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事故物件

 自由惑星共和国。

 元々は地球統一連邦によって統治されていた。同時に、圧倒的な戦力差に従うしか選択肢は無かった。


 だが、西暦2725年に歴史は大きく動き出す。


 ガルディア帝国の建国。同時に地球統一連邦からの独立を宣言。

 しかし、地球統一連邦が独立を認める事は有り得ない。


 地球統一連邦とガルディア帝国は15年間の長い戦争に突入する事になる。

 国力が疲弊し、圧倒的な戦力に陰りが見えて来た地球統一連邦。


 その隙が大きな損失を生む事になった。


 西暦2739年。長い戦争によって一向に減る事の無い重税に民衆達は怒りを露わにした。

 結果として、ガルディア帝国とは反対側で大規模な暴動が起きる。

 そして、それをチャンスと見た当時の人達は宣言した。


「我々は長い間、地球統一連邦からの圧政と重税に苦しい思いをして来た。だが、それは今日で終わりになる」


 西暦2740年。自由惑星共和国の建国と地球統一連邦からの独立を宣言したのだ。


 これに一番慌てたのは地球統一連邦だった。ガルディア帝国だけでも大変なのに、自由惑星共和国と言う巨大な敵性勢力が現れたのだ。

 然も、背後を取られる形と言う最悪な状態になってしまった。


 それから地球統一連邦、ガルディア帝国、自由惑星共和国との停戦協定が結ばれる事になった。


 多少の軍事衝突はあったにせよ、ガルディア帝国程の出血は無い。また、軍事力も地球統一連邦の物を略奪したものが多かった。

 無論、停戦協定の中には軍艦の返還要求もあったので大人しく従った訳だが。

 それでも、駆逐艦、フリゲート艦の様な小型艦は返還要求には入っていなかった。


 結果として、自由惑星共和国内での治安維持に大きく貢献した。

 今では殆どが退役、解体されているが、一部の艦艇は歴史博物館での余生を過ごしている。


 そして現在の自由惑星共和国は至って問題らしい問題は無い。

 無論、民族紛争や企業による資源争い、経済戦争はある。だが、それは地球統一連邦とガルディア帝国でも同じ事。


 つまり、場所は違えど大差無しって訳さ。




 高速輸送艦は、無事に自由惑星共和国領内に来る事が出来た。

 そして巨大な宇宙ステーションへと到着した。

 多数の大企業の支部が置かれており、戦闘艦や大型輸送艦が行き交う。通行ルートには様々な広告ネオンが浮かんでおり、賑やかな雰囲気にしている。

 また、輸送ルートの一つでもあるので企業の輸送隊も行列を作っている。

 自由惑星共和国軍の艦隊も駐屯しており、安全面ではかなり信頼出来るだろう。

 代わりにデカく繁栄している分、治安面では手が届かない部分があるので気を付けたい所だ。


「中々デカい宇宙ステーションだな」

『【ラクーン宇宙ステーション】は自由惑星共和国にとっても重要拠点の一つです。貿易港と軍港の役割を担っています。また、宇宙ステーションを中継にして各方面に行く事になります』


 それにしても中々のデカさだ。調べてみると人口は250万人と凄まじい数だ。

 娯楽施設は勿論の事、ドームやスタジオなんかも有るらしい。


 人の出入りはかなり多いだろう。なら、身を隠すには打って付けな訳だ。


(身分も怪しいが黒では無い。それに、ゴーストから正規市民に成り上がったと考えれば妥当か)


 これから一年は大人しく過ごす訳だ。唯、一つ問題がある。


「100万クレジットしか無いんだよなぁ」


 取り敢えず、このクレジットを元手に安い賃貸を借りるしか無い。


「エイティ、早速だが格安物件を調べてくれ。どうせ一年借りるだけだ。家電が揃ってる物件が良い」

『分かりました。調べるのに少し時間が掛かります』

「頼むぜ。さて、そろそろ降りる準備をするか」


 高速輸送艦はガイドビーコンに従い、ゆっくりと港に侵入して行く。

 そして、艦内放送を聞いてシートベルトを外して立ち上がる。


「さて、俺の新しい人生の始まりだ」


 サングラスを装着しながらスーツを軽く整えるのだった。




 キャリーケースを受け取り港から出る。そしてタクシーを一台捕まえて移動する

 場所は郊外に当たる場所。この辺りは、治安が比較的悪い事と外から来た移住者が多い。

 その為、賃貸価格が平均より格安となっている。


『値段は大差ありません。後はジェームズの好みで選んで頂いても構いませんので』

「……あぁ、俺の事か。新しい名前と言うのは、中々慣れんな」

『早急に慣れて下さい。なるべく他者から疑われない様にするべきです』

「分かってるさ。さて、早速電話して物件選びでもしますかね」


 タクシーに場所を指定して物件屋に連絡する。

 俺が住みたい物件を伝えた所、まだ空室と言う事で直ぐに案内して貰う事になった。


「こちらが、家賃3万5千クレジット部屋で御座います〜。一人暮らしであるなら充分でしょうな〜。間取りも1DKなので問題はありません〜。あ、トイレと風呂は別々になってますので衛生面でも安心出来ます〜」

「まぁ、悪くないな」


 見た目は清潔感がある営業マンなのだが、胡散臭い喋り方なので微妙に警戒してしまう。

 見せて貰っている物件は1DKの部屋だ。敷金礼金無し、保証人無し、駐車場無し、電気水道は自腹など。

 物件内容自体は、前世の記憶と殆ど大差無い。


「如何でしょうか〜?また、こちら無事故の物件で御座いますので安心して「アアアアアア‼︎‼︎可笑しいだろオオオオ‼︎何で当たんねぇんだよオオオオ‼︎糞ゲーがアアアアアアアアアアア‼︎‼︎」……えっと、ハハハ〜」

「凄い肺活量だな。アレなら、砲撃の中でも会話出来そうだ」

「…………家賃の方をですね〜、その、2万5千クレジットに値下げする事は可能ですよ〜?」

「気持ちだけ受け取っとくよ。次を頼む」


 営業マンは引き攣った笑みを浮かべながらも、営業努力をする。その姿は見習いたいが、事故物件を押し付けようとするんじゃねえよ。

 それに、近隣住民との関係は円滑にした方が快適に住めるだろうからな。

 そして、次のも似た様な物件だ。

 部屋の大きさ、間取りも殆ど差は無い。


「こちらの物件も中々良い部屋になります〜。何と言っても近隣住民とのトラブルは起きてはいませんので〜」

「そうか。しかし、随分と振動が凄いな」


 こちらのアパートは築50年以上となっている。

 しかし、一番の問題となっているのが地下トンネルの真上と言う訳だ。

 普通なら振動、騒音の基準を守りながら地下トンネルは通される。


「えっとですね〜。こちらのアパートですけど〜。実は、地下トンネル建設に反対していた大家さんが意図的に地面を掘り下げ、アパートを建てた訳です〜」

「狂ってんのか?その大家は」

「はい〜、凄く狂ってまして〜。この振動を理由に地下トンネル建設業者を訴えた訳です〜」

「浅はかな考えだな。当然、敗訴したんだろ?」

「勿論、勝てる筈も無く、敗訴しております〜。そもそも、一方的に目の敵にしていたのを裁判所で暴露されまして〜。お陰で意図的に掘り下げた事もバレたみたいで〜」


 実に愚かな奴の末路だな。

 金を掛けて掘り下げて、アパート建てたのに裁判で敗訴するとはな。


「ですので、こちらの家賃は2万2千クレジットになります〜。後の条件はこちらになります〜」

「却下だ、却下。不眠症待った無しじゃねぇか」

「振動に強い種族の方達からは人気何ですけどね〜」


 振動に強い種族って何やねん。まぁ、居ない事は無いだろうけど。


「仕方ありませんね〜。次の物件を案内しましょう〜」

「安い物件だから覚悟していたが。最悪、もう少し高くても良いですよ」

「取り敢えず、もう一つの方を見てから決めるのが良いかと〜。事故物件になりますが良い部屋ですよ〜」

「お前の様な正直者は嫌いじゃ無いよ」

「光栄です〜」


 営業車に乗り込み、次の物件へと向かう。

 やはり安い家賃なだけあって一癖二癖もある。


(やはり、住む場所だから妥協しない方が良かったか?だが、一年住むだけと考えるとなぁ)


 俺が悩んでる姿を見て、営業マンが話し掛けて来る。


「そう言えば、ご存知ですか〜?来週辺りに、あの超有名なアイドルグループがやって来るそうですよ〜」

「アイドルグループ?そうなんですか。それより、軍事パレードやった方が盛り上がると思いますがね」

「いやいや〜、そんな事は無いですよ〜」


 営業マンは少し勿体振る様な言い方になる。


「何故なら、今宇宙一注目を集めているアイドルグループですから〜」

「あー、あの?アイドルグループね。はいはい、有名だよね〜」

「……ご存知無いのですか〜?中々の世間知らずですね〜」

「喧しいわ。別に知らなくても困らなかったよ」


 世間知らずなのは認めるよ。お陰で、今の今まで生き延びて来れたからな。

 もし、俺がアーマード・ウォーカー以外の趣味に目覚めていたら、エースパイロットには成れなかっただろうな。

 昔は無駄使いを極力減らす為に、暇な時もシミュレーター訓練に勤しんでいたからな。


 まぁ、半分くらいはゲーム感覚でやってたのは認めるがな。


「そうですか〜。あ、そろそろ到着しますよ〜」

「そうか。なら、早速見てみようか」


 最後に案内された物件。

 意外にも都心部よりのマンションだった。外装は綺麗だし、周りも清掃がされている。

 部屋に案内され、中を見ると非常に綺麗な状態だった。


「画像でも見たけど2LDKの広さなんだな」

「はい〜、その通りです〜。こちらは事故物件ですので格安での提供となっております〜」


 家賃は事故物件とはいえ本当に格安だった。


「本当に5千クレジットなのか?」

「勿論でございます〜。因みに、入居された方達は皆白い幽霊を見たとか〜。それで怖くなって出て行くんですね〜」

「霊感無くても見えるのか?生憎、俺は霊感がサッパリでな」


 理由は不明だが、以前は霊感が本当に欲しいと思っていた。

 恐らく、誰かに本当に会いたかったのだろう。しかし、記憶を遡ってもそれらしい人物を思い出す事は無い。


(リンク・ディバイス・システムは本当に諸刃の剣だな)


 機体を思うがままに動かせる操作方法。

 新兵でもベテラン並みに動かせると言われれば、飛び付きたくなる気持ちは分かる。

 とは言え、メリットよりデメリットの方がヤバいので禁止されてるのも納得だ。


「しかし、本当に良い部屋だ」

「如何でしょうか〜?霊感が無ければ、お勧めの物件になりますよ〜?」

「そうだな……よし、決めた。この部屋にしよう」


 それに、どうせ一年くらいしか住まないからな。

 傭兵時代とは違い、そんなに稼げないだろう。なら、節約出来るなら節約した方が良い。


「分かりました〜。手続きの方は営業所の方で行いますので〜。唯、本当に宜しいのですか〜?一応、最終確認させて頂きますが〜」


 営業マンは少しだけ心配する様な表情で見て来る。

 確かに、入居する連中が皆出て行く物件だから心配する気持ちも分かる。


 だから、俺は安心させる様に笑顔を浮かべながら言い放つ。


「大丈夫ですよ。生きてる奴と会話するより、殺してる奴の方が多いので」

「ハハハ〜!またまた〜、面白い冗談ですね〜……冗談ですよねぇ?」


 冗談じゃ無いけど。唯、冗談と言った方が面倒事は少なくなるだろう。


「勿論……唯の冗談さ」


 さて、必要な小物を揃えたら就活でも頑張りますかね。

ジェームズ・田中は冗談が好き

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか個性的な営業マンだ……
[良い点] アイドルに事故物件かあ。なんか変なフラグいっぱいやなあ。ついでに金はないし。いや、長生きの薬実はちょろまかしてて売れるとか?
[気になる点] >「そう言えば、ご存知ですか〜?来週辺りに、あの超有名なアイドルグループがやって来るそうですよ〜」 ミーちゃんフラグだ! ミーちゃんフラグだろう?! なぁミーちゃんフラグだろうお前!…
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