爆散し、そのまま隣の対空砲とミサイル発射台を破壊。そしてミサイルが誘爆したのかデカイ花火が上がる。
だが、そんな状況を司令官以下乗組員が許す筈が無かった。
【敵マドックがヴァンガードに乗り込み、こちらの砲台に攻撃を仕掛けてます!】
【第三速射砲、第八対空砲、第二ミサイル発射台大破。なおも敵は攻撃を続けてます】
【第二ミサイル発射台から誘爆を確認。至急消火に当たれ】
【対戦車ミサイルで狙え。そうだ。背後からジェネレーター部分を狙えば一発で倒せる】
速射砲や対空砲を破壊し続ける敵マドックに対し、乗組員が対戦車ミサイルを携え甲板に出る。そしてマドックが35ミリガトリングガンを乱射しながら歩いてる隙に対戦車ミサイルで狙いを付ける。
【背中がガラ空きだ!】
そう呟き引き金を引こうとした瞬間、マドックが突然振り返る。そしてマドックの剥き出しのセンサーアイと自分達の目が合う。
「残念。全部視えてるんでな」
敵乗組員達は慌てて退避しようとするが、胸部対人用12.5ミリマシンガンで狙い撃つ。モニター越しからは悲鳴は聞こえない。だが紅く血煙が戦場に舞うのは見えた。
「この調子だと陰から狙い撃ちされるな。やっぱり単機で乗り込むんじゃなかったぜ。と言うか大尉殿は何やってんだ?」
レーダーを確認するが対ビーム撹乱粒子の影響かイマイチはっきりと映らない状態になってる。
「このポンコツが。二十一世紀よりハイテク兵器の癖に使えねぇな」
「時代が進めば兵器も進化します」
「その割には人間の進化は微々たる物だけどな」
目視で確認すれば上空で敵戦闘機隊と戦闘を繰り広げてるデルタセイバーの姿が見て取れた。
戦闘機隊は数と連携を上手く取りデルタセイバーに肉迫攻撃を敢行。無論機体の性能差で押し切ろうとするが、ヴァンガードのVLSから対空ミサイルが邪魔をして上手く対処出来てない様子だ。デルタセイバーの持つシールドが対空ミサイルを防ぐがいつまで防げるか分らん。
「VLSはあそこか。畜生、敵のAWまで近付いて来てるじゃん」
敵は俺に対し素早く動き対処しようとする。こちらに八機のAWがシールドを装備しながら接近して来る。流石にシールド持ちに対して35ミリは少々厳しい物がある。
「何か使える物は……イッパイアルジャマイカ」
「発音が怪しくなってます」
周りは多数の副砲やミサイル発射台がある。更に言えばこのヴァンガードその物が使える物なのだ。
「フヒヒ。爆発は芸術だと言う事を教えてやらねぇとなあ‼︎」
思い付いたら即行動。どうせ周りは敵だらけで味方は居ない。なら好き放題して構わないだろう。
機体のブースターを使いホバー移動で一気に敵機に近付く。流石に敵さんも向こうから来るとは思わなかったのか一瞬だけ動きが止まる。
「だが俺にはその一瞬がクレジットよりも価値ある物だぜ」
そして敵マドックの隣にある多数の速射砲と対空砲を35ミリガトリングガンで狙い撃つ。35ミリの弾幕は速射砲と対空砲を破壊。そして何基かの砲台から更なる爆発が起きる。それは内部の弾薬が誘爆した証拠。
爆発の近くに居た三機のマドックは横からの流れ弾によりズタズタにされる。そもそも速射砲の砲弾がAWに当たればダメージは通る。駄目押しと言わんばかりに対空砲の弾薬が誘爆するのも中々の物だ。
【マサシ!アル!カイ!これ以上敵の好きにさせるかよ!】
【来るぞ。シールドを構えろ。後は撃てば良い】
【クソが!掛かって来いや!】
シールドを構えて此方に攻撃を仕掛ける敵AW部隊。だが、その後ろにある物は中々危険じゃないか?
一度物陰に隠れて武装をビームガンに変える。そして飛び出す瞬間の三秒先の未来を視る。確認した後口元が綻ぶのを感じながら敵の前に躊躇無く出る。
敵AW部隊の背後にはVLSハッチがある。そしてビームガンを構えた瞬間VLSハッチが開きミサイルが飛び出す。
「勝利の女神に乾杯」
ビームガンから放たれたビームはミサイルに直撃。そのまま同時に発射されたミサイルをも巻き込み爆発する。そしてミサイルの爆発はVLSにも誘爆。そこからVLSのある一部が更なる爆発を起こす。
その爆発は目の前に居た敵AW部隊を巻き込み爆散させてしまったのだった。
陸上戦艦ヴァンガードの艦橋内は慌ただしくなっていた。たかが一機のマドックにより護衛機のAW部隊が潰され、速射砲を始めとした砲台が次々と破壊されている。更にVLSの誘爆は手痛い損害になってしまった。
「右舷VLSに誘爆を確認。被害が拡大しています」
「右舷機関室より緊急連絡!先程の誘爆により負傷者多数!」
「救護班緊急出動せよ。繰り返す、救護班緊急出動せよ」
「機関出力低下!速力が落ちます!」
「右舷ホバーシステム、反重力システム正常に稼働中。ホバー機動に支障ありません」
「本艦周辺に徐々に敵が集まりつつあり!」
オペレーターから様々な被害報告が上がる。司令官は握り拳を作り眉間に皺を寄せながら呟く。
「傭兵と侮ったツケか」
だが今更状況が変わる訳でもない。寧ろ此処で冷静さを欠いたらそれこそ全てを失う結果になる。
司令官は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせて動き出す。
「この陸上戦艦ヴァンガードが簡単に墜ちる事は無い。各砲座は各個に敵を撃破せよ。此処が戦艦乗りの見せ所だ」
「上空から敵機接近。ビームからの攻撃を受けています」
「対ビーム撹乱粒子残り僅か。VLS対空ミサイル装填中」
「第四、第六セクション被弾にて負傷者多数!更に火災も発生しています!」
陸上戦艦ヴァンガードから徐々に黒煙が上がり始める。だが戦意は衰える事なくファング隊、マッド隊に攻撃を続ける。
ビーム兵器が標準装備のスピアセイバーとデルタセイバーは間違い無く強力なAWだ。対し主兵装の殆どは実弾兵器で固められてる陸上戦艦ヴァンガード。また設計思想から実弾兵器による対艦巨砲主義を意識している事から時代遅れな代物となっている。
新鋭機のAWに時代遅れの陸上戦艦ヴァンガード。それでも新鋭機のスピアセイバーの数は半数まで減っていた。
「対ビーム撹乱粒子発射台が敵マドックの攻撃により破壊されました!ビームがこちらに来ます!」
「あの量産機の処理を最優先だ。ビーム砲攻撃用意。目標上空飛翔中のAW」
「目標上空飛翔中のAWを確認」
「左右から敵AWによる攻撃が激しくなっています!」
「第六、第九速射砲大破!第三ミサイル発射台破損!対空砲被害多数!」
「ホバー機構に多数被弾を確認。速力更に低下」
「左右の敵AWに対し主砲一斉射撃!敵AWを粉砕せよ!」
ヴァンガードの三連装50センチ主砲と二連装三十センチ砲の全て左右に向けて砲口が向けられる。そして攻撃の命令を下す。
「砲撃始めえ‼︎」
豪砲が戦場に響き渡る。目の前の敵を全て薙ぎ払うかの様に。だがファング隊、マッド隊は伊達に降下部隊に選ばれた訳ではない。主砲の動きを察知し各自の判断で回避。それでも三機のスピアセイバーが50センチの砲弾の風圧により機動が乱され吹き飛んでしまう。
「まだ行けるぞ。このまま砲撃を続行ッ⁉︎何事だ!」
突如陸上戦艦ヴァンガードが振動と共に動きが遅くなる。ホバー機構が攻撃により遂に維持出来なくなったのだ。ヴァンガードは右方向に傾きながら地面に着地してしまう。
「履帯システム起動!足を止めるな!敵の接近はなんとしても阻止しろ!」
しかしヴァンガードに更なる悲劇が訪れる。対ビーム撹乱粒子の減少によりビーム兵器の威力は増す。それは上空にいるデルタセイバーの本領発揮にもなる。
「いい加減に墜ちなさい‼︎」
デルタセイバーのビームライフルから高威力のビームが放たれる。ビームは第三主砲の真上に着弾し貫通する。
直後左舷第三主砲が大爆発を起こす。その爆発は周りに多大な被害を出してしまう。
「第三主砲大破!爆発の影響により第八砲塔が破損!第一主砲塔が爆発の歪みより旋回不能!第二、第三艦橋が爆発に巻き込まれ被害が出ています!更に左舷船体に大きな被害を確認!レーダーにも損傷が出ています!」
ヴァンガードから悲痛な悲鳴が上がる。
「早く火を消せ!他の砲塔に火が回っちまう!」
「消火剤をもっと大量に持って来い!早く!」
「救護班!誰か救護班を!畜生、死ぬな!死ぬなよおおお!」
「もっと人手を!何処の部署でも構わん!連れて来い!」
乗員達は必死にヴァンガードを守る為に戦い続ける。
「こちら……第四機関室。これ以上は維持出来ません」
「退避ー!退避ー!急げ!此処はもう持たない!」
「駄目だ。出力を緊急カットするんだ!これ以上ヴァンガードを傷付けさせてたまるか‼︎」
ヴァンガードの速力が徐々に低下する。そしてスピアセイバーとデルタセイバーもヴァンガードに取り付いてしまう。反撃をしようにも間合いを詰められた以上主砲は使えず。他の砲塔は大半が破壊されている。艦載機も気が付けば全機が地に伏している。
司令官は各セクションからの報告を聞き思考する。ダムラカ軍人としてヴァンガードと共に最後まで抵抗するか。それとも屈辱の敗北を受け入れるか。
人命か故郷か。一瞬の思考の中、司令官の目に若いオペレーター達の姿が目に入る。
だが、それが司令官の最後の命令の決め手となった。
「もう……充分であろう。総員退去せよ。遺憾ながら陸上戦艦ヴァンガードを放棄する」
故郷では無く若者達の未来を掴む決断を選んだのだった。