人生はギャンブルだ!
無事に物件も決まり、小物を集めつつ、就活をしていると、あっという間に二週間が経過した。
しかし、そう簡単に就職先が見つからない。そうなると時間が空いて暇になる。
手持ちには色々購入した物と残金75万クレジット。
「コレは、一発ドカンと稼ぐかね」
誰もが考える事だ。楽して稼ぎたいと考えるのは当然だろう。
俺も例に漏れる事は無かった。
「まだ就職先が決まらんからな。なら、資金を増やして豪勢に乗り切るぜ」
何故か知らないが、この時は絶対の自信が満ち溢れていた。
俺は他の奴とは違う。
必ず勝てると確信している。
そして、結果はと言うと……。
「差せぇッ‼︎差せぇッ‼︎差sッ⁉︎⁉︎⁉︎アアアアアアアアアアア⁉︎⁉︎⁉︎鼻差で抜かれてるううううう⁉︎⁉︎⁉︎」
空を舞う紙吹雪が綺麗だなぁと思いながら、俺も手に握っていたチケットを空へと放り投げる。
「まだだぁ⁉︎まだ、終わってねぇ‼︎」
今日は偶々運が無かったんだ。明日、巻き返せば負債はチャラになる。
「行っけえええええ‼︎‼︎‼︎当たれえええええ‼︎‼︎‼︎」
【残念だったな。貴様の負けだ】
「馬鹿野郎おおおおおぉぉぉぉぉ…………今日はイベント日じゃんよぉ…………泣きたい」
別の場所に行けば、勝てると信じてた過去の自分を殴り飛ばしたい。
そして、アレよアレよとしてる内に就職先が決まるかと思っていたのだが。
「不採用……50社目」
厳しい現実を突き付けられる結果となった。
流石に50社も応募すれば大丈夫だろうと思っていた。
不景気とは無縁のラクーン宇宙ステーション。そんな場所でも採用されない理由。
成り上がり。
所謂、ゴーストから正規市民へと成る事が出来た連中の事を指す。
この成り上がりと言う立場は、非常に微妙な所にいるのだ。
産まれた時から正規市民だった者達からすれば、汚いナニカがやって来たと考える。
ゴースト達からしてみれば、自分達を踏み台にして良い所に行った奴。
何方からも忌み嫌われる立場になっているのだ。
シュウ・キサラギの場合は運良く、実力主義の傾向が強い傭兵企業スマイルドッグに入る事が出来た。
また、実力と戦果を示した結果として立場を確保出来たのだ。
実は、傭兵企業スマイルドッグに入れた事は、かなり運が良い事なのだ。
だが、そんな幸運が何度も起きるだろうか?答えは否。
そもそも経歴無し、AW操縦資格のみ。これでは、正規市民側としても真っ当な職は少ない。
更に、危険なデブリ回収などは基本的ゴースト達が行う。しかし、それでもゴースト達にとって数少ないマシな仕事。
そんな場所に成り上がりが来たら、要らない災いがやって来る様なもの。
この時になって、ジェームズ・田中は悟った。
今の自分が足を引っ張っているのだと。
「ハァ…………マジかぁ。まさか、こんな事になるなんて」
お祈りメールすら帰って来ない端末を前にショックを受ける。
そんな俺を慰めるかの様に、凄まじい形相で背後に立つナニカ。
しかし、ジェームズ・田中には見えてない。
「あーあー……もう、手持ちのクレジットも30万くらいしか無いよー。そうだ!閃いた!」
俺は早速エイティに話し掛ける。
「エイティ!お前の能力を使ってパパッとクレジットを『無理です。お疲れ様でした』早い!早いよ!エイティさん⁉︎」
ナナイの分身?みたいな存在なんだから何とかならんかな?
銀行とかATMとかハッキングしてパパッとクレジット出すとか。
『ジェームズは何か勘違いしてる様ですが。私は電子の妖精などの能力は持っていません。簡易的なハッキングくらいなら可能ですが』
「簡易的なハッキングってどのくらい?」
『部屋の明かり、空気清浄機、湯沸かしの電源を入れたり調整したりですね』
「それって……アレ◯サやん。ヘイ、エイティ。音楽を掛けてくれ」
端末から小気味の良いリズムの曲が流れる。
いや、マジでア◯クサやん。
「終わった……まさか、こんなにも辛い立場だったとは」
世の中を甘く見ていた。
正規市民になれば何とかなると考えていた。
しかし、現実は差別的な考えが根強い事。中途半端な立ち位置なので扱い難い。
そう言った理由で敬遠されがちだった。
「仕方ない。こうなったら選り好みしてる場合じゃない」
応募出来る職は片っ端からメールを送って行く。
一応AW操縦資格があるのでMWも操縦出来る。
「最悪、企業の輸送部隊でも良いさ。どうせ、一年限りで出る場所だし」
AW搭乗、操縦の文字を見つけては応募して行く。
百を超えた辺りで端末から顔を上げる。
「世知辛い世の中だねぇ。いや、マジで」
取り敢えず身体が空腹を訴えて来たので、ご飯にするのだった。
ご飯を食べ終えて、風呂に入り、端末で暇を潰して、就寝。
次の日になり、応募しまくった結果を見る。
「スゲェな。見事に無視されるか、お祈りメールしか来ねぇ」
警備とか土方辺りなら大丈夫かと思っていたが、中々厳しい結果だ。
このままでは日雇いで身体を使って稼ぐしか無い。
「贅沢を言ってられる状況じゃないしな。仕方無い」
お祈りメールばかり見ていると、段々と気分が萎えて来る。
しかし、仕方ない事だ。ガキの頃しか普通の職で働く事は無かった。働いていた期間も短い方だった。
「改めて考えると、荒事が得意分野になってるよな」
諦めと妥協が感情を支配する。
既に半分以上流しながら、お祈りメールを眺めては纏めて消す作業。
『待って下さい。そのメールは面接通知です』
エイティから待ったが掛けられる。
てか、最初からエイティにお祈りメール削除をお願いしとけば良かったわ。
「え?マジで?やっと、最初のスタートラインに立てた訳か」
面接なので端末越しになるだろう。
しかし、面接通知のメールの中身を見ると直接面接だった。
「珍しい。まぁ、別に何でも良いさ。で?いつ頃にやるんだ?」
『本日の10時に12番格納ゲートに待機している【超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スター】の前に来る様にと』
「成る程、10時までに12番格納ゲートに行けば良いと……で?今何時だよ」
時間を見れば9時丁度。今直ぐに家から出れば、12番格納ゲートまで1時間丁度に到着する。
「……エイティ!今直ぐタクシーを呼べ!俺は身支度を整えるからぁ!」
『了解しました』
慌ただしく準備に入る。ゴミ箱を蹴飛ばし、中身が散らばるが知った事か!
「歯磨き良し!髪型、金髪良し!カラコン良し!スーツ、ネクタイ良し!サングラスは何処だ!」
『机の上に充電器に刺さった状態で置いてあります。それから、料金は割高ですが高速タクシーを呼んだので直ぐに出て下さい』
「良くやった!エイティ!後、現金も!行くぞ!」
何とか準備を済まして部屋から出る。
丁度ドアから出ると高速タクシーが到着した。俺は急いで高速タクシーに乗り込み12番格納ゲートに向かう様に指示を出す。
「何とか間に合いそうだ。ギリギリだけどな……あ、部屋の鍵閉めてない。まぁ、良いか。別に貴重品は無いし」
高速タクシーは一気に制限速度ギリギリで移動して行く。
その間に、俺は面接のシミュレーションをしようと思う。
(とは言え、答えれる事はそんなに多く無いんだよな。まぁ、何とか誤魔化そう)
そして、今後の人生が決まると言っても過言では無い面接に向かうのだった。
鍵が開けっ放しのドア。散らかり放題の部屋。
そんな部屋を憎悪溢れる視線を出しながら眺める地縛霊。
………………。
何かを囁いてるのか不明だ。だが、次の瞬間にはドアの鍵が掛かり、ゴミが宙に浮かびゴミ箱に入って行く。
………………。
地縛霊はやる事をやったと言わんばかりに姿を消した。
もし、この光景を見たらジェームズ・田中は喜ぶだろう。
「金も掛からない、害も無い家政婦が居るとはな。最高の物件じゃん」
多分、こんな事を言うだろう。間違い無い。




