仲間割れ?
補給を終えて、再び出撃するとオーレムは既に壊滅寸前だった。
親衛隊のAW部隊も半数くらいが補給に帰還しているのだろう。数が少ないが、残党処理と艦隊警戒に回っている様だ。
後は残党狩りに精を出す警備隊の勇ましい姿に涙が出て来そうである。
「俺も警戒に入るか」
残党狩りをしても、多分オーレムには逃げられる。何せ、警備隊のヴォルシアは鈍足なのだ。まだ可変機のMHS-108Nヴァルシアの方が速度は出るだろう。
しかし、可変機としては遅いので微妙な所ではあるがな。
対艦ビームカノンを構えながら周辺警戒に入る。
すると、接近して来るヴォルシアから通信が入る。
『田中氏殿!無事だったのですな!良かったでござる〜』
アイリ4ことギャランからだった。武装編成も俺が教えた物にしていたので、無駄にはならなかった様だ。
「アイリ4か。そっちも無事に生き残れたみたいですね」
『いやいや、拙者は何もして無いでござる。α型の群れが抜けて来ましたが、艦隊の副砲と対空砲で殆ど対処出来て終わりだったでござる』
「そうですか。それでも生き残れた事には変わりませんよ」
それから暫く無言になる。しかし、ギャランは何か言いたいのか再び話し掛けて来た。
『田中氏殿は、その……怖く無いのでござるか?』
「オーレムがですか?勿論、怖いですよ」
『そうなのでござるか!ですが、普通怖いなら前線側に行かないでござるよ!』
「そうですね。しかし、オーレムは俺達を殺す気で来ます。なら、こっちも殺す気でやらないと対処出来ないでしょう?」
殺られる前に殺る。当然の考えだ。
オーレム相手に対話は出来ないし。そもそもオーレムは対話では無く、略奪でしか生き残れない。
(マザーシップだったか。他のマザーシップも亜空間に居るらしいからな)
まぁ、下手に刺激しなければ大丈夫だと思うが。
「オーレムだけではありません。宙賊やならず者は、この宇宙には沢山蔓延っています。幸い、ホープ・スター艦隊には手を出す酔狂な物好きは居ませんが」
例え、ハリボテの警備隊が居たとしても大丈夫だろう。
幸い、他の戦力はしっかりしているみたいだし。
それに、見た目だけなら一丁前だからな。
「それに、俺達は企業からクレジットを貰ってる立場。なら、艦隊を守る為に行動するのは当然でしょう?」
『で、でも、死んだら終わりでござるよ!拙者は、死にたく無いでござる!』
「なら、警備隊を辞めた方が良い。いや、アーマード・ウォーカーに関わるな。人型汎用機動兵器なんだ。民間用だとしても、少し手を入れれば兵器に変えられる」
アーマード・ウォーカーは最初から戦闘用に作られている。
勿論、民間用なら色々性能がオミットされている。だが、それでも充分戦える性能は持っている。
モビル・ウォーカーもそうだ。アーマード・ウォーカー程では無いが、武装を取り付ければ充分戦闘に耐えられる。
それに、その土地柄の環境に特化しているモビル・ウォーカーは普通のアーマード・ウォーカーを超える性能を発揮する。
つまり、死にたくなければ兵器関連には関わらない仕事に就くべきだ。
『それは、無理でござる』
「辞めれない理由があるので?」
しかし、ギャランは辞めるつもりが無いらしい。
「理由を聞いても?」
恐らく、身内に重い病気を患っている人が居るのかも知れない。
幸い、ホープ・スター企業から支払われる給料は割と高い。それなら残り続ける理由にも納得だ。
だが、ギャランは更に上の考えだった。
『ナインズの限定グッズを定価で買えるのはホープ・スター企業に属さないと無理でござる。拙者は頭が良くない。だからAWのパイロットとして面接したら採用されたのでござる』
少し自慢気になるギャラン。
しかし、限定グッズか。死にたくなければ割高でも良いと思うんだけど。
「そ、そうっスか。でも、死んだら買いたい物も買えなくなるのでは?」
『だから死なない様に気を付けるしか無いでござる。それに、時々ナインズやアイドル候補生達のゲリラライブを観れるのはホープ・スター艦隊に居ないと無理でござる!絶対に辞められないのでこざる!』
恐らく、これが本命だろう。
宇宙は広い。ゲリラライブを配信しても、遠い場所なら視聴には数日掛かってしまう。
リアルタイムでの配信が良い。その気持ちは分からんでも無いけれども。
『それに、拙者は給料の7割を注ぎ込んでいるでござる!幸い、給料自体は良いので生活には問題無いでござる。それに、他の皆んなも似た様な感じでござるからな!』
ギャランがアイドル達に掛ける熱い想いを熱弁して行く。
熱弁は徐々にヒートアップして行くが、俺は止めれる気がしないので半分聞き流す事にした。
(まぁ、元気そうで何よりだな)
それから暫くすると周辺警戒に移行。そして、オーレムの存在が消えた事を確認してから帰還する事になった。
オーレム襲撃から数日が経過した頃。
食堂でご飯を食べようとするとアイリ中隊と鉢合わせした。
オーレム襲撃後、ギャランと他数名以外は俺の存在を完全に居ない物として扱われている。
しかし、この時は妙に全員が浮かれている様子だった。
「いよいよ明日だな。この日をどれだけ待ち望んでた事やら」
「だな!もう直ぐでウラヌスに行ける。つまり、ナインズ達との距離も縮まるって事!」
「これで、ライブにも行き放題でござる!面倒な手続きも簡略化されるから最高でござるな!」
何やら随分と盛り上がっている。
なので、俺は気さくな態度でアイリ中隊の元へと向かう。
「皆さん、こんにちは。ウラヌスに移動するので?」
超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターに行く話は聞いてない。
もしかしたら、聞き流してしまった可能性もあるので確認する為に聞く事にしたのだ。
「ん?おぉ、田中氏殿!そうでござるぞ。ようやく拙者達、アイリ中隊の順番が回って来たでござる。この日の為に貯金したクレジットを全て解放するでござる!」
「田中はんはラッキーやな。直ぐにウラヌスに乗艦出来るやさかい」
「向こうに行く準備は済ましたか?もしかしたら、近くでナインズ達を見れるチャンスがあるぜ!」
「そう言えば、イチエイは田中に連絡してたか?」
何人かがイチエイの方を見る。
すると、イチエイは悪気を隠す事無く俺の方を見て言い放つ。
「悪いなぁ。すっかり忘れてたよ。田中って影が薄いからさ」
小馬鹿にする様な言い方をするイチエイ。それに対して、何人かが笑いを殺しながら同調する
「何言ってんだよ。警備隊の中で一番オーレム倒したエース様だぞ」
「成り上がりだから、戦果稼ぎには一生懸命ってか?」
「点数稼ぎしないと普通に成れないんだろ?可哀想にな」
少しイラッとしたが無視しようと思った。
だが、何人かがイチエイ達を咎め始める。
「おい、止めろよ。実際、田中が一番戦果出したのは事実だろ」
「何やそれ。連絡しとくって言っとやないか。イチエイはん、やり方が陰湿とちゃいます?」
「田中が気に入らなかったら、前に出て戦えば良かったのに」
イチエイのやり方に文句を言い始めたのだ。
しかし、そう言われて黙っていられる程イチエイ達は大人では無かった。
「何だと?お前ら、成り上がりの肩を持つって言うのか!」
「口だけなら誰でも言えるんだよ!」
「お前達だって前に出て無かったじゃないか!それなのに、成り上がりの肩を持つのか!」
「イチエイが艦隊の周辺に居ろって指示出しただろ!田中を放っておいてだぞ!」
そしてイチエイを睨む様に言い放った。
「仲間を見捨てる時点で、ウチらはイチエイを隊長とは認めてないさかい。よう、覚えておき!」
そう言い放つと険悪なムードになりながら、暫く睨み合いになる。
(仲間意識……あったんだ。ちょっと意外かも)
正直に言うと、俺程扱い難い奴は居ないのでは?と思ってたりする。
だって、ソロでも普通に戦えてるんだもん。
まぁ、伊達にクリムゾン・ウルフと呼ばれてた訳じゃないからな!
「田中は仲間じゃない!現に、俺達の助けを必要としていなかった!」
「助けを求めても行ける距離じゃ無かっただろ!言い訳ばっかりするな!」
「み、皆の者、落ち着くでござる」
更に言い争いが続く。
しかし、俺はヒロインでは無い。なので、俺を原因として争わないで欲しいもんだ。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さい。折角の数少ない楽しみの食事だ」
俺は少し強引だが席に座り、食事を摂る事にした。
それに、今回は超お勧めドリンクを手に入れたからな。
「え?てか、田中はん……それ飲むん?」
「勿論、最新作だったので。それに、アイドルのお勧め?でしたからね。ほら、何かシスターみたいな格好してる子が居るでしょう?」
パッケージには凄く可愛い女の子が写っていた。
その女の子が一押し!って力強い文字と共にお勧めしてるんだ。
不味い訳が無いぜ!
コップに中身を注ぎ込む。味も大事だが、見た目と匂いもしっかりと確認する事も大事なのだ。
「見た目は少しアレですが、案外飲んだら美味い……マッズ!何やこれ」
例え様の無い未知の味がした。それから舌が若干痺れ始めた。
これ大丈夫なの?
「だ、大丈夫でござるか?」
「……こう言うのは勢いが大事なんだ。分かるか?」
「いや、全然分からないでござる」
俺はコップに中身を全て注いでから一気に飲み干す。
食べ物を粗末にしない事は、前世からの記憶にしっかりと刻み込まれてるからな!
「あぁ!不味い!マジで不味い!本気と書いてマジって読むくらい不味い……アレ?後味はスッキリしてて爽快感が半端無いな」
最初は凄く不味かったのに味が思い出せない。
そして、気分は凄くスッキリして爽快感が半端無い。
「でも、これは星1は確定だな。最初の掴みが駄目過ぎた」
俺はパッケージに描かれている女の子に対し、デコピンしながら評価したのだった。
「チッ、調子に乗りやがって。計画が始まったら絶対に殺してやる」
イチエイは田中を睨み付けながら、誰にも聞こえない様に呟いた。
ナインズのニーナ・キャンベル監修の最新ドリンク
【クール・スカイ】
・名称の割に見た目と味が激烈不味い。後味はクールで良いけど。スカイは分からん。
評価は星1だよ。味覚音痴!
 




