HS-105Nヴォルシア
大企業の一つに数えられている【ホープ・スター企業】。
この大企業はアイドルになる事が出来る原石を見つけたり、引退したアイドルの息子・娘をアイドルにする為に様々な事業に手を出している。
他企業と商品コラボを行なったり、アイドル達の歌やグッズを販売したりしている。
超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターを運用するのにも理由がある。
主に男性向けアイドル育成場だ。
アイドル育成専門学校を筆頭にフィットネスクラブ、スタジオ、演劇会場、多数のテナントがはいっている巨大娯楽施設。
兎に角、アイドル達を育成し磨き上げる施設が沢山あるのだ。
その為、通常の超級戦艦をベースとするとスペース確保が難しくなってしまう。よって超級双胴戦艦を運用する事で何とかしている。
実に贅沢な使い方だと言えるだろう。
また、状況によってはウラヌス・オブ・スター内でコンサートが行われる。
つまり、不特定多数のファン達が雪崩れ込んで来る。
そんな状況でも、トップアイドル達を守る必要がある。
その為の親衛隊が常に常駐しており、安全を守る為に行動する。
更に、その親衛隊の邪魔をさせない様にするのが警備隊となる。
警備隊以下、他の部隊は航空戦艦エイグラムスにて待機。必要に応じて出撃する訳だ。
まぁ、大抵出撃する時は対オーレム戦、対宙賊戦の時くらいだがな。
尤も、余程の馬鹿な宙賊でも無い限り手を出したりしない。
正規軍顔負けの艦隊なのだ。手を出せばタダでは済まないのは明白だ。
後、基本的に航空戦艦エイグラムス乗艦だと、トップアイドル達を見る事は無いって訳さ。
「取り敢えず基本的な内容は覚えた。艦隊護衛がメインになるらしい」
『余計な事さえしなければ、比較的安全そうですね』
「安心しろって。これ以上のゴタゴタが起きる筈が無い。そもそも、大企業に楯突く奴は居ないんだからさ」
大企業は横の繋がりも凄いからな。
「しかし、良い所に就職出来た。給料良し、衣食住良しと来ている。更に惑星間を色々移動するから足取りも掴み難くなる」
今は逃亡の身だ。普通なら成り上がりが大企業に就職出来る筈が無い。
つまり、俺はかなり運が良いって訳だ。
「やっぱり、俺ってラッキーボーイだな」
荷物を抱えながら、許可証を受付に提示。そして、許可が降りたので航空戦艦エイグラムスに乗艦する。
そして俺が艦内に入ると2人の野郎共がやって来た。
「貴様がジェームズ・田中だな。部屋を案内するから付いて来い」
「イチエイ殿、待つでござるよ。拙者達は初対面なのですから。ちゃんと自己紹介をした方が良いでござるよ?」
1人は身体が細いのに妙に偉そうな奴。もう1人は小太りで中々癖のある喋り方の奴だ。
「確かにそうだな。俺はアイリ中隊の隊長、イチエイだ。俺の指示には、しっかりと従う様にな」
「拙者はミツル・ギャランでござる。アイリ中隊所属の4番機担当でござる。田中氏殿もアイリ中隊配属だから仲間でござるな」
どうやら、俺は部隊配属になったらしい。
高確率でAW部隊だと思うのだが、立場的にMW部隊になるかもと思っていたので良かった。
「そうですか。航空戦艦エイグラムスに乗艦する様に、としか言われて無かったので。ジェームズ・田中です。宜しくお願いします」
「では、早速部屋に案内するでござる。その後にアイリ中隊のメンバーや他部隊を案内するでござる」
「ありがとうございます。出来れば、どんな機体に搭乗するのか知りたいのですが」
「ちょっと待つでござる」
ミツル・ギャランは自分の端末を操作して見してくれた。
「この機体でござるよ。ホープ・スターで独自開発されたAWですぞ!」
何故かドヤ顔になるギャラン。
端末で性能を確認すると別段悪くない。特別秀でた性能がある訳では無いが、苦戦する様な機体でも無い。
強いて言えば、扱い易い分類に入るAWだろう。
「ふぅむ、悪くない性能ですね。少なくとも、三大国家の主力機より上の性能ですかね」
「因みに、田中氏は12番機に乗る事になっているでござる」
流石は大企業だな。有り余る資金を使って独自のAWを製造するとは。
然も、この機体は戦場では見た事が無い。
まぁ、企業専用の機体なんて見る機会は多くは無いからな。
「田中と言ったな。挨拶するのは良い事だ。だが、サングラスを掛けたままなのはマナーが成ってないんじゃ無いか?」
「不快にさせてしまったら申し訳無い。昔から少々先天的なのを患っておりまして。一応薬を飲めば大丈夫なのですが」
「まぁまぁ、イチエイ殿。病気なら仕方ないでござるよ。さ、案内をするでござるよ」
サングラスを掛け続ける言い訳は通用出来た。後は、静かに過ごせば問題は無い。
「フン。まぁ、良いだろう。兎に角、問題だけは起こすなよ」
「田中氏殿、安心して下され。イチエイ殿はいつも不愉快そうな感じなのでござる。特別、田中氏殿を嫌ってる訳では無いでござるから」
イチエイが先に行くと、ギャランが側にやって来て安心する様に言ってくる。
「大丈夫ですよ。自分も、普通に過ごす事を望んでいますから」
俺自身も大きな問題を抱えてる訳だからさ。
(仲良くやって行こうじゃないか。お互いにな)
内心笑みを浮かべながら、サングラスの位置を調整し直すのだった。
一通りの案内を済ませて貰い、自室に案内された。
「ここが田中氏殿の個室でござる。後は好きに過ごしても大丈夫でござる」
「分かりました。イチエイさん、ギャランさん、案内ありがとうございます」
俺が感謝の言葉を言うと、イチエイは当然だと言う顔になり、ギャランは笑顔になる。
「おい、田中。明日にはアイリ中隊として正式に配属される。そうなると、連携が心配になる」
イチエイの言葉は間違っていない。
これから先、対オーレム戦がメインとなるだろう。
無論、対AW戦もあるだろう。だが、以前より圧倒的に少なくなるのは間違いない。
「午前8時にシミ゙ュレーター室に来い。そこで、改めて自己紹介して貰うからな」
「分かりました」
「後、今の内に聞いておく。お前は何が得意なんだ?」
得意分野か。機動戦、格闘戦、一撃離脱、狙撃戦、何でもござれだ。
だが、全部得意と言うか、やらざるを得ないと言うか。
ほら、俺エースパイロットだからさ!全部出来るのさ!
「狙撃ですね。それなりに当てれますよ」
取り敢えず狙撃にしといた。
理由は簡単だ。今まで機動戦や一撃離脱が多かった。そんな奴が狙撃に鞍替えすれば、戦闘スタイルから特定される事は無いだろうからな。
エルフェンフィールド軍には絶対にバレる訳には行かないからな。
「狙撃か。以前の奴も同じ事を言っていたな」
「アレは酷かったでござるねー。全く当たら無かったでござるから」
「まぁ、良いだろう。明日になれば分かる事だ」
イチエイは用が済んだと言わんばかりに去って行く。
アレくらいの割り切り方だと、人生やり易そうだなと思ってしまう。
「では、田中氏殿。今日はお疲れ様でござる」
「えぇ、ギャランさんもお疲れ様でした」
オタク気味のギャランは人当たりが良い。
恐らく、部隊のムードメーカー役になってると思われる。
イチエイとギャランと別れてから、俺は再び部屋から出る。
「さてと、もう一度格納庫に行くか。機体の細かい設定を確認したいからな」
何せ、これから命を預ける機体になる訳だからな。
スペック表では分からない現場の声とかも聞きたいし。
「どうだ?エイティ。俺って結構運が良いだろう?」
『正直に言いますと、大企業の一つにカウントされているローグ・スターに入社出来るとは思いませんでした。身分など厳正にチェックされてる筈なので』
「まぁ、アレだよ。俺が男女関係無く魅力的な存在だからな」
『……ハッ、そうですか』
「鼻で笑うなよ。傷付くだろ?」
エイティと話しながら通路を移動。
格納庫へ到着するとAWがズラリと並んでいる。
航空戦艦の格納庫は広く、眺めは中々に壮観だ。
「案内されてた時は直ぐに通り過ぎたからな。早速、機体の確認でもしよう」
アイリ中隊の機体は何処かな?と思いながら、近場に居た女性の整備士に声を掛ける。
「すまない。アイリ中隊の12番機は何処にあるか分かるかな?」
「アイリ中隊?あぁ、AW部隊イチの落ちこぼれの。つまり、貴方も落ちこぼれって事?」
初対面で落ちこぼれ呼ばわりとはな。中々、前途多難な人生を送ってそうな女だ。
「落ちこぼれかどうかは、どうでも良い事さ。生きて帰還する事。これこそが一番さ」
「あっそ。アイリ中隊ならあそこよ」
「どうも」
無愛想な整備士に感謝しつつ、そのままアイリ中隊の機体へと向かう。
HS-105Nヴォルシア。
ホープ・スター企業が独自開発したAWだ。
機動戦、格闘戦、射撃戦と高水準に纏まっている機体。
スペック表だけを見れば、三大国家の主力機よりも性能は高い。
性能が高い分、コストも高くなるのが世の中の定めだ。ヴォルシアも例外に漏れる事無く、生産コストが高い。
だが、ホープ・スター企業のみでの運用となっているので問題視されて無いみたいだ。
「流石は大企業様だな。有り余るクレジットを使って、独自開発しただけはある」
機体の足元に設置しているコンソールを弄る。
プラズマジェネレーター、使用可能兵器、操縦感度、ブースター・スラスターの推進力を見て行く。
「悪く無いな。上手く高性能に作られてる良い機体だな。プラズマジェネレーターの出力もある。操縦感度はデフォルトになってるのか。推進力も……ん?見間違いか」
上から順に数値を確認して行く。
傭兵企業スマイルドッグのZC-04サラガンに比べれば全ての数値で上を行っている……筈。
だが、推進力の桁が一個足りない。
正確に言えば、半分より上くらいだろうか。それでも、圧倒的に推進力不足だ。
「え?嘘だろ。いやいや、見間違いだよ」
嘘だと誰かに言って欲しい。それこそ、金髪の新兵に言って欲しい。
「……エイティ、機体の推進力って強制的に数値弄れる?」
『出来なくは無いです。しかし、ブースター、スラスターは確実に燃え尽きます』
「だよなぁ。えぇ?こんな鈍足に乗るのぉ?」
これじゃあ、AW資格取得の為の練習機じゃん。
完全に初心者向きの代物じゃん。
「こんな低出力のブースターとか久々に見たぜ。これは参ったなぁ」
企業独自のAWだ。リミッター解除のコマンド入力も違う筈。
それに、目立つ行動は極力控えたい。
「狙撃が得意って言っちまったからな。下手に高機動が良いとか言えねぇし」
例え、安物の機体でも高出力ブースターが搭載されてれば何とかなる。
敵の攻撃も避け易くなるし、一撃離脱や格闘戦に持ち込む事も出来る。
後は、ジェネレーターも高出力だと最高になる。
見た目はポンコツ、中身は別格な浪漫機の出来上がりって訳さ。
無論、限度はあるがな。
「上手い話ばかりじゃ無かったか。クソが」
内心舌打ちをしながら、出来る範囲で調整する。
(取り敢えず最高速度は捨てる。加速寄りにすれば多少は良くなる筈。後は、このプラズマジェネレーターの出力に期待だな)
今の俺は実績も経歴も無い新入社員。
そんな奴が要望を上に言っても、無視されるだけ。無視されたく無ければ、確かな実績と戦果を出すしか無い。
『大丈夫ですか?ジェームズ』
「まぁ、何とかするさ。伊達に、戦場を生き残って来た訳じゃねぇからな」
今ある手札で何とかする。唯、それだけさ。
HS-105Nヴォルシアの詳細は登場兵器一覧に載せてます。
でも、章ごとに分けた方が見やすいかな?と思う今日この頃。




