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ジェームズ・田中VS翡翠瞳の姉妹

 パイロットスーツに着替えてから、エースパイロット達が使っているシミュレーター室に入る。

 シミュレーター室の設備自体は普通だし、スペースも広い訳でも無い。

 だが、今も誰かが使用しているのが分かる。


「あ!ジェームズ!やっと来た!」

「来たか。既に準備は済ましている」


 フランチェスカ中尉は笑顔で出迎え、フランシス大尉は人を見下す様な視線を向ける。

 見た目だけなら美少女姉妹。だが、その本質はエースパイロットとして多大な影響を及ぼす存在だ。


「待たせたか?だが、主役は後から登場するのが鉄則だからな。大目に見ろよ」

「知らんのか?最近の主役は交代する事も多いからな」


 俺の態度と台詞が気に食わなかったのだろう。

 フランシス大尉は表情を変える事無く挑発的な発言で返す。


「へぇ、言うじゃねえか。結構、良い噛ませキャラが務まりそうだな」

「それは無い。私にはフーチェが居る。フーチェに不憫な思いはさせない」

「そうかい。美しい姉妹愛ですこと」


 俺はそう言ってからシミュレーターを起動させる。

 機体は勿論ZC-04FCサラガンだ。幸い、シミュレーターの中にデータが入っていたので選ぶ事が出来た。


「久々の対エースパイロット戦だ。まぁ、肩慣らしには丁度良い」

『エースパイロット相手に肩慣らしは不適切かと』

「細かい事は気にすんなって。俺にとっては丁度良いのさ」


 武装は右腕に45ミリアサルトライフル、左腕に多目的シールド。右肩にはビームキャノン砲、左肩には12連装ミサイルポッド装備。

 肩側面には追加ブースターを取り付けて機動力を底上げさせる。

 最後にプラズマサーベルと携帯型グレネードを2個装備。


(本当なら()()()()も使いたかったが)


 だが、切り札は誰にも知られてない状態で、多ければ多い程良いからな。それに、こんな場所で見せびらかす必要も無い。

 今、こうして考えてる事もフランチェスカ中尉に読まれてるかも知れない。

 もしかしたら、相手の心を読める範囲が狭いかも知れない。


 だが、フランチェスカ中尉も自身のギフトは誰かに知られたく無い筈。


 つまり、俺の現状もバレる事は無いって訳さ。多分な。


「聞こえるか?こちらの準備は完了した」

【私達も準備終わったよ】

【シチュエーションで希望はあるか?無ければランダム形成の宇宙空間にする】

「ランダムで構わんぞ。なんなら、敵味方多数入り混じる乱戦にするか?」

【……面倒な相手は一人で充分だ】


 そう言うとフランシス大尉は通信を切る。


(やれやれ、相変わらず冷たい女です事で)


 俺がそう考えていると、フランチェスカ中尉が笑いながら話し掛けて来た。


【フランはね。ジェームズに対して油断して無いんだよ】


 いつもの様な優しそうな笑顔。


 外見だけなら見惚れる程。


 誰もが彼女達をエースパイロットとして、アイドル的な存在として持て囃す。


【だからね……私も、油断して無いから】


 その瞳は実に好戦的だった。


「そうかい。なら……少しは楽しめそうだ」


 だが、それは俺も同じ事。


 久しぶりのエースパイロット同士の戦い。


 高揚する戦意を落ち着かせる為に、俺も笑顔で対応する。



 尤も、殺意は全然隠し切れない笑顔なのは理解しているがな。






 モニターに映し出されるのは星々が煌めく宇宙空間。レーダーを見れば、幾つかデブリと化した艦艇やAWの残骸が漂っている。


「エイティ、お前はレーダーとモニターの監視に徹しろ」

『分かりました』

「本格的な戦闘補助AIじゃ無いからな。出来る所を徹底すれば良い」


 俺はレバーを前に出し、ペダルを一気に踏み込む。

 FCサラガンは勢い良く宇宙を駆け抜けて行く。そのままスピードを落とさずに、デブリの中に突っ込んで行く。


「中々良い機体じゃ無いか!ますますFCサラガンが欲しくなって来たよ!」


 親衛隊仕様なので、ピーキーかつジャジャ馬なのが良い。

 だが、この程度のジャジャ馬具合なら簡単に手懐けられる。


『今回の目標は翡翠瞳の姉妹の専用機【ZMF-09FEロアノティルト】。8本の特殊兵装アラクネを装備し、武装は任務によって常に変更しています』

「タイマンの場合ならどんな装備になる?」

『データ不足なので不明です。しかし、シールドは必ず装備する筈です』


 ZMF-09FEロアノティルトの機体データをモニターに出す。

 特殊兵装アラクネを装備したZMF-09FEロアノティルト。

 頭部デザインは一新され、上下モノアイ仕様となっている。装甲も一部追加、または厚くする事で耐弾性も向上。

 ZM-05マドックから全体的に一回り大きくなっており、専用機と言う事もあって性能もZCM-08ウォーウルフを超えるくらいのカスタムはされている筈だ。

 また、専用機と言う事で色々と特別なカスタムは施されているだろう。


 それこそ、特殊兵装アラクネを使用するのに最適化されている筈だ。


 ロアノティルトの機体データを把握しつつ、レーダーと周辺に視線を向ける。


「目標、レーダーで捕捉」

「先手は頂く」


 少し大き目の岩石の間近を、ギリギリのラインを通しながら機体を滑らせて行く。


 そして、ギフトを使い3秒先を視る。


 ビームキャノン砲を展開。照準を合わせつつ、タイミングを見計らう。


「そこだぁ!」


 トリガーを引くと同時にビームキャノン砲から高出力ビームが放たれる。


 ビームは狙い通りの場所に向かう。爆発はしなかったが、何かに当たった。


【ッ⁉︎読まれてた!だが、場所は把握した!】

【機体損傷は無いよ!シールドパージ!】


 相手もデブリの陰から飛び出して来る。

 特殊兵装アラクネには小型ビーム砲を4個、60ミリショットガンを2個、多目的シールドは1枚損失しているが、まだ1枚残っている。

 両手で45ミリヘビーマシンガンを持ち、肩側面には追加ブースターを装備。


 火力盛り合わせ、機動力も確保している厄介な機体が現れた。


「随分と武装盛ってんな! だが、それだけの武装も扱い切れなければ意味無いけどな!」


 追撃の手を緩める必要は無い。距離を詰めつつ、ロアノティルトを捕捉。12連装ミサイルポッドもロックオン完了したので躊躇無く発射させる。


【初手は喰らったが、これ以上はやらせない!フーチェ!】

【うん!行くよ!フラン!】


 4本のアラクネからビームが次々と発射され、的確にミサイルが撃ち落とされる。

 その間に互いの距離は詰まるが、接近戦には成らず、一定の距離で射撃の応酬を繰り返す。

 45ミリアサルトライフルとミサイルで牽制しつつ、ロアノティルトを無理矢理動かす。そして、ギフトを3秒先読みしながらビームキャノン砲で直撃を狙う。


 しかし、相手は一級品のエースパイロット。


 簡単に倒せる訳が無い。


 そもそも、近寄る事すら中々難しい展開になっている。


(時間を掛ければ俺の方が不利になる)


 互いにエースパイロットとして実力は備えている。

 だが、こちらは借り物のFCサラガン。それに対し相手は次世代機であり、専用機を使用している。


 不利な戦いになる事は最初から決まっていたのだ。


「ヘッ!だから何だよ。デルタセイバー相手するより100倍は楽だけどなぁ!」


 相手のビームによる一斉射撃をデブリを盾にして回避。視界が切れたのを見計らい、ステルス行動に移行する。

 機体の冷却剤を放出し、熱感知を少しでも遅らせる様にする。


「さて、これからどうするか……だ。エイティ、使えそうなデブリはあるか?」

『8時上方に艦艇の燃料タンクがあります。また、明かりを背に出来ます』

「成る程。そいつは使えそうだな」


 ゆっくりと移動しつつ、携帯型グレネード1個を3分で自爆する様にセットしてから反対方向に向けて放り投げる。


(視線を少しでも別方向に誘導出来れば良い。こちらに向ける銃口が遅れれば遅れる程、勝率は上がるからな)


 エースパイロットらしく無い戦い方かも知れない。

 だが、俺は小細工上等主義なので問題無い。

 エヴァット姉妹の視界に入らない様に注意しつつ、目標の燃料タンクの近くまで移動して行くのだった。






 エヴァット姉妹は互いに言葉にしなくても、以心伝心が出来る程に信頼関係が高い。

 更に、妹のフランチェスカ中尉はギフトを2つ保有している。

 一つは【読心】。狭い範囲ではあるが、相手の心を読む事が出来る。

 もう一つが【マルチタスク】だ。そして能力の高いマルチタスクを保有している事で、多数の特殊兵装アラクネを自由自在に操る事が出来るのだ。


 対して姉のフランシス大尉はどうだろうか?


 残念ながらギフトは【超反射神経】のみしか保有していない。直感に近いギフトだが、攻撃を視認するか、勘で攻撃を避けるしかない。

 しかし、(フランチェスカ)を守る為に血の滲む努力をした結果、高い戦闘能力とAWの操縦センスを身に付ける事に成功。


 フランチェスカ中尉は姉の努力を誰よりも知っている。


 自分を守る為に強くなった事も知っている。


 だから自分も姉を守れる様に強くならなけばならない。


 誰かに負ける訳には行かない。


 エヴァット姉妹は互いに守りたいと心の底から思い続けている。


【奴は何処だ?……フン、隠れるのだけは得意の様だな】


 今も身分を偽り、身を隠し続けているシュウ・キサラギに対する当て付けの様に毒を吐くフランシス大尉。

 しかし、中々見つける事が出来ない。


【ステルス機でも無いにも関わらず上手く隠れる……そうか、冷却剤を散布したのか】

【そうだね。でも、大量に散布してるから長期戦は無理だよ。後、そう遠くには行ってない筈】

【なら、一気に畳み掛ける!】


 僅かに残る冷却剤を探知。現在のFCサラガンの状況を瞬時に把握する。

 そしてフランシス大尉は操縦レバーを前に突き出し、ペダルを一気に踏み込む。


 ロアノティルトを一気に加速させて、デブリの中を突き進む。

 長期戦に持ち込んでも良かったのだが、勝てると確信している戦いなのに態々面倒な展開にしたく無い。


【所詮、専用機の無いエースパイロットなど。私達の敵では無かったわね】


 フランシス大尉は勝利を捥ぎ取る為に、ロアノティルトを更に加速させて行く。


 その時、後方で爆発が起きる。


 咄嗟にモニターで爆発した方向を見る。


 周囲にデブリが散っている以外、特に見るべき箇所は無い。


 なら、一体何故?


【ッ⁉︎フラン!回避!】

【ッ⁉︎上から!】


 上方から高出力ビームが迫る。だが、咄嗟の回避により被弾せずに済む。


 同時にFCサラガンの居場所も特定出来た。


【逃がさん】


 ロアノティルトを更に加速させる。すると、デブリの影からFCサラガンが姿を現す。

 45ミリアサルトライフルの射撃を回避しながら、ミサイルを次々と撃ち落とす。


 徐々に間合いが詰まって行く。


 45ミリヘビーマシンガンを構えて照準を合わせる。


 避けられても、確実に仕留める距離で撃ち続ける。


 シュウ・キサラギは回避機動がかなり上手い。ギフトでは無く、己の技量で回避し続ける。



 ギフトを使用するより、厄介なのはエースパイロットの技量そのもの。



 だからこそ、確実に仕留める距離で勝つ。


 照準を合わせ、トリガーを引く。


 45ミリヘビーマシンガンから次々と弾丸の嵐がFCサラガンに迫る。

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― 新着の感想 ―
あれそういえば特殊兵装…? ビットとかアラクネのことよね? 適正あるみたいな話今までにあったかな リンクディバイスの後遺症で適正生えた?
少し前に一話から一気読みさせて貰い、ハマりすぎてそれからしばらくずっと頭の中でシュウやレイナがリフレインしてましたw 過去を清算し、デルタセイバーという物語の始まりと終わりみたいな機体とケリをつける描…
そういえば シュウ・「キサラギ」でジェームズ・「田中」なのか。 ゴースト生まれか文化圏が原因かな。 いくら強いギフトがあっても当たらなきゃ意味がないですからね。 増幅があろうが敵戦艦の主砲を接近する…
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