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逃亡1

 俺は端末とブラックカードを持ちながらタクシーに乗り込み、目的地でもあるナサール駅の南口まで指示を出す。

 軍服姿でタクシーに乗るもんだから、運転手からチラチラと視線を受けるが無視する。


(頼むぜ社長、ナナイ。お前達しかマジで頼れないんだからな)


 社長とナナイに危険な橋を渡らせてるけど、今は気にしない事にした。

 そして、タクシーがナサール駅南口に到着。ブラックカードをタッチパネルに当てて、支払いを済ませる。

 焦らず、自然に歩く事を意識しながら9番のロッカーまで行く。


(暗証番号36475だったな)


 番号を入力すると9番ロッカーは開く。

 中には別の端末、インカム、ホルスター付き護身用の拳銃、予備弾、封筒に入った現金、IDチップ、灰色の袋と共に入っていた。

 俺は袋の中に手持ちの端末とブラックカードを入れる。袋の肌触りが少々違和感があったので、何か特殊な袋なのかも知れない。

 袋に入れて、ロッカーの扉を閉める。インカムを装着すると、新しい端末の電源が入る。


『お疲れ様です。キサラギ少尉。無事に此処まで来れたのは良かったです』

「おぉ、この後はオペ子が指示出してくれるのか。何か、本格的な脱出のシチュエーションだな」


 後は美女の一人二人居れば映えるんだがな。


『取り敢えず次の指示を出します。東口に向かい、12番の駐車場に停めているタクシーに乗って下さい。運休中になっていますが構いません』

「了解した。直ぐに向かう」


 南口から東口に向かう。その間にホルスターを腰回りに装着する。


(パッと触った感じは大き目の拳銃かな?)


 そして東口に到着。12番の駐車場には確かに運休中のタクシーが停まっている。

 しかし、タクシーの側には一人の挙動が僅かに怪しい中年が居たけど。


『そのままタクシーに近付いて下さい。後は……貴方にお任せします』

「おう、結構大事な場面じゃない?」


 タクシーに近付くと、中年の男性は引き攣った笑みを浮かべながら口を開いた。


「あ、アンタが……だな?そうだろ?」

「他に誰か来ると聞いているのか?」

「い、いや、聞いてない聞いてない。と、取り敢えず乗ってくれ」


 そして無事にタクシーに乗り込み、目的地も分からないまま発進する。


『流石ですね。この調子で幾つかアドリブをして貰います』

「そうか、分かった。なるべく善処しよう」

『宜しくお願いします』


 タクシーの運ちゃんはバックミラーで俺の方を見て来る。

 無論、完全無視しながら護身用の拳銃を確認する。


「ふぅん……良い趣味してるな」

『貴方が以前使っていた銃に近いのを探しました。見た目では無く、実用性重視になりますが』


 名称RM-50、大口径マグナムだ。黒のマッド風で、幾つかアタッチメントを取り付ける箇所が付いている。

 装弾数は5発だが問題は無いだろう。


「構わないさ。実用性も悪く無い」

『気に入って頂いた様で良かったです』

「それと、封筒とIDチップは?」

『封筒には百万クレジット。IDチップには貴方の新しい国籍が登録されています』


 百万クレジットは助かる。何かと現金は役に立つ事が多いからな。

 そして、新しい国籍か。


「そうか。因みに、名前は決まってるのか?」

『はい。貴方は今日からジェームズ・田中になります』

「ポピュラーな名前だな」

『その方が目立ちません。ジェームズ・田中の経歴を簡単に説明します。25歳で共和国の正規市民になります。その後はアーマード・ウォーカーの操縦資格を取得。以上になります』


 人生経験の無さが目立つ経歴だな。

 だが、ゴースト時代の経歴を残す奴は少ない。それこそ、俺の様な傭兵かバウンティハンターみたいな荒事をやる職くらいじゃ無いとアピールにはならない。


「成る程。俺の要望は叶えてくれた訳か」

『はい、その通りです』


 それから暫くすると、タクシーはある団地に到着した。

 至って普通の団地であり、特に言うべき事は無い。

 強いて言うならエレベーターとロック付き自動ドアが付いてるくらいか?


『タクシーから降りて、目の前のマンションに入って下さい。ロック解除番号は2564です』


 言われるがままに2564の番号を入力。自動ドアが開き中に侵入する。


『次に4階の403号室に行って下さい。ノックは3回、2回と分けて下さい』


 ナナイの言われた通りにする。

 エレベーターに乗り込み、4階の403号室に行く。

 指示通りのノックをする。少し待つと鍵が開く音がする。


「……どうぞ。入って下さい」

「あぁ、失礼する」


 容姿は悪くは無いのだが、暗い雰囲気の犬系獣人の女性が俺を招き入れる。

 そして部屋の奥に案内すると服が一着用意されていた。


「着替えです。軍服は私の方で処分します」


 何も言わずに軍服を脱ぎ、女性に手渡す。


「後、言われた通りサングラスも用意しました」

『そのサングラスは監視カメラによる表情認識を阻害します。持続時間は6時間程ですので、充電には気を付けて下さい』

「うむ、ご苦労だったな」

「いえ。後は、髪を染める道具とカラコンです。幾つか種類は用意しました。準備が終わったら、残りは処分しておきますので」


 今の内に色々変えろと言う訳か。いやはや、結構本格的な逃亡劇になりそうじゃん。

 内心、ちょっとだけワクワクしながら準備を進める。


「あ、あの」

「何だ?」

「いえ、その……ちゃ、ちゃんと用意しました。誰にも言いません。だから、その……」


 何を言いたいのか分からない。

 だが、こうやって無理矢理協力させてるのだ。さっきの男とこの女は一般人では無い筈だ。


 だから強気の態度で対応する事にした。


「やるべき事をやれば、こちらも相応に対応する。指示以外の事をやって無ければ、貴様が求める結果になる。それだけだ」

「わ、分かりました。それでは、失礼します」


 少し慌てた様子になり、部屋から出て行く女性。

 俺はその隙にインカムでナナイに質問をした。


「なぁ、オペ子。お前……何したん?」

『大した事はしていません。唯、犯罪者に人権は無いと言うだけです』

「成る程。因みに、最初の男と今の女は何をしてた?」

『男は違法薬物の密売人。女の方は結婚詐欺を働いています』

「はぁん、碌でも無い奴らが俺の助けになるって訳か」

『幸い、どんな場所でも小心者の犯罪者は居ますので。世間に公表しない代わりに協力をお願いしたら、快く快諾してくれました』


 実に協力的で嬉しくて涙が出そうだぜ。

 まぁ、ナナイ相手に上手く立ち回れる奴は多くは無いだろう。

 狙われた時点で、自身の運の無さを恨むしか無い。


(そう考えたらナナイが味方なのは相当運が良いのでは?)


 セクハラしても、怒るくらいで許されてるし。

 俺も戦場で何度か戦艦グラーフを守った事はあるとは言え、限度はあるだろうからな。


「取り敢えず変装は手早く終わらせよう」


 とは言え、髪を染めるのとカラコン入れるだけで大丈夫なのだろうか?

 まぁ、監視カメラを誤魔化せるサングラスがあるから何とかなるだろうけど。


『因みにですが、そのサングラスは750万クレジットしますので。壊さない様に気を付けて下さい』

「……マジで?」

『はい、マジです。監視カメラを高確率で誤魔化せるので、追跡が非常に困難になります。その為、裏ルートでしか手に入りません』

「あの女、そんなに荒稼ぎしてたのか」


 見た目と住んでるマンションの割には、随分と貯め込んでいたんだな。


『はい。相当数の男性を騙して来てます。ですので、近い内に報いを受ける日が来るかと』

「騙された奴が悪い。良く言われるけど、騙した奴も悪いんだよな。だから、殺される事になっても誰からも同情はされん」


 そして髪が染まり、カラコンも馴染んで来たのでサングラスを掛ける。

 髪は金髪になり、瞳はブルーアイになる。今まで典型的な日系だったが、ちょっとだけハーフっぽく見える。

 服装も一般サラリーマンの安物スーツ。腰には護身用のRM-50があるものの、スーツに隠れるので分からない。


 ぶっちゃけ言うと、ちょっとしたヤンキーにしか見えない。


「さてと、次はどうするんだ?」

『このまま部屋から出て下さい。その後、近くの公園に暫く待機して下さい』

「分かった」

『待機する場所まで案内します』


 俺はナナイのナビゲーションを頼りに、徒歩で次の目的地に向かうのだった。

サングラス、金髪、ブルーアイ……クワト◯大尉?

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― 新着の感想 ―
[良い点] モデルからしてすぐ身バレしろうだぜ
[気になる点] ジェーム「ズ」?ジェーム「ス」? いや、いかにもな偽名にこだわってもなんだけど、言ったそばから違うので気になりました。 [一言] 後に教え子に殴られて、「これが若さか……」と呟きながら…
[良い点] そういや、クワト○さんも白い機体に乗る女性にむちゃくちゃ執着されてたなあ。下手に逃げるより、待っててくれで誤魔化す、ついでに死亡偽装くらいが上手くいかないかなあ。
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