アーマード・ウォーカー特集
俺はパイロットスーツに着替えてから格納庫に向かっていた。
これから、ホープ・スター艦隊の周辺警戒任務の為に出撃するのだ。
まぁ、いつもの仕事ってやつだ。
問題らしい問題が起こる事の無い警戒任務。更に、今はブルーロック宇宙ステーションが近くにある。
下手に争い事が起きれば、ブルーロック所属の艦艇が飛んでやって来るだろう。
つまり、安全圏での仕事なのだ。
面倒事なんて起きようが無い。
「とは言えだ。最近、所属不明の敵からの襲撃を受けているからな。警戒するに越した事は無い」
宙賊や腕試しで来てるくらい別に構わない。反撃して始末すれば良いだけだからな。
だが、もし計画的な犯行だとしたら?
有り得ない話では無い。何せ、アイドル・ナインズを筆頭にした人気アイドル達が居るのだ。
もし、ホープ・スター艦隊が鹵獲され身代金を要求されたら、目も当てられない金額になるのは容易に想像が付く。
(馬鹿馬鹿しい。エースパイロットまで抱えてるのに鹵獲される?)
自分の妄想を即否定する。何せ、それこそ有り得ない話だからだ。
仮に人攫いを計画したとしてだ。どうやってやる?
一個艦隊相手に正面から殴り合う戦力でも引っ張って来るのか?見た目とスペックだけなら、三大国家の正規艦隊に引けを取らないのに。
「ナンセンスな考えだぜ」
コクピットに入りシステムを立ち上げる。
機体の状態を確認しつつ、端末を接続して出撃準備を整えて行く。
『接続完了。システムチェック開始。オールグリーンです』
「武装はビームスナイパーライフル。多目的レーダーと予備に45ミリサブマシンガン。後は携帯型グレネード2個とプラズマサーベル」
いつも通りの武装編成。
何も変わら無い。
変わる事は無い。
何故なら、俺は一般正規市民のジェームズ・田中。
波乱とは真逆の人生を歩む事が決まっているからだ。
(後8ヶ月程度で、この場所からおさらばってな)
既に、この場所は俺にとって他人事同然。
今後、ホープ・スター艦隊がどうなろうと知った事では無いのだ。
「こちら、アイリ12。出撃準備完了しました」
『了解しました。これより、第二カタパルトに移動させます』
「アイリ12了解」
コクピット内が揺れる。モニターに映るのは格納庫内部。
整備士達が点検中の機体に集まり、一生懸命整備をしている。
パイロットと整備士が細かい調整を行なっている。
そして、第二カタパルトへと接続される。
「カタパルトの接続を確認。出撃準備完了」
『了解しました。進路クリア。アイリ12発進どうぞ』
「アイリ12、ジェームズ・田中出ます」
機体と共にカタパルトから勢い良く射出される。
身体に掛かるGが心地良い。
この瞬間から漆黒の宇宙に放り出され、1人で対処しなくてはならない。
「…………」
だが、慣れとは恐ろしいものだ。
既に宇宙に対して恐怖は無い。
仮に戦場になろうともだ。
何故かって?
俺はエースパイロットだからだ。
「さて、今日も程々に任務を遂行しますか」
まぁ、今はこんなんだけどな。
ブルーロック宇宙ステーションの周辺宙域で一隻の巡洋艦がワープアウトした。
所属を示すエンブレムも無ければ、識別信号も発信していない。
【艦長、予定ポイントに到着しました】
【時間通りだな。引き続き、間引き作戦を開始する。目標、ホープ・スター艦隊所属の警備隊仕様のAWだ】
間引き作戦。警備隊のAWを狙った作戦。
一体、何を以てして警備隊のAWを狙うのか。
【敵は確実に仕留めろ。情報は決してホープ・スター艦隊に持ち帰らせるな】
計画的犯行なのは間違い無いだろう。
【これより、本艦は第一種戦闘配備を発令。AW部隊の出撃準備開始】
【総員、第一種戦闘配備を発令。繰り返す、第一種戦闘配備を発令。AW部隊は直ちに出撃準備に入れ】
艦内に警報が鳴り響き、乗組員達が慌ただしく自身の配置場所へ向かう。
【ジャミング展開開始】
【了解。ジャミング展開開始】
巡洋艦の艦艇下部には、不釣り合いな程の大型ジャミング装置が設置されている。
だが、その分非常に強力なジャミングが広範囲に展開される。
【ジャミング展開完了しました】
【鴨狩りの時間だ。失敗しようものなら、良い笑い者だな。最大全速】
巡洋艦が動き出す。ブルーロック宇宙ステーションとホープ・スター艦隊に向かって速度を上げる。
多くの民間人が居る場所で、不釣り合いな装置を搭載している巡洋艦。
だが、速度は徐々に速くなって行く。
【まだ序曲に過ぎない。これからが本番になる】
間引き作戦は順調に遂行している。
これまでに、12機のAWは搭乗者諸共撃破して来た。
このまま警備隊の数を減らし続ければ、次の作戦段階で楽になる。
【新生国家の樹立。三大国家と対等の立場。この作戦で、多くの市民達が救われる】
愛国者でもある艦長。
これから行われる作戦に関しても承知の上なのだ。
例え、後指を指される事になろうとも覚悟の上なのだ。
【許せとは言わんよ。だが……数十億人を救う糧になって貰う】
艦長は自分を律する為に、帽子のツバを掴みながら位置を調整するのだった。
「こちらアイリ12。指定座標に到着。警戒任務に入ります」
『こちらウラヌス。了解した』
「さてと、暇潰し用のアーマード・ウォーカー特集でも見ようかな」
ウラヌスとの通信を切り、自由な時間を手に入れた訳だが。
俺は端末から最新のアーマード・ウォーカー事情を調べる事にした。
「やっぱり、三大国家も次期主力機の選定を始める感じだな」
やはりと言うべきだろうか。昨今のAW関連の世代交代には、目を見張るものがあるからな。
GXT-001デルタセイバー。
この機体こそ、全ての軍事企業に多大な影響を与えたであろう。
強力なビーム兵器を使用可能な事。
攻撃を無効化、または減衰させる事が出来るビームバリアの展開。
飛行可能な程の破格の機動力。
全てに於いて既存のAWを圧倒する性能を誇っていた。
例え、試作機の段階であっても、GXT-001デルタセイバーから得た戦闘データは何物にも代える事は出来ない貴重な代物。
結果としてGXF-900ガイヤセイバーが誕生した訳だからな。
ZCM-08ウォーウルフ及びZMF-09ヴェノム。
巨大軍事企業が作り出したZC-04サラガン、ZM-05マドックの後継機であり次世代機のAWだ。
光学兵器の標準搭載。
大型化した事で拡張性が向上。
短時間であるが飛行可能。
ZC-04サラガン、ZM-05マドックとの部品共通が6割以上ある事で既存ユーザーに対し価格を抑えて提供可能。
また、ユーザー離れを抑える事にも繋がり売り上げは順調。
更に特筆すべき点として、今後民間用のダウングレード版は生産しないとの事だ。
既に民間用AWとしてサラガン、マドックが世に出て定着している。そして、ある程度の部品供給も今後続く事が決定している。
勿論、一部部品は欠品になるだろう。だが、そうなれば別企業が作り出し供給を始めるだけ。
結果として次世代機と呼ぶに相応しい性能を獲得している。
因みに、ZMF-09ヴェノムの方が後発の為か機動性と運動性以外はZCM-08ウォーウルフより性能が高い。
この辺りはZM-05マドックを意識してると思われる。
他にも様々な軍事企業が新型AWの開発に躍起になっている。
元々、デルタセイバーと同等か多少性能が下程度で開発が進められていただろう。
だが、2世代……下手したら3世代くらい先にある様な機体だ。そんな機体を参考にした所で技術レベルが追い付いていない。
「やっぱり、全部デルタセイバーが悪い。静かで平和なAW関連の池に、特大の岩を投げ入れた様なもんだからな」
あんなOP機を宇宙に向けて見せ付けた訳だ。そうなれば、池から大量に溢れ出るってなもんだからな。
『そうでしょうか?私は貴方も悪いと思いますが』
「えぇ?また俺なの?今回は俺何もして無いやん」
『ウォーウルフの開発に大きく貢献。更にZCM-08Rブラッドアークでデルタセイバー相手に喰らい付いた。それだけで無く、東郷組に対しても無双してました』
「……いや、でもさ。結果的にデルタセイバーには負けたし」
確かに一時的に追い詰める事は出来た。デルタセイバーにとって、ブラッドアークが初見だったから尚更出来た事だろう。
まぁ、最終的に追い詰められたのは俺の方だったがな。
『負けたとしても、一時的にですが追い込んだのは事実です。それだけでも、無理な開発をしなくても大丈夫だと判断する材料の一つになります』
エイティの言葉に納得する。
納得するが、納得したらしたで俺が原因になる訳で……。
「結局、俺も悪者かよ。あー、嫌だ嫌だ」
『オマケに、既存のAWでデルタセイバーを大破させた張本人ですからね』
「ルール違反しまくってたけどな。それも、禁忌とも言えるリンク・ディバイス・システムに手を出した訳だからな。正当な評価を受けない事くらいは理解してる」
俺はそう言ってから再び端末を眺める。
三大国家も次期主力機を選定すると確かに書いてある。
だが、直ぐに決まる訳では無い。
地球統一連邦のZX-07アストライ。
ガルディア帝国のZA-09ミラーレス。
自由惑星共和国のZF-14ゲルーガー。
既に主力機として定着しているAW。その性能は決して悪く無い。
だが、昨今のAW事情を考えると少々性能としては劣るのは明白だ。
とは言え、全ての主力機を置き換えたら破産するのは確実だ。
なので、延命処置も行われるのは間違い無い。恐らくZM-05マドックの強化パックみたいな感じで、一時凌ぎくらいは出来るだろう。
「まぁ、次期主力機が決まるまでに早くて5年。遅くて10年くらいは掛かるか?」
選定すると言っても、国のお抱えの軍事企業が有利なのは変わりは無い。
それでも、繋ぎとして採用されるだけでも莫大な利益を得るだろう。
三大国家に主力機として採用されたAW。
謳い文句としては最高な訳だからな。
「しかし、後数年後には三大国家の元主力機達が世に出回る可能性があるのか。こうなると、戦力バランスが崩れて戦場が更に混沌としそうだな」
つまり、一番迷惑を被るのは紛争地帯や現在進行形で戦争中の所かもな。
安価なサラガンやマドックでは、性能負けするのは確実だろう。
つまり、性能負けしない為にウォーウルフ、ヴェノムの導入が必要不可欠になる訳さ。
暫く警戒しつつアーマード・ウォーカー特集を眺めていると、レーダーに反応が出る。
レーダーをチラ見すると味方の反応だったので、特に気にする事もなかった。
だが、通信が繋がった瞬間に気にせざるを得なくなった。
『オーッホッホッホッホッ!ロザリア・法龍院の華麗なる登場ですわ〜!』
「……何でこの人、こんなに声デカいの?」
突然の大音量のご挨拶に、ジェームズも嬉しくて涙が出そうだぜ。
ロザリア・法龍院のAWと親衛隊のAW部隊。合わせて計5機が来た訳なのだが。
5機とも全てZCM-08ウォーウルフのフルカスタム仕様と専用カラーと言う豪華っぷりだ。
ロザリア・法龍院のウォーウルフは35ミリガトリングガン2挺と四連装機関砲を両肩に装備している圧倒的弾幕機だ。
(アズサ好みの武装構成だな)
親衛隊には新型と思われる追加ブースターも装備されており、高機動型だと分かる。
その分、武装には接近用ランスを標準装備としつ持っている。
正直に言うとウォーウルフと接近用ランスの組み合わせはカッコ良い事は分かったのだが。
(それで?一体、何の用なのさ。機体の自慢でもやろうってか?)
内心愚痴を吐きまくってたが、どう返事をするか迷っていた訳さ。
『あら?通信が繋がって無かったかしら?では、もう一度』
「繋がってます。ちゃんと聞こえてますから。ご安心下さい」
『そうですの〜?でも、ちゃんと返事をしないと駄目ですわよ?』
通信も繋げて来たと思ったら、面倒な事を言い出して来る。
ついでに常識っぽい事も言ってくる始末。
てか、君はこの後にナインズとしての出番があるのでは?
「そうですね。次からは気を付けますよ。それでは、お帰りは彼方ですので」
『えぇ、ではご機嫌様ですわ〜……て、違いますわ!』
「ノリツッコミ良いですね。人柄から見ても人気ありそうですね」
『当ったり前ですわ〜!いずれ、私がナインズNo.1の座を実力で頂く予定ですもの!オーッホッホッホッホッ!』
言葉遣いから傲慢な性格かと思いきや、結構な努力家らしい。
まぁ、そりゃあ宇宙的人気アイドルやってるもんな。
普通に良い性格、面白い性格な奴じゃないと務まらないだろう。
『ゴホン。話が少々脱線してしまいましたわね。ジェームズ・田中、今から私の護衛と模擬戦して貰いますわ』
「模擬戦ですか。では、せめて艦長の許可を取って頂けますかな?一応、自分任務中ですので」
こう見えて俺は現在進行形で警戒任務中なのだ。
アイドルの暇潰しに構ってる余裕なんて無いんだよ。
え?アーマード・ウォーカー特集見てたって?
アレは必要な事だから。仕方ないんだよ。
『ご安心なさい。何も、護衛全員と戦えとは言いませんわ。1対1で戦って貰います。その間は、他の護衛が警戒任務を代わりに行いますの』
しかし、模擬戦ねぇ。高々、一般正規市民相手に模擬戦を挑もうとするとは。
「そうですか。しかし、何故自分が護衛と戦うので?理由くらい教えてくれても良いのでは?」
『そんなの決まってますわ!エースパイロット達に認められてる実力。それが本物かどうか確かめさせて頂きたいの。残念な事に、私と護衛達は全員シミュレーター室に出禁になってしまいましたの』
どうやら、思った以上にエースパイロット達に認められてる事が広がってるらしい。
それに、エースパイロット達に相手にされないけど、警備隊員なら大丈夫と判断したのだろう。
しかし、コイツらは考えが足りんのだろうか?
エースパイロットに認められた奴が目の前に居る事を。
「なら、もう結果は見えてますね。自分は認められている。貴方達は認められていない。これ以上の説明が入りますかな?」
『なっ!あ、貴方!失礼にも程が!』
ロザリア・法龍院が怒りの表情を出す。
だが、怒りたいのは俺の方だ。こんな我儘に付き合う義理も無い。
俺は、ガキの使いじゃ無いんだよ。
「鬱陶しいんだよ。実力が無いにも関わらず、出張って来るとかさ。せめて、エースパイロット相手に一回くらい勝って来いよ」
『…………クスン』
話にならないんだよ。そう言おうと思ったんだ。
けどさぁ、泣くのは反則やん?……いやいや、本気で泣こうとしてない?
「ちょ、待てよ。泣く事は無いだろ。まるで、俺が悪者みたいになってるじゃないか?」
『…………スンスン』
駄目だ。女の涙には勝てない。
そもそも、ナインズの人気No.3のアイドルを泣かしたとか言う虚偽(?)が広まったらファンに殺されてまう。
そんな、しょーもない死に方は嫌でござる。
「と、とは言え……態々、ここまで来たんだ。実力の差ってヤツを教えてやるよ。そうすれば、その、何だ。喧しい性格も少しは落ち着くかな?」
『私、ご覧の通り淑女ですの。つまり、とても大人しい性格ですわ!』
「嘘付け!このアマが!」
今なら護衛の連中と意見が合ってるよ!てか、お前嘘泣きやんけ!
「ハァ、まぁ良いさ。1対1でやるんだろ?誰から来るかサッサと決め……あん?レーダーが」
『何ですの?あら?通信が少々乱れてますわね』
レーダーの反応が著しく低下する。通信状態も一気に悪化している。
近くにいるロザリア・法龍院と護衛達との通信にも影響が出る程。
「随分と派手に敵対行動して来るじゃん。エイティ、警戒しろ」
『了解しました。索敵を開始します』
俺は操縦レバーを握り直して、機体を前方へ動かす。
モニターでの目視による索敵。そして、エイティの補助もある。
『見つけました。前方、11時方向に艦影を確認』
「さぁて、お手並み拝見と行こうか」
モニターに映し出される艦影。まだ、ハッキリと映らないが直ぐに分かるだろう。




