歓迎会
いつも感想、誤字報告を有難うございます。
凄く励みになりますし、助かっています。
もし、この小説を気に入って頂けてましたら、レビュー、いいねもしてくれると嬉しいです。
では、本編をどうぞ。
次の日。朝食を食べようと食堂に行く。
食堂の内容は実に豊富で、SFチックなA〜G定食、50種類シリアル系、天然素材を利用した日替わり定食など。
また、社員割引も効いて格安での提供となっている。
「スマイルドッグよりも豊富だな」
『そうですね。しかし、社長からのサプライズメニューは無さそうですが』
「サプライズメニューと言うか、安く仕入れたから食えって意味だろ?」
社長は基本的にドケチだからな。
安く、大量に購入出来る食料なら結構な確率で買ってしまう。
しかし、その食料が惑星独自の特産品だったりするので馬鹿には出来ない。
無論、当たり外れはあるけどな。
『それでも、珍しい料理を食べる事が出来ましたよ』
「時々、インスタント地獄になるけどな」
安い安いと大量購入しまくった結果、食堂のメニューは全てインスタント食品になった事もあったけどな。
流石の社長も悪いと思ったのが、少し高価な健康サプリを無料配布してたな。
昔の事を思い出しつつ、食事を済ます。
それから、パイロットスーツに着替えてからシミュレーター室に向かう。
「ふむ、まだ誰も来ていないみたいだな」
誰も来ていないと言うか、完全に無人な状態。
「エイティ、航空戦艦エイグラムスのAW部隊って結構あるよな」
『三個大隊あります。また、予備機として二個中隊分も存在しています』
「そうか。まぁ、偶々誰も訓練して無いタイミングかな?」
それから、暫く待つとゾロゾロと人が集まり始める。
そして、最後にイチエイがやって来た。
「良し、全員集まったな。改めて新しい仲間が来た訳だ。昨日の時点で既に挨拶は済ませてる奴も居るだろう。だが、知らない奴も居るだろうからな。田中、挨拶しろ」
まだ知らない同僚に挨拶するのは、大事な事だからな。
これから一年仲良くやる仲間になるんだから。
俺はアイリ中隊の前に出て挨拶をする。
「ジェームズ・田中です。宜しくお願いします」
しっかりとした敬礼と共に。だが、これが小さなミスになるとは思わなかった。
敬礼を下げると、周りの空気が妙に変な感じになる。
一体何か間違いでもしたかな?と思っていると、ギャランがゆっくりと手を上げて質問して来た。
「その、田中氏殿は……軍経験があるので?」
「……いいえ。軍とは無縁ですね。しかし、何故軍なので?」
「いやー、随分と様になった敬礼でしたな……と。もしかして」
内心、俺は焦った。
(これは、ミスったな。いつも通りにやったら、これだよ畜生が)
ジェームズ・田中は軍人でもなければ、傭兵でも無い。
唯のアーマード・ウォーカーが好きな正規市民。それ以上も無ければ、それ以下も無い存在。
なのに、軍人並みのしっかりとした敬礼をしてしまった。
そして、ギャランが確信した口調で言葉を発した。
「もしかして……エレーナ様のファンでござるな!」
「……え?あ、あぁ、そうかもですね」
「違うのでござるか?」
しまったー!ギャランからの華麗なパスをスルーしちまったよ!
てか、エレーナ様って誰やねん!知らねーよ!
(考えろ。誤魔化せる理由を。俺はジェームズ・田中なんだ!)
そして、俺は最高の言い訳を思い付く。これなら敬礼も充分誤魔化せる筈だ!
「あー、実はですね。自分、アーマード・ウォーカーが好きでしてね。それで、此処に就職した程ですから」
AW=軍事兵器。軍事兵器が好きだから=敬礼も出来る!
完璧な公式だ!頼む!通じてくれ!
「恐らく、それで敬礼も自然と覚えてしまったのかなと。自分、特に軍人になりたいとか考えた事も無いので」
軍人よりも傭兵向きだもん。
それに、今更小綺麗な軍所属のパイロットはキャラじゃ無いし。
「成る程。つまり、田中殿はミリオタと言う訳ですな?」
「そうですね。そうなります」
ギャランのミリオタパスを確実に受け止めた。この男、中々やるやん。
後は、言い訳が出来たと信じたい。
「そうか。ミリオタならミリオタらしく兵器に詳しい訳か」
「多少は知識があるかなと」
「その知識が役に立つ日が来ると良いな。良し、早速だが田中の実力を知りたい」
イチエイの嫌味っぽい言い方。だが、これが彼のキャラなのだろう。
(とは言え、女性整備士達から不評だろうな)
実力が伴っていれば問題は無いのだがな。
「これより、田中の勝ち抜き戦を行うぞ」
「勝ち抜き戦ですか」
「何だ?嫌なのか?」
「問題はありません」
唯、俺が連戦連勝したらどうなるかな?
とは言え、このくらいの規模なら多少暴れても大丈夫だろう。
今の内に、実力の差ってヤツを伝える事は大事だからな。
「なら、シミュレーターに乗り込め。順番はこっちで決める」
「了解しました。では、お先に」
俺はシミュレーターに乗り込み起動させる。
機体はHS-105Nヴォルシア。頭部がイケメン寄りなので、全体的に整った印象がある。
しかし、ブースター・スラスター関係が完全初心者仕様なのが悲しい。
「警備隊には追加ブースター支給されて無いとか。一体、何考えてるんだが」
警備隊の一部装備無しに愚痴を吐き捨てながら、昨日の事を思い出す。
昨日、武装などの装備も確認したのだが。背部と肩部側面に装備出来る筈の追加ブースターが無かった。
俺は偶々近くに寄って来ていた、あの無愛想な女性整備士に理由を聞いた。
最初は面倒臭そうにしてたが、徐々に話してくれた。
「結局、アンタ達警備隊全員の技量不足が原因なの。アイリ中隊が一番下手って言われてるけど。私に言わせれば大差無いわよ」
「警備隊には無いって事は、親衛隊には配備されてるんだな?」
「当たり前よ。親衛隊は航空ショーだってやるんだから」
航空ショーまでやるのか。だとしたら練度が高いのは納得だな。
しかし、この女の貶し具合だと、警備隊の練度不足は相当なのかも知れん。
「因みに何だが。ブースターやスラスターの推力が低いのも?」
「あら?気付いたんだ。その通りよ。着艦時のミスや接触事故が多発してたのよ。だから、推力が低いのに切り替えられたの。お陰で事故も格段に減って、整備負担も減った。更に警備隊の連中は扱い易いとか言って喜んでる。馬鹿じゃないの?」
「随分溜め込んでるな」
「当たり前じゃない。下手くその癖に、パイロットだからって無駄に偉そうにするし。本当、道化でも見てる気分になるわ」
(道化……か。この道化は誇れそうにないな)
それにしても、愚痴が中々止まらない。
作業服を着てるし、汚れも多少目立つ。だが、容姿は悪くない。
つまり、結構口説かれてる可能性は高い。
(道化も極めれば、結構サマにはなるんだがな)
内心別の事を考えつつ、女整備士の愚痴を適当に相槌を打ちながら聞き流し続けたのだった。
「取り敢えず、ビームスナイパーライフルで鴨撃ちでもするかね。後はプラズマサーベルと多目的レーダー。予備に45ミリサブマシンガンで良いさ」
装備を決めて、相手が決まるのを待つ。
今回の様な模擬戦みたいな場合、互いの装備が不明のままだ。そっちの方が咄嗟の判断が試されるし、不利だろうとも自身の技量で対処する必要がある。
因みに、ビームスナイパーライフルも小型ジェネレーターを装備する必要がある。
しかし、対艦ビームカノンと違い小型なので背部ユニットの片方だけで収まる。
武装が一つ減ると考えるか、確実に当てて行くか。一応、ベテラン向きの装備と言っても良いだろう。
そして、相手も装備が決まったのだろう。デブリも何も無い宇宙空間がモニターに映り込む。
「1on1ならビームの軌道跡を気にする必要は無いしな」
実弾でも被弾した所から逆算出来る。だが、攻撃を受けながらだから難易度は高くなる。
多目的レーダーを使用して索敵を開始。それから暫く時間が経つとレーダーに反応が出る。
「果たして本命か、デコイか。まぁ、炙り出せるなら何でも良いさ」
動きからして本命だな。
俺はギフトを使いつつ、スコープの倍率を上げる。
「悪いな。実は俺……狙撃が、一番得意なんだ」
トリガーを引く。
暗い宇宙空間に一筋の光が駆け抜ける。
ビームは吸い込まれる様に相手に当たり、撃墜判定になった。
(だから、好きじゃないんだよ……狙撃ってやつは)
俺の持つギフト【3秒先の未来視】は特別珍しいギフトでは無い。
だから、俺みたいに先読みのギフトを使って狙撃に徹する傭兵やバウンティハンターも居る。
だが、未来視に対抗するかの様に【直感】【敵意察知】と言ったギフト持ちも多数居るのも事実。
結果として、未来視持ちは危険な仕事はしなくなる。
自分が死ぬ未来を視るかも知れない。それが、数秒先だとしても。
最悪、二度死ぬ事になりかね無い。
(死ぬ光景が視えたら、速攻で機動変えるから良いけど)
だからこその機動戦、格闘戦、射撃戦だ。
それに、狙撃よりもコッチの方が映えるしな。
「さて、退屈な作業になりそうだ」
次の戦闘シミュレーションが始まる。
敵を視認しては、トリガーを引く作業。
ランダムな動きをして、回避しようと足掻く。だが、ランダムな動きは逆に視え易くなる。
吸い寄せられる様にビームが当たり、爆散して行く。
それから戦場のシチュエーションが変わったりもした。
多数のデブリが浮遊する宙域。
少数のオーレムが警戒している宙域。
惑星軌道上の宙域。
しかし、結果は変わらず一撃必殺で終わる。
(果たして、これで友好な関係を築けるだろうか?)
一方的に終わる戦い。
勝つ方は気持ち良いだろうが、負ける方は良くない。
しかし、俺は勝つ方なので問題無い。
「そろそろ終わりかな?んー……アレまぁ。最後は皆さんお揃いらしい」
再び宇宙空間が広がる。しかし、レーダーには11機の反応がある。
「ふむ、成る程ね」
状況を把握し、戦闘態勢を取る。
すると、相手から通信が入って来る。
【田中、お前の実力は良く分かった。これが最終試験だ。俺達全員を相手して勝てば文句は無い】
「そうですか」
(勝ち過ぎたか?だがなぁ、あの程度の技量だと、そこら辺の宙賊にも負けるぜ?)
多勢に無勢は正に今みたいな状況を言うだろう。
だが、今更そんな事で臆する肝は持って無いんでね。
【何か言う事はあるか?】
イチエイ隊長殿から最後通告みたいな事を言われる。
しかし、何か言って良いらしい。
なら、遠慮無く言わせて貰おうか。
「……フン、接待プレイをお望みならクレジットを払いな」
俺はそう言って武器を構える。
一瞬の沈黙。そして、一気に顔を真っ赤にして怒り狂うイチエイ隊長閣下。
【ッ⁉︎た、田中ぁ!調子に乗るなよぉ!全機、攻撃開始!】




