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動き出す敵

 艦影を確認してから艦種をエイティに調べさせる。


『解析出ました。巡洋艦クラスです。唯……』


 しかし、珍しい事にエイティが言い淀む。


「どうした?何か問題があるのか」

『いえ、問題は無いのですが。没落国家が保有している艦艇とほぼ一致しています』

「没落国家だと?随分と珍しい艦種使ってるな」


 とは言え、所属不明の敵なのだ。もしかしたら、没落国家に全ての罪を被せるつもりなのかも知れない。

 そもそも、没落国家が共和国内で自由に行動出来るとは到底思えない。


(だが、もし没落国家が関与してるとしたら。目的は何だ?)


 万年オーレムに襲われる場所に居住地を構えてる連中だ。

 迫害から逃れる為に、遥か遠い場所に理想郷を作る事を目的としていた。

 しかし、現実は三大国家からの物資、食糧支援が無ければ満足に国家運営が出来ない貧弱っぷり。


 こんな場所に戦力を持って来る余力は無い筈だ。


「まぁ、答え合わせは直ぐに出来る」


 俺はビームスナイパーライフルを構え、射撃態勢を取る。

 遮蔽物が殆ど無い状況だが、選んでる余裕は無いからな。


「さて、敵さんも既に俺を捕捉してる筈」

『ちょっとお待ちなさい!貴方!後退して味方の駆逐艦やフリゲート艦をお呼びなさいな!危ないでしょう?』

「それは俺の台詞だよ!アンタはアイドルでしょうが!これから戦場になるんだからサッサと逃げろっての!この、この!ドリル娘が!」


 ホープ・スター企業にとって重要人物の1人でもあり、軍事企業バンタム・コーポレーション社長の何番目かの愛娘でもある。


 なのに、何で逃げないで付いて来てるんだよ!


 余りにもイラッとしてしまいドリル娘と呼んでしまったのはご愛嬌だ。


『ど、ドリル娘……もしかして、私の事を言っているのかしら?』

「お前以外に誰が居るんだよ!てか、何で後退して無いんだ」

『仕方無い事ですわ。離れると通信が繋がり難いんですもの。それに、ファンの方を置いて逃げるなんて私には出来ませんわ!』

「俺はファンじゃねえよ!警備員だよ!後、ヘルメット被れや!」


 もう、目と鼻の先に敵巡洋艦が居るってのに!なのに、この女ヘルメットを被って無いやん!


 もう、この状況から目を逸らしたいくらいだぜ!畜生が!


『髪の毛のセットが乱れてしまうでしょう!』

「乱れるくらいが何だ!後でセットでも何でもやり直せば良いだろうが!」

『んまー!女性の髪はとてもとてもデリケートなのよ?その辺り、後で教えて差し上げても良くってよ?』

「結構だよ!てかさ、お前達もサッサとこのドリル娘を連れて逃げろよ!」

『キィー!またドリル娘って言いましたわね!』

「良いから逃げろっつーの!」


 ギャーギャーと言い合っている間にも敵巡洋艦は距離を縮めて来る。


【目標を視認。警備隊仕様のAW1機、親衛隊機を4機……それと、ロザリア・法龍院専用機の識別です】

【……確かか?】

【はい、間違いありません。映像出します】


 モニターに映し出されたのはロザリア・法龍院のAWと他5機のAW。

 警備隊の機体はHS-105Nヴォルシアなのだが、親衛隊機とロザリア機はZCM-08ウォーウルフのカスタム機。


【確かにロザリア・法龍院専用機のカラーリングだ。予定を一部変更だ。ベイル中隊にロザリア・法龍院の確保を優先させろ】

【了解しました】

【運が向いて来たな。このまま手柄を上げれば出世出来るのは間違い無い。艦も前進させろ。ベイル中隊の火力支援を行う】


 警備隊機以外は手強い相手となるだろう。

 ロザリア・法龍院自身も中々の腕前を持つ事が、ホープ・スター企業から公表されている程だ。


 多少の犠牲は致し方無い。


【ベイル中隊の出撃を急がせろ。今がチャンスなのだからな】






 敵巡洋艦からの発砲。機体の近くに大出力ビームが通り過ぎる。


『撃って来ましたわ。皆さん、覚悟は宜しくて?』

「何で、お前はそんな覚悟ガン決まりなの?」


 このドリル娘は本当にアイドルなのだろうか?

 敵巡洋艦は距離を詰めながらAW部隊を発進させる。


【ベイル1より各機、障害を排除してから本命を確保する。行くぞ!】

【ベイル2了解!やってやるさ!】

【気を抜くな。相手はロザリア・法龍院の親衛隊4機だ。手強いぞ!】


 編隊を組みながら、真っ直ぐに突っ込んで来るベイル中隊。


『敵AWを確認。識別【CR-660アストギア】。没落国家の機体です』


 CR-660アストギア。

 目撃情報も少なければ、確かな性能も不明なAW。

 確かな事は没落国家の主力機であり、対オーレム戦に特化している機体と言われている。

 見た目はパワードスーツを着用した兵士をAWサイズにした感じだ。

 特に頭部はツインアイとフリッツヘルムを採用しており、ガスマスクを付けた兵士の顔に見える。


 対オーレム戦により磨かれ、洗練されたAW。


 それだけでも弱い訳が無いと容易に想像が付く。


 そして、この時点で嫌な予感と最悪な事も想像してしまった。


 状況証拠は揃った。


 つまり、本当に没落国家が関与しているのでは?


 ホープ・スター艦隊を狙う理由は?


 もしかしたら、思ってる以上に大規模な事が起こるのでは?


「……フン、今はどうでも良い事だ」


 それに、これから先の事を考えて予測するのは俺の役目じゃない。もっと、上の立場の連中がやる仕事だ。

 俺は雑念を捨てて、スコープを展開して狙いを定める。

 そして、ギフトを使用してからトリガーを引く。


【へへっ、法龍院を取っちまえば二階級特進も夢じゃねべッ⁉︎】


 一筋のビームが1機のアストギアのコクピットを貫く。

 そして、少し経ってから爆散する。


【ベイル12!あ、あの野郎!無警告で撃って来やがったぞ!】

【各機、散開!数で勝っている今が好機だ!】


 無警告での発砲。今までの警備隊なら警告の通信が何度も入って来る筈だった。

 何故なら、警告を出し続ければ相手は引き下がると考えているから。


 実力の無いパイロットが、実力行使に出る事は無い。


 だから、何度も何度も警告の通信を送り続ける筈だった。


「先に仕掛けて来たんだ。気を抜いてると死ぬぜ?」

『誤差修正必要無し。そのまま狙撃を続けて下さい』


 エイティの補助もあり、狙い通りの所にビームが飛んで行く。


【この!最初は紛れ当たッ⁉︎うおあああ!メインカメラが⁉︎】

【ベイル11!不味い、支援機がやられたぞ!】


 直ぐに脱出するベイル11。だが、追撃によりベイル11の機体は爆散してしまい、パイロットを巻き込んでしまう。

 更に遠距離攻撃可能な2機を、ベイル中隊は最初の段階で失ってしまう。


【各機!前方に向けスモーク散布!巡洋艦は援護射撃を頼む!】

【了解した。援護射撃開始】


 ベイル中隊はスモークを散布しながら前進を再開。更に巡洋艦からの援護射撃を行なって行く。


『あら?あの距離で当てるなんて。中々良い腕をしてますわね。流石はワンショットキルと呼ばれてるだけはありますわ〜』

「…………」


 もう、何も言うまい。後退しろと言っても聞かないからな。

 だが、仮にロザリア・法龍院が死んだら俺が悪い事になるんだろうなぁ。


(嫌だ嫌だ。下っ端らしい結末はごめんだぜ)


 俺はロザリア・法龍院と親衛隊から離れる様に動く。


『ちょっと!貴方!また勝手に動いて!危ないですわよ!』

「人の心配する前に、自分の命の心配でもするんだな。相手は本気だぞ」


 そう言い放ち、戦闘に集中する。


「スモーク焚いたら安全だと思ったか?だがなぁ!」


 ギフトを使い3秒先を視る。敵がスモークから出るタイミングを見計らって、トリガーを引く。

 スモークから飛び出した1機のアストギアがビームの直撃を受けて爆散。更に、もう1機も被弾し左腕を吹き飛ばされる。


【動きを読まれてるぞ!各機!気を抜くな!】

【敵を捕捉した!ミサイルを喰らいな!】


 大量のミサイルが迫り来る。

 機動力の低いヴォルシアでは逃げ切る事も出来ない。


 だが、俺の心配は杞憂に終わる。


『オーッホッホッホッホッ!私のターンですわよー!』


 ロザリア・法龍院のウォーウルフ両手に持つ35ミリガトリングガンを撃ちまくり、ミサイルをそこそこ迎撃する。

 更に、親衛隊の4機も同じ様に45ミリヘビーマシンガンや55ミリライフルでミサイルを確実に迎撃して行く。


「助かるぜ。鈍足の機体だから無理が利かないもんでね」


 ミサイルのお返しとしてビームスナイパーライフルで反撃し、更に敵機を撃墜する。


【ベイル10がやられた!また、あの警備隊の奴だ!】

【話が違うじゃ無いか!警備隊は弱体化させた筈だろ!】


 事前に通達されてる内容とのあまりの齟齬に動揺が走る。


【……警備隊所属で狙撃の腕がある。まさか……奴が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!】


 ベイル中隊に緊張が走る。その瞬間に手加減して勝てる相手では無いと判断する。


【ベイル3、4、6、8、9は敵親衛隊を片付けろ。ベイル2は俺と警備隊の奴を足止め……いや、始末する】

【ベイル2、了解。狙撃だけ得意な奴が調子に乗るな!】


 ベイル2から次々とミサイルが発射される。

 俺は咄嗟に左手で45ミリサブマシンガンを構えて、ミサイルを迎撃する。


 だが、その隙を待っていたかの様に2機のアストギアが迫り来る。


【この距離なら得意の狙撃は出来んぞ!】

【ベイル2!前に出過ぎだ!冷静になれ!】


 ビームマシンガンを構えて射撃しながら、左手に近接用アックスを構えて突撃して来るアストギア。

 勿論、馬鹿正直に殺されるつもりは1ミクロンも無いので、45ミリサブマシンガンで敵を迎え撃つ。


【そんな射撃で、アストギアを止められると思うな!】


 持ち前の装甲を生かして、最短距離で迫り来るアストギア。

 45ミリ程度なら、多少の被弾は無視しても問題無い程なのだ。


 瞬く間に距離が縮まる。


【終わりだ!ワンショットキル!】


 大振りから振り下ろされる近接用アックス。


 だが、その攻撃はギフトで視えているんだよ。


 俺は機体の右脚を勢い良く蹴り上げる。


 腕と脚とではリーチの違いがある。


【ッ⁉︎馬鹿な!足で、止めた……だと?】


 近接用アックスを持つアストギアの左腕は、ヴォルシアの右脚で防がれる。

 更に、蹴り上げられた反動で近接用アックスは在らぬ方向へ飛んで行く。


「残念だったな。まぁ、良い線は行ってたぜ」


 ゼロ距離からビームスナイパーライフルを構える。


 敵パイロットは自機のコクピットにビームスナイパーライフルの銃口が当たる音が聞こえた。


【ま、待てッ】

「あばよ。クソ野郎」


 躊躇無くトリガーを引く。


 ビームスナイパーライフルから高出力ビームが放たれる。


 コクピット部分の装甲を溶かし、パイロット諸共貫いて行く。


 敵機が爆散する前に蹴り飛ばし離脱する。


【クラーニ!貴様、よくも……よくも息子を!絶対に許さん!】


 ビームマシンガンで射撃して来る敵機に対し、ビームスナイパーライフルで反撃。

 相手は勘が良いのか、何度も避けられてしまう。


「エイティ、オープン通信を繋げろ」

『推奨出来ません。貴方はジェームズ・田中なのですから』

「音声変えとけば平気だよ。頼んだぜ」

『ハァ……分かりました。バレない様にできる限りフォローします。しかし、限界は有りますよ』


 エイティの許可が取れたのでオープン通信を繋げる。


《随分と……て、何だよ。このマシンボイスは》

『実況者、ボカロなどと言った声に多数使用されています。代弁者の役割としては充分です』


 確かにバレる事は無さそうな声だが。しかし、もっと特徴の無いマシンボイスとかあったと思うんだけど。


《まぁ、良いか。実況者みたいな奴に殺されるのも、敵からしたら惨めな事この上無いしな!》

『貴方のその性格が改善される事を願っています』

《そいつは無理だ。諦めな》


 今も目の前で回避機動を取りつつ、反撃している敵機に対して質問する。


《さてと、待たせたな。さっきから随分と俺に対して時間掛けてるけど。そろそろ降伏してくれんかな?》

【ッ!貴様だけは!絶対に殺す!】


 凄まじい殺意と共にビームマシンガンからの弾幕が返事として返ってくる。


《俺は我慢強い方じゃない。だから、大人しく降伏した方が良いんじゃないかな?どうせ、お前さんは生きて帰る事は出来ないんだからさ》


 ビームスナイパーライフルで狙い撃とうすると敵機は避ける動作を取る。


 恐らくギフト【直感】持ちだ。


 腕も悪く無いし、実戦経験もあるのか慎重な動き。


 倒せない事は無いだろう。だが、この機体では時間が掛かるのは確実だ。


《あ、一つだけ訂正しとくわ。さっきみたいに馬鹿正直に突っ込んで来た雑魚に比べれば、我慢強いと言えるかもな》

【ッ!私の息子を侮辱するな!この悪魔め!】


 時短を目的として敵パイロットに対して挑発する。

 すると案の定、食い付いてきた。


《息子だぁ?あぁ、さっきゼロ距離で殺した奴か。とは言え、大事な息子を戦場に連れて来たテメェの方が悪魔だぜ。まぁ、抵抗するなら好きにしな》


 1対1なら勝てる相手。


 だからこそ、全力で逃げられたら追い掛けて捕まえる事が不可能になる。


 生かして捕らえて情報を吐いて貰う必要がある。


《あの世で息子と一緒に懺悔……いや、悪態と恨み言でも吐き散らしてな。負け犬の遠吠え程、心の栄養源になるからな》

【き、貴様は……やはり、悪魔だ】


 まぁ、こんな役回りをしている奴だ。大した情報は無さそうだけどな。


『そんな事ばかり言うから悪魔呼ばわりされるんです』


 そいつは、ご尤もだな。

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― 新着の感想 ―
いいぞー!もっと煽れ!えーと………田中!(名前忘れた…)
このままいくと、評価されて機体の機動力を高めることになりそうですが、 このまま鈍重な機体での戦いを極めるのも面白そうですね。 アズサが見たら手本になりそうな感じで。
勝利のために煽ることさえも厭わない、実に素晴らしい戦場の流儀だ…! 更新ありがとうございます!
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