ロザリア・法龍院
ドーム内に大音量の音楽が響く。その音楽に負けないくらいのファン達による歓声。
これからブルーロック宇宙ステーションは2週間お祭り騒ぎになるだろう。
まぁ、アイリ中隊は1週間目と2週間目の最後の日に宇宙ステーション内の配置になってるのだが。
現在は食堂でギャランを含めた4人と一緒に食事中だ。
「はぁ、最近の訓練が厳し過ぎるでござる。お陰で、少し痩せた気がするでござる」
「痩せれたなら良かったやん。それよか、田中はんは凄いよなぁ。親衛隊に勧誘されたのに、即蹴ってまうとは」
「そうだよな。普通なら受けると思うけど」
最近、この3人とは良く会話をする様になった。
なので、少しくらいはAW関係で助言をしたりもしている。
まぁ、何も知らないより少しはマシになる程度だけど。
「親衛隊に興味無いので。唯、親衛隊仕様のヴォルシアとヴァルシアには興味ありますが」
「田中氏は本当にAWが好きでござるな」
「今の自分が出来たのも、AWのお陰と言っても過言では有りませんから」
ギャランの言う通りだ。
俺はアーマード・ウォーカーが好きだ。自分の手足の様に動かし、戦場を縦横無尽に駆け抜けながら敵を撃破する。
これだけでも、映える事は間違いないだろう。
「そう言えば、まだナインズは登場しないんですね」
「最初から目玉商品が出てしまうと後が持たへんやろ?まぁ、バランスってやつやな」
身も蓋も無い言い方だ。だが、納得出来るし仕方ない部分でもある。
そもそも、ナインズに在籍しているアイドル達は背景を含めてキャラが濃過ぎるのだ。
人気No.1のアイリちゃん。
不思議な事に、誰もが彼女に一度は惹かれてしまう。
一部では魅力効果のあるギフト【魔眼】を保有していると噂されている。
だが、魔眼はサングラスなどで簡単に防げる。なので検証した結果、白に近いグレーだったとか。
人気No.2のニーナ・キャンベル。
巨大宗教団体ファンタスト宗教の聖女の一人。
世にも珍しいエルフと天使族とのハーフ。
容姿に関しては宇宙一を自負しても文句は出ない程だ。
序でに信者も多数居るので、下手に関わらない方が良いアイドルでもある。
人気No.3のロザリア・法龍院。
大財閥……と言うか、バンタム・コーポレーションの社長の何人目かの愛娘だとか。
龍人の血を受け継いでいるのか、頭にデカいツノを2本生やしているのと、所々に鱗が付いてるのが特徴だろう。
後、妙に親しみ易いのか庶民派と言われてる。お嬢様なのに。
人気No.4のメグ&ティノ。
人気投票でも2人または1人でもメグ&ティノの投票扱いになる。
また、2人揃ってのハモリボイスを聞き過ぎると中毒になるとか。
褐色&色白肌のコンビなので一粒で二度味わえるとか。
因みに双子ではない。
人気No.5のアグーラ・姫宮。
一言で言うなら一本ツノを生やした長身ヤンキー鬼娘である。性格も苛烈で裏表があるが、面倒見が非常に良く年下から絶大な人気を誇る。
愛称としてアグ姉と呼ばれている。
人気No.6のローネちゃん。
突如流星の如く現れ、一躍人気アイドルの仲間入りを果たした新人アンドロイド娘アイドル。何でも、ワトソンプロデューサーが一目惚れして直接勧誘したらしい。
また、外見デザインはアイドル参入時から殆ど変更されて無い。
理由を聞いたら思入れがあるとか何とか。
まぁ、アンドロイドボディが人気と言うより中身のAI部分が独特なのだろう。
人気No.7のリディ・レノックス。
彼女は狼系ギャルだ。それもカリスマバリ高ギャルっ子だ。
特に狼系のフワフワの尻尾とクールな狼耳。そして、目元に泣き黒子がチャームポイントで、清楚好きをギャル好きに変える程だ。
そして、リディ・レノックス一押しの推しが居るらしい。
人気No.8のシャル・トリニア。
女性から人気の高いイケメン女子だ。元々、どこかの惑星でヒーローと日夜戦っていた怪人幹部の1人。
しかし、大将がやられてしまい組織は解散。特にやりたい事も無かったが、偶々アイドルのCMを見て応募したら受かったとか。
悪魔族特有の黒い羽、尻尾、そして青い肌。未だに顔上半分バイザーで隠している。
後、お茶目さんでもある。
人気No.9のエレーナ・モロゾフ。
誇り高いデュラハン姫騎士である。こちらも女性からの人気が高い。
騎士としての誇り高い振る舞い。近寄り難いけど、実は親しみ易いギャップに落とされるとか。
後、無駄に好奇心が高い。
そして、この9人に共通しているのが圧倒的歌唱力、演技力、カリスマである。
ご覧の通り、色々と恵まれた連中なのだ。更にキャラが濃いと来ている。
そこに性格も追加されると考えると目も当てられない。
(ワトソンプロデューサーも大変だな。まぁ、アイドルと関わる仕事してるんだ。覚悟の上だろうが)
しかし、超級双胴戦艦ウラヌスの食事は本当に美味い。間違い無く、航空戦艦エイグラムスよりメニューが多いし質も良い。
「それにしても、拙者達は運が凄く良いでござるな。最終日には、パレードでナインズ達を近くで見る事が出来るチャンスを手に入れたでござる」
「初めてやないかな?警備隊がアイドル達の近くで警備らしい事をするのは」
「いつも親衛隊の独壇場だったもんな。でも、何で警備出来る様になったんだろ?」
どうやら警備隊がアイドル達の近くに配置される事は珍しいらしい。
確かに、今の実力と気概では護衛なんて任せられないからな。
「上の考えが多少変わったのでは?まぁ、我々下っ端が考えても仕方無い事ですよ。それに、殆どは親衛隊が守る様に配置されてますし」
配置場所を見ると、警備隊はオマケみたいなもんだしな。
警備隊の近くを通るのは、直ぐに終わるだろうからな。
食事をしながら今後の話をしていると、食堂に誰かが入って来た。
「オーッホッホッホッホッ!私!ロザリア・法龍院の登場ですわー!オーッホッホッホッホッ!」
喧しい声と共に現れたのはナインズの1人、ロザリア・法龍院だった。
デカいツノ2本は勿論なのだが、容姿とスタイルの良さ。
薄紫色の髪を縦ロールにしており、ボリュームアップは勿論の事。存在感が更に増している感じだ。
胸元が露出しているドレスと数々の装飾品を身に付けているが、下品な感じが一切しない。
単純に似合っているのだ。だから不快にならない。
更に何故か周りが輝いて見えるのは気の所為だろうか?
しかし、もう存在自体が喧しい感じだったので、思わず顔を顰めつつサングラスの位置を直してしまったがな。
ロザリア・法龍院が歩き出せば、親衛隊が周りを囲いながら一緒に歩き出す。
「なぁ、ギャラン。アイドルってさ、簡単に出会えるもんなの?」
「……ロ、ロザリア様でござる!か、感動だぁ!」
「駄目だこりゃあ。使いもんにならん」
唯、滅多に出会えないと言う事だけは分かった。
そして俺達の近くまで来ると、扇子を閉じて俺の方を指す。
「貴方が、ジェームズ・田中ね?エレーナから聞きましたわ。エースパイロット達のお気に入りだと」
(エレーナ……確か、射撃場で取り巻きと一緒に居た女だな)
俺が無言でいるとロザリア・法龍院は更に話を進めて行く。
「それから、そこそこ腕が立つみたいですわね。私も、こう見えて私専用のAWを持っておりますの」
「専用機をお持ちで?」
「えぇ!その通りですわ!ですから、貴方の腕前が本物かどうか。見極めをして差し上げますわ!決して、決して!私がとても暇なので、丁度良い時間潰しをする訳ではありません事よ!」
「素直な事は美徳ですよ」
ナインズは出番待ちらしい。
普通なら最終調整とかすると思うんだがな。
「流石ナインズでござる。本番前にも関わらず己を貫く姿。くぅ〜!堪らないでござる!」
どうやら、コレが平常運転らしい。
(俺の腕前を見極めるつもりか?アイドルやってると自信過剰にでもなるのかね?)
お前が言うな!ってツッコミが入った気がするけど。気の所為だな。
俺は内心呆れながらフォークに刺してある肉を食べる。
「さぁ!シミュレーター室に向かいますわよ!もし、私に勝てたなら特別に親衛隊候補にして差し上げますわ!」
「親衛隊候補ですか?」
「えぇ、その通りですわ。私に勝った後は、専属の親衛隊相手と戦える権利を与えますわ〜!光栄な事でしょう?」
無駄にドヤ顔をしながら笑うロザリア・法龍院。
だが、俺は親衛隊になるつもりも気もない。
「お断りします」
「あら?逃げるおつもりですの?所詮、噂は噂止まりと言う事かしら〜?」
断られる事が意外だったのだろう。少し驚いた表情になるロザリア・法龍院。
それに、勝敗が決まってる模擬戦に興味は無い。
「どの様な理由であれ、アイドルを傷モノにする訳には行きませんからね。それでは、失礼」
俺は食べ終えた空の食器を片付ける為に、華麗に立ち去る。
何を言われようとも、これ以上目立つ行動は控える必要がある。
でないと、またエイティからの小言が増えるからな!
俺は何食わぬ顔をしながら食堂を後にする。
それに、そろそろ警戒任務の時間だからな。
「あら、振られてしまったわ。でも、仕方ありませんわね。私の護衛になるなど恐れ多い事でしょうから!それも、一般正規市民の方では身の程と言うやつでしょうからね!オーッホッホッホッホッ!」
ジェームズ・田中に模擬戦を断られた事を、一切気にする事の無いロザリア・法龍院。
周りの親衛隊員達も同調する様に肯定の意見を出す。
しかし、1人の警備隊員が爆弾発言を言ってしまう。
「田中はん、傷モノにせえへん言っとったけど。それって、勝つ事を前提に言っとたんかな?」
ロザリア・法龍院の笑い声が一瞬で止まった。
そして、訪れる気不味い静寂。
爆弾発言した警備隊員はやっちまったと言った表情になる。
「……フフ、ウフフフフフ。この私が……情けを、掛けられたと?それも庶民の方に?有り得ませんわ。そんな事は絶対に有り得ませんわ!そうでしょう?皆さん!」
縦ロールの髪を掻き上げながら、親衛隊員達へ顔を向ける。
その凛々しい姿に見惚れる周りの者達。
「そもそも!私、こう見えて凄いアイドルですの。それも人気絶頂のロザリア・法龍院ですのよ!つ・ま・り、私の誘いを断る権利は無いと言う訳ですわ〜!オーッホッホッホッホッ!」
凄いドヤ顔で自分中心の理論を展開する。
しかし、彼女はこう見えて身の程を弁えていた。
自分の能力ではバンタム・コーポレーションを発展させる事は出来ない。
そう悟った彼女は、バンタム・コーポレーションの後継者争いから離脱を宣言。代わりに、自分の道を進む事を選んだのだ。
父親も愛娘が自分の道を進む事を止める事は無かった。寧ろ、アイドルになる事を応援し、多額の資金と少なく無い人材を送った程だ。
今ではバンタム・コーポレーション内でロザリア・法龍院応援キャンペーンまで行なっている始末。
親バカ全開を発揮しているバンタム・コーポレーションの社長である。
こうして、食堂にロザリア・法龍院の笑い声が響き渡り続ける。
そして、またまた面倒事が確定したジェームズ・田中であった。




