ニーナ・キャンベル
超級双胴戦艦の艦内は広い。特に、中心部は現役アイドル達や未来のアイドルとなる卵達が多く住んでいる。
また、インフラ整備や娯楽施設、スタジオなどを維持、管理する為の従業員も多数住んでいるので街が存在している程だ。
しかし、戦闘要員達は街で住む事は出来ない。理由は単純で、緊急時になると出撃が遅れたりするからだ。
だが、申請を出せば期限付きだが街で住む事は出来る。
勿論、警備隊にはそんな権利は無いのだが。
唯、許可さえ降りれば、街の探索や遊びに行く事くらいは可能らしい。
なので、日帰り旅行と割り切れば大丈夫だろう。
「はぁ、やっと落ち着けるぜ」
自室に荷物を置き、コミュニティルームへ移動した。
何となくだけど、あのまま自室に引き篭っていたらギャランとかフランチェスカ中尉が来そうだったからな。
ギャランはもっとアイドルの近くに行こうと誘い、フランチェスカ中尉はシミュレーター室で模擬戦やろうと言って来るだろうからな。
「唯の一般人に何を求めているんだが」
コミュニティルームに到着して、飲み物を買う。そして、一番宇宙の景色が見える座席に陣取る。
「良い景色だねぇ」
『ジェームズは宇宙の景色が好きなのですか?良く眺めていますので』
エイティからの質問に少し考えていると、過去の事も思い出して来た。
「そうだな。初めて宇宙の景色を見た時は感動したよ。煌めく星々が沢山あって綺麗だった」
輸送艦の窓から見る宇宙は煌びやかだった。
地上から見える景色は、いつも小汚い自分と資源ゴミの山。
そして弱者を狙う屑な大人達ばかり。
「同時に、自分の居る所が掃き溜めみたいな場所だって強く認識出来たよ。だから、俺は早く正規市民になる為に努力したのさ」
ゴーストの頃はAWを保有していなかった。時々、傭兵ギルドや雇って貰った企業からレンタルして使ってたくらいだ。
基本的には自前のMWを使用していたけどな。
「AWやMWは保有してるだけで維持費や管理費が掛かる金食い虫だ。だが、MWの方が圧倒的に安い。確か、AWの半額くらいだったかな」
MWが安い理由。それはAWより戦力が低いからだ。
最初から戦闘用として開発されたAWの方が、圧倒的に強いのは当然だ。
対してMWは元々、土木工事や解体作業に使われていた。無論、今では戦闘に特化したMWも数多く存在している。
だが、一番の違いはプラズマジェネレーターの有無だろう。
基本的にMWはプラズマバッテリーを使用している。だから、活動範囲と稼働時間がAWと比べて圧倒的に低いのだ。
「戦闘に適したMWなら、戦い方次第でAWを倒せる。倒せなくても、足止めや時間稼ぎくらいは出来たからな」
後は、俺のギフトと狙撃銃を使えば完璧って訳さ。
『そうですか。理由を教えて頂き有難う御座います』
「別に構わないさ。何かを知りたいと思う気持ちは、大事だからな」
購入した飲み物を開けようとした時だった。後ろから誰かに肩を軽く叩かれた。
俺は振り返ると、頭にはフードを被り、顔を半透明のフェイスベールで隠し、白色が多いシスター服を着た美人さんが立っていた。
「もし、宜しければですが。そちらの席を譲って頂けますでしょうか?キャンベル様のお気に入りの席でして」
「キャンベル様?あぁ、別に構わないさ。美人の頼みなら、拒否する理由は無いからね」
フェイスベールで表情は良く見えないけど、優しそうな声とシスター服の上から分かるスタイルの良さで美人と判断。
俺は笑顔と共に席を譲り、少し離れた所に座る。
暫くすると4人の美人シスターに囲まれた、神秘的な雰囲気を醸し出している美少女シスターが現れた。
身長は周りの美人シスターより低かったが、エルフ並の造形美を持ちつつ、確かに生命体だと主張する柔らかさ。また、ホワイトシルバーで非常に綺麗な長髪に目を奪われる。
更に背中には純白の翼を持ち、頭の上には天使の輪っかが浮かんでいる。
5人の美人シスターも凄い美人なのだが、圧倒的な神秘的な雰囲気が合わさり周りが霞んで見えてしまう程だ。
後、何故か知らないけど身の丈以上にデカい杖を持っていた。上の方はシンプルだけど、しっかりとした豪華な装飾が施されている。
(あの杖で叩かれたら痛そうだな)
俺はシスター達から視線を外して、買ったドリンクを飲む。
良く見たら、パッケージに描かれているのは、あの美少女シスターだった。
(いやはや、パッケージ内の美少女を見れるとは。中々眼福眼pッ⁉︎ブホッ!何じゃこりゃあ!滅茶苦茶不味いじゃねえか!」
馬鹿な、この前とは……別のドリンクを買った筈なのに。
今度のは、エナジードリンクと漢方薬とヨーグルトが混ざってる様な味がした。
そして、後味に残る辺りタチが悪い。
暫く咽せていると、横から視線を感じた。誰かと思いつつ、左側を見る。
美少女シスターとバッチリ目が合った。
てか、この美少女シスターが監修してんのか?
目が合いつつ時間が過ぎる。
俺はクソ不味いドリンクを飲みながら質問した。
「お前がコレを監修したのか?」
「ッ!無礼者!キャンベル様に直接話掛けるとは!」
御付きの美人シスター達が一斉に睨んで来る。
まぁ、フェイスベールで隠れてるから正直良く分からないけど。
「すまんなぁ。育ちが悪いものでね。で?そんな育ち悪い奴でも不味いって思える物を作ったのかよ」
これまた美少女シスターが監修って文字が書いてるからな。
いやー、珍しいドリンクだと思って飲んでみたけど。久々の大外れだったぜ。
「キャンベル様が直々に飲み比べして監修したのだ。不味い訳が無いだろ!最後まで飲め!」
「じゃあ、お前にやるよ」
「の、飲み掛けなど要らん!」
御付きの一人が無理矢理飲ませようと近付いて来る。
しかし、不用心にも警戒せずに来るとは。
まだまだ甘ちゃんだな。
「そんなに遠慮すんなよ。ほら、お飲み」
「なっ⁉︎は、離sッウムッ⁉︎」
伸びて来た腕を掴み、捻り上げ、動きを抑えながら無理矢理ベールの下から口にストローを入れる。
口に入ったと確認してから、手に力を入れて飲ませる。
身体が一瞬ビクリと反応した。しかし、吐けば色々と残念な事になる。
美人シスターは我慢しながら全部飲み干してくれた。
「サンキューな。全部飲んでくれて。助かったわ」
「ゴホッ!ゴホッ!」
喋れる状況では無いのだろう。仕方ないので、口直しのドリンクを買って渡す。
「さぁ、お飲み」
キッ!と睨みながらもドリンクを奪いながら飲む。
しかし、直ぐに動きが止まる。
「どうだ?クール・スカイの味は。後味だけは保証するよ」
そう言ってから、俺は再び席に戻る。
今度は普通の無糖のカフェオレを飲みながら一息つく。
(しかし、さっきのは激烈に不味かったな。確か、キャンベルだっけ?あの美少女の名前は。見た目は一級品なのに、味覚音痴なのが残念だったな)
内心失礼極まり無い事を思いつつ、宇宙の景色を再び楽しむ。
相変わらず美人シスターズは睨んで来るが、何も言って来ない辺り不味いのは否定して無いのかも知れない。
「……そんなに不味かった?」
綺麗な声が聞こえた。誰の声?と思い、再び左側に視線を向ける。
すると、キャンベル様かな?こっちを見ながら聞いて来た。
だから、俺は素直な感想を伝える事にした。
「あぁ、凄く不味かったよ」
「でも皆、美味しいって言ってた」
「そうか。なら、そいつらは残酷な連中だな。真実を言わず、嘘と偽りで固めた賞賛をお前に与えたんだからさ」
事実を言うとションボリしてしまうキャンベル様。
しかし、悲しいかな。事実とは常に喜ばしい事だけとは限らないのだ。
「……美味しいのに」
「本気で言ってる?」
静かに頷くキャンベル様。
だが、こうなると話が少し変わって来るぞ?
味覚音痴なのが確定した訳だが、それを指摘する奴は居なかったのだろうか?
『ジェームズ、彼女と……いえ、アイドル達と関わらない事を推奨します』
「最初から関わる気はねーよ」
『そうですか。では、早急な離脱をお願いします』
エイティはアイドルと関わる事を否定している。
恐らくだが、俺に焼き餅を焼いているのだろう。
やれやれ、モテる男は辛いぜ。
『違います。ナインズ達全員が一癖、二癖の多い者達で構成されています。下手に関われば、目立つ可能性が非常に高くなります』
「それは困るな。なら、退散しよう」
エイティの指示に従い立ち去る事にした。
目立ってしまえば、エルフェンフィールド軍に捕捉されてしまう。
折角、常に宇宙を航行する場所に逃げれたのだ。今のまま大人しく過ごす方が良い筈だ。
「自分で作った料理と一流シェフが作った料理を食べ比べる事をお勧めするよ」
そう言ってから立ち去る。
背中に視線を受け続けたけど、呼び止められなかったので問題無いと思いたい。
「因みにだけど。あのキャンドルだっけ?ナインズなの?」
『……後でナインズに関する資料を纏めときます。それから、彼女はニーナ・キャンベル。エルフと天使族のハーフなのですが、ファンタスト宗教の聖女の一人です』
エイティは呆れた表情になりながら、ナインズに関する資料を集めてくれる。
因みに、ファンタスト宗教はこの宇宙では最もポピュラーな宗教でもある。
強制もしないし、献金も求めない。唯、祈る事を推奨しているのだと。
お陰様でファンタスト宗教は大多数の民衆達に受け入れられ、行事の日を筆頭に赤子が産まれた時や誰かが亡くなった時に祈りを捧げる立場になっている。
それだけでも充分な資金集めを出来る状態にしたのは、大したもんだなと感心するレベルだ。
「聖女?そんなのがアイドルやってんのかよ。資金稼ぎか?」
『そうですね。後は、信徒達と出会える様にとの事です』
「はぁん、仕事熱心だねぇ」
尤も、今後関わる事も無いだろう。後は味覚音痴だけは修正して欲しいと願うばかりさ。
・新世界への入り口!エネルギーチャージャー!
論外!味覚音痴を治してから監修せい!




