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ソロプレイヤー

 アイドルチーム・ナインズ。

 人型女性部門でNo.1の座を獲得している。その為、三大国家間を自由に行き来する許可証も受け取ってる程だ。

 ナインズの存在は三大国家から見てもメリットは非常に大きい。

 ナインズの熱狂的なファン達は、グッズを売り切れにし、チケットは完売にさせる。そうなれば、多額の税収が手に入るのだ。

 更に定期的にグラビア雑誌も販売しているので、ホープ・スター企業としても安定した収入を得られている。


 ナインズは三大国家とホープ・スター企業にとって、金の卵を産み続ける鶏なのだ。




 超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スター。

 ホープ・スター艦隊にとって一番重要なナインズや将来アイドルになる卵達が住んでいる。また、艦隊旗艦として重要な役割を果たしている。


「んー……嫌な予感がするんだよなぁ」


 やる気が一切感じられない無精髭を生やした中年の男。しかし、艦長席に膝を付きながら座っている。

 男の名はオリバー・アーノルド。アーノルド艦長はギフト【危険予測】の保有者だ。それも、かなり精度が高いので、危険予測に関しては乗組員達から信頼されている程だ。


「予定進路を変更しますか?」


 副官のセミロングの美人がアーノルド艦長に聞く。

 アーノルド艦長は少し悩んだが、首を横に振った。


「そうだなぁ。どっちに行っても嫌な予感がするからなぁ。ヤダなぁ」


 嫌だ嫌だと連呼し続けるアーノルド艦長。

 しかし、それでも彼は大きな危険予測を当て続けた。

 彼が居るからこそ、安全な宇宙航路を行けるのだ。


「ハァ、仕方ない。進路そのまま、それから各艦に警戒態勢を取らせて」

「了解しました。ウラヌス・オブ・スターより各艦に通達。警戒態勢を厳とせよ」


 アーノルド艦長は再びデカい溜息を一つ吐く。


「ハァ、艦長辞めたいなぁ」

「フフフ、アーノルド艦長も冗談が下手ですね」

「冗談で言ってないんだけど。ハァ、安全な宇宙ステーションで死ぬまで酒を飲み続けたい」


 それから数十分が経過。すると、ホープ・スター艦隊の前方に反応が現れる。


「ワープ反応を確認。パターン赤です!オーレム来ます!」

「艦隊、砲撃戦用意!砲撃だけで殲滅させる勢いでやれよー」


 アーノルド艦長は現在の艦隊戦力を把握しているつもりだ。

 超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターを筆頭に、航空戦艦エイグラムス1隻、戦艦8隻、巡洋艦20、砲撃型駆逐艦30隻、対空フリゲート艦10隻。

 親衛隊のAW部隊に4人のエースパイロット達。更にAS部隊も一個中隊運用している。


 これだけでも充分な戦力を保有している。


「これで警備隊も使い物になれば安牌なんだけど。ワトソンさんは、アイドルを一流に仕上げるのは得意なんだけどねぇ」


 実績がある分、他の分野も任される時がある。

 しかし、メル・ゼ・ワトソンの場合は少し違う。どうやら、自分から進んで警備隊の人事を行なっているらしい。

 それに、敏腕プロデューサーのワトソンは真面目な方なのだ。真面目な方なので、やめてくれと言い辛いのもある。


「原石がどーのこーのと言ってたけどさぁ。警備隊から原石拾うより、親衛隊から拾った方が良いと思うんだけどねぇ」

()()も中々扱い難いですからね。それが許される立場ですが」

「まぁ、今の所は彼女の出番は無いのが救いだねぇ」


 アーノルド艦長と副官が話している間にも、着々と戦闘態勢が整って行く。

 超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターと航空戦艦エイグラムスから次々とAW部隊が出撃して行く。




 突然の警報。そして艦内放送でオーレムの襲撃、及び第一種戦闘配備が言い渡された。

 俺は直ぐにパイロットスーツに着替えて、格納庫に向かいHS-105Nヴォルシアに乗り込む。

 コクピット席に座り、システムを立ち上げて機体のチェックを手短に済ます。


「ジェームズ?早いわね。貴方が一番乗りよ」

「ん?別に。自分の命を預ける機体だ。しっかり確認して、限りなく問題無しで出撃する」


 シュウ・キサラギの時と同じやり方だ。何も変わらない。

 機体が万全な状態なら、敵を多く殺せる。特に、オーレム相手なら尚更だ。


「武装はどうするの?狙撃だとオーレム相手には難しいと思うけど」

「問題無い。この機体でオーレム相手に機動戦はほぼ不可能だ。なら、火力でゴリ押す」


 最低でも、スマイルドッグのサラガンくらいの機動性と運動性は欲しい所だ。戦闘用のブースターとスラスターが無いと、オーレム相手は厳しい。

 後、普通に対人戦でも厳しい。


 それに、俺はオーレムを下等生物とは思えなくなったからな。


 シュウ・キサラギなら、機動力を生かして撹乱や突喊なんかをやるだろう。

 なんなら、γ(ガンマ)型狩りをやる筈だ。


 だが、ジェームズ・田中はそんな事しない。


「久々に対艦ビームカノンで狙撃するか。予備で45ミリサブマシンガンとプラズマサーベル。後はβ型優先で仕留めれば、前線が少しは楽になるだろうし」

「……なんか、ジェームズには似合わない武装かも」

「何言ってんだよ。火力は正義だぜ?」


 ミサイルカーニバルや弾幕パワーも悪く無いなと思いつつ、結局狙撃に徹する事にした。

 ナタリアに向けて軽く手を挙げてから、コクピットハッチを閉じる。

 メインモニターに映るのはグッドサインをするナタリア。なので、メインカメラを一回だけ光らせて返事をする。

 それから少し待つとアイリ中隊全員が揃う。しかし、全員不安なのかテンションが低い。


(新兵かよ。勘弁して欲しいぜ)


 こうなるとスマイルドッグの連中が恋しくなる。

 殆どの連中は実戦経験があるから度胸あるし、腕前も並以上なので頼れるからな。


『エイグラムスよりAW部隊へ通達。間も無く、艦隊による砲撃を開始する。AW部隊は砲撃と同時に前線へ移動。オーレムを一匹たりとも艦隊へ近付けさせるな。以上』


 随分と雑な命令だなと思った。だが、そうなるのも無理は無いかも知れない。


 今の警備隊が頼りにならないのが原因だろうからな。


 しかし、待機している間に良い事を思い付いた。

 折角、ナナイ作製のエイティが居るんだ。使わない手は無い。


「エイティ、お前って戦闘補助AIの真似事って出来るの?」

『一応出来ますが。本格的なのは無理です』

「充分だよ。端末繋げたら行けそう?」

『問題は有りません。後は、こちらでやりますので』


 良い返事が聞けたので、端末を繋げる。


『メインシステムに侵入完了しました。これでレーダーを使用した警戒などが可能になります』

「良いじゃん良いじゃん!なら、前線よりで戦うぞ。死角からのカバーを頼む」

『了解しました』


 頼りになる戦闘補助AIが使える様になった。


 なら、オーレム相手なら充分戦える。


(そう言えば、ネロの奴は生きてるだろうか?まぁ、あの高性能なボディとAIだ。自由を謳歌してるだろう)


 つまらない男に捨てられたのだ。きっと、清々している筈さ。


 そして、遂にアイリ中隊に出撃命令が下される。


『うぅ……し、死にたく無いで、ござる』

『ギャラン!泣き言を言うな!全く、お前は本当に情けない奴だな!』

 

 しかし、弱音を吐いてしまうギャラン。

 オーレム相手は初めてでは無いだろう。だが、それでも怖いものは怖い。

 だが、イチエイは弱音を吐くギャランに一喝する。


『良いか?後ろに下がったら、俺がお前を撃つからな!分かったらサッサと出撃しろ!』

『い、嫌でござるぅ……まだ、ナインズの限定グッズを買えてないのにぃ』


 ナインズの限定グッズか。

 一応、航空戦艦エイグラムスにもナインズの限定グッズは販売されている。値段も安くは無いし、どちらかと言えば高価な方に入るだろう。


 死にたく無いと言い続けてるギャラン。お陰で渋滞が発生しつつある。


(仕方ない。軽く落ち着かせるか)


「アイリ12よりアイリ4。少し落ち着け。最前線は親衛隊がやるんだ。俺達は親衛隊が処理し切れなかったオーレムを片付けるだけだ」

『で、でも……この間、田中氏殿の前任者がオーレムに』


 ギャランは半泣きになりながら、悲しそうな表情になる。


(そう言う事か。だが、オーレム相手だ。戦死するのは良くある話だが)


『フン!アイツは下手くそだったから死んだんだ!』


 下手なら下手なりの戦い方があるだろうに。まぁ、イチエイの無駄に高いプライドが邪魔しているのだろう。

 それに、部下の心身のケアを怠る時点で隊長としての資格は無い。


(実戦で下の連中に合わせる義理は無い)


 それなら、出来る限り邪魔にならない場所で待機してて欲しいと思ってしまう。


「なら、ウラヌスの周辺で防衛しとけば良い。対空砲代わりにやれば、誰も文句は言わないさ」

『田中!勝手な指示を出すな!』

「なら、サッサと出撃させろ。良い加減、出撃が遅れているんだぞ。今は訓練じゃ無くて、実戦なんだぞ?分かってんのかイチエイ隊長殿」


 文句の時だけ無駄に声がデカいイチエイに、実戦だと改めて伝える。

 しかし、イチエイは逆ギレして田中に強く当たる。


『煩い!なら、お前から先に出撃しろ!成り上がりの癖に生意気なんだよ!』

「そうさせて貰うよ。給料泥棒なんて言われたく無いんでね」


 俺はアイリ中隊を見限り、航空戦艦エイグラムスに通信を繋げる。


「アイリ12よりエイグラムス。先に出撃する。対応頼む」

『……エイグラムス、了解した。第四カタパルトに移動させる」

「アイリ12、了解」


 クレーンが動き、俺の機体を固定し運び出す。


『田中氏殿。拙者……その、怖くて』


 臆病なのは悪い事じゃない。臆病だから生き残れる事もある。


 だから、臆病なら臆病なりの戦い方でやれば良い。


「怖いのは当然だ。同僚が死んだとなったら尚更だ。だが、オーレムはそんな事知らないし、関係無い」

『そ、そうで……ござるよね』

「あぁ、そうさ。だから、俺達は生き残る戦いをする。生き残れば、後は何とかなるさ」


 取り敢えず簡単な装備一式を決めてから、ギャラン機に送信しておく。

 取り敢えず大型シールド構えて、弾幕張ればα型くらいは対処出来る。


「それに、欲しい限定グッズがあるんだろ?なら、オーレム倒して稼げば良い」

『そ、そんなゲームみたいな事出来ないでござるよぉ』


 俺が送った武装セットを見たのだろう。少しだけ声に力が戻って来た気がする。


 だが、時間切れが来た様だ。


 機体が第四カタパルトに接続された。

 そして、エイグラムスのオペレーターから指示が出る。


『カタパルトの接続完了。進路クリア、発進どうぞ』


 サングラスを押し上げて、バイザーを閉じる。


 操縦レバーを握り締め、メインモニターに視線を集中させる。


「アイリ12、ジェームズ・田中、出るぞ!」


 勢い良く宇宙へと射出されるヴォルシア。そのまま、艦隊の前に移動して行く。


「さて、久々のオーレム狩りだ。楽しもうぜ」


 対艦ビームカノンを構えながら艦隊の前の方に移動するのだった。




 ホープ・スター艦隊は迫り来るオーレムに対し、迎撃準備を着々と終わらせて行く。


『間も無く、先頭集団が主砲の射程内に入ります』

『ミサイル発射準備完了しました』

『親衛隊のAW部隊配置完了。また、ジェイド1、タンゴ1、スカル1も配置完了しています』

『警備隊のAW部隊の半数は配置完了しています』


 アーノルド艦長は艦隊の砲戦能力だけで、オーレムを殲滅出来るとは考えていない。

 警備隊の練度不足を無視すれば、親衛隊に負担が掛かるのは承知している。


 だが、今は親衛隊と4人のエースパイロットに任せるしか無い。


『各艦、砲撃戦用意』

『各艦に通達。砲撃戦用意。繰り返す、砲撃戦用意』

『艦隊内でのデータリンク合わせ良し。目標、前方オーレム群』

『各砲座射撃準備良し』


 ホープ・スター艦隊の準備は整った。


 そして、オーレムが主砲の射程内に入った瞬間にアーノルド艦長は命令を下す。


『艦隊、攻撃始めぇ‼︎』


 超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターの攻撃を皮切りに、一斉攻撃が開始される。

 ウラヌス・オブ・スターの火力も凄まじいが、砲撃特化型の戦艦も中々の火力を出している。


 砲撃特化型戦艦コンゴウ、ヒエイ、ハルナ、キリシマ


 収縮砲未搭載の戦艦だが、代わりに砲戦能力を向上させた戦艦だ。

 単純な火力勝負なら収縮砲搭載型より上なのだ。

 そんな戦艦が4隻に加え、収縮砲搭載型戦艦が4隻。

 更に巡洋艦、砲撃型駆逐艦、対空フリゲート艦と揃っているのでオーレム相手なら簡単に寄せ付けない。


 だが、それでもオーレムは一直線にやって来る。


「やっぱり、艦隊火力だけだと対処は無理か。それに、小物が結構抜けてるな」


 オーレムの中でも、α、β型は特別数が多い。故に、艦隊の砲撃だけでは対処し切れないのが実情だ。

 艦隊からは絶え間無く砲撃が行われ、VLSやミサイル発射台からも次々とミサイルが発射されて行く。


『親衛隊のAW部隊がオーレムと接敵。私達も間も無く接敵します』

「親衛隊が良い囮になってんねぇ。まぁ、こんな機体だと小物くらいしか狩れないけど」


 親衛隊もα、β型を優先して倒している様だ。γ型以降は艦隊火力で処理して貰った方が効率が良いのは確かだからな。


『しかし、宜しいのですか?ほぼ、孤立している状況ですが』

「問題無いね。周りに味方が居るんだ。そっちにオーレムが食い付く可能性の方が高いからな」

『しかし、アイリ中隊を筆頭に他の警備隊は後方で艦隊護衛に回っていますが』


 エイティが少し呆れた声を出す。

 まぁ、気持ちは分からんでも無い。親衛隊やエースパイロット4人が前線で戦っている。


 なら、警備隊は親衛隊のフォローをした方が良い筈。


 だが、現実はこの有様だ。


「だから、アイツらはいつまで経っても給料泥棒って言われてんだよ」


 現実が見えてないのか。それとも、満足に戦える技量と練度が無いと自覚しているのか。


 どっちにしろ、俺には関係の無い事だがな。


「さて、親衛隊だけに獲物を取られてたまるかよ。幸い、親衛隊が良い囮になってオーレムを引き付けてくれている」


 丁度、戦艦コンゴウが前に出て親衛隊の火力支援をしている。

 なら、俺も同じ様に火力支援でもしようかね。


「さてと、狙って……そこだ!」


 親衛隊に向けてβ型が10体程突撃していた。だがら、その無防備な横っ腹に向けてトリガーを引く。

 対艦ビームカノンから放たれた高出力ビームは、β型を3体纏めて貫通させる。そのまま、流れ作業で次々とβ型を狙撃して行く。


「楽な仕事だぜ……本当に、な」

『我慢して下さい。貴方はジェームズ・田中なのですから』

「知ってるさ」


 味方艦隊からは止めどなく砲撃が続けられいる。オーレムからも反撃しており、赤色と黄色のビームが交差しながら宇宙を彩る。

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― 新着の感想 ―
[一言] プロデューサーさん、原石どころか研磨された宝石がちょっとだけ埃被って落ちてますよ
[一言] 艦長たちの認識は艦隊所属のエースが4人 キサラギの認識と知識は、雇われエースが3人 これはもうだめかもしれん まぁ、どう考えても証拠隠滅で一人残らずの皆殺し が前提の陰謀劇なので キサラ…
[一言] 落ちこぼれ部隊の新人がバカスカ堕としてたら目立つと思うんですよ…… 目立つ基準がエースパイロットになってるからなあ
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